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2005 F/USA 122 Min. 劇映画
出演者
Nicolas Cage
(Yuri Orlov - ウクライナ出身の武器商人)
Nalu Tripician (Nicolai Orlov、大人)
Jack Niccol (Nicolai Orlov、子供時代)
Bridget Moynahan
(Ava Fontaine Orlov - ユーリの妻、元モデル)
Jared Leto
(Vitaly Orlov - ユーリの弟、武器承認、元コック)
Shake Tukhmanyan
(Irina Orlov - ユーリの母親、カソリック)
Jean-Pierre Nshanian
(Anatoly Orlov - ユーリの父親、偽ユダヤ人)
Yevgeni Lazarev
(Dmitri Orlov - ユーリのおじ、将軍)
Ian Holm
(Simeon Weisz - ライバルの武器商人)
Ethan Hawke
(Jack Valentine - インターポール)
Jared Burke
(ウクライナのギャング)
Eric Uys
(ウクライナのギャング)
David Shumbris
(ウクライナのギャング)
Stewart Morgan
(ウクライナのギャング)
Jasper Lenz
(Gregor)
Kobus Marx
(Boris)
Stephan De Abreu
(Liev)
Jeremy Crutchley
(軍事見本市のセールスマン)
Tanya Finch (Ingrid)
Lize Jooste (Natasha)
Yaseen Abdullah
(レバノン人のバイヤー)
Donald Sutherland
(Oliver Southern - アメリカ人の大佐、声)
David Harman
(Oliver Southern - アメリカ人の大佐)
Neil Tweddle
(Oliver Southern - アメリカ人の大佐)
Prosper Hakiziman
(ソマリア解放運動の闘士)
Chi Zhang Yi
(ボルネオの軍人)
Sajad Khan
(ムチャヘディンのリーダー)
John Sferopoulos
(武器運搬船の船長)
Gamiet Peterson
(武器運搬船の船員)
Danie Struwig
(インターポールのエイジェント)
Eamonn Walker
(Andre Baptiste - リベリアの独裁者)
Sammi Rotibi
(Andre Baptiste Jr. - リベリア独裁者の息子)
Zdenek Pechácek
(ウクライナ人の少佐)
Tayo Oyekoya
(リベリア人の少尉)
Siyamthanda Ndlangalavu
(リベリアの子供の軍の少尉)
見た時期:2006年11月
筋はある程度バラします。しかしこの映画で楽しむべきは、画面、台詞の方なので、筋がばれても楽しめる要素は満載です。
フランスがお金を出し、ニュージーランドの監督が作った作品。アメリカのドル箱スター、ニコラス・ケイジが主演です。結論から言うと、これまでに見たケイジの作品の中でベストだというだけでなく、私が見た全部の映画の中でもトップ10上位に入ります。
まずキャスティングに成功。主演のケイジが目立つように作られた作品ですが、主人公が自分の人生を語る物語なので仕方ありません。ナルシスム的でなく、淡々と自分や自分の家族について語るような形式になっています。 そこへ配置される彼の家族、夫人、商売上のライバルなどの人選も適切で、ボロが出ません。撮影を担当したカメラマンの仕事が良くて、非常にきれいな絵に仕上がっています。部分的にはその写真をポスターにして部屋に飾っておけるぐらいの美しさ。それに貢献しているのが撮影場所の選択。
普通はその程度の完成度で簡単に満足してしまう私ですが、さらに良い点がいくつか。例えば要所に使われている音楽が適切な上、たまたま私の好きな曲でした。好きだというのは監督やスタッフの選曲とは関係がないので、そのために評価を上げては行けませんが。
そして最初の数分で頭をガーンとやられたような気分になります。理由はイントロ。アカデミー賞には最優秀映画イントロ賞というのが無いのですが、あれば絶対に受賞間違いなし!こんなアイディア誰が思いついたんだろうという良い出来です。ここだけで物語が1つ完結しています。これ以上はばらしませんから皆さん是非DVDを借りて来てじっくり見て下さい。映画館で見ると1回切りで、見終わって「まさか!?」と思っても見直すことができませんからご注意を。
これだけではまだ足りないと思ったのか、台本にも最大級の気合を入れてあります。誰があんなテキストを思いついたのか。とにかく最初から終わりまで大笑い、爆笑テキストの羅列。私はドイツ語で聞いたのですが(聞き慣れた言語)、それでも聞き落としたジョークがあるかも知れません。その実に出来のいいテキストを最大級生かしてしゃべっているのがニコラス・ケイジ。この種の台詞を上手に言えるのはスター級の俳優ではケイジかトラボルタぐらいでしょう。これもばらしませんから、皆さん是非自分の耳で確かめて下さい。
