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2004 F/I/Sp 109 Min. 劇映画
出演者
Vincent Cassel
(George Brisseau - DGSE の諜報員)
Monica Bellucci
(Lisa - DGSE の諜報員)
André Dussollier
(Grasset - 大佐、リザたちの上司)
Charles Berling
(Eugène)
Sergio Peris-Mencheta
(Raymond - DGSE の諜報員)
Eric Savin
(Tony - DGSE の諜報員)
Serge Avedikian
(Igor Lipovsky - ロシア・マフィア)
Gabrielle Lazure
(Véronique Lipovsky - イゴールの妻)
見た時期:2006年4月
2004年のファンタには欧州から良い作品がたくさん来たのですが、そのため良い作品が2つ同じ時刻にぶつかってしまい、見られない作品が出ました。その1つがスパイ・バウンド。ファンタ仲間も良い作品だったと言っていましたので、いつか見てやろうと待ち構えていたのですが、すぐ隣の国なのになかなかDVDがドイツに来ず、結局2年弱待ちました。その甲斐がありました。なかなかの力作です。気合が入っているというだけでなく、撮影もきれいで、ベルッチ/カッセル夫妻の魅力も十分。
監督も言っているように色々な面から楽しめる作品です。サーカス出身のカッセルが出ているので、当然アクション・シーンがあります。のっけからパラシュートで出動。本当に本人が飛んでいます。後半にはカー・チェイスから自動車事故へ。火事になりますが、スーパー・ヒーローは九死に一生をを得て脱出。
レアリスムスを追求しているのでアントニー・ジマーほど極端ではありませんが、ファッション性もたっぷり。何気ないようでいて、2人の服装はなかなかカッコイイです。観光を楽しみたい方はパリはもとより、スイス、モロッコ、スペインなどをご覧いただけます。カメラマンを誉めましょう。
で、ジェームズ・ボンドを彷彿とさせる各国巡りのシークレット・エージェント・エンターテイメントかと思われるかも知れませんが、これはマジの実話。時は1985年から現代に、場所は太平洋、ニュージーランド方面から地中海に、テーマは環境保護団体のデモ妨害から、武器密売の妨害へと移してあります。当時長引いたフランスとニュージーランドの国家間の紛争は抜いてあります。政治問題に手をつけたくないというより、そこまで手をのばすと話が大きくなり過ぎて収拾がつかないという意味での選択だったように見えます。しかしメイン・テーマはそのまま使っているようです。
実話の方は・・・
ドミニク・プリウール大尉という女性が実在し、彼女とアラン・マファール少佐が逮捕され、ニュージーランドで刑務所に入ったという話。なぜか刑務所に入っていたはずなのに妊娠し、フランスとニュージーランドの間で話がついて、帰国したまでは報道で読んでいました。限りなく灰色の政治決着で、長い間新たな報道は見ませんでした。その後大尉が手記を書いたという話が耳に入りました。頭に引っかかっていたのは、不透明さが目立ったから。数カ国が絡み死者と重軽傷者が出た上、船が大破したのだから当然補償問題が起きたり、殺人、殺人未遂、器物破損などの裁判になるだろうと思ったのですが、どうも良く分からないまま終わってしまいました。
エリザベス女王は私たちがまだ何も知らないとっくの昔にEメイルなどというものを試してみたそうですが、当時はまだ下々の人間の間ではメイルもインターネットも一般化しておらず、調べるとすれば図書館にでも行って、古い新聞を漁るとか本を探すぐらいしかできませんでしたし、私もちょっと変だと思っただけで、それ以上の興味がわかなかったので、深追いしませんでした。ですからここから先は最近のインターネットで仕入れた話です。
友好国の間でも揉めることがある・・・
私はフランスとニュージーランドの間で渋々であろうが取り敢えず話がついて、2人が帰国したものだと思っていたのですが、後から見るとどうやらフランスが強引に押し切った様子です。当時は知らなかったのですが、自分たちが犯人だと分かる証拠がその辺にちりばめてあったので、犯人がすぐ捕まってしまったのだそうです。筋金入りのスパイが間抜けだったのか、2人がはめられたのかはこんな後になっては判断のしようがありません。この辺りの事情は映画には詳しく出て来ませんが、1人が空港で捕まった後、罪にできる材料が出て来るというところに形を変えて表現してあるのかも知れません。
