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2006 UK/USA 130 Min. 劇映画
出演者
役名を見るだけでネタがばれるのでこのページには詳しく出しません。(最後のネタばれページ参照)
主要な俳優(ABC順)
Christian Bale
David Bowie
Michael Caine
Rebecca Hall
Hugh Jackman
Scarlett Johansson
Samantha Mahurin
Andy Serkis
見た時期:2007年6月
★ 監督
ノーラン監督と言えばやはりメメント。低予算で非常に切れのある作品を作り、人々をあっと言わせた人です。まだ新しいバットマンは見ていないのですが、プレステージではバットマンの人材を使い回ししています。それが果たして良かったのかは個人の見解によりますが、私はキャストに関しては何かがうまく行っていないという印象を持っています。ちなみにバットマンは同じ人材で続編が計画されています。なお、プレステージではノーラン監督の6歳下の弟が脚本を一緒に書いています。
★ 中心テーマ1 奇術
物語の中心になるのは奇術師という職業と人間関係。奇術、手品と言えば日本ではマギー審司の職業ですが、プレステージはスケールが大きく、60年代ではキオ、60年代から70年代では初代引田天功が似ているかも知れません。その後ですと70年頃から頭角を現わし現在まで活躍中のデビッド・カッパーフィールドがそれに当たるでしょう。最近は新語でイリュージョンなどとも言うようですが、要するにマギー審司から見ると何百倍もスケールの大きい奇術です。
こういう言い方をすると主観的になりますが、私にはマギー審司程度の方が好ましく思えます。スケールが大きくなればなるほど、誇大妄想的なイメージで好きになれません。プレステージはそういう意味では誤解を解くのに役に立つ映画です。なぜかと言うと、舞台裏の描写が多く、奇術師という職業が詐欺、誇大妄想などではなく、たくさんの緻密な技術、どちらかと言えば非常に現実的な、エンジニアの活躍する分野に当たり、奇術師は音楽で言うと指揮者、ニュース・ショーで言うとアンカーのような役割なのだということが分かるからです。私は130分見ていて奇術技術の博物館にいるような錯覚にとらわれました。それはもしかしたらプレステージのスタッフの目的だったのかも知れません。実は別な理由だったのですが、見終わってすぐもう1度見てしまいました。
★ 中心テーマ2 人間関係
奇術の紹介だけではドラマにならないので、人間関係が織り込まれます。奇術は一定の規模を超えると助手、裏方などが必要になるため、小型、中型のサーカスのような規模になります。一座として人材、機材と一緒に移動。まだ馬車を使う時代で、宅急便も無ければ、コンテナー・タイプの大型トラックもありません。となると内輪の人間の協力が大切。特殊な機械の秘密も守らなければなりません。というわけで一座に属する人の関係は一種ファミリーのようになります。
日本人ならすぐ理解できるでしょうが、師匠との関係が親子とすれば弟子同士の関係は兄弟。誰が兄、誰が弟という区別は西洋の場合それほど厳しくないでしょうが、子供同士の関係には違いありません。もしその中で諍いが起こったら・・・。
それが起きてしまいます。弟子の1人の妻は現在の師匠の舞台アシスタント。その舞台アシスタントの死を招く立場になってしまうのがもう1人の弟子。当然ながら2人の弟子の間はひどく揉めます。舞台の上の事故なのですが、その日いつもと違う事をやるという点で出演者の間にコンセンサスができていました。それを夫である弟子だけ現場で直接見ていなかったということが、事故の後の人間関係の解決を難しくします。
同僚を非難する弟子には一理あります。非難される側は何年か一緒に巡業をしていた女性の死に圧倒され、言い訳を潔しとしません。それに彼にはもう1つ事を複雑にする事情があり、事故の原因解明をすること無しに一座はほぼ解散状態に陥ります。これだけでもかなりのドラマですが、これは物語の発端に過ぎません。
★ ストーリー
原作はクリストファー・プリーストの奇術師。ここで忘れてならないのはプリーストが推理小説家ではなく、彼の分野がSFやファンタジーである点。テスラやエジソンがストーリーに組み込まれるには理由があります。私は一種のスリラー、ミステリーだと思って見始めたのですが、後半にはっきりSFに転じる場面があります。そしてこのストーリー自体がSFであることを前提にしないと成立しません。デジャヴやコアのように最初からはっきり与太話だと示してから本題に入るのと違い、話がかなり進んでから急にSFへの方向転換があるので、ちょっと騙された気がしますが、SFという分野を前提にして、その中では推理物という言い方ができるかと思います。
