不向東山久,
薔薇幾度花。
白雲還自散,
明月落誰家。
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憶東山
東山に 向かはざること 久し,
薔薇(しゃうび) 幾度(いくたび)か 花さく。
白雲 還(ま)た 自(おのづか)ら 散じ,
明月 誰(た)が家にか 落つ。
◎ 私感註釈 *****************
※李白:盛唐の詩人。
※憶東山:東山(に隠棲していた謝安)を思いおこす。 ・憶:〔おく;yi4●〕思い出す。思いやる。考える。忘れない。おぼえる。 ・東山:現・会稽(現・紹興市東)の東の山。上虞県(現・浙江省虞県)の西南にある。その山上には薔薇洞があり、東晋の政治家であった謝安(字は安石)が東山に隠棲して、建てた白雲堂、明月堂の蹟がある。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期55−56ページ「唐・江南東道」(中国地図出版社)にある。盛唐・李白に『東山吟』「攜妓東土山,悵然悲謝安。我妓今朝如花月,他妓古墳荒草寒。白雞夢後三百歳,灑酒澆君同所歡。酣來自作青海舞,秋風吹落紫綺冠。彼亦一時,此亦一時,浩浩洪流之詠何必奇。」がある。
※不向東山久:東山に出向かなくなってから長いことになる。 ・不向:向かわない。 ・久:(時間的に)長い。ひさしい。
※薔薇幾度花:(東晋の謝安が宴をした薔薇洞前には)何回(春の季節が訪れて、)花が咲いたことだろうか。 *「バラは、何回花開いたのだろうか」という表面の意味に、「謝安の没後、何年過ぎたことになるのだろうか」の意が隠されている。 ・薔薇:〔しゃうび、さうび;qiang2wei1○○〕バラ。ノイバラ。前出・謝安が宴をはった薔薇洞をも指す。 ・幾度:何回。 ・花:花咲く。動詞としての用法。「花が咲く春が訪れる」意でもある。
※白雲還自散:白い雲は、なおもまた、自然と散っていったが。 ・白雲:白い雲。人間世界を離れた超俗的な雰囲気を持つ語で、仏教、道教では、「仙」「天」の趣を漂わせる。ただの白い雲ではない。晋・謝靈運の『過始寧墅』に「山行窮登頓,水渉盡沿。巖峭嶺稠疊,洲渚連綿。白雲抱幽石,坂ェ媚C漣。葺宇臨迴江,築觀基曾巓。」や唐・王維の『送別』「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」 や蘇の『汾上驚秋』「北風吹白雲, 萬里渡河汾。心緒逢搖落,秋聲不可聞。」 王之煥に「黄河遠上白雲間,一片孤城萬仞山。羌笛何須怨楊柳,春風不度玉門關。」や、寒山の「重巖我卜居,鳥道絶人跡。庭際何所有,白雲抱幽石。住茲凡幾年,屡見春冬易。寄語鐘鼎家,虚名定無益。」、晩唐・杜牧の『山行』「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」、など多く俗塵を超越したものとして詠まれる。 ・還:また。なお。なおもまた。 ・自:自然と。おのづから。 ・散:散っていく。
※明月落誰家:澄みわたった月は、どちらの方に沈んでいくのだろうか。 ・明月:清(す)んだ月。澄みわたった満月。 ・落:(西の方に)沈む。 ・誰家:どこ。どちら。だれのところ。「誰家」の語は、かならずしも「…の家(いえ)」といった建物の家(いえ)の意味はない。漢・樂府の『蒿里曲』「蒿里誰家地,聚斂魂魄無賢愚。鬼伯一何相催促,人命不得少踟。」 、中唐・白居易の『聞夜砧』「誰家思婦秋擣帛,月苦風凄砧杵悲。八月九月正長夜,千聲萬聲無了時。應到天明頭盡白,一聲添得一莖絲。」、 晩唐の韋莊の『思帝郷』「春日遊,杏花吹滿頭。陌上誰家年少、足風流。妾擬將身嫁與、一生休。縱被無情棄,不能羞。 両宋・張元幹『石州慢』の「己酉秋呉興舟中作」に「雨急雲飛,瞥然驚散,暮天涼月。誰家疏柳低迷,幾點流螢明滅。夜帆風駛,滿湖煙水蒼茫,菰蒲零亂秋聲咽。夢斷酒醒時,倚危檣C絶。 心折,長庚光怒,群盗縱横,逆胡猖獗。欲挽天河,一洗中原膏血。兩宮何處?塞垣只隔長江,唾壺空撃悲歌缺。萬里想龍沙,泣孤臣呉越。」その外、本サイトでも用例が多い。
◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「花家」で、平水韻下平六麻。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
●○○●●,
○●●○○。(韻)
2006.5.11 5.12完 2007.3.13補 2018.2.11 |
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