実話の方は、動かぬ証拠をいくつもつかまれ、ニュージーランドで裁判になり、禁固10年だそうです。何やら長い懲役になったという話は当時読みました。私はまああれだけ被害が出たのだから仕方がないと感じていました。収監先も事件が起きた場所なので、犯人がフランスに帰れないのも仕方ないか、しかしまあ、同盟国(東西紛争が終わるのは4年後)なのだからいずれ帰国させてフランスで収監するのかなとのんきな事を考えていました。
実は事はそう簡単ではなく、フランス側は何が何でも自国の諜報員を取り返す方針、ニュージーランドの方は主権侵害でひどく腹を立てていて、両国の貿易摩擦に発展していたそうです。
スイス人を装わせたという点は本当らしいのですが、いくつかの理由があったのでしょう。(やったのが)フランスだと堂々と見せたくなかったこともあるでしょうし、当時はスイスのパスポートを持っていると、扱いが良かったりという事情もあったのかも知れません。映画の方では夫婦がモロッコからジュネーブに戻って来た、妻がスイスのパスポートを持っているという設定にしてあり、自国に戻った人は通関検査が早いという布石にしてありました。
スパイが間抜けだったという考え方も通るでしょうが、なぜ国家がこういう危ない仕事に堂々と正式な命令を受けた人を送り出したかというのも後から考えると不思議な話です。こういう時こそ捕まっても当局は一切関知せずという約束にしておくのがテレビ界では常識です(笑)。それに依頼主を知られないように刑事に対する私立探偵のように、国家の秘密諜報員の代わりに私企業の仕事を引き受けるブロスナンのような人間を使う手もあったように思えます。それとも当時はまだそういう商売は無かったのでしょうか。
私は全然知らなかったのですが、フランスとニュージーランドは核実験という熱いテーマで以前から犬猿の仲だったそうで、それだったら余計身元がばれないような対策をしたのではないかと思えてしまいます。しかし事実は小説より奇なりで、バレバレ状態でした。そしてニュージーランドにしてみれば欧州の遠くからやって来て、自分の庭先を汚染して行く国には親切にできないという言い分があるのでしょう。
この辺を取り上げていると映画が改めて国際紛争を生んだりするので、場所を思い切って地中海に移し、政治問題を最小限にとどめたのは賢明だったかと思います。
捕まってからの謎の方が大きかった・・・。そして誰もいなくなった・・・。
2人の実行犯はニュージーランドで刑務所に入ったと思っていたのですが、実は違い、領土的にはフランス、地理的にはオセアニアの施設に遠島を申し付けられていたそうです。今時遠島申し付けるというのは江戸時代みたいで驚きましたが、厳密な鉄格子の中に入る刑の他に軟禁状態のような刑があるようです。これを聞くと大尉がなぜ妊娠できたのか謎が解けて来ます。この妊娠は後に彼女がフランス本国に帰国する理由に使われた様子です。また、一緒に捕まったマファール少佐も何やら健康上の理由で国に連れ戻すという風にニュージーランドとの約束は適当なところで反故にしています。といった次第で、数年のうちに2人とも島からは去っています。
このあたり報道の又聞きのパッチワークなので、理由その他は100%信じるわけには行きませんが、限りなく灰色の決着を目指すフランスと、オトシマエはつけてもらおうじゃないかというニュージーランドの間にはかなりの睨み合いがあったらしく、その上情熱的な活動家もいるグリーンピースが絡んでいるので、ピースを目指すはずの団体がかなり乱暴な事件の被害者として当事者になってしまっています。自分の庭先を核汚染されたくないニュージーランドと環境汚染にはいつでも反対のグリーピースの利害関係が一致し、政治状況をしっかり視野に入れながら兵器の開発もするフランスと対立したのは言うまでもありません。
