映画のページ

恐怖の燻製工場

2002 D 517 Min.

出演者

勤勉な映画館マネージャー (1人)

勤勉な映画館従業員 (数人)

喫煙する観客 (大多数)

喫煙しない観客 (僅か)

見た時期:2002年12月

クリスマスに東の映画館で6本立て、ビュッフェつきで € 20(2600円弱)の催しをやると聞き、行ってみました。6本で € 20 ですとまあまあの値段。食事までつくというのですから、まあいい値段。

クリスマス・イブの18時に始まるというので40分ほど前に到着。昨年はチケット完売と聞いていました。雑誌には《暮れにアパートにこもって1人で首をつるぐらいなら、映画館にいらっしゃい》という趣旨の宣伝が載っていました。アパートは天井がやたら高く、私は小柄なので2メートル以上あるはしごでも持って来ないとだめで、首をつるのも簡単ではありませんが、ベニスで恋してのブルーノ・ガンスのような人にはこういう催しは救いかも知れません。それほど小さな映画館でもなく、完売ということですから、需要はかなりあるのでしょう。今年でもう10回近くになるのだそうです。

・・・ところが映画館のドアが閉まっています。中では人が忙しそうに動いています。外では私たちの他にも数人氷点下の寒さの中で「なぜ閉まっているんだ」と言っています。

ようやく従業員がドアにやって来ましたが、チラッと顔を出してまたドアを閉めそうな気配。誰かが、チケットの話を始めたら、ようやく入れてくれましたが、外側の玄関まで。中には入れません。変だなあと思っているとマネージャーが登場。物語はここから始まります。

★ やたら真面目なスタッフ

マネージャーというのがファンタのレトロ・コーナーに登場しそうな雰囲気の男性。生真面目な人のようで、「今日はクリスマス・イブだ。まだ始まっていないが入れてあげよう」と言い、私たち数人は中に入って良い事になりました。

取り敢えずそこにあったテーブルの所に座ります。蝋燭がともしてあり、チョコレートのお菓子が置いてあります。なんだか映画館というより、地域の市役所が催す市民親睦の会みたいな雰囲気。入り口にプログラムが置いてあったのを思い出し、取りに行きました。

A6 のぺらぺらの紙でできた両面刷りのプログラムが束になって置いてあったので1枚取ろうと思ったら、禁止。従業員の若い女性が「だめ」と言います。彼女が私たちの席に来て1枚1枚手渡すまで触っては行けないのだそうです。その手間を省いてあげようと考えたのは行けなかったようです。

暫くすると本当にその女性がやって来て切符のもぎりをやり、「そら、ちゃんと来たでしょ!」そう言いながらプログラムを渡してくれました。ふと目を外にやると、大勢の人がドアの外、氷点下の寒さの中に立ってこちらを見ています。私たち数人だけ蝋燭のともる暖かいホールでチョコレートのお菓子をかじっています。

★ はずれた思惑

18時になって開場。私のように18時上映と思った人も多かったようで、かなりの数です。プログラムを見ると18時40分に始まる作品が1番早く、遅いのは19時10分から。どうなっているんだろうと思ってもっと良く見てみると、見られるのは6本のうち3本だけ。間に長い休憩があって、その時に食事や籤となっています。ああ、何だ、6本用意して3本見られるのか・・・と言うのも勘違いで、まだ公開されていない新作6本と古い作品2本、計8本の中から3本選べます。古いと言ってもムーラン・ルージュ程度の古さ。

こんな遠い所まで来てしまったし、もうお金払ってしまったから仕方ない、3本切りでも付き合うしかないと思いながら最初の映画へ。マグダレンの祈りというゲイ映画祭に出ていた作品です。プログラムの件で従業員からかなりつっけんどんな扱いを受けて、出鼻をくじかれていたのですが、とにかく座席を確保してほっとしたところ。

実はこの女性、以前にこの映画館に来た時も15分きちんと列に並んで私の順番になっていたのに、納得せずもう1度列の最後に送ってくれた人です。肌の色の違う外国人に慣れていない人が時たまいるようです。

