Xin Qiji ci


  
辛棄疾詞

南鄕子
            登京口北固亭有懷

何處望神州?
滿眼風光北固樓。
千古興亡多少事?
悠悠。
不盡長江滾滾流。


年少萬兜鍪。
坐斷東南戰未休。
天下英雄誰敵手?
曹劉。
生子當如孫仲謀。



******

南鄕子
             
         京口 北固亭に登りて 懷
(おも)ひ有り

 いづこ
何處にか  神州を望まん。
 
滿眼の風光は  北固樓。
  
千古の興亡  多少の事,
 
悠悠。
 
盡きざる長江は  滾滾と流る。



         あまた  とうぼう
年少  萬の兜鍪。
                            いま   や
東南を 坐斷して  戰ひ 未だ休めず。
                 たれ
天下の英雄の  誰か 敵手なる?
 
曹・劉ならん。
            まさ
子を生むは 當に  孫仲謀の 如くあるべし


      **********





私感注釈

※南鄕子:詞牌の一。詞の形式名。詳しくは下記の「構成について」を参照。

※登京口北固亭有懷:鎮江市の北固楼に登り、思いがこみ上げた。 京口:現・江蘇省鎮江市のこと。三国時代、呉の孫権が都とした所。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)62ページ「南宋 淮南東路 淮南西路」には鎮江府とある。 *この詞は、辛棄疾が軍略家としての孫権(字は仲謀)に想いを馳せて作ったもの。辛棄疾は嘉泰四年から開禧元年の間、ここ鎮江の知府に任ぜられていた。 ・北固亭:北固楼のことで、鎮江城北の北固山山頂にある建物。現・江蘇省鎮江市京口区東呉路にある。下の地図中央北寄りの川の南岸部。 ・懷:おもう。昔のことをおもう。なつかしくおもう。

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江蘇省鎮江市京口北固山公園(地図の中心)


※何處望神州:どちらに神州・中原が望めようか。 ・何處:どこに。 ・神州:中国の美称。ここでは、漢民族の故地・中原の大地を指す。 

※滿眼風光北固樓:見わたす限りの風景は(どこか故地とは異なった)北固楼(周辺)。 ・滿眼:みわたすかぎり。見晴るかす。 ・風光:風と陽光。「風景」(=風と陽光)で、「この風景は、中原のものとは違い、やはり異郷のもの」との感慨を謂う。世説新語・言語の「風景(=風と陽光)不殊,正自有河山之異」を受けている。周顗は、『風景(=風と陽光)は(故国)とは異なってはいないが、目にする川の姿、全てが新たで異なったものである』と言ったので、みんなは、見つめ合って、涙を流した。ひとり、王導だけは、形を改め正して、憤りを見せ『(我々は、)一緒になって王室のために力を尽くして(建設すべきであり)、祖国の故地・神州を恢復させるべきであり、何をめそめそと亡国の民のようになっているのか、この江南に新天地があるではないか!』と言ったので、みんなは彼に謝った。)『晉書・列傳・王導』「晉國既建,以(王)爲丞相軍諮祭酒。桓彝(桓階の弟、桓温の父)初過江,見朝廷微弱,謂周顗曰:「我以中州多故,來此欲求全活,而寡弱如此,將何以濟!」憂懼不樂。往見(王),極談世事,還,謂(周)曰:『向見管夷吾,無復憂矣。』過江人士,毎至暇日,相要出新亭飮宴。周顗中坐而歎曰:『
風景不殊,舉目有江河之異。」皆相視流涕。惟(王)愀然變色曰:「當共力王室,克復神州,何至囚相對泣邪!』衆收涙而謝之。」。

