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寄王琳

                        庾信
玉關道路遠,
金陵信使疏。
獨下千行涙,
開君萬里書。





*******************
        王琳に寄す

玉關  道路 遠く,
金陵  信使しんしまれなり。
ひとくだる  千行せんかうの涙,
開く  君が 萬里の書。

             ******************

◎ 私感訳註:

※庾信:南北朝の梁/西魏/北周の人。字は子山。江陵の人。513年〜581年。十五歳で南朝・梁の昭明太子(『昭明文選』の編者)に仕えた。後、元帝の命で西魏に使いするが、その時に江陵は西魏軍に攻め落とされ、元帝も殺され、帰るところが無くなり、西魏に仕え、後には、北周に使えた。使した際、留められ、その後梁が滅亡したため、そのまま北周に仕えた。驃騎将軍、開府儀同三司となった。

※寄王琳:王琳(おうりん)に詩を作って(手紙と共に)差し出す。この詩は、遥か離れた故国の友人・盟友からの手紙を受け取った感激を詩に表し、返書で送ろうとしたもの。 ・寄:詩を作って郵送する。 ・王琳:〔わうりん;Wang2Lin2○○〕庾信の友人の名。字は子珩。会稽山陰(現・浙江省紹興)の人。梁・元帝の時、侯景の乱に遭っては、手柄を立てた。江陵が攻められたときには、援軍を率いて駆けつけた。梁を簒奪した陳覇先を討とうとしたが、逆に破れ、殺された。なお、陳覇先は、陳朝を開いた。

※玉關道路遠:玉門関(作者のいるところ=長安を指す)への道筋は遠い。 ・玉關:玉門関のこと。また、そのような遠隔地。ここでは、作者が故郷を遥か離れている長安のことになる。本来の玉関は、西域の入り口にある漢の前進基地。甘肅省燉煌の西方、涼州の西北500キロメートルにある。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)61−62ページ「唐 隴右道東部」にある。現・甘肅省西北部。現・玉門市よりも150キロメートル西北で、玉門鎮よりも更に西北の布隆基の辺り。当時、ここの北側に大澤があった。王昌齡の『從軍行』「青海長雲暗雪山,孤城遙望玉門關。黄沙百戰穿金甲,不破樓蘭終不還。」や、李白の『子夜呉歌』に「長安一片月,萬戸擣衣聲。秋風吹不盡,總是玉關。何日平胡虜,良人罷遠征。」とある。 ・道路:道程。 ・遠:遥かである。遠い。

※金陵信使疏:金陵(梁の首都の建康)からの通信使は、稀である。(そのような困難な状況下でも、あなたはお手紙をくれた)。 ・金陵:梁の首都の建康。(=建業。現・南京)。ここでは、王琳の居る所のことになる。 ・信使:使者。たより。 ・疏:〔そ;shu1○〕まれである。遠ざかる。おそい。おろそか。遠い。うとい。まばらである。

※獨下千行涙:ひとり、(静かに)千筋の涙を流してしまった(。それは)。 ・獨:一人だけ。 ・下:(涙を)落とす。(涙を)流す。 ・千行涙:千筋の涙。多くの涙。

※開君萬里書:あなた(王琳)からの、万里を遙々(はるばる)やって来た手紙を開いた(時だった)。 ・開:(封を)開く。 ・君:王琳を指す。 ・萬里書:万里の彼方から来た手紙。





◎ 構成について

韻式は「AA」。韻脚は「疏書」で、平水韻でいえば上平六魚。次の平仄はこの作品のもの。

●○●●●,
○○●●○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)


2007.12.28
     12.29
     12.30

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