監督が作った作品は、重点が政治問題、破壊活動ではなく、活動に従事する諜報員の私生活の方に置かれています。破壊活動もおろそかにはしておらず、その辺のふざけたシークレット・エージェント物より真面目に手際良く表現していますが、他のいくつかの作品でも見られる程度の掘り下げ方です。破壊活動の見所は潜水用具。空気がすぐ上に上がって敵にばれないような工夫がされています。素人の私でも「あれっ?」思うのですから、潜水を趣味にしている人が見ると「アッ!」と思うでしょう。ジャック・クストーなどでも有名なフランスは、当時も潜水技術に関しては常に新しいものを目指していたらしく、軍事使用も含めた研究に色々励んでいたのだそうです。知らなかった!それはともかく、映画では本当の軍事施設で撮影させてもらったそうです。
メイン・テーマは一言で言うと《スパイ稼業は辛いよ》です。冒頭フランスの CIA のような組織 DGSE の男が人相の悪い男数人に追いかけられているのですが、ガムのような物に何かを隠して飲み込んでしまいます。どうやら殺されることを覚悟している様子。
案の定彼は殺されて、棺桶に入ってのご帰還。DGSE に引き取られ、葬式もせずにまずはラボへ。体内から隠してあったチップを取り出します。命を賭けて守った秘密のチップ。彼は国家のために命を投げ出したんだ・・・と取り敢えずは愛国心に敬礼。
この後ガラっと場面が変わって、別なティームが召集されます。5人組なのですが、女性1人は先にベビー・シッターとして敵地に潜入。武器密売をするロシア・マフィア、イゴール・リポフスキーの家で情報集めをしています。ここでおやっと思ったのは、リポフスキーほどの金持ちでヤバイ仕事をしている人物の家に監視カメラが無いという点。1985年なら納得しますが、2006年となると、そんなに脇が甘いのかと考えてしまいます。嫌な世の中になったものだと思いますが。
残りは監督の弟シューンドルファー、ベビー・シッターに入った女性の亭主カッセルを含む男性4人。役名はジョルジュ、レイモン、トニー、ロイックといいます。ジョルジュがベビー・シッターだったリザと夫婦を装ってカサブランカに観光旅行。他の男たちは道具の調達、そして潜水して敵の船に爆弾を仕掛ける任務を担当します。夫婦はこの男たちの移動を助け、潜水道具を運搬。最初に打ち合わせをきっちりしてあり、あとは実行あるのみ。そして成功。
船は目論見通り爆破されますが、夫婦が到着した時からこの計画、曇がかかっています。到着早々アメリカ大使館の男がリザに近づき、「お前たちは見張られているぞ」と釘を刺します。利害関係が絡んだ計画で、武器のだぶつき、資金不足に陥っている東欧からアフリカに武器を密輸したいというご一行、国で取れるダイヤを売って武器を買って反政府活動をやりたいというアフリカのご一行、そこにどう絡むのか CIA。CIA は密輸を妨害したいフランス政府と利害関係が対立するらしく、お前等引っ込んでいろというスタンス。
政治的な問題とは別にリザは引退を考えていました。この辺の事情は先に The Matador を見ていただくと分かりが早いかと思います。親方が国旗を掲げているか、株式を出しているかの違いこそあれ、こういう仕事をしている人の末路がはっきり分かります。The Matador のおっさんと同じ事をリザも嘆いているのです。仕事関係の仲間を除くと友達も家族も無い・・・。
実在のプリウール大尉は当時40歳になるかならないかで、身内も軍人。演じているベルッチはそれよりは若いけれど、ヤングとは言えない年齢で、こういう悩みを持ってもおかしくない風貌。そのためいつものピカピカのメイクでなく、皺が見えるようにしてあります。体が若く見え過ぎて顔と比べると説得力がありません。当時逮捕された大尉は過労もあってかもっと萎びて見えました。当時の報道を見た時は、アホな軍人がたまたま任務に失敗したんだと思っていたのですが(当時諜報員と思っておらず、たまたまこういう任務についていた軍人だと考えていました)、もし仕事に疲れて引退を考えていたのだとしたらあの萎れぶりに納得が行きます。
現地で捕まってしまった実在の人物と違い、スパイ・バウンドでは夫婦を装った2人はスイスに戻って来ます。リザはスイスのパスポートを持っているのでお先に失礼。ジョルジュが列に並んでいると、リサが連行されて行くのが見えます。口ほどに物を言うベルッチの目は「私に構うな、逃げろ」と言います。危機を悟ったジョルジュは他の男を襲ってパスポートを奪い、トンズラ。外からリザの行方を追い始めます。
詳しい検査の後刑務所に収監されたリザの罪状は150グラムの麻薬。仕掛けたのが身内だということが間もなく判明します。現在リザが収監されている刑務所にいてあと4日で釈放されるリポフスキーの共犯者を殺害せよという命令が面会に来た弁護士から伝えられます。