2004年に再々婚し、夫人には仕事はせずに子作りに協力せい、サッカーか野球のティームができるぐらい子供を作れと言ったそうで、嫌な奴だなという印象を残したニコラス・ケイジ。以前トラボルタも奥方に家にこもっていろと言ったとかで私はカチン。現代のアメリカにも時々こういう頭が化石の分からず屋がいるのかと、後進性に呆れてはみたものの、ドイツの現実もそれに近い時があり、叫ばれている事と、行なわれている事の違いはまだまだ大きいようです。
そういう保守的な旦那に取ってありがたいのは自分が仕事に励むきっかけを作る女性。ニコラス・ケイジの所ではそれが機能している様子。なぜこんな事を書いたかと言うと、ニコラス・ケイジの現在の奥さん、芸能界にはほとんど出て来ないのですが、結婚、出産以来ニコラス・ケイジの仕事が急上昇しているからです。
2000年以降の本数を見て下さい。
・ 2008年制作予定5本(多い)
・ 2007年制作済み、予定計4本(増えた)
・ 2006年出演2本、声優1本(増えた)
・ 2005年出演2本
・ 2004年出演1本
・ 2003年出演1本
・ 2002年出演3本、うち1本は助演
・ 2001年出演2本
・ 2000年出演2本
年1、2本だったのが最近急上昇。最初に話があってから、映画が仕上がるまでの年数を考えると、結婚、出産の後急上昇しているのではと思えてなりません。最初の2度の結婚は芸能界でプラスになりそうな相手を選んでのことでしたが、ゴシップによると、実際の関係はかなり早く終わっていて、離婚の書類手続きが後から来たような話になっています。3度目の結婚は自分のキャリアには特に影響のない普通の女性を選んだのですが、その結果がこの本数。
お金になるような映画を選んでいた時期もあったケイジですが、その後は態度をはっきりさせ、ナショナル・トレジャーのような作品と、マッチスティック・メンのような作品に出る時しっかり割り切っています。
以前はどちらかと言えば嫌いな俳優に挙がっていたケイジなのですが、最近私の個人的な評価は上昇中。以前の作品でおもしろいと思ったのは Face/Off ぐらい。他はつまらない脚本か、手抜きの演技で、あからさまに周囲をバカにしたような態度。
それがアダプテーションあたりから変わり始めています。単純に時期を見ると2度目の結婚とかぶるのですが、撮る本数は比較的コンスタントです。私は彼の映画を全部見たわけではないので、アダプテーション以前にも変化が現われていたのかも知れません。
Lord of War は Face/Off を先に進めたような役で、完成度は上がっています。ケイジの作品はカメラがきれいなものが増えていますが、Lord of War も撮影がすばらしいです。そのためのロケーション、セットも充分気を配ってあり、惚れ惚れするような画面に仕上がっています。
共演に連れて来たのが最近あまり見ないジャレット・レト。おもしろい作品に顔を出す人ですが、本数は元々少ないです。目が売りの俳優で、Lord of War でも最後にあの青い目がバッチリ映ります。この人選も成功。ケイジは Face/Off でも弟思いの兄を演じていますが、Lord of War もそのパターンです。
ケイジの妻を演じるのはブリジット・モイナハン。元モデルという役ですが、しっとりとした地味さを出していて、ケイジがあこがれて妻にするという点を納得させる人です。ケイジの両親役にはロシア語が自由に話せる人を連れて来ています。ケイジの商売敵にはイアン・ホルム。渋くてよくはまっています。
では、ストーリー行きましょう。時は冷戦終了前。ウクライナの一家がユダヤ人を騙って国外脱出に成功。ニューヨークに移民して来ています。ベルリンの壁が崩壊する前はソ連人の国内外移動も難しかったですが、ユダヤ人だとなると別。それに目をつけた父親が妻、息子2人を連れてソ連を出、最終的にニューヨークに落ち着きます。本当はユダヤ教徒ではないのに父親はせっせとユダヤ教会に通い始めるため、カソリックの妻はかんかん。
そんな不思議な環境で育ったニコラス・ケイジ演じるユーリなど、家族は一緒にレストラン業を営んでいます。ところがあるきっかけで武器商人に転職。ある日レストランで出入りがあり、その時にユーリは、銃弾の需要の方がレストランより大きいことに気付いたのです。ユダヤ教会に来る信者の1人の伝で初仕事。なかなか商才があるようで、その後どんどんこの稼業に深入りして行きます。1人では不充分と弟の協力も求めます。仲のいい兄弟で話はすぐまとまります。
ケイジの役はお天道様に顔向けのできない商売、兄弟愛と Face/Off のパターンそのままなのに、繰り返しに見えないところはさすがです。
それからは売る商品が武器に限られていることを除けば世界各国を歩き回る商社マンと同じ生活。もっとも法律すれすれどころか、法律の向こう側に出ることが多いので、偽のパスポートはジェイソン・ボーンに負けないぐらいそろえてあります。ばれては困るので、秘密のあじとを用意しています。
口八丁手八丁だけでなく、度胸も据わり、臨機応変。まったくこの商売にうってつけの才能の持ち主で、麻薬を扱うことがあっても麻薬におぼれることもありません。その辺が弟とは違い、弟は時々特殊な麻薬リハビリ・センターで治療しなければならなくなります。儲けた金を上手にやりくりする才能にも長け、ユーリの生活はどんどん豊かになって行きます。それに引き換え時々麻薬で失敗をする弟。それでも2人の関係は良好で、弟が困った状態になると、ユーリは助け舟を出します。弟も素直にリハビリ・センターへ。
