儲光羲長安道　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 ChuGuangxi


	長安道

　　　　　　儲光羲　

鳴鞭過酒肆，
袨服遊倡門。
百萬一時盡，
含情無片言。

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長安道　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
鞭を鳴らして　　酒肆しゅしに過よぎり，
袨服げんふくして　　倡門しゃうもんに遊ぶ。
百萬　　一時いちじに盡くるも，
情を含みて　　片言へんげん　無し。

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◎　私感註釈

※儲光羲：盛唐の詩人。７０６年？～７６３年？兗州（現・山東省兗州）の人。開元十四年（７２６年）の進士。監察御史となったが、安禄山が長安を陥とした時に強要されて官に就いたたため、乱後は嶺南（現・広東省）に流され、その地で没する。

※長安道：楽府。橫吹曲辭の名の一。長安の道。「長安の繁華街の道辺」の意。「長安の街路（の遊郭のあるところ）」の意で使われている。楽府『長安道』では、白居易の『長安道』「花枝缺處青樓開，艶歌一曲酒一杯。美人勸我急行樂，自古朱顏不再來。君不見外州客，長安道。一回來，一回老。」。ここの作品のように長短句に。填詞ではない。同様の詩意のものには、唐の崔國輔『長樂少年行』「遺卻珊瑚鞭，白馬驕不行。章臺折楊柳，春日路傍情。」や、李白『少年行』「五陵年少金市東，銀鞍白馬度春風。落花踏盡遊何處，笑入胡姫酒肆中。」、王昌齢『少年行』「走馬遠相尋，西樓下夕陰。結交期一劍，留意贈千金。高閣歌聲遠，重門柳色深。夜闌須盡飲，莫負百年心。」や、王維の『少年行』「新豐美酒斗十千，咸陽遊侠多少年。相逢意氣爲君飮，繋馬高樓垂柳邊。」や、沈彬の『結客少年場行』「重義輕生一劍知，白虹貫日報讎歸。片心惆悵清平世，酒市無人問布衣。」や、宋の賀鑄『六州歌頭』「少年侠氣，交結五都雄。肝膽洞，毛髮聳。立談中，生死同，一諾千金重。推翹勇，矜豪縱，輕蓋擁，聯飛, 斗城東。轟飮酒，春色浮寒甕。吸海垂虹。閒呼鷹嗾犬，白羽摘雕弓，狡穴俄空。樂怱怱。」等、多い。蛇足になるが、「長安道（ちゃうあんだう）」という地名ではない。現代の北京には中心を東西に走る道を「長安街（Chang2an1-jie1）」というのがあるが…。

※鳴鞭過酒肆：鞭をならして威勢よく酒場に行き。鞭をならして威勢よく酒場の前を通り過ぎて。　・鳴鞭：鞭をならす。馬をそこには停めないということの表現であり、「遺卻珊瑚鞭，白馬驕不行。」のもっている威勢の良さをも表す。　・過：通る。通り過ぎる。…によぎる。李白の『少年行』では「落花踏盡遊何處，笑入胡姫酒肆中。」とする。　・酒肆：〔しゅし；jiu3si4●●〕酒場。前出・李白の『少年行』で「笑入胡姫酒肆中。」とする。

※袨服遊倡門：はれぎで、遊女屋で遊ぶ。　・袨服：〔げんふく；xuan4fu2●●〕はれぎ。正式の衣服。　・袨：〔げん；xuan4f●〕くろぎぬ。黒衣。　・倡門：〔しゃうもん；chang1men2○○〕妓楼。遊女屋。白居易の『長安道』「花枝缺處青樓開」であり、王維の『少年行』「繋馬高樓垂柳邊」であり、崔國輔『長樂少年行』「章臺折楊柳」でもある。

※百萬一時盡：百万の大金を一気に使い果たして。　・百萬：厖大な金額。　・一時：ひと時に。　・盡：つくす。

※含情無片言：（その男性は、鷹揚な態度で）感情を胸におさめて、無造作にひとこと言っただけだった。或いは、男性側の意気にも拘わらず女性側は、態度にも表さないで、素っ気ないそぶりである。　*「意中の女性のために、大金を使っても意に介さない鷹揚な男性像」を謳う。或いは、「男性側の意気にも拘わらず女性側は、態度にも表さないで、素っ気ないそぶりである」ということをうたう。「含情無片言」を女性側態度の描写とすれば、大きく意味が変わる。
　　どの意味にとるかは、中国古典詩の本来持っている詩の構造-構成単位である「聯」で考える。（「起」「承」「転」「結」に四分割して、ばらばらにしない。「句」単位で主部を変えて使う例はなかろう）。つまり「鳴鞭過酒肆，袨服遊倡門」という部分と「百萬一時盡，含情無片言」とにである。「『（男性は）鳴鞭過酒肆，袨服遊倡門』をして、『（女性は）百萬一時盡，含情無片言』である」と見ていく。もちろん、「『（男性は）鳴鞭過酒肆，袨服遊倡門』をして、『（なおも男性は）百萬一時盡，含情無片言』である」ともよめる。正確には作者の作品群や、用例を細かく追求・比較すべきものであってこの一作だけをもってして作者本人の意図は分かりかねる。勿論、芸術作品として味わうのは別であって、この一作を以て判断し味わい楽しむものだろう。なお、随意に主部を仮定し、「『（男性は）鳴鞭過酒肆』して『（男性は）袨服遊倡門』をして、『（男性は）百萬一時盡』しても『（女性は）含情無片言』である」ともなり得るが…苦しい。如何。　・含情：感情を胸におさめて表さない。風情のあること。前者、後者のどちらにとるかによっても大きく意味が変わる。　・片言：簡単な言葉。ちょっとしたことば。一言。

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◎　構成について

　韻式は、「AA」。韻脚は「門言」で平水韻上平十三元。この作品の平仄は、次の通り。

○○◎●○，
●●○○○。（韻）
●●●○●，
○○○●○。（韻）