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       自詠

                       菅原道眞

離家三四月,
落涙百千行。
萬事皆如夢,
時時仰彼蒼。



******

自詠 


家を 離るる  三四月
(げつ)
涙を 落とす  百千行
(かう)
萬事  皆 夢の如く,
時時  彼
(か)の蒼(さう)を 仰(あふ)ぐ。

*****************

◎ 私感註釈

※菅原道真:平安初期の公卿。学者。承和十二年(845年)〜 延喜三年(903年)。本名は三。幼名阿呼。菅公と称される。若年で詩歌を作り始め、神童の誉高く、やがて文章博士までになる。延喜元年(901年)、藤原時平の中傷によって大宰権帥に左遷。その地で亡くなる。後に、学問の神・天満天神として崇められる。遣唐使の廃止や、国風文化の振興に努める。

※自詠:自らをうたう。白居易の『楊柳枝』其二に「陶令門前
四五樹,亞夫營裏百千條。何似東キ正二月,黄金枝映洛陽橋。 」とある。この作品は、形式張った緊張感を漂わすことのない、優しげなうたである。

※離家三四月:故郷を離れて三、四ヶ月(経ち)。 ・離家:故郷の家(家郷)を離れる。故郷を離れて旅立つ。漢・無名氏の『古歌』「秋風蕭蕭愁殺人,出亦愁,入亦愁。座中何人,誰不懷憂。令我白頭。胡地多飆風,樹木何修修。
離家日趨遠,衣帶日趨緩。心思不能言,腸中車輪轉。」や、賀知章『回ク偶書』「少小離家老大回,ク音無改鬢毛摧。兒童相見不相識,笑問客從何處來?」 に使われている。 ・三四月:後世、馮延巳の『歸自謠』に「春艷艷,江上晩山三四點,柳絲如剪花如染。   香閨寂寂門半掩。愁眉斂,涙珠滴破臙脂臉。」という用例がある。

※落涙百千行:涙を数百〜千以上も垂らした。 ・落涙:涙をこぼす。涙を流す。 ・百千行:前出『楊柳枝・其二』の紫字部分「百千條」参照。

※萬事皆如夢:すべての事がみな、夢のようである。 ・萬事:すべてのこと。あらゆること。名詞。 ・皆:みな。副詞。 ・如夢:夢のようである。

※時時仰彼蒼:絶えず、あの青空を(『黍離』の「蒼天」のように)仰ぎ見て(歎いきの言葉で問いかけている)。 ・時時:たえず。いつも。また、しばしば。時々。おりおり。また、その時その時。その場その場。 *日本語での使用例よりも漢語中の使用例の方が、時間的な間隔が詰まっている。 ・仰:上の方を向く。仰向(あおむ)く。あおぐ。 ・彼:あの。かの。後出・青字部分参照。 ・蒼:蒼天。人の運命をみつめる青空。大空。青天。『詩經・王風』黍離「黍離離,稷之苗。行邁靡靡,中心搖搖。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天
何人哉。」では、歎きの対象でもある。ここでも、その意で使われている。この『詩經・王風・黍離』をはじめとして、本サイトでは用例が多い。李白の『把酒問月』「天有月來幾時,我今停杯一問之。人攀明月不可得,月行卻與人相隨。」等がある。





◎ 構成について

韻式は「AA」。韻脚は「行蒼」で、平水韻下平七陽。次の平仄は、この作品のもの。

○○○●●,
●●●○○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)

平成17.6.11



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