サイドカーのおもしろさ

理不尽な乗り物に人はなぜ惹かれるのか


 

東京三田の太陸モータース

こんな小さな店から

世界の名車が生まれた

2000年撮影(今はありません)

 

サイドカーの魅力

 人がサイドカーに惹かれるようになるきっかけは、雑誌のサイドカー記事であったり、道路ですれ違った、あるいは停めてあったサイドカーを見てカッコ良く思った、あるいはツーリングクラブのツーリングにサイドカーの参加車がいてその走り振りに衝撃を受けたなど様々でしょう。

カルチャーショックという言葉がサイドカーには似合うようです。
しかもサイドカーというものは資金の面などいろいろな意味で、「欲しい」と思った時にすぐに買える訳ではなく、多くの場合何年もの熟成期間がありますから、やっと購入できた時の喜びも大きいものです。

 サイドカーに惹かれる理由も人により様々です。

 
1.とにかく存在感がある
2.自動車ともオートバイとも違う未知の乗り物としての魅力がある
3.大きくて堂々としている
4.これに乗ったら目立ちそうだ
5.側車を取り付け、自らハンディを背負う潔さがいい
6.ハンディを背負っているのに速いんだからタマラナイ
7.自動車とオートバイの両方を何台も乗り継いだベテランに見える
8.高そうで立派だ
 
大抵の人は1から8のうちどこにウェイトを置くかという点は別としてそのどれもが当てはまるでしょう。

私の場合は2.5.6.がサイドカーに惹かれるもっとも大きな要因です。
サイドカーなんか付いていなければ自由自在に走れるはずのオートバイにわざわざサイドカーなんかを取り付けるのは一体何が目的なのか?
そんな理不尽としか思えない乗り物で一体どうやって走るのか?

誰もが思うであろうそうした困難さを克服しながら、時にはポルシェでさえも追いつけないほどスピーディーに走って見せる、などと言うところに大きな魅力を感じます。
サイドカーは初めはいかにも理不尽な乗り物のように感じますが長く付き合って見るとサイドカーならではの走りが出来るなかなか合理的な面も持っている事が分かります。

よくサイドカーの魅力について 「理不尽だから面白い」 という記述を目にする事がありますが、単に理不尽なだけならそう面白い事はないと思います。
一見理不尽そうでいながら実はなかなかの合理性を持っているという、奥の深いところがサイドカーの魅力なのです。サイドカーはすぐには実体のつかめないしたたか者です。

 8の高価そうに見えるという点も全くない訳ではありません。
以前にCBX750FBサイドカーに乗っていた時「あのサイドカーは500万円くらいするんだよ」などという声が見学者の間から聞こえてきた時には実はまんざらでもありませんでした。

 メーカー純正のアールズフォークが付いた旧型BMWサイドカーは今でも根強い人気がありますが、こうしたサイドカーに特に惹かれる人というのはヒストリカルな魅力というものも含めて1にウェイトがあるようです。
中には軍国調のところが良いと言う人もいるようです。
(なんと言ってもナチス・ドイツは旧大日本帝国の同盟国なのですから・・・)

 サイドカーに付いているいろいろな装備に大きな魅力を見出す人もいるようで、バックギヤ、パーキングブレーキ、あるいは陸王やドニエプルの側輪駆動といったものにサイドカーらしい魅力を感じる人もいるようです。

 ただし装備と言えるのかどうかは分かりませんが、ジョン&パンチのバンクするサイドカー、フレクシーにあこがれる人は殆どいないようです。
かつて世界中のサイドカーを「良くもこれだけ」と思えるほど種々のものを集めて販売していたあのケンテックでさえフレクシーを別冊MCやスポーク・ホイールの広告に掲載した事はなかったようです。

「あれで速く走ったって面白くも何ともない」というご意見が多いようです。
こうしたところにサイドカーの魅力の本質が垣間見えるような気がします。
(やっぱり一見理不尽そうなところが良いのです)

なおスポーク・ホイールと言うのは1987〜1991年に名古屋の佐脇直人氏がエヌ・エス出版から発行した日本では珍しいサイドカーと旧車の雑誌です。
ケンテックの大月さんの「海外サイドカー探訪」やオクトランの大和田さんの「サイドカーその設計から製作まで」などはとても参考になりました。

 高価である事に最大の魅力を感じているという人も、私はちょっとどうかなとは思いますがいらっしゃる事は事実です。
(高価であるという事はそれなりの満足感を与える事は事実ですがそれが一番の目的と言うのはちょっとどうかなと思います)

 わたしの場合はハンデを背負っていながら速く走れるというところに最大の魅力を感じておりますから、一体型サイドカーのドマニのように見るからに速く走れそうな(関西風に言うとエゲツナイ)サイドカーよりはR100S仕様のトロイカやGGデュエットのようにサイドカーの格好をしているものの方が好きです。
(トロイカとドマニの両方を持っているという人もいらっしゃいますが)