監督がなぜこのストーリーを映画化したのかは分かりませんが、原作のテーマの1つは影武者、ダブル(双子)。クリストファー・ノーラン監督は苗字の他に名前を3つ持っていて、最初がクリストファー。その次がジョナサンです。いつも一緒に仕事をしている6歳下の弟はジョナサン・ノーラン。このジョナサンはメメントの原作を書いた人です。普段表に出ているのがクリストファーで、どちらかと言えば裏で支えているのがジョナサンなのですが、プレステージに出て来る人間関係の一角とダブります。
大きな事をやる奇術師には、双子であるとか、ダブルを使っているなどの噂がつきもの。また本当にそういう人を使っていても構わないわけですが、プレステージには色々な意味で《2人の人間》が登場し、反目しあったり、協力し合ったり、身分を隠したりします。見終わった後でいくつか謎が残り、「あれはどっちだったのだろう」と謎の宿題も残ります。
★ 全体の出来
実はかなりの密度で作られた作品なのですが、キャストが不発でせっかくの良い面が十分前に出て来ません。
少なくとも2度見ないと良さの分からない作品で、ドイツのように毎回完全入れ替え制の映画館で上映される場合果たしてこういう作り方が良いのか疑問に思います。良く見ると至る所にトリックが潜んでいて、1度流して見るだけではもったいないです。セット、衣装、時代の描写に気を配っていて、それを見るという意味だけでも2度ぐらいは見たい作品です。
★ キャストの問題
私はキャストを問題にしたいのですが、豪華さという点では十分と言えます。主演の2人は今飛ぶこうもりを落とす勢いのバットマンとXメンの狼男。2人ともヒーロー役で主演を張る若手。ギャラはトム・クルーズやジョージ・クルーニーを呼んで来るよりは安いかと思われますが、それでも時代を代表するトップ・スターを2人も揃えています。
脇を固めている人たちがまた大スターと呼べないこともない人を含めかなりの人材。デビッド・ボーイなども歌無しで参加しており、カメオとかどうでもいい軽い役ではありません。また、私が良く知らなかった女優が主演の1人の妻の役を演じ、説得力のある演技を見せています。
これと言って文句を言うアラの無いキャスト。それなのにせっかくのストーリー、質の良い脚本が3割程度しか生きていません。2人の主演が脚本の持つインパクトを殺いだと言えるでしょう。
では2人が手抜きの演技をしたのかと言うと決してそうではありません。2人とも自分に来た役を喜んでいる様子ですし、手抜きと思えるようなシーンは無かったのです。なぜ2人が喜んだのではと私が推測しているかと言うと、普段わりと陰険な役を演じていたベイルと、良心に恥じることの無い役の多かったジャックマンが逆の役を演じているからです。俳優としては役を決め付けられてしまうのは嫌でしょう。ベイルとジャックマンは現在スーパーヒーローの役に行きついてしまいましたが、基礎がしっかりしているため、巾広く違う役を演じたいのではないかと思うのです。ですから普段と逆の役というのは喜ばしいことでしょう。さらにこの作品では二役や誰かのふりをするようなシーンもあり、そのたびに中心人物と違うトーンも出さなければならず、演技の巾の広い人が思いっ切り遊べるのです。2人はそういう自分が演じる脇役も含めて全く息切れをした様子が見られません。あと2つ、3つ役が加わっても平気でしょうが、観客が混乱するので止めておくといった感じです。
ベテランのマイケル・ケインは今回やや控えめの演技なのですが、それも好感が持てます。パシーノやニコルソンが出て来るとお邪魔虫に見えるほど前に出てしまうのですが、ケインは今回はきちんと割り切って若手2人を立てています。それは他の俳優も同じで、出演者全体のハーモニーは良いです。
キャスティングでやや不思議だったのは子役。スカーレット・ヨハンセンに瓜2つの子供を使っているのですが、ヨハンセンと子供には全く血縁関係が無く、その疑いすら無いという役なので、もしかして元はヨハンセンをボーデンの妻の役に予定して子役を探したのではと思えるぐらいです。
ヨハンセンはちょっと色気をふりまき過ぎで、演技派と言われているわりには、男性客の呼び込みのためにわざと扇情的な衣装を着けて登場させたのではとかんぐってしまいます。ただヨハンセンは最近は意識してセクシー女優路線を歩いているので、本人はそれで良かったのかも知れません。ハリウッドの女優はよく最初はほとんど丸裸で出て来て、人気が高まるにつれて衣装をたくさん着るようになり、最後は絶対にヌードは出さないという、落ち着いて考えてみると不思議な路線をたどります。それに比べ、清純な感じで登場し、たまたま現在セクシーさをアピールできる年齢にさしかかっているから、半裸で出て来るというのはある意味で自然かも知れません。盛りのついたアヒルのようなイメージでも、40歳、50歳になってからでは出せません。今のうちに今できる役をやっておこうという考えなのなら私も納得します。
