結客少年場行
唐・沈彬
重義輕生一劍知,
白虹貫日報讎歸。
片心惆悵清平世,
酒市無人問布衣。
**********************
。
結客少年場行
義を重んじ 生を輕んずるは 一劍のみ知り,
白虹 日を貫きて 讎
(あだ)
に報じて 歸る。
片心 惆悵
(ちうちゃう)
す 清平の世を,
酒市 人 無く 布衣
(ほい)
に問ふ。
******************
◎ 私感訳註:
※沈彬:唐末の詩人。字は子文。高安の人。
※結客少年場行:游侠の徒と結び交わる若者の歌。太平の世で、武侠が不要となったことについての慨歎を詠う。 ・結客:〔けつかく;jie2ke4〕自分を頼ってきた人と交わりを結び、勢力を拡げる。街の游侠の徒と結び附く。 ・少年場行:少年行は楽府題。
※重義輕生一劍知:節義を重んじて、(自分の)生命を軽んずる(壮士の行為は)剣だけが知っており。 ・重義:節義を重んじる。信義を重んじる。 ・輕生:(自分の)生命を軽んずる。中唐・劉長卿の『送李中丞之襄州』に「流落征南將,曾驅十萬師。罷歸無舊業,老去戀明時。獨立三邊靜,
輕生
一劍知
。茫茫漢江上,日暮欲何之。」
とあり、唐・劉叉の『嘲荊卿』「
白虹
千里氣,血頸
一劍
義
。
報恩
不到頭,
徒作
輕生
士
。」
とある。 ・一劍知:剣だけが知っている。前出・劉長卿『送李中丞之襄州』の「
輕生
一劍知
。」
を参照。
※白虹貫日報讎歸:白い虹が日をつらぬいて、精誠が天に感応して現れ、兵乱や義挙の兆しが現れ、(壮士は)仇を討って帰ってくる。 ・白虹貫日:白い虹が日をつらぬくことで、精誠が天に感応して現れることや、兵乱の予兆を謂う。屡々荊軻の義挙を詠うときに使われる。『戰國策・卷二十五・魏策四・秦王使人謂安陵君』に「唐且曰:『此庸夫之怒也,非士之怒也。夫專ゥ之刺王僚也,彗星襲月;聶政之刺韓傀也,
白虹貫日
;要離之刺慶忌也,蒼鷹撃於殿上。』」に出てくる。魏〜西晋・張華の『壯士篇』に「天地相震蕩,回薄不知窮。人物稟常格,有始必有終。年時俯仰過,功名宜速崇。壯士懷憤激,安能守虚沖。乘我大宛馬,撫我繁弱弓。長劍九野,高冠拂玄穹。
慷慨成
素霓
,嘯咤起C風。震響駭八荒,奮威曜四戎。濯鱗滄海畔,馳騁大漠中。獨歩聖明世,四海稱英雄。」
とある。但し、曹丕の『黎陽作』の「
白旄若
素霓
,丹旗發朱光。」から来ているとすれば、意気軒昂としているさまになる。 ・報讎:仇を討つ。復讐をする。刺客を派遣して討つ。『史記・卷八十六・刺客列傳第二十六』には「太子及賓客知其事者,皆白衣冠以送之。至易水之上,既祖,取道,高漸離撃筑,荊軻和而歌,爲變徴之聲,士皆垂涙涕。又前而爲歌曰:『風蕭蕭兮易水寒,壯士一去兮不復還!』
復爲偵゚慷慨,士皆瞑目,髮盡上指冠。於是荊軻就車而去,終已不顧。」とある。前出劉叉の『嘲荊卿』
でいえば「報恩」(黒字部分)でもある。 ・歸:もどる。故国へもどる。本来の居場所に帰ること。
※片心惆悵清平世:心の半分では、世の中が穏やかに治まっていることに恨み歎いている。 ・片心:心の半分。片一方の心。 ・
惆悵:〔ちうちゃう;chou2chang4○●〕うらみなげくさま。失意のさま。うれえ悲しむさま。曹丕の『寡婦』に「霜露紛兮交下,木葉落兮淒淒。候鴈叫兮雲中,歸燕翩兮徘徊。
妾心感兮
惆悵
,白日忽兮西頽。」
とある。用例は婉約詞に多い。 ・清平:世の中が清らかに治まること。清く穏やかなさま。
※酒市無人問布衣:街の酒場で、それらしい人物はいないかと、庶民に尋ねてみる。 ・酒市:酒を売るところ。
荊軻は認められるまでは、燕の市で酒を飲んでは騒いでいた前出。『史記・刺客列傳』の少し前の部分には、「
荊軻
既至
燕
,愛燕之狗屠及善撃筑者
高漸離
。
荊軻
嗜酒
,日與狗屠及
高漸離
飮於
燕
市
,
酒酣以往,
高漸離
撃筑
,
荊軻
和而歌
於市中,相樂也,已而相泣,
旁若無人者。
荊軻
雖游於酒人乎,然其爲人沈深好書;其所游諸侯,盡與其賢豪長者相結。其之
燕
,
燕
之處士
田光先生
亦善待之,知其非庸人也。」とあり、その中の前半部分をなぞって作っている。とりわけ赤い字の部分はそっくりである。荊軻の行動については、
こちらのページ
を参照。 ・無人:(もはや)荊軻のような侠客、壮士はいなくなった。 ・問:(荊軻のような人物はいないかと)問いかける。 ・布衣:〔ほい;bu4yi1●○〕身分の低い者の布製の衣服。転じて、庶民。『史記・蕭相國世家』に「召平者,故秦東陵侯。秦破,
爲
布衣
,貧,種瓜於長安城東,瓜美,故世俗謂之『東陵瓜』,從召平以爲名也。」
。
****************
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「知歸衣」で、平水韻上平五微(歸衣)上平四支(知)。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○●●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
●○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2005.10.23完
2013. 6.10補
漢詩 唐詩 漢詩 宋詞
次の詩へ
前の詩へ
「唐宋・碧血の詩篇」メニューへ戻る
**********
辛棄疾詞
陸游詩詞
李U詞
李清照詞
花間集
婉約詞
歴代抒情詩集
秋瑾詩詞
天安門革命詩抄
毛主席詩詞
碇豊長自作詩詞
豪放詞 民族呼称
詩詞概説
唐詩格律 之一
宋詞格律
詞牌・詞譜
詞韻
詩韻
参考文献(宋詞・詞譜)
参考文献(詩詞格律)
参考文献(唐詩・宋詞)
わたしの主張
メール
トップ