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花間集
江城子

            
欧陽炯
                    
歐陽炯

               
晩日金陵岸草平,
落霞明,
水無情。
六代繁華,
暗逐逝波聲,
空有姑蘇臺上月,
如西子鏡,
照江城。


    **********************


      江城子

   
晩日
(ゆふべ)  金陵の 岸草 平かに,
落霞 明かにして,
水 無情なり。
六代の 繁華,
(ひそか)に  逝波の聲を 逐ふ;
姑蘇臺上の月  空しく 有りて,
西子の鏡の 如く,
江城を 照らす。


             ******************
私感訳注:

※欧陽炯:「欧陽」が姓。五代十国時代の後蜀の大臣。花間派の詞人。唐・乾寧三年(896年)〜(北)宋・開宝四年(971年)。益州華陽県(現・四川省成都市双流区)の人。

※江城子:単調、三十六字の詞。*このページの作品は『花間集』にある。                                  
※晩日金陵岸草平:夕暮れの金陵(南京)の草は平らかで。 ・晩日:夕方。夕暮れ。・金陵:六朝を通じての首都。現・南京。古来い多くの詩人が古都金陵を詠う。劉禹錫『石頭城』「山圍故國週遭在,潮打空城寂寞回。淮水東邊舊時月,夜深還過女牆來。」、唐・杜牧『泊秦淮』「煙籠寒水月籠沙,夜泊秦淮近酒家。商女不知亡國恨,隔江猶唱後庭花。」、孫光憲の『後庭花』其二「石城依舊空江國,故宮春色。七尺絲芳草碧,絶世難得。」、唐・韋莊『金陵圖』「江雨霏霏江草齊,六朝如夢鳥空啼。無情最是臺城柳,依舊烟籠十里堤。」、南唐後主李Uの『浪淘沙』「往事只堪哀,對景難排。秋風庭院蘚侵階。一任珠簾閑不卷,終日誰來。   金鎖已沈埋,壯氣蒿莱。晩涼天靜月華開。想得玉樓瑤殿影, 空照秦淮。」、朱敦儒の『相見歡』「金陵城上西樓,倚清秋,萬里夕陽垂地、大江流。   中原亂,簪纓散,幾時收?試倩悲風吹涙、過揚州。」、宋・王安石『桂枝香』「金陵懷古」「登臨送目,正故國晩秋,天氣初肅。千里澄江似練,翠峰如簇。歸帆去棹殘陽裡,背西風酒旗斜矗。彩舟雲淡,星河鷺起,畫圖難足。念往昔,繁華競逐。嘆門外樓頭,悲恨相續。千古憑高,對此漫嗟榮辱。六朝舊事隨流水,但寒煙衰草凝香B至今商女,時時猶唱,後庭遺曲。」、辛棄疾の『念奴嬌』「登建康賞心亭,呈史留守致道」「我來弔古,上危樓、贏得闖D千斛。虎踞龍蟠何處是?只有興亡滿目。柳外斜陽,水邊歸鳥,隴上吹喬木。片帆西去,一聲誰噴霜竹?却憶安石風流,東山歳晩,涙落哀箏曲。兒輩功名キ付與,長日惟消棋局。寶鏡難尋,碧雲將暮,誰勸杯中香H江頭風怒,朝來波浪翻屋。」、明・高啓の『登金陵雨花臺望大江』「大江來從萬山中,山勢盡與江流東。鍾山如龍獨西上,欲破巨浪乘長風。江山相雄不相讓,形勝爭誇天下壯。秦皇空此黄金,佳氣葱葱至今王。我懷鬱塞何由開,酒酣走上城南臺。坐覺蒼茫萬古意,遠自荒煙落日之中來。石頭城下濤聲怒,武騎千群誰敢渡。黄旗入洛竟何,鐵鎖江未爲固。前三國,後六朝,草生宮闕何蕭蕭。英雄乘時務割據,幾度戰血流寒潮。我生幸逢聖人起南國,禍亂初平事休息。從今四海永爲家,不用長江限南北。」、現代では『知之歌』「藍藍的天上,白雲在飛翔,美麗的揚子江畔是可愛的南京古城,我的家ク。,彩虹般的大橋,直上雲霄,斷了長江,雄偉的鍾山脚下是我可愛的家ク 告別了媽媽,再見家ク,金色的學生時代已轉入了春史册,一去不復返。,未來的道路多麼艱難,曲折又漫長,生活的脚印深淺在偏僻的異ク。」などある。

※落霞明:夕焼けが明るく。 ・落霞:夕焼け。現代語でも“晩霞”という。「霞」は朝焼け、夕焼けの意。空気中の水蒸気が輝くさま。我が日本では、空気中の水蒸気のためにぼんやりとするさまの方の意が、強い。気候風土の違いからこうなったのか。

※水無情:川の流れは(人間の営みとは関係なく、)無情に流れ去っていく。 ・水:川の流れ。川。

※六代繁華:(東呉、東晉、宋、齊、梁、陳)の六代に亘る王朝のにぎわいの。 ・六代:文学史で謂う漢魏六朝の六朝のこと。東呉、東晉、宋、齊、梁、陳の六代に亘る王朝のことで、約三百年間になる。『樂府詩集』に遺された南朝斉の謝に『入朝曲』で「江南佳麗地,金陵帝王州。逶水,迢遞起朱樓。飛甍夾馳道,垂楊蔭御溝。凝笳翼高蓋,疊鼓送華。獻納雲臺表,功名良可收。」と讃えられ、「江南佳麗地,金陵帝王州」として、各時代の王朝の栄枯盛衰を眺めてきた、古都である。そのため、「六代」「六朝」「金陵」といえば華やかさとともに、もの悲しさの伴う言葉でもある。歴史の呼称では、魏晋南北朝の南朝側を主体としたものでもある。

※暗逐逝波声:過ぎゆく川の流れ(=時間の流れ)の波音を秘かに追えば。 ・逝波:過ぎゆく川の流れで、時間の流れ、歴史の経過等で一度去って再び帰らないものの譬えとして使われることをいう。「子在川上曰:逝者如斯夫!不舎晝夜。」(論語・子罕)。

※空有姑蘇台上月:(呉王夫差が西施のために造った)姑蘇(こそ)の楼台上空に、月がむなしく出ていて。 ・姑蘇臺:呉王夫差が西施のために造った楼台。姑蘇、現・蘇州にある。 ・姑蘇臺上月:作者が南京にいるとすれば、姑蘇は、東方に当たる。東の空の月の意。

※如西子鏡:(月は姑蘇(こそ)の楼台の主(ぬし)の)西施の鏡のように。 ・西子:西施。呉王夫差の愛妃。また、美女。ここは、前者の意。

※照江城:川沿いの町(南京)を照らしている。 ・江城:川沿いの町。(蘇州〜)南京一帯の江南の水系に沿った水辺の町をいうが、ここでは、南京を指していよう。






◎ 構成について

  単調 三十六字。歐陽炯のこの作品が単調の江城子の最初のものになる。この詞牌はこの作品から興こる。江城子は、長調もある。平韻一韻到底。韻式は「AAAAA」。韻脚は「平明情聲城」で、詞韻第十一部平声八庚。

   ●○○。(韻)
   ●○○,(韻)
   ●○○。(韻)
   ●○○,
   ●●●○○。(韻)
   ○○●●,
   ○●●,
   ●○○。(韻)


 
2003. 6. 6
      6. 7完
      6.11補
2020.11. 1

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