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黄河走東溟,
白日落西海。
逝川與流光,
飄忽不相待。
春容捨我去,
秋髮已衰改。
人生非寒松,
年貌豈長在。
吾當乘雲,
吸景駐光彩。
古風
黄河 東溟(とうめい)に 走り,
白日 西海に 落つ。
逝川(せいせん)と 流光(りうくゎう)と,
飄忽(へうこつ)として 相ひ 待たず。
春容 我を 捨てて 去り,
秋髮 已(すで)に 衰改す。
人生は 寒松に 非ず,
年貌 豈(あ)に 長(とこしな)へに 在らんや。
吾 當(まさ)に 雲(うんち)に 乘じ,
景を吸ひて 光彩を 駐(とど)むべし。
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◎ 私感註釈
※李白:盛唐の詩人。字は太白。自ら青蓮居士と号する。世に詩仙と称される。701年(嗣聖十八年)〜762年(寶應元年)。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して、翰林供奉となるが高力士の讒言に遭い、退けられる安史の乱では苦労をし、後、永王が謀亂を起こしたのに際し、幕僚となっていたため、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。
※古風:昔の詩体の詩作。漢魏詩の五言古詩。建安体の詩。李白の『宣州謝樓餞別校書叔雲』に「棄我去者 昨日之日不可留,亂我心者 今日之日多煩憂。長風萬里送秋雁,對此可以酣高樓。蓬莱文章建安骨,中間小謝(小謝:謝のこと)又清發。倶懷逸興壯思飛,欲上青天覽明月。抽刀斷水水更流,舉杯銷愁愁更愁。人生在世不稱意,明朝散髮弄扁舟。」とある。これは五十九首の其十一。移り去る時間を留めたいと願う詩。
※黄河走東溟:黄河は東の海に向かって流れて。 ・黄河:中原の北よりを流れる大河であり、咸陽、長安、洛陽、更に京と歴代王朝の都が建設された漢民族の象徴とも謂える大河。水源は青海省バヤンカラ山脈西部で、渭水、汾水、洛河などの支流を合わせて渤海湾に注ぐ。 *黄河に限らず、中国の川は東流して、東海に流れ込む。 ・走:はしる。にげる。行く。 ・東溟:〔とうめい;dong1ming2○○〕東海。東シナ海。
※白日落西海:輝く太陽は西の方の海に落ちていく。 *「黄河走東溟,白日落西海。」は永遠に変わることのない天理、大自然の運行を謂う。 ・白日:輝く太陽。真昼。白昼。 ・落:沈む。 ・西海:西方の海の意で、青海省の青海(ココノール)。或いは虞淵のこと。日の沈む淵。漢魏・繆襲の『挽歌詩』に「生時遊國都,死沒棄中野。朝發高堂上,暮宿黄泉下。白日入虞淵,懸車息駟馬。造化雖神明,安能復存我。形容稍歇滅,齒髮行當墮。自古皆有然,誰能離此者。」とある。
※逝川與流光:逝く川の流れと移り行く光陰は。 *過ぎ去る日月を謂う。李白の前出・『宣州謝樓餞別校書叔雲』の「抽刀斷水水更流」:刀を抜いて、川の水面を断ち切っても、水は、さらに流れてゆく。時間の流れを押し留めようとしても時間は止まることなく過ぎ去ってゆく。(別れの時は刻々と近づいてくる)。 ・逝川:流れ去る川の水で、歳月等の時間で一度去って再び帰らないものの譬え。川の流れは、古来、時間の推移を謂う。『論語・子罕』に「子在川上曰:逝者如斯夫!不舎昼夜。」(子 川上に在りて曰く:逝く者は斯くの如きか! 昼夜を舎かず)。 ・與:…と。 ・流光:移りゆく光陰。流れて水のように過ぎ去る日時。過ぎゆく年月。月日のたつこと。
※飄忽不相待:(光陰は)すばやくて、待ってはくれない。 ・飄忽:〔へうこつ;piao1hu1○●〕軽くてすばやいさま。 ・不相待:待ってくれない。 ・相-:…てくる。…ていく。動詞の前に附き、動作が対象に及んでいく表現。
※春容捨我去:青春の日の容貌は、わたしを捨て去り。 ・春容:春の景色。青春の日の容貌。 ・捨:すてる。 ・我:わたし。後出「吾」との使い分けは、「我」は、目的格「わたしを」の意の場合に使い、「吾」は、主格「わたしは」の意の場合に使う。また、ここでは関係ないが「我」は口語でも使われるが、「吾」は文語ということもある。 ・去:さる。
※秋髮已衰改:老人の髪の毛にとっくに衰え様変わりした。 ・秋髮:老人の髪の毛。 ・已:とっくに。すでに。 ・衰改:おとろえてさまが変わる。
※人生非寒松:人生は、不滅の寒さに耐える松ではない。 ・非:…ではない。名詞を打ち消す。 ・寒松:寒さに耐える松。寒い季節の松。冬の寒々とした松。『論語』子罕篇の「歳寒,然後知松柏之後凋也。」晉・陶潛の『飮酒二十首』其八「松在東園,衆草沒其姿。凝霜殄異類,卓然見高枝。連林人不覺,獨樹衆乃奇。提壺撫寒柯,遠望時復爲。吾生夢幻間,何事紲塵羈。」 とあり、劉長卿は『尋盛禪師蘭若』で「秋草黄花覆古阡,隔林何處起人煙。山僧獨在山中老,唯有寒松見少年。」と使う。
※年貌豈長在:年齢と顔つきや姿は、どうしていつまでもあろうか。 ・年貌:〔ねんばう;nian2mao4○●〕年齢と顔つきや姿。 ・豈:どうして…だろうか。強い反語。 ・長在:いつまでもある。永遠に存在する。李白の『江上吟』に「木蘭之竝ケ棠舟,玉簫金管坐兩頭。美酒尊中置千斛,載妓隨波任去留。仙人有待乘黄鶴,海客無心隨白鴎。屈平詞賦懸日月,楚王臺空山丘。興酣落筆搖五嶽,詩成笑傲凌滄洲。功名富貴若長在,漢水亦應西北流。」とある。
※吾當乘雲:わたしは天翔る龍に乗って(…を)すべきだ。 ・當:当然…べきである。…のがよい。…たい。 ・雲::〔うんち;yun2chi1○○〕龍をいう。 ・:〔ち;chi1○〕みずち。龍の一種。黄色の龍、角のない龍、雌龍など。また、魑魅魍魎の魑魅。
※吸景駐光彩:光を吸い込んでしまって、光陰の流れを留める(べきだ)。 *時間の過ぎ去るのを留めよう。 ・吸景:光を吸い込む。仙人の行為である。≒吸風。前出「流光」(流れ去る日時)を吸い込んで、時の流れを留める。 ・景:〔けい;jing3●〕光。景色。〔えい;ying3●〕影。 ・駐:とどめる。停車する。太陽は馬車に牽かれて大空を動くといわれる。前出・漢魏・繆襲の『挽歌詩』「白日入虞淵,懸車息駟馬。造化雖神明,安能復存我。形容稍歇滅,齒髮行當墮。自古皆有然,誰能離此者。」とある。 ・光彩:かがやき。美しく輝く光。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」。韻脚は「海待改在彩」で、平水韻上声十賄。次の平仄はこの作品のもの。
○○●○○,
●●●○●。(韻)
●○●○○,
○●●○●。(韻)
○○●●●,
○●●○●。(韻)
○○○○○,
○●●○●。(韻)
○○○○○,
●●●○●。(韻)
2007.6. 9 6.10完 6.11補 |
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