遙夜苦難明, 他洲日方午。 一聞翰音啼, 吾豈愁風雨。 |
夜坐向曉
遙夜 明 け難 きに苦しみ,
他洲 日方 に午 にあり。
一たび翰音 の啼くを聞くやいなや,
吾 豈 に風雨 を愁 へんや。
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◎ 私感訳註:
※文廷式:清末の学者、進歩的官僚。咸豐六年(1856年)〜光緒三十年(1904年)。字は道希。号して芸閣、純常子。現・江西省の萍郷県の人。光緒十六年(1890年)の進士。翰林院侍読学士。1895年、康有為の強学会を設立した際、援助したため保守派の反感を買い、職を免ぜられ追放された。光緒二十五年/明治三十二年(1899年)〜光緒二十六年/明治三十三年(1900年)、日本に滞在した。
※夜坐向暁:夜、寝ないで坐っていて、夜明けになんなんとして。 ・向暁:明け方。また、暁(あかつき)に向かう。ここでは、ただ単に「明け方」を指すのみではなく、「新しい時代の夜明け」の意味をこめて使っている。
※遥夜苦難明:(満洲王朝の中国の)長い夜が、なかなか明けようとしない。 ・遥夜:〔えうや;yao2ye4○●〕長い夜。南唐後主・李Uの『蝶戀花』に「遙夜亭皋閑信歩。乍過C明,早覺傷春暮。數點雨聲風約住。朦朧淡月雲來去。 桃李依依春暗度。誰在秋千,笑裏低低語?一片芳心千萬緒,人間沒個安排處!」とあり、北宋・秦觀の『如夢令』に「遙夜沈沈如水,風緊驛亭深閉。夢破鼠窺燈,霜送曉寒侵被。無寐,無寐,門外馬嘶人起。」とある。 ・難明:明けにくい。明るくなりにくい。現代・毛澤東は『虞美人』一九二〇年で、「堆來枕上愁何状,江海翻波浪。夜長天色總難明,寂莫披衣起坐數寒星。曉來百念キ灰盡,剩有離人影。一鉤殘月向西流,對此不抛眼涙也無由。」とする。
※他洲日方午:(中国では夜明け前でも、)他の国では、日(=太陽)の位置がちょうど真南(の盛んなところ=真昼)にある。*時差がある。また、文明、文化に差異があることを謂う。 ・他洲:他の国。よその島。中国出版の本に、アメリカ(美国)を指す、との註記があったが、その根拠は不明。ただ、時代は、日清戦争後、西洋の帝国主義諸国の圧迫が清朝政府に迫っていた頃のことで、西洋の文明や文化の流入による衝撃が中国全土を襲った頃のことなどからか。「洲」、意図的に使ったか(「満洲」の「洲」)。「他洲日方午」の句の「日」が、「日本」の「日」に見えて仕方がない。なお、この詩は、光緒二十二年/明治二十九年(1896年)に作られた。 ・日方午:太陽の位置はちょうど真南にある。盛んな時期であることを謂う。 ・午:〔ご;wu3●〕十二支で表した、方位では南。時刻で正午(午前十二時)。動物でウマ。北宋・蘇舜欽の『夏意』に「別院深深夏簟C,石榴開遍透簾明。樹陰滿地日當午,夢覺流鶯時一聲。」とある。
※一聞翰音啼:(夜明けを告げる)鶏の声を聞くやいなや。 ・一聞:聞くやいなや。聞くとすぐに。 ・翰音:〔かんおん;han4yin1◎○〕にわとりのこと。その鳴き声が長いからいう。『禮記・曲禮』に「凡祭宗廟之禮:牛曰一