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出門何所見,
春色滿平蕪。
可歎無知己,
高陽一酒徒。
田家の春望
門を出でて 何の見る所ぞ,
春色 平蕪(へいぶ)に 滿つ。
歎ず 可(べ)し 知己(ちき) 無きを,
高陽の一酒徒。
◎ 私感註釈 *****************
※高適:盛唐の詩人。(702年頃〜765年:廣コ二年)。字は達夫。辺塞の離情を多くよむ。
※田家春望:田舎(いなか)の春の眺め。 ・田家:田舎。いなか。 ・春望:春の眺め。春の風景。同じ題では、杜甫の『春望』「國破山河在,城春草木深。感時花濺涙,恨別鳥驚心。烽火連三月,家書抵萬金。白頭掻更短,渾欲不勝簪。」が有名。
※出門何所見:城門を出て、郊外へ行ったが、何も見るものがない。 *漢魏・王粲の『七哀詩』三首之一に、「西京亂無象,豺虎方遘患。復棄中國去,委身適荊蠻。親戚對我悲,朋友相追攀。出門無所見,白骨蔽平原。路有飢婦人,抱子棄草間。顧聞號泣聲,揮涕獨不還。未知身死處,何能兩相完。驅馬棄之去,不忍聽此言。南登霸陵岸,迴首望長安。悟彼下泉人,喟然傷心肝。」とある。 ・出門:城門を出ることで、郊外へ行くの意。前出・王粲の『七哀詩』の「出門」も都城の城門を出ることで、郊外へ行くの意になる。 ・何所見:何も見るべきものがない。 ・何所:なにも…ない。 ・所見:見るところ。見る事柄。「所」は動詞を名詞化する。
※春色滿平蕪:春の気配が、草原一面に満ちている(だけである)。 ・春色:春景色。春の気配。 ・平蕪:草原。平原。平野。
※可歎無知己:嘆かわしいことは、私を理解してくれる者がいないことだ。 *この歎きと似た感情を詠ったものに、陳子昂の『登幽州臺歌』「前不見古人,後不見來者。念天地之悠悠,獨愴然而涕下。」がある。 ・可歎:なげかわしいことである。 ・知己:〔ちき;zhi1ji3○●〕知人。友人。自分の気持ちや考えをよく知っている人。自分をよく理解してくれる人。東晉・陶潛の『詠荊軻』「燕丹善養士,志在報強。招集百夫良,歳暮得荊卿。君子死知己,提劒出燕京。素驥鳴廣陌,慷慨送我行。雄髮指危冠,猛氣衝長纓。飮餞易水上,四座列群英。漸離撃悲筑,宋意唱高聲。蕭蕭哀風逝,淡淡寒波生。商音更流涕,酎t壯士驚。心知去不歸,且有後世名。登車何時顧,飛蓋入秦庭。」 や、唐・王勃の『送杜少府之任蜀州』「城闕輔三秦,風烟望五津。與君離別意,同是宦遊人。海内存知己,天涯若比鄰。無爲在岐路,兒女共沾巾。」 とある。ここでは、後出・『史記・生陸賈列傳』での沛公(後の漢・高祖劉邦)のような人物のことになる。
※高陽一酒徒:(天下に志があっても用いられることがなく、天下の壮士が酒に日を送っている、そのようなわたしは)高陽の一酒徒(となって悶々としている)。 ・高陽酒徒:飲み友達。酒飲み、の意。後出・『史記』の故事によりできあがった成語(熟語)。(食其は、沛公(後の漢・高祖劉邦)に拝謁を賜ろうとしたが、その身なりから学者と判断され、沛公から、『天下取りに忙しいのに、学者なんかに会う暇はない』と断られた。そこで、食其は『わたしは、高陽の酒徒(「酒」徒)であって、学者(「儒」人)なんかではない』と言った。結果、拝謁を賜った。)「高陽」は、本来は地名。『史記・生陸賈列傳』「初,沛公(後の漢・高祖劉邦)引兵過陳留,生踵軍門上謁曰:『高陽賤民食其,竊聞沛公暴露,將兵助楚討不義,敬勞從者,願得望見,口畫天下便事。』使者入通,沛公方洗,問使者曰:『何如人也?』使者對曰:『状貌類大儒,衣儒衣,冠側注。』沛公曰:『爲我謝之,言我方以天下爲事,未暇見儒人也。』使者出謝曰:『沛公敬謝先生,方以天下爲事,未暇見儒人也。』生瞋目案劍叱使者曰:『走!復入言沛公,吾高陽酒徒也,非儒人也。』使者懼而失謁,跪拾謁,還走,復入報曰:『客,天下壯士也,叱臣,臣恐,至失謁。』」に因る。後世、杜牧は『張好好詩』に「龍沙看秋浪,明月遊東湖。自此毎相見,三日已爲疏。玉質隨月滿,艷態逐春舒。絳唇漸輕巧,雲歩轉虚徐。旌旆忽東下,笙歌隨舳艫。霜凋謝樓樹,沙暖句溪蒲。身外任塵土,樽前極歡娯。飄然集仙客,諷賦欺相如。聘之碧瑤佩,載以紫雲車。洞閉水聲遠,月高蟾影孤。爾來未幾歳,散盡高陽徒。」 と使う。
◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「蕪徒」で、平水韻上平七虞。次の平仄はこの作品のもの。
●○○●●,
○●●○○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)
2006.1. 7 1. 8 1. 9 1.10 |
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