ただしこの点に付いて言い訳をさせて頂くと、ドマニというサイドカーには、(これがサイドカーだと言えるのかも不明ですが) その生い立ちに関して次のようなストーリーがあります。

 
クラウザー・ドマニはツーリングバッグで有名なコロナ社、もとい、クラウザー社から販売されていますが、このクラウザー社というのは社長のクラウザー氏本人が大のサイドカーレース好きで、1986年にはサイドカーGPレースのレーシングマシン、LCR (ルイ・クリスチャン・レーシング) に搭載するエンジンまで開発しており、LCR+クラウザーで王座を獲得しました。

ドマニはこのクラウザー氏のサイドカー好きが嵩じて生れたLCRレーサーレプリカですが、「クラウザー社でもこれくらいの事はできる事を示したかった」ために作られたものであって、もともと販売を目的に作られたものではありません。

売り出したところでサイドカーにも実用性を重んじる(!)ヨーロッパでは乗る人はいないだろう、とクラウザー氏本人が思っていたところが、アメリカと日本での反響が大きく販売に至ったという経緯があります。

なお売るつもりのなかったドマニの最初の1台に数千万円掛かったと言われています。(一度やって見たいですね)

 
つまりドマニがこの世の中に存在するのにはそれなりの訳があるという事で、こうしたエピソードというものはオーナーに大きな満足を与えるものでしょう。
(男には訳がある。うーん。マンダム。)

言い換えればクラウザー社以外のところからこうした一体構造のサイドカーが出てきたとしても(私は)あまり意味がないような気がします。
サクマエンジニアリングのオミクロンはガワがドマニ風なだけで立派なサイドカーです。フレームはフュージョンのフレームに側車フレームをボルト止めしたものです。)

 サイドカーに乗っていて思いがけない人と親しくなると言う事もあります。
同じサイドカーに乗っている同好の士というものも勿論ありますが、もう何年も通っていた近所の焼き鳥屋の親父さんが実は昔軍隊で陸王のサイドカーに乗っていたとか、顔見知りだった近所の叔父さんが昔は陸王を作っていた三共内燃機(現在品川区の三共製薬)の近くに住んでいたなどと言うような事です。

道端で休んでいるとよく話しかけられるという事がありますが、そうした人から昔の思いがけないお話をお聞きするという事もあります。
なお人からいろいろ聞かれた中で一番傑作だと思ったのは、40歳くらいの女性でしたが側車の方を指して「こっちにもエンジンが付いているんですか」と聞かれた事があります。

 またサイドカーは数がとても少なくて珍しいという事もあってか、(現在日本にに棲息するサイドカーの数は一説では5,000台とも言われていますが・・・) 老若男女にウケが良く誰もがほのぼのとした気分になるようです。
この点に関してはスーパーセブンも同じですが、私は近所の子供達を良く乗せてあげますが彼ら(と彼女ら)のご指名は5回に4回はサイドカーです。

子供たちの眼から見ればサイドカーの持つ3輪非対称の不思議さの前には公道上のフォーミュラも納得しやすいフツーの乗り物だと言う事でしょうか。
子供に最もウケる乗り物、それはサイドカーです。
(という事はサイドカーに乗っている人は子供っぽいという事でしょうか・・・?)

 

ホンダ ドリームCB750FOUR

ダイヤペット 1/30

   
 

サイドカーの操縦

 初めてサイドカーに乗ったときに気付く事はかなり横揺れがするな、という事です。
トレッドの割に乗車位置が高いためで、ちょっとした路面の凹凸でも本車は敏感に横揺れします。
最初のうちはこの横揺れだけで倒れるのではないかという恐怖があるくらいですがこれにはじきに慣れます。

いざ走らせて見ると、ナナハン以上のサイドカーの場合にはかなり加速が良く、しかも車線変更が俊敏で、思ったよりも早く走れる事に気付きます。
ミズスマシという言葉を思い出します。
(いつだったかアイススケートをミズスマシと言って叩かれた長野県知事がいましたがミズスマシと言うのはどう見てもホメ言葉ですよね)

ところが狭い路地の90度ターンを普通に曲がろうとすると、簡単に側輪は浮上します。
サイドカーというものは絶対的なコーナリング能力はオートバイや自動車よりもずっと低いものですが、こうした経験からこれまでこうした小さいターンでは自動車やオートバイでは普段かなり限界に近い走り方をしていた事が分かります。
(低速だから大胆に走っていたのです)

 またアールズフォークの装着などでトレールを小さくしていないサイドカーではかなりハンドルが重く、人によっては「こりゃーとっても手におえない」と思うかもしれません。
せっかく購入したサイドカーをすぐに手放すという人が昔からいますが、このハンドルの重さが一番の原因ではないかと思います。