★ 悪い俳優でないのになぜふにゃけたか
問題なのはベイルとジャックマン。上に書いたように力の出し惜しみはしていません。しかし脚本が持つ《驚愕の・・・》というインパクトが全然出ていないのです。脚本には(原作にも?)驚くべき事実が隠されていて、さすがメメントの監督だとうならせる捻りがあります。それも1回だけではないのです。
ノーランは初期から弟と一緒に仕事をしていて、ティームワークは最高。この脚本を読んでいるだけで、推理小説を読んでいるような興奮が味わえます。オリジナルを読んでいませんがプロットはよくできています。詳しい話はどうしても重大なネタばれになってしまうので、次のページに書きますが、恐らくは良いオリジナルを、良い人たちが脚色したということではないかと思います。
その上監督(ともしかすると原作者)の遊び心が至る所に隠れています。話のいきさつ上重要な鍵を握る発明家テスラにはトーマス・アルバ・エジソンという大ライバルがいました。プレステージの主人公2人も全人生を賭けるライバル。そして主演には奇術師という職業の関係もあり時々影武者、ダブルが出て来ます。ライバルとなり熾烈なつぶし合いを演じる男2人と、逆に連帯を強める男2人の例が出て来ます。憎しみの物語と見せかけて、実は愛情の物語でもあるのです。バットマンとXメンの狼男は見ようによっては現代のライバル。監督と弟は協力者。さらに言うなら娘を演じている子役には双子のダブルがいます(これは恐らく幼児の映画出演に法的な制限があるからでしょう)。大きく目を開けてプレステージをじろじろ見ると2人組の人間のタイプがいくつか見えて来ます。邦題を《ペア》とか《ダブル》にしても良かったかも知れませんが、それではネタが半分ほどばれてしまいます。
ベイルとジャックマンを見るとどうも競争心が見えず、2人からは「相手をつぶしてやろう」という雰囲気が漂いません。2人とも職人的俳優とスターの中間にいて、似たような立場らしく、舞台裏で仕事上の苦労をお互いに労わりながら話し、休憩時間には一緒に紅茶でも飲んでいるのではないかと疑ってしまいます。どう見ても喧嘩を始めそうに思えないのです。もしかするとその連帯感がミスキャスティングの一因なのかも知れません。個人的に醜い争いをしない2人に好感が持てますが、そのため鋭さが殺げたかも知れないと感じます。
では誰だったら2人の役を上手に演じられるか。これは難しい問題です。ベイルだけ、あるいはジャックマンだけの代替を探すとなると、例えばガイ・ピアス、トム・クルーズ、アントニオ・バンデラス、などが浮かびます。バンデラスは1度スタローンと熾烈なナンバー・ワン争いを演じたことがありますが、なかなかの出来でした。フランス人ではありますが、ドーベルマンのカッセルも良いかも知れません。ジャックマンの役にはもしかしたらフランスのランベール・ウィルソンがいいかも知れません。彼の英語が100年前の英国のアクセントになるかは別問題として。
1人は陰険で、自分に惚れ込み、自己中心的でなければならず、もう1人は売られた喧嘩ではあっても徹底的にやり返すぐらいの気合がなければ役はつとまりません。また1人は貧困と戦う下層階級の出身、もう1人はカツカツでない人間。そして片方には一種の気品も要求されます。1899年の英国となればまだ階級制度の厳しい頃で、アメリカですらまだそれほどリベラルではありませんでした。そういった出身の面での対称形を持つと同時に共通点も1つあります。2人は共に長い人生のどこかで大切な人を失いひどく傷ついているのです。片方は愛情を知っている人間、片方は良く知らない人間でもあります。舞台の上の喝采についても両者は受け取り方が違い、その差を出せる俳優が必要です。さらにそれぞれがその主人公のダブル、影武者の役も演じるので、役の解釈が深くて、かつ別な顔も見せられる人が求められます。そういう点を考え、私はベイルとジャックマンもそれなりにがんばったと考えるのです。ただ何か今1つぴったり来なかったのです。メメントに出演した時のガイ・ピアスのキャスティングが良かったので期待し過ぎたのかも知れません。
★ 伏線が最初からたくさん敷かれている
2度見ないと分からないということです。私は1度見た時やや疲労していて、完全に集中できなかったのですが、手がかりが最初からあまりにもたくさんちりばめてあるので、絶好調の体力で見ても見落としはたくさん出ると思われます。正直なところこの記事を見てがんばって映画館に向かう若い方がおられたとしても、全部に目が行き届くとは思えません。2度目を見ると「あっ、あんな台詞しゃべっている」、「あのシーンは・・・」とようやく思い当たる部分が多いです。
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