★ 食いっぱぐれ

しかし映画は力作、おもしろかったので満足して、2時間前の出来事は忘れビュッフェをのぞいてみました。 − 案の定・・・。実は食事にはありつけないのではないかと心配していたのです。ドイツ人は食事のサービスには熱心に並ぶ国民で、ビュッフェの時間が1時間だったので、絶望的だと思っていました。映画のホールは5つあり、チケットは売り切れ。午後9時から10時頃を食事の時間にあててあるのですが、映画が終わる時間というのが早いホールで20時10分、遅いホールで、20時54分。私の映画は20時45分に終わりました。ですから次の映画との間に充分休みが無い人も出ます。しかしそれよりも何よりも食事の場所を1箇所にしたのがまずかった・・・。食べる物は充分にあるのですが、恐ろしく長い列ができていて、自分の順番が来るまでに1時間近くかかりそうです。というのは前の方の人が全然急がない・・・。

しかし私は映画館のベテラン。気を取り直して、鞄をごそごそ。そんな事もあろうかと道具一式入れていました。この日は6本立てだと思って行ったので、最低でも12時間座り詰めだと思い、準備をしていました。ファンタですともっと長い日があります。というわけでビュッフェの列に並ぶのはハナから諦めて、持って来た物を食べ始めました。映画というのは体を使う作業ではないので、あまり食い意地を張らなくてもいいのです。ビュッフェに出されていたような物をごってり食べるより、りんごやにんじんをかじっていた方が胃にもたれず、眠くならずに済みます。コーヒーだけはかなり濃い目で砂糖をたっぷり入れたのを持って行きます。映画を見ていて眠気に襲われる時は、たいてい酸欠か糖分不足。この日は出かける前に寝溜めをしてあったので、3本ぐらいなら眠くならないですが。

★ 女囚シリーズの展開

さてここから話はエスカレート。1作目はまじめな作品でポルノなどではありませんが、タイトルだけは「女囚シリーズ」などに入れてもいいような話。映画館の方も似たような展開になって来ました。何と私たち全員映画館に閉じ込められてしまいました。午後9時をもってドアには全部鍵をかけられ、窓も開けては行けないと看守、いえ、従業員の方々に言われてしまったのです。

この日来ていたお客さんの大多数は恐ろしい勢いでタバコを吸います。客席以外の場所では至る所で物凄い勢いでスパスパ。♪スーッ、ッパ、ッパ、スモーキン・ブギ♪、館内はもう消防車出動寸前といった状態。食事の置いてある所では、肉などがフライから燻製に変わりつつあるところでした。通路はどんな細い所も煙だらけ。正面玄関も天井が高いのですが、あっという間に煙に包まれてしまいました。換気はやっているという話ですが、それにしては空気は全く動きません。

中にいくらかタバコを吸わない人がおり、この状態では命が危ないと感じてドアや窓を探し始めました。私もその1人なのですが、正面玄関から外に出ようとしたら、目の前で例の女性にドアの鍵を閉められてしまいました。「新鮮な空気が吸いたい」と言ったら「自分は3時間立ったまま働いている、今ドアを閉めて中に入る」とのたまいます。「ドアは開けたまま休憩はできないのか」と聞く暇もなく彼女は消えてしまいました。

同じ問題を抱えた人が何人かいて、ようやく非常口を発見。そこで細々とドアを開けて空気を吸いこんだ次第。フロアもホール前もかなりの人混み。これではタバコとは関係なく酸欠になってしまうと心配しましたが、そんな事を気にしているのはどこかの国から来たアホだけといった感じです。

仕方なく眠り込まないようにコーヒーを飲み、次の作品へ。今度はアダム・サンドラーのコメディー。これまた内容にはひどく感心しました。ぜひお薦めの作品です。

2作目を見終わったところでチーズ・ビュッフェというのがあり、これまた前回のビュッフェと同じ状態、長蛇の列。ドイツには燻製チーズというのをよく売っているのですが、ここは普通のチーズをタバコの煙で燻製にする工場のようでした。

この列に並んでいたら次の映画を見そこないそう。それでこれまたパス。映画の方が食べ物より重要だというドイツ人もたくさん知っていますが、そういう人たちはファンタに集合。座る所は確保できたので、文句はありません。ぱくついていたら印象的なオープニングを見そこなうところでした。

これが終わったのが23時7分。23時30分からくじが始まるというので、しぶしぶ大きなホールへ。ドイツ人は食事のサービスと籤が大好きなのですが、私は ほどほどの関心。しかしこの日の観客は半強制的に参加させられていました。持っているチケットのナンバーで当選者を決めます。あまりやる気のない司会者で、どうもしらけます。ところが私は当たってしまったのです。一緒に来た人も当たってしまいました。両方とも CD。

もらった景品を見てまたびっくり。封が切ってあり、ケースは壊れています。ま、買った物ではなくプレゼントですから文句は言わないでおこうという事で、いただいて帰りました。

