山口雅也 22


新・垂里冴子のお見合いと推理


2009/06/13

 前作『続・垂里冴子のお見合いと推理』から9年。昨年『キッド・ピストルズの最低の帰還』で13年ぶりの復活を果たした「キッド・ピストルズ」シリーズは、山口さんも驚くほど反響があったという。今年は垂里冴子シリーズも復活を果たした。

 正直、このシリーズに「キッド・ピストルズ」シリーズほどの思い入れはないが、前作がああいう終わり方だっただけに、どういう形で再開させるのかは気になっていた。

 前作について、「お見合いと推理」というシリーズとしての特徴があまり出ていないような気がする、と僕は書いた。本作も然り。お見合い云々はもうこじつけでしかなく、いっそ『垂里冴子の事件簿』とでもタイトルを変えたらどうだろう。

 実はもう1つトピックがある。今回は中編2編という構成だが、2編目の「神は寝ている猿」には東京茶夢がゲストとして登場するのだ。山口ファンがそそられないわけがない。そう、『日本殺人事件』シリーズに登場した、あのトウキョー・サムである。『續・日本殺人事件』があんな終わり方だっただけに、再登場は喜ばしい。だが、待てよ…。

 『日本殺人事件』の舞台は、今なおサムライが闊歩する、パラレルワールドの日本ではなかったか? 垂里冴子シリーズの舞台は、とりあえず我々が生きる日本だと思われる。当然、2つの舞台をどうやって融合させるのかに、読者の目が向く。

 パラレルワールドの設定は排除され、どこかとぼけた雰囲気で憎めないキャラだった東京茶夢は、普通にシリアスな探偵になっている。シリーズもののファンとしては、お互いの特徴を生かした相乗効果に期待してしまう。せっかくの共演なのに、お互いの持ち味が生きていないというのが正直な感想である。冴子はあくまで自然体とはいえ…。

 本格としては、かっちりしたオーソドックスな作りになっており、シリーズのファンに限らず、人物なんか気にしないという本格ファンにも楽しめるかもしれない。かなり無理があるダイイング・メッセージだけでも、読んだ甲斐があったと思うことにしよう。



山口雅也著作リストに戻る