人生無根蒂,
飄如陌上塵。
分散逐風轉,
此已非常身。
落地爲兄弟,
何必骨肉親。
得歡當作樂,
斗酒聚比鄰。
盛年不重來,
一日難再晨。
及時當勉勵,
歳月不待人。
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雜詩十二首
其一
人生 根蒂(こんてい) 無く,
飄として 陌上(はくじゃう)の塵の 如し。
分散し 風を逐ひて 轉じ,
此れ 已(すで)に 常身に 非ず。
地に落ちて 兄弟(けいてい)と 爲(な)るは,
何ぞ必ずしも 骨肉の親のみならんや。
歡を得なば 當(まさ)に 樂を作(な)すべく,
斗酒もて 比鄰を 聚(あつ)む。
盛年 重ねては 來らず,
一日(いちじつ) 再(ふたた)び 晨(あした)なり難(がた)し。
時に及んでは 當(まさ)に勉勵(べんれい)すべく,
歳月 人を 待たず。
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◎ 私感註釈
※陶潛:東晉の詩人。。。雜詩十二首は、老年期の作八首と壮年期の作四首とに分けられ、これは八首の方のもの。故、雜詩八首ともする。これは、いずれにせよ其一になる。
『古詩源』 『古文眞寶』
※人生無根蒂:人の生というものには、繋ぎとめておくものが無く。・人生:人が生きること。本サイトで取り上げている詩詞での多く(二十首ほど)は、「人が生きること」という意味で使われ、「生涯」という感じは少ない。『古詩十九首』之四「人生寄一世,奄忽若飆塵。」や同『古詩十九首』之三「陵上柏,磊磊澗中石。人生天地間,忽如遠行客。」のようなものである。 ・根蒂:〔こんてい;gen1di4○●〕根元と(果実の)ヘタ。転じて、物事の土台。よりどころ。根本。
※飄如陌上塵:(人の生は、)風に吹かれて漂う、道の上のチリのようなもので。風に漂う、道の上のチリのようなもので。 ・飄如:風に漂う…のようで。飄として…の如し。「如」は状態を表す形容詞の後に付いて「…如」という語を造る。『飮酒二十首・其三』(道喪向千載)中の「倏如」に同じ。「然」での「…然」の働きに同じ。・陌上塵:道の上のチリ。 ・陌:〔はく;mo4●〕あぜ道。町の道。陶潜は「陌」を好んで使う。住んでいた附近の道を表すのにふさわしい語。
※分散逐風轉:(わたしの生も、)風とともに転がっていく。 ・分散:散り広がる。 ・逐風轉:風とともに転がっていく。風に追いかけられて転がっていく。「逐風」では別段、「風を追いかけて(転がっていく)」のではなく、受動を表す助動詞は使われてはいないものの、これは一種の受け身表現。「逐風」を「隨風」ともする。本ページは『昭明文選』に拠る。
※此已非常身:この「分散逐風轉」するわたしの生は、もはや永遠不変の肉体ではなくなっている。 ・此:これ。「分散逐風轉」するわたしの生のこと。 ・已:もはや。はや。すでに。 ・非:…に あらず。 ・常身:永遠不変の肉体。
※落地爲兄弟:この世に生まれ落ちれば、人間 皆な 兄弟である。 ・落地:生まれ落ちる。 ・爲兄弟:(血のつながった)兄弟である。 ・爲:〔ゐ;wei2○〕…である。…たり。この用語法では、平声になる。ここは、「落地成兄弟」ともする。
※何必骨肉親:必ずしも血がつながっている親族でなくともよい。 ・何必:必ずしも…するには及ばない。なんぞかならずしも…せん。 ・骨肉親:血のつながっている肉親兄弟。血族。血縁。「骨肉」:(父母や兄弟姉妹などの)肉親。
※得歡當作樂:喜ばしいことがあれば、当然、楽しみごとをして。 ・得歡:喜ばしいことがある。 ・當:当然。まさに…すべし。 ・作樂:楽しいことをする。たのしむ。
※斗酒聚比鄰:少しばかりの酒を以て(或いは、多くの酒でもって)近所の人々をあつめる。 ・斗酒:ますの酒で、少量の酒のこと。漢の卓文君の『白頭吟』「皚如山上雪,皎若雲間月。聞君有兩意,故來相決絶。今日斗酒會,明旦溝水頭。御溝上,溝水東西流。淒淒復淒淒,嫁娶不須啼。願得一心人,白頭不相離。竹竿何嫋嫋,魚尾何。男兒重意氣,何用錢刀爲。」とあるのに同じ。或いは、一斗の酒。転じて多量の酒。 ・聚:あつめる。 ・比鄰:隣近所。曹植の『贈白馬王彪』に「心悲動我神,棄置莫復陳。丈夫志四海,萬里猶比鄰。恩愛苟不虧,在遠分日親。何必同衾,然後展慇懃。憂思成疾,無乃兒女仁。倉卒骨肉情,能不懷苦辛。」とある。陶淵明の雜詩は曹植のこの作品と似るところが多い。初唐・王勃の『送杜少府之任蜀州』に「城闕輔三秦,風烟望五津。與君離別意,同是宦遊人。海内存知己,天涯若比鄰。無爲在岐路,兒女共沾巾。」とある。
※盛年不重來:若い時は二度と再び来ない。 ・盛年:若い時。人生で一番盛んな年代。青壮年期。 ・不重來:かさねては来ない。再びは来ない。部分否定。蛇足だが、「重不(來)」とすると、全部否定になり、下掲図中の如く、意味も異なるが、訓み方も異なってくる。
不重 かさねては…ず 部分否定 一度目はあったが、二度目はない。 重不 かさねて…ず 全部否定 またもや…を しなかった。(一度もしていない。)
※一日難再晨:一日に、二度の朝が来るということは、無理で。・一日:〔いちじつ;yi2ri4●●〕 ・難再晨:(一日の中に)もう一度朝が来るということは、叶え難い。 ・晨:朝が来る。ここでは、動詞として使われている。
※及時當勉勵:ちょうどふさわしい時に、チャンスに乗じて努め励むべきである。 ・及時:ちょうど良い時。ふさわしい時。チャンス。『游斜川』中の「念之動中懷,及辰爲茲游。」に同じ。現代語でも使われる息の長い言葉である。 ・勉勵:努め励む。がんばる。
※歳月不待人:過ぎゆく歳月は、勝手に流れて行き、人を待ってはくれない。 ・歳月:(人間にとっての)年月。 ・不待人:人を待ってくれない。 この作品のモチーフは後代、 唐の杜秋娘の『金縷曲』(勸君莫惜金縷衣)や、宋の朱熹『偶成詩』(少年易老學難成)、宋の朱熹の『勸學文』(勿謂今日不學而有來日)、明の文嘉の『明日歌』(明日復明日)など、ずっと続いている。
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◎ 構成について
韻式は「aaaa(a)aa」の上声韻。韻脚は「塵身親隣晨人」。平水韻で見れば上平十一真になる。この作品の平仄は次の通り。
○○○○●,
○○●●○。(韻)
○●○○●,
●●○○○。(韻)
●●○○●,
○●●●○。(韻)
●○○●●,
●●●●○。(韻)
●○●●○,
●●○●○。(韻)
●○○●●,
●●●●○。(韻)
2003.5. 9 5.10 5.11完 9.18補 2004.5. 2 2007.4.27 2015.7.24 |
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