京極夏彦 40


定本 百鬼夜行 陽


2012/03/21

 京極夏彦さんのメインシリーズの版元が、講談社から他社に移ることがアナウンスされたのが2008年9月のこと。それから3年半、ようやく届けられた新刊は、シリーズの外伝的作品集『百鬼夜行―陰』の約11年半ぶりの続編である。今回は『陽』編。

 最初の2編、「青行燈」と「大首」は『陰摩羅鬼の瑕』から。「青行燈」はあのインパクトのある事件の後日談と受け取れる。後始末はさぞかし苦労しただろう。「大首」は…禁断のエロスとでも書いておくか。おぞましさに苦笑いするしかない。

 『邪魅の雫』から2編。「鬼童」に描かれたのは極めて現代的テーマと言えるだろう。似たような事件を何度耳にしたことか。「雨女」は、不器用な赤木が哀れで哀れで…。親切心が裏目に出てしまうというのも現代的テーマかもしれない。

 『絡新婦の理』から「屏風のぞき」。多田マキという老婆が出てきたことなど覚えていない。内容は老婆の半生記のようなものか。なかなかに波乱万丈ではある。『狂骨の夢』から「青鷺火」。怪談というより幻想譚の趣が強いか。『狂骨の夢』のプロローグ的な1編。『魍魎の匣』から「青女房」。なるほど、やっぱり「匣」づくしである。

 シリーズ本編の次回作として予定されている『鵺の碑』から2編。coming soon! と書かれているので、今年中には読める? 現時点では予告編以上の意味がないかな。

 最後の「目競」は、特定作品のスピンオフではなく、いわばシリーズ全体のプロローグ。薔薇十字探偵誕生の秘密に迫る、榎木津ファン必読の1編だ。

 シリーズの記憶が鮮明な頃に刊行された『陰』と比べると、記憶が薄れている分、スピンオフとしてのインパクトは弱かったかもしれない。しかし、インタビューによれば、あくまで短編としては独立しているそうなので、忘れていても支障はない…ですよね京極先生?

 なお、ネタ元やインタビューなどの情報は特設サイトに掲載されている。



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