ユーリは麻薬を扱っても溺れないというところでも分かるように、どこかけじめのある男で、結婚もそういう風になっています。美しい妻をもらい、子供ができますが、自分の商売についてはあまり言いません。妻の方もやや不審に思ってはいても彼女なりのけじめをつけ、まずい相手にまずい話をばらしてしまわないよう気を配り、知らない方がいい事は知らないままでとの方針。現在は子育てをしながら絵画商になるべく修行中。
家庭の状況を十分観客に紹介しておいて、次のテーマは彼の商売。いかに彼が有能か、それでもライバルが多くて気を抜くことができないか、そしてどのぐらい太い神経を持っているかが徐々に分かりやすく紹介されます。私のように家でニュースを見ているだけの人間にも心当たりのある話がぞろぞろ出て来ます。ロシアから軍の武器が消えたという話を聞いたこともありますし、アフリカ、アジア、南米などのヤバイ地域に武器が供給されている話も聞いたことがあります。法律の向こう側での話なので、報酬は現金だったり、ダイヤモンドだったり。このシーンの撮影には何度も海外に出掛けて行ったようです。どこに行く時もビジネスマン・スーツにアタッシュ・ケースというのが愉快です。
助手に使うのが弟というのはいい考えで、家族の結びつきの強い一家では裏切りなどという問題が起きずに済みます。そのため観客は余計な問題に気を取られず、ストーリーに専念できます。
ユーリの家族関係、商売の状況を理解したら、次は彼の邪魔をする男の話に移ります。1人は同業者。ニューヨークでユダヤ教会に行っていた頃その男はベテランで、ユーリは小僧っ子。徐々に成長してやがてユーリもその男と同等に大きな商売を取り仕切るようになります。すると行く先々で出会い、ユーリの方が一足先に仕事を片付けていたなどということにもなります。ですから恨まれることもあります。それがエスカレートして血を見ることになります。
もう1人は国際刑事警察機構の男。現在では170カ国近くが加盟しているので、ユーリの客の国も参加しているはずなのですが、どうやらモラルは2通りある様子。武器の輸出入は2カ国以上にまたがるので、インターポールの出番。そのエイジェント、ジャック・バレンタインとしてイーサン・ホークが出て来ます。最近静かな役の映画が続いていた人ですが、Lord of War ではアクションを思わせる活動的な役です。本人がスタントをやるという意味ではありません。しかし公海上に船で乗り付けて来たり、アフリカまで追いかけて来たりと、しつこくユーリを追いかけまわします。そのためユーリの商売は妨害されてしまいます。イーサン・ホークはニコル監督のガタカに出ていた人。ニコラス・ケイジは以前ウマ・サーマンと付き合っていた人。イーサン・ホークはちょっと前ウマ・サーマンと結婚していた人。世間は狭い。
ユーリの家族、商売、ライバル紹介と続くストーリーは、最後に意外なケリがつきます。1つはモラルに目覚めてしまう弟。けじめの無い生活を送っていた彼が身を固めよう思ったとたん、他の人の生死が気になるようになってしまいます。そのために起こる番狂わせ。武器商人に取っては致命的です。
次に世界中を追い掛け回しても逮捕に至らないことで作戦を仕切り直したジャック・バレンタインがユーリの妻を抱き込むことに成功します。これでユーリの幸福の基盤が崩れます。妻のエヴァはユーリの憧れの人で、大演出をして彼女を誘い出し、結婚にこぎつけたのです。しかし妻は長い間見ないようにしていた現実に立ち向かい、息子を連れてユーリを去って行きます。
これだけでもドラマは盛り上がりますが、現実的な終わり方をします。バレンタインは夫人の協力が得られたことでユーリの逮捕にこぎつけます。弟を失い、妻に去られ、自分は取調室に座る身、最悪なのになぜか余裕綽々のユーリ。自分が助かることを確信しています。それは頭のいい彼には自明の理。なぜかはご自分でDVDを借りて確かめて下さい。
ケイジがショーン・ペンのような芸能人モラリストであるか、この映画が武器商人という商売をカッコイイ物としているのか批判しているのかについてはあまり深く考えない方がいいです。ユーリという人にあまり共感せず、反発せず、椅子に座ってゆったりした気分で見るのがいいでしょう。こういう人がいて、こういう商売があって、こういう生活があるというのを、ああ、なるほどと知るための作品。なぜかと言えば、普通こんな金持ちに見初められて結婚することのできる人はほとんどおらず、こういう商売をしていて、長期間生き残れる人も多いとは言えず、ほとんどの人がこういう層とは無関係の場所で生きているからです。しかし映画としては分かり易く説明されていて、世の中の裏側はこういう風になっているのかということをチラッと知ることができます。そして画面はとてもきれい、俳優は実力を出しているので、一見の価値はあります。二見ぐらいしてもいいかも知れません。DVDを買うのもいいかも知れません。そして万が一どなたかがこういう商売と関係のある立場に近付いた時には、どのぐらいヤバイか参考になるかも知れません。
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