柳 広司 18 | ||
ロマンス |
柳広司さんは『新世界』で戦時中を描き、『トーキョー・プリズン』で戦後を描いた。それぞれ、とっつきにくさの中にも訴える要素があった。そして、昭和初期を舞台とした新刊が届けられた。とっつきにくさは承知の上。読者に何を訴えてくれるのか?
主人公の麻倉清彬、その親友多岐川嘉人、嘉人の妹の万里子。主要な登場人物は爵位を持つ華族ばかり。上流階級のミステリーといえば、北村薫さんの三部作『街の灯』『玻璃の天』『鷺と雪』が思い浮かぶが…共通点は皆無と言っていい。
清彬は麻倉子爵家の跡継ぎとなるまで、複雑な運命を辿っている。日本人とロシア人のハーフである父高彬と、母桜子の間に生まれた清彬は、パリで生まれ育ったが、9歳のとき両親は事故死。1年後、大伯父の周防高輝によって日本に連れ戻された。
ただでさえ、日々遊び暮らす華族は揶揄される存在。華族にして混血である清彬が、いかに好奇の目を向けられたかは想像に難くない。そんな清彬の親友である嘉人もまた華族だが、軍に入った変わり者。嘉人は軍こそ平等社会と信じていたが…。
うーむ、当時華族とはそういうものだったとはいえ、深い教養がありながらふらふらしているだけの清彬に、どうしても共感できない。探偵役に共感できない時点で苦しいなあ。清彬の周辺では様々な思惑が交錯するが、清彬は我関せず。清彬には自分というものがないし、おそらく内外の情勢にも興味がない。
それだけに、清彬があんな危険思想に取り憑かれるのが唐突なら、結末も唐突だ。肝心の謎だが、途中からどうでもよくなっていたので、今さら明かされてもなあ…。
と、文句ばっかりですみません。華族社会と当時の世情、共産主義思想への弾圧などを知る資料としては興味深い。肝心の物語の方は…退廃的な雰囲気を堪能すべきなのかなあ。どの辺が『ロマンス』なのか、僕には理解できませんでした。