 乗り始めの頃に特に注意すべき事は、側車を何かにぶつけないようにするという事です。
サイドカーではドライバーの目に入らない側輪の部分で最大幅となっており、これを十分に会得するまでは車幅感に注意する事が必要です。
私は一人で気楽に走るのが好きなので、あまり他のサイドカーと一緒に走る機会はありませんが、それでもサイドカーに乗り始めの人が側車をガードレールにこするというようなシーンを2回も見た事があります。

 側車をこする程度の事はそれほど大きな被害とはなりませんが、次に多いのがある程度スピードの出る側車側コーナーで、コーナリング中に急にオーバースピード、すなわち
転覆、の恐怖に襲われ、思わずスロットルを閉じてしまって曲がり切れなくなるというものです。

 サイドカーは程度の差はありますが急にスロットルを閉じれば必ず本車側に寄ろうとします。これをハンドルだけで側車側に戻すためにはかなりの腕力を要します。
(特にトレールを減じていない場合)

この場合左側車では対向車線にはみ出ますから、ブラインド・コーナーでは十分に減速しスローイン・ファストアウトに徹する事が必要です。

もっとも対向車がいない事が分かっている場合には少し冒険をして見る事ができます。
右側車の場合に本車側にはみ出るという事は本車(と本人)がガードレールにぶつかる、もっと最悪の場合には側溝に突っ込むということになりますから深刻な事態となります。

「サイドカーの購入」で述べたGTUの人の場合もこれのようで電柱にぶつかってフロントフォークをだめにしてしまったようです。
従ってこのケースを考えた場合、
初心者には左側車の方が向いているというのが私の考えです。

  側車側コーナリングでの側輪浮上は始めの頃には大変な恐怖感のあるもので、実際に慣れない頃に転覆して大怪我をした人もいます。私も首都高速の壁に張り付きそうになった事もあります。
コーナーで、ある一定の速度に達すると側輪が浮上してきますが、慣れないうちはいつ浮上したのかが全く分かりません。
まだまだ余裕があるのにもう限界に達したような気がして急に怖くなるということがあります。

また速く走りたい時には右に、左にと体重移動をしますが、車体から大きくハング・オフするというのは初めての経験ですからスピード感もおかしくなるし、サイドカーが正しい方向に向いているのかさえ自信が持てなくなってきます。
私もはじめの頃は左カーブがとても恐くて、その癖がクルマやソロのオートバイにまで移ってしまい、しばらくの間クルマやソロで左カーブを曲がる際にも転覆しそうな気がして恐かったのを覚えています。

 側輪浮上に関してはJSC(日本サイドカー連盟)のようなサイドカークラブなどで上手な人の運転を後ろから見ると言う事も大変参考になります。
走行中にわざと側車側に急ハンドルを切って側輪浮上させ、感覚を覚えると言う方法もあります。

ただ、こうして自分なりに試行錯誤しながら技術を向上させていく過程がサイドカー人生の中で一番楽しい時期かも知れません。
何も慌ててうまくなる必要はないと思います。

 慣れてしまえば側輪がほんの少し浮上した瞬間が手にとるように分かるようになります。
私の場合2年くらい掛かりました(2.5万km)。これはどうも車体の傾き、横G、そして側輪の浮上と共にハンドルが少し軽くなると言った事柄などから大脳が総合的に判断しているようです。

私の場合いざとなったら谷川の一本橋でも渡リ切る自信があります。
(もっともいざとなる機会は残された人生の間にそう何度もあって欲しくありませんが)

  私は近所の子供を乗せて町内を一周する以外側車に殆ど人は乗せませんから側車側コーナリングを良くするために側車のトランクの中に約30kgの錘を乗せています。
さらに本車側のバッテリーも側車に移しています。
錘の内容はパチンコ玉が良さそうに思いましたがこれはかなり高価になりそうだったので大工センターで買った釘を使っています。

錘を載せる位置は本車側コーナリング時の前転、およびハンドルしミーの防止の観点から言えばトランク内の一番後ろが良いと思われますが、なかなかその通りには行きません。
たまに錘を外したり、あるいは側車に荷物を積んだりするとハンドリングはかなり違ってきます。

本車側のコ−ナリングは小さなRの場合にはコ−ナーのすぐ手前でスロットルをオフにすると同時にハンドルを切ると車体がクイッと向きを変えてくれます。
ただしこれをあまり大胆にやると本車後輪が浮き上がり側車のノーズが地面をこすります。
さらに最悪の場合には
転覆(前転)に至ります。

 側車側コーナリングの時には本車前後輪が外輪で側輪が内輪でしたが、本車側コーナリングでは本車前輪と側輪が外輪となり本車後輪が内輪となります。
(つまり本車前輪は常に外輪となります)
このため本車側コーナリングの際には、本車前輪の接地点と側輪の接地点を結ぶ線を回転軸として車体が回転しようとします。

