翻手作雲覆手雨,
紛紛輕薄何須數。
君不見管鮑貧時交,
此道今人棄如土。
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貧交行(ひんこうかう)
手を 翻(ひるがへ)せば 雲と 作(な)り 手を 覆(くつがへ)せば 雨となる。
紛紛たる輕薄 何ぞ 數ふるを 須(もち)ゐん。
君見ずや 管鮑(くゎんんぱう) 貧時の交はりを,
此(こ)の道 今人(こんじん) 棄つること 土の如し。
◎ 私感註釈 *****************
※杜甫:盛唐の詩人。712年(先天元年)〜770年(大暦五年)。字は子美。居処によって、少陵と号する。工部員外郎という官職から、工部と呼ぶ。晩唐の杜牧に対して、老杜と呼ぶ。さらに後世、詩聖と称える。鞏県(現・河南省)の人。官に志すが容れられず、安禄山の乱やその後の諸乱に遭って、流浪の一生を送った。そのため、詩風は時期によって複雑な感情を込めた悲痛な社会描写のものになる。
※貧交行:貧しい時代の交友の歌。 ・行:歌。楽府題には『□□行』というものが多い。『貧交行』は楽府題にはない。
※翻手作雲覆手雨:手をひるがえせば雲となり、手をくつがえせば雨となる。 *情況に合わせて、態度をころころと変える友人たちのさまを謂う。 ・翻手:掌(たなごころ)をひるがえす。掌(てのひら)を上に向ける。 ・作雲:雲になる。雲となる。 ・覆手:掌(たなごころ)をくつがえす。掌(てのひら)を下に向ける。 ・雨:〔名詞〕雨。〔動詞〕雨ふる。「翻手作雲覆手雨」は「翻手 作雲」と「覆手 雨」とは句中の対なので、「雨」は「あめふる(動詞)」と見たい。しかし、韻脚で「雨」「數」「土」は上声七麌になる。「雨」は多音字(両韻)で、名詞「雨」:〔う;yu3●上声七麌〕で、動詞「雨ふる」:〔う;yu4●去声七遇〕となる。つまり、ここでの「雨」は名詞〔う;yu3●上声七麌〕の発音であり、用法から見て動詞の意をその内に秘めているものと見るべきところ。
※紛紛輕薄何須數:入り乱れる(数多くの)軽薄なさまは、数える必要もない。 ・紛紛:乱れ散るさま。混じり乱れるさま。中唐・白居易の『送春』に「三月三十日,春歸日復暮。惆悵問春風,明朝應不住。送春曲江上,拳拳東西顧。但見撲水花,紛紛不知數。人生似行客,兩足無停歩。日日進前程,前程幾多路。兵刃與水火,盡可違之去。唯有老到來,人間無避處。感時良爲已,獨倚池南樹。今日送春心,心如別親故。」 や、晩唐・杜牧の『C明』に「C明時節雨紛紛,路上行人欲斷魂。借問酒家何處有,牧童遙指杏花村。」 とある。 ・輕薄:うわすべりで、真心がない。 ・何須:…する必要はない。何ぞ須(もち)いん。≒不須。 ・數:数える。動詞。「數」も多音字(両韻)で、名詞「數」:〔すう;shu4●〕で、動詞「数える」:〔すう;shu3●上声七麌〕となる。ここでの「數」は動詞の用法。
※君不見管鮑貧時交:ご存じでしょう、管仲と鮑叔牙の貧しい時代の交わりを。 ・君不見:諸君、見たことがありませんか。詩を読んでいる人(聞いている人)に対する呼びかけ、強調。樂府体に使われる。「君不聞」もあり、そこでは詩のリズムが大きく変化する。使用法は、七言が主となる詩では「君不見□□□□□□□」とする場合が多いが、必ずしも一定でない。李白「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如絲暮成雪。」 顧況「君不見古來燒水銀,變作北山上塵。藕絲挂身在虚空,欲落不落愁殺人。」李白の『將進酒』「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復迴。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金樽空對月。」 前出・杜甫の『兵車行』「君不見青海頭,古來白骨無人收。新鬼煩冤舊鬼哭,天陰雨濕聲啾啾。」、白居易『新豐折臂翁』「君不聞開元宰相宋開府,不賞邊功防黷武。又不聞天寶宰相楊國忠,欲求恩幸立邊功。邊功未立生人怨,請問新豐折臂翁。」、岑参に「君不聞胡笳聲最悲,紫髯濠瘡モ人吹。」などがある。 ・管鮑:〔くゎんぱう;Guan3 Bao4●●〕春秋時代の管仲と鮑叔牙のことで、「管鮑の交わり」を謂う。深く理解し合った親密な交わり、仲むつまじい交際で、とりわけ鮑叔牙が管仲を深く理解していた。管仲は斉の宰相。安徽省の人。親友鮑叔牙の勧めで桓公に仕え、斉を強国とした人物。鮑叔は、欠点の多い管仲の好き理解者。『史記・管晏列傳』に「管仲夷吾者,潁上人也。少時常與鮑叔牙游,鮑叔知其賢。管仲貧困,常欺鮑叔,鮑叔終善遇之,不以爲言。…管仲曰:『吾始困時,嘗與鮑叔賈,分財利多自與,鮑叔不以我爲貪,知我貧也。…(数多くの鮑叔牙に因る幇助)…生我者父母,知我者鮑子也。』」と、管仲は多大の恩を蒙っている。 ・貧時:管仲と鮑叔が成功をまだ収めていない時期。貧しい時期。 ・交:交際。交わり。
※此道今人棄如土:この交友の精神は、現在の人々は土くれのように棄ててしまった。 ・此道:この道。交友を指す。管鮑の交わりのような交友。「管鮑之交」。 ・今人:現在の人。作者と同時代人を指す。ここでは、作者の周りの軽薄な人々のこと。 ・棄:〔き;qi4●〕すてる。廃棄する。 ・如:…のよう。 ・土:つちくれ。ここでは、価値の無い物をいう。
◎ 構成について
韻式は「aaa」。韻脚は「雨數土」で、平水韻上声七麌。平仄はこの作品のもの。
○●●○●●●,(韻)
●●○●○○●。(韻)
○●●●●○○○,
●●○○●○●。(韻)
2006.11.28 11.29 11.30 2011.12. 9 |
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