ようやくのことでリザに面会に来たジョルジュとも話が通じ、リザが引退しようとしたことが事の発端だと分かります。普通の人間の生活がしたいと思い始めた彼女とそれを許さない上司の対立がこういう形になって表われ、彼女は無理やり任務に連れ戻されます。ノーと言えば夫のアパートから何キロものヘロインが発見されることになるぞと言われてしまいます。
リザは国に陥れられただけでなく、言う事を聞かなかったら、さらに次の強行手段に出ると祖国が脅すのです。アパートに戻ればジェイソン・ボーンのアパートを思い出させるような個性の無い調度品、行けと言われれば即座に世界中のどこへでも出かけて行ける体制を整えておく、カリカチュア的な雰囲気もあったスパイ大作戦とは違い、諜報員の殺伐とした生活があちらこちらに出ています。
ここでガーンと来たのが、冒頭のシーン。国のために死んでいった諜報員。あの人は何のために死んだのか・・・。上司は少なくとも感謝ぐらいはしているのか・・・。そうでもないのです。こういう諜報員の上司になるような人は感情はとっくに殺してあって、あるのは任務遂行と権力争いのみ。部下が勝手に「やーめた、イチ抜けた」と言ったのでは示しがつかないのです。このあたりが監督のメイン・テーマらしいのですが、そこが他のスパイ・アクションと違い、よく出ています。演じる俳優もそのあたりを良く感じ取って演技しています。
カッセルはインタビューで「諜報員などという仕事に就く時は、この映画を先に見て良く考えてからにしてもらいたい」的な発言をしています。ご尤も。国の側から見ても途中で抜けられてばかりでは困りますし、応募する側も、こういう裏の面もあると承知してから決心した方が、後々トラブルが無くていいでしょう。後で「こんなはずじゃなかった」などという事になると、国家機密が漏れてしまったり、不要に人が死んだりとろくなことがありません。
近年アメリカとイギリスでは一般誌に CIA や MI5 だったか MI6 だったかの募集広告が出たりしています。なり手がいないためなのか、急に大勢の人員が必要になったのか、とにかく驚きました。私はこういう仕事は軍人などの中からめぼしい人にこっそり声をかけるものと思っていました。
フランスの場合は外人部隊があって、そこの兵士は5年間荒っぽい特殊な任務につきます。有望な人はその後契約を更新してもらえます。数は少ないようですが、その後さらに契約更新という人もいます。そこまで行くとかなり冷静沈着な人たちですから、そういう人が諜報部に移動するのかと思っています。どうしてもフランス人でないと行けない場合は兵士やから選ぶという選択肢もあるはず。国のために命を賭けるという点では共通しているので違和感が少ないのではないかと思えるのです。その他にフランスには厳しい競争を経て上へ上がって来るエリート官僚のシステムがあり、その中にも諜報員にリクルートできる人材があるのではないかと思えます。
こんな職業無いにこしたことはありませんが、そうのんきな事を言っていると、ある日国が無くなっていたなどという事になるので、一種の必要悪。できれば小規模で済ませたいところですが、それも時代に左右され、近隣の国から強面のシグナルが来る時代には家の鍵はしっかりかけておかないと行けません。スパイ・バウンドでは冷戦が終わり、東欧の事情とアメリカの事情が大きく変わったということが説明になっています。
親方国旗の諜報員の他に The Matador のようなフリーランスの殺し屋も登場。何と細身の女性です。国は規模の大きな仕事、機密性の高い仕事などを受け持ち、他は下請けに出している様子。その1人がジョルジュのティームのレイモンを殺します。リザの問題を調査している過程でレイモンの死に遭遇し、殺し屋の素性も追い始めます。同僚の助けを借りて見つけ出し、対決。
このシーンはハリウッドと違うなあと感じました。スペインの町で店をやっている女性が、時々殺しをやるのですが、その辺はジェイソン・ボーンに向けて動員される3人の殺し屋と似ています。普段は市民生活。彼女の居所を突き止めたジョルジュは自転車に乗り、空気ポンプにしかけた銃を持って店に乗り込みます。彼が店に入ったとたんに女殺し屋には敵と分類されてしまい、すぐ争いになります。ジョルジュは弾が1発しか撃てない銃、女はリボルバーを持っているので、格闘。「女を殴るとは何事か」と誰かが言いそうですが、プロの殺し屋なので、ジョルジュも命に関わり、相手を倒さなければなりません。その辺に躊躇いが無いのもリアリティーがあります。アーノルド・シュヴァルツェンエッガーがブロンド美人を殴った時は、両方ともロボットだということにしてありましたが、こちらは共に生身の人間。2人にはスタント・コーディネーターがついている上、カッセルが踊るように軽い身のこなしなので、女性があまりアクション慣れしていなくてもそれらしく見えます。さすがサーカス出身。
