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2004 HK 111 Min. 劇映画
出演者
呉彦祖 / Daniel Wu
(Roy - 本土から送られて来るヒットマン)
張柏芝 / Cecilia Cheung
(Dan - 本土から来て香港で働く売春婦)
方力申 / Alex Fong
(Miao - 抗争を防ぎたい警部)
錢嘉楽 / Kar Lok Chin
(Brandon - 捜査に当たる刑事)
梁達祺 / Anson Leung
(Ben - 野心的な新人刑事)
林雪 / Suet Lam
(Liu - 本土からのヒットマンを仲介する男)
李燦森 / Sam Lee (Franky)
王合喜 / Ken Wong
Chuen-Yee Cha
Monica Chan
Henry Fong
Elena Kong
Hee Ching Paw
Austin Wai
見た時期:2005年8月
香港に慣れた方ならご存知でしょうが、モンコックというのは九龍の1地区の名前。怪しげな店も多い、繁華街だそうです。九龍をぶらついたことはあるので、私も知らずに通っていたのかも知れません。返還のずっと前の話なので、町の様子は今ではかなり違っていることと思います。
インファナル・アフェアを見た方はその後たいていの映画を見て失望するでしょう。あのレベルに達する作品はそうそう出るものではありません。アメリカで計画しているリメイクに私は大して期待していません。良い作品が出てしまうと煽りを食うのはリメイクだけではなく、その後に続く香港の作品も同じ。
で、ワンナイト イン モンコックは絶対に損をしています。いつか別な時にポーンとこの作品が出て来ればもう少し高い評価を得られたと思います。香港映画に詳しい井上さんと違い、私はあまり名指しで挙げられる俳優を知りません。自分もアジア人ですからドイツ人のように「どの顔を見ても同じに見える」とは言いません。しかし見る本数が絶対的に少ないため顔をきちんと覚えて、次に出て来た時に「あ、あの人だ」などと言えるほど詳しくは知らないのです。ですから私があれこれ言うのはストーリーや演出の方。
人物や背景を丹念に描いているという点ではインファナル・アフェアと比べ大して見劣りはしません。こいつがあいつともめていて、あいつが別の奴を探していて、と結構複雑でありながら、観客が戸惑うほどのややこしさではなく、それが輪舞のように時間と共につながり始め、最後に1ヶ所に集まって来ます。詳しいストーリーは井上さんが紹介してくれているのでそちらを見て下さい(下にスクロール)。
やくざの全面戦争を警察が防ごうとする横糸と、本土から香港へ殺しの任務でやって来る男が実は別な目的を持っていたというのが縦糸。それに絡んでくるのが殺し屋に助けられ、後でその男を助けようとする女性。
香港犯罪映画には時々物凄いメロドラマが絡み大悲劇に終わりますが、ワンナイト イン モンコックもその典型。そこへ本土と香港の貧富の差が絡み、少し社会派にもなっています。以前は貧困のあまりヒットマンになって大金を儲けようとする中国人の話は映画の中だけだと思っていましたが、近年ある一家殺人事件に絡んで中国からやって来た男たちが実際に逮捕されるに至り、「あれは本当の話だったんだ!」と驚いている次第です。
そして《大陸から来た殺し屋》などと字面だけ見ると絶対に好きになれないような役目の男が観客の共感を得られる、全然悪い奴でないというところがこの作品の隠し弾。中国語が分かる人が見たらダサい田舎者を演じているのかも知れません。言葉の分からない私は俳優の態度からしか想像がつきません。実直でいい人に見えてしまうのです。上昇志向の若い女性には嫌われるのかも知れませんが、普通の人からは好かれそうな青年。ここは監督の狙いでもあり、見事はまっています。色々筋がややこしく、人の関係を説明しなければならない中、俳優の力量なのか、キャスティングの良さなのか、彼の人柄は比較的早く伝わって来ます。
やくざの対立が激しくなるばかりではなく、警察も捜査の手を緩めないので、映画が終わるまでにヒットマンが探している女性が見付かるのか、そんな話に関わっている時間があるのだろうかと思ったら、アッと驚く結末も用意されています。監督は上手にその女性を隠していました。私にも単純計算で行くとあの人かと思った瞬間があったのですが、それでは話ができ過ぎているのでまさかと思って、見ている間中自分で否定していました。
インファナル・アフェアを越える作品は当分出ないだろうと思っていますし、出るとすればあのスタッフ、キャストで何か別な話でも作るんだろうと思いますが、それでもワンナイト イン モンコックを見る気になったのは町の力もあります。井上さんほどではないのですが、私も返還前に2、3度香港に行ったことがあり、ツアーなどではなく、自分の足で町を歩いて回りました。山のてっぺんを宿にしていたこともあり、そこから海に向かっての景色は絶景。確かに町の内情を知るとやくざ、汚い仕事にあふれ、大変な町なのでしょう。しかしそれでも夜景を見ると何もかもが吹っ飛んでしまい、きれいな町に見えて来ます。
昼間の町は外国の文化を山ほど取り入れながら中国人であり続ける融合のエネルギーをたっぷり味わうことができます。ブレードランナーや攻殻機動隊1、攻殻機動隊2が香港の町並みを大々的に取り入れています。外国の監督がそうしてみたくなるほど魅力あふれる町です。国は1つ、システムは2つと言いながら、香港はじわじわと本土に押されているという話が耳に入っていますが、政府の政策とは関係無く香港の人の目と耳は外に向かって開かれているという気がします。
蛇足ですが、売春婦などという底辺の仕事をしているはずの張柏芝に気品とも言えるものがあり、好感の持てる演技でした。
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