※千古興亡多少事:悠久の時の流れの中で、興っては亡んでいったできごとはどれほどあっただろうか。 ・千古:遠い昔から現在にいたるまでの長い間。大昔。永遠。 ・興亡:興っては亡んでいくこと。「亡」の意味の方が強い。薛瑩の『秋日湖上』「落日五湖遊,烟波處處愁。
浮沈千古,誰與問東流。」 、南宋・陸游の『山南行』に「我行山南已三日,如縄大路東西出。平川沃野望不盡,麥隴靑靑桑鬱鬱。地近函秦氣俗豪,鞦韆蹴鞠分朋曹。苜蓿連雲馬蹄健,楊柳夾道車聲高。古來歴歴興亡,擧目山川尚如故。將軍壇上冷雲低,丞相祠前春日暮。國家四紀失中原,師出江淮未易呑。會看金鼓從天下,却用關中作本根。」 とある。同様の用例に白居易の『感月悲逝者』「存亡感月一潸然,月色今宵似往年。何處曾經同望月,櫻桃樹下後堂前。」がある。この「存亡」も「亡」の意。また、遠く日本でも、廣瀬旭莊が『阿部野』で「興亡千古泣英雄,虎鬪龍爭夢已空。欲問南朝忠義墓,蕎花秋仆野田風。」と使う。 ・多少:(「多/少」の意(多か少か)で、)「どれくらい」の意。「多」に重点があれば「多く」。「少」に重点があれば「少し」の意。

※悠悠:遠くはるかに。 ・悠悠:〔いういう;you1you1○○〕遠くはるかなさま。限りなく続くさま。また、憂えるさま。のんびりしたさま。とりとめのないさま。 *押韻から見て「千古興亡多少事,悠悠。不盡長江滾滾流。」と解し、(中国の古典詩詞では、押韻するところで意味の切れ目がある)と見るのが妥当で、下片も前者と同じ結びつきになっている。

※不盡長江滾滾流:尽きることのない長江は力強く流れる。 ・不盡:尽きることがない。尽きない。 ・滾滾:〔こんこん;gun3gun3●●〕水が盛んに流れるさま。盛唐・杜甫の『登高』「風急天高猿嘯哀,渚淸沙白鳥飛廻。無邊落木蕭蕭下,
不盡長江滾滾來。萬里悲秋常作客,百年多病獨登臺。艱難苦恨繁霜鬢,潦倒新停濁酒杯。」を踏まえる。

※年少萬兜鍪:若者(=孫権)は多くの軍勢(を引き連れ)。 ・年少:年が若い(者)。孫権のことを謂う。十九歳で軍権を握ったことからいう。 ・萬:多くの。極めて多数の形容。 ・兜鍪:〔とうぼう:dou1mou2○○〕かぶと。兵士のこと。孫権が大軍を率いたことをいう。

※坐斷東南戰未休:東南部(=呉)を占拠して、戦いはまだ終わらない。 ・坐斷:占拠する。 ・東南:呉を指す。三国時代、孫権が呉に拠って、戦ったことをいう。 ・未休:まだやめない。いまだ やまず。いまだ やめず。 ・休:やめる。

※天下英雄誰敵手:天下の英雄で、誰が(孫権と)対等のに渡り合えようか。 ・天下英雄:『三国志・蜀書・先主傳』の「是時曹公從容謂先主曰:今
天下英雄惟使君(劉備)與操耳。」からきている。 ・敵手:対等の力を持つ相手。天下の英雄で、誰が孫権と対等のに渡り合えようか。

※曹劉:(それは)魏の
と、蜀のだ。 *ともに三国時代の英雄。

※生子當如孫仲謀:子供をつくるのならば孫権のようなものであるべきだ。 *『三国志・呉書・呉主傳』中の「呉歴」の注記(呉書・呉主傳本文ではなくて、「呉歴曰:曹公出…」という風の注釈部分)に「公(曹公、曹操のこと)見舟船器仗軍伍整粛,喟然歎曰『生子當如孫仲謀,劉景升兒子若豚犬耳!』」の部分を踏まえている。 ・生子:こどもをうむ。こどもをつくる。 ・當如:…のようなもので あるべきだ。 ・孫仲謀:呉の孫権のこと。仲謀は字。






◎ 構成について

  南鄕子
           双調。五十六字 平韻一韻到底。韻式は「AAAA AAAA」。

   ●●○○,(韻)
   ●○○●●○。(韻)
   ○○●●,
   ○○,(韻)
   ●○○●●○。(韻)


   ●●○○,(韻)
   ●○○●●○。(韻)
   ○○●●,
   ○○,(韻)
   ●○○●●○。(韻)



となる。 脚韻は、「州樓悠流 休劉謀」で第十二部平声。

                                           

***********************
2000.11. 8
     11.10
     11.11土完
2001. 4.11補
      5.27
2011.11.19

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