しかしジョルジュはリサに感情移入、殺られた同僚の復讐、そして上司に直談判、本来プロの諜報員とは言い難いです。上司にもその辺は釘を刺されます。同僚にも「俺の任務が全体の中でどういう意味を持っているかなんてことは考えないだろう」と言われます。1つ1つの任務について部下全員が政治的な意見を言い始めたらこういう組織は成立しません。それでもカッセルは奥方を救いたい、ここがこの作品で唯一センチメンタルな部分なのですが、それがなければ映画全体が成立しないので、そこはお目こぼし。監督が言いたいのは恐らく、こういう現実がある、こういう方面に踏み込む前に1度よく考えろという点でしょう。ストレスの多い諜報員に同情しろというスタンスではありません。
フランス人というのはおめでたい国民ではないので、ジェームズ・ボンドが初めて出て来た頃から、あれは御伽噺、現実は違うと分かっていたのではないかと思います。でなければニキタのような映画は出て来なかったと思います。世界はその後ロジャー・ムーア、ピアス・ブロスナンなどに乗せられて、ファッショナブルなカッコイイ諜報員のイメージを抱いていました。最初は西側だけ、後には元東側も。まさかボンドやオースティン・パワーズにあこがれてスパイになる人はいないでしょうが、一般のイメージもそろそろ一皮剥けていいのではないかと思います。
日本は諜報員の 歴史が古く、起源は平安時代と言われ、少なくとも戦国時代にはきちっとした組織ができていました。それが今では忍者ということで、漫画やアニメ、映画の題材に使われ、ドイツに至っては、柔術、剣術などに紛れて忍術などという看板を出している道場もあります。現実とフィクションのギャップは今後も大きくなって行くのでしょうか。私たちは漫画やテレビで任務に失敗したら自害などというシーンを見慣れていて、忍者が一般の市民生活を望んで悩むなどという事は考えもしません。伊賀や甲賀の忍者村に生まれてしまったら、それが運命。しかし普通の家庭に育って、就職先が諜報部ですと、そういう悩みもあるのでしょう。何となくその方が自然に思えます。
俳優は全員渋くて、大スターのはずのベルッチ・カッセル夫妻も粋ではありますが、ハリウッド映画とは違う地味な雰囲気で演じています。私はドーベルマン以来何度か2人の共演を見ていますが、毎回テーマも雰囲気も違い、退屈しません。以前は妙なカップルだ、いずれ別れると思っていたのですが、最近は今後ももっと一緒に仕事してくれたらいいなという風に考えています。ドーベルマンの監督がベルリンに来ていて、「気に入ったか」と聞かれた時、「気に入らなかった」と答えたのですが、ドーベルマンはジワッと効く作品で、今になって「あれはおもしろかった」と思い直しています。当時はチェイキー・カリョが乱暴過ぎて毒気に当てられたような気分になってしまったのです。しかしベルッチとカッセルはクールでした。
共演の悪役、アンドレー・デュソリエーはフランスの有名な作品に出まくっているベテラン。主だったところでは、ルビー&カンタン、タンギー、ヴィドック、Le Fabuleux destin d'Ame'lie Poulain。恐ろしい数の出演作があります。スパイ・バウンドでは初老で白髪の紳士。古いゲルマンの抒情詩などではこういう出で立ちの人物は道徳的で立派な国王なのですが、現代ではそうは行きません。身分の高い、身なりの良い悪役です。
カッセルの仲間の役で出ている人たちは中堅。経費節約のためか、監督の家族が総出で力を貸しています。
大ヒットを狙った作品なのかは分かりません。ドイツでは大ヒットにはなりませんでした。すぐ隣の国なのに、DVDが出るまでにかなり時間がかかっています。ドイツにはグリーンピースに関わっている人が多いので、彼らを妨害したスパイの行動を暴く作品には興味がわくのではないかと思ったのですが、そういう方向には行きませんでした。
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