江天欲暮雪霏霏, 罷釣誰舟傍釣磯。 沙鳥不飛人不見, 遠村只有一蓑歸。 |
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江天の暮雪
江天 暮(くれ)んと欲(ほっ)して 雪 霏霏(ひひ)たり,
釣を罷(や)め 誰が舟か 釣磯(てうき)に傍(そ)ふ。
沙鳥 飛ばず 人 見えず,
遠村 只(た)だ 一蓑(いつさ)の歸る 有り。
◎ 私感註釈 *****************
※天隠:天隱龍澤。天隱は字。室町・戦国時代の人。臨済宗の僧侶。応永二十九年(1422年)〜明応九年(1500年)。この作品は、『中華若木詩抄』から採った。似たモチーフの作品に、張志和『漁歌子』「西塞山前白鷺飛,桃花流水魚肥。笠,獄ェ衣,斜風細雨不須歸。」 や、柳宗元『江雪』「千山鳥飛絶,萬徑人蹤滅。孤舟簑笠翁,獨釣寒江雪。」、劉長卿『逢雪宿芙蓉山主人』「日暮蒼山遠,天寒白屋貧。柴門聞犬吠,風雪夜歸人。」 等がある。
※江天暮雪:川辺の夕方の雪模様。 ・暮:日暮れ。名詞。
※江天欲暮雪霏霏:川の上の空模様は暮かけて、雪が、しきりに降りそそいでいる。 ・江天:川の上の空。 ・欲:…になろうとしている。 ・暮:くれる。動詞。 ・霏霏:〔ひひ;fei1fei1○○〕雨や雪などが、甚だしく降るさま。
※罷釣誰舟傍釣磯:(魚を)釣ることをやめて、誰が乗った小舟なのか、釣り場の川の水が当たる岩石の(そばに)寄り添っている。 *魚を捕る人・漁父(ぎょほ)を中国では、伝統的に脱俗的な人の姿と捉えている。ここでもそれに従っていよう。 ・罷:〔は(ひ);ba4●〕やめる。 ・釣:〔てう;diao4●〕(魚を)釣ること。魚釣り。 ・誰舟:誰の小舟か。どこの小舟か。 ・傍:添(そ)う。(そばに)寄り添う。近づく。ここでは、小舟を傍らに寄せる意になる。動詞。 ・釣磯:釣り場の川原。釣り場の川の水が当たる岩石。
※沙鳥不飛人不見:砂州に棲む水鳥は、(降りしきる雪のために)飛び立とうとしないし、人の姿も見えなくなってしまった(が)。 *降る雪の激しさを詠う。「沙鳥不飛人不見」といった文型は、後世乃木希典が「征馬不前人不語」として使っている。 ・沙鳥:砂州に棲む水鳥。 ・不飛:飛び立とうとしない。意志の否定。 ・人不見:人の姿が見えなくなる。人影がいなくなる。
※遠村只有一蓑歸:遠くの村里で、ただ蓑(みの)を着けた人の姿ひとつ(自宅に)帰って行くのが見えるだけだ。 ・遠村:遠くの村里。 ・只有:ただ…だけが見える。ただ…だけがある。 ・一蓑:蓑(みの)を着けた人の姿ひとつ。 ・蓑:〔さ;suo1○〕みの。雨具。 ・歸:(自宅に)戻る。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「霏磯歸」で、平水韻上平五微。次の平仄は、この作品のもの。
○○●●●○○,(韻)
●●○○○●○。(韻)
○●●○○●●,
●○●●●○○。(韻)
平成17.3.27 |
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