相棒と2人とも当たってしまったのでもう用はないという事で大きなホールを早々に引き上げ、予定していた3本目のホールに入ろうとしました。すると従業員に呼び止められ「籤に関心がないのか」と聞かれました。「もう当たってプレゼントもらってしまった」と言うと無罪放免。監視が厳しいんだなあ、この映画館は・・・ぶつくさ。

私は 10億分の1の男 のようなむちゃくちゃな連続確実大幸運には恵まれませんが、特に当たろうと思わないのに何かに当選してしまう事が良くあります。よりによって世界で1番好きなポスターやカレンダーが当たってしまったり、滅多にサインなんかもらおうと思わないのに、好きなスターからはもらえてしまったり、という事があります。統計学や確率計算が私の周囲では特別エリアを作っているかのようです。

さて、煙が目にしみる・・・2本目と3本目の間には非常口のドアを開けた人がいて、思い切り空気が吸えると思った・・・のは甘かった。とたんにどこからともなく男の人が現われて「寒いから閉めるように」と言われてしまいました。鎖につないだ鍵を持った従業員が歩き回り、ちょっとドアを開けるとすぐ人が飛んできて止めさせる、中にはタバコの煙がどんどんたまって行きます。3本目を見始める頃には私の喉と目には痛みが走り始めました。この記事を書き始めたのがその2日後、目と喉はまだ良くなりませんでした。その後気管支炎を併発、現在は寝正月。

3本目の作品もなかなかの出来で、満足。これは新作ではなくもう公開された作品なのだそうです。終わったのが2時37分。6本だから朝6時頃になると計算していたので番狂わせではありますが、最初に見たマグダレンの祈りの修道院を連想させるような映画館。ドアが開くとですぐ逃げ出しました。まだそれほどの寒さではありませんでした。

★ 外に出ると運が・・・

どういうわけか普段なら30分ぐらい待たされるのに、至る所で夜バスの乗り継ぎが良く、先ほどまでのホラー経験の埋め合わせをするかのように、1度は道路のど真ん中にバスが止まってくれて乗せてくれました(こういう事はベルリンでは珍しいです)。映画館を出たとたんに運がつき始めたようです。やはり10億分の1の男か・・・。

★ 仕事熱心な燻製工場

映画館のマネージャーは実に仕事熱心な人らしく、最初から最後まで館内の至る所を歩き回り首尾通り運んでいるかチェックしていました。鍵を持って監視して歩いていた若い従業員たちも怠けるという言葉は生まれた時から知らないような様子で、館内を歩き回り、食事が切れたら補充、とにかく熱心に働いていました。鍵を閉めて回っていたのもそういう規則になっていたからなのではないかと思います。

とすると何が行けなかったのか。− 大きな誤算は、ドイツ人が徐々にタバコを止める方向に動いているという点を考慮しなかった事でしょう。 東と西では多少事情が違います。数年前東にある学校に行っていた時も西ドイツから西ベルリンに来ていた若い女性と、東の学生の間でタバコをめぐって大きな対立がありました。しかし東の人でも健康を気遣う人は増えており、そのためにも館内の視界が悪くなるほどの煙は溜めない方が良かったのではと思います。私と一緒に新鮮な空気を求めてさまよっていた人が全員西の人というわけではありませんから。

仕事熱心なチーフはエンターテイメント産業に従事しているのだから、自分もちょっと楽しんだら良かったと思います。選んだ作品はどれも良い物ばかり。私は以前にもう見ていたからこの日見なかった作品でもすばらしい物が入っています。そして去年選んだ作品のタイトルを聞いた時も、なかなかいい趣味をしていると思いました。見に来た人が作品で不満になる事はないように思われます。

この人がマネージャーだと心得ている人は少ないから人には知られなかったでしょうが、難しい顔をして、あらゆる事に気を使って歩き回っていました。それで従業員もぴりぴりしていたのかも知れません。アルハンブラやシネマックスなどに行くと、従業員には笑顔が多く、みな楽しそうにしています。以前ファンタをやっていたロイヤルという映画館のマネージャーも大勢が詰め掛けるファンタ開催時には自ら戸口に立って切符のもぎりをやっていましたが、入場を待っている私たちと和やかに話したり、色々親切にしてくれました。忙しそうではありましたが、リラックスしていました。

楽しい映画を見せてくれる映画館、働いている人にも楽しんでもらえたらいいです。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