この回転は前のめりの回転となりますから、限界を超えてしまうと前転に至る訳です。
従ってリードを大きくとれば限界速度を高くする事ができますが、リードを大きくするとスロットルのオン、オフに対する挙動変化が大きくなり初心者には乗りにくいものになると言われています。また直線はいいですが、側車側に曲がりにくくなり駆動力もより必要となります。またノーズダイブしにくいアールズフォーク(SC10)も効果があります。

本車側コーナリング時の側車側への転覆(前転)は実は側車側コーナリング時の転覆よりも起きやすく重大事故となりますから、慣れてからでも十分に注意が必要です。

なおこの前転をしないように初心者は前輪ブレーキを使わないほうがいいという記述を目にすることがありますが、サイドカーに於いても制動力の過半は本車前輪ブレーキです。
前輪ブレーキをうまく使えるように練習することが先ずは重要です。

本車側コーナリングでスロットルを戻す代わりにハンドルを切りながら低いギヤでパワーをかけて後輪を滑らせて向きを変える事もできます。これをドリフトと言う人もいますが私はパワースライドと呼んだほうが正しいように思います。

(この辺りの解釈はポール・フレール著 「ハイスピードドライビング」 (ニ玄社)によりますが、ドリフトとは前輪のスリップアングルより後輪のスリップアングルの方が大きい場合で前輪が直進またはコーナーの内側を向いている場合を言いますが、サイドカーの場合クルマに比べて前輪にはほとんどスリップアングルはついておらず、後輪のスリップアングルもほとんど駆動力による物です)

 静止状態でハンドルを本車側にいっぱいに切ったまま1速で急にパワーをかけると車体はクルッと回転します(アクセルターン)。
これは回転半径の大きな左側車でUターンする時に有効なテクニックですが、私も最初のサイドカーでは面白くて何度もやりましたが、良く考えて見ると車両を痛めるだけで馬鹿馬鹿しいので最近は殆どやりません。

  ナナハン以上の大型車のサイドカーは側車を取り付けた状態でもかなりの加速性能を持っています。
ユーノス・ロードスターよりは確実に速いでしょう。
ST1100サイドカーで1人乗車、側車の錘30kgの場合、ウェイト/パワー・レシオは
5.0で、ゼロヨン13.0秒のNSXとほぼ同じ数値です。

しかも車体が小さいためにちょっとした車間にも潜り込めるという特技があり、しかも視界は良く効きますから、少し混んだ片側2車線の国道ではその気になれば必死で走るNSXを置き去りにするということも可能です。
サイドカーに対しては周りの車が好意的で、そろそろ右に行きたいなと思っていると右側がすっとあくという事がよくあります。

前のCBX750FBサイドカーの時厚木から東京まで知人のフェアレディーZと一緒に走った事がありますが、途中から否応無しに競争となりましたが速さの違いは歴然たるものでした。
ここまでくるとサイドカーこそ乗り物の正しい在り方なのではないのだろうか、などと半ば本気で考えて見たりもします。サイドカーは決してただ理不尽だから面白いのではありません。

 しかしながらひときわ目立つサイドカーであまりハシタナイ運転をするということは、世間のヒンシュクをかい、さらにはサイドカーに対する何がしかの規制を生むという結果にもなりかねませんからほどほどにすべきでしょう。

巨人軍ではありませんがサイドカー乗りは紳士であって欲しいものです。
街中では流れをリードする程度に抑えて走り、時折どう見てもただ者ならざる気配を感じさせる走りをちょっとだけして見せる、という程度が良いいように思います。

 ところでソロのオートバイとサイドカーの速さの比較ですが、よく高速で横風が強い時や雨の時はサイドカーの方が有利、という事が言われますが、これはソロのライダーが十分な操縦技術を持っている場合にはこうした状況でもソロの方が速いです。

ただし十分な操縦技術を持ったライダーはとても少ないという事も言えそうです。
特に雨の中を長時間走る際にはシールドの内側に水滴が付着して視界を妨げますが、こうした事に備えがきちんと出来ていないとソロでは(平衡感覚が麻痺して)極端にスピードが落ちます。

 サイドカーは転ばないから簡単そうだなと言う人はサイドカーには向いていません。
あんな理不尽そうなものでどうやって走ればいいの?と言う人は向いていると言えるでしょう。

 サイドカーの運転に最も必要な資質は、単純な意味での運動神経ではなく、自動車とソロでの長い経験から得られる、公道上で十分に先を読みながら安全を確保して走る能力です。

 こうしたものをアメリカサイドカー協会発行のサイドカー・オペレーター・マニュアルではロードセンスと呼んでいます。

 
サイドカーは子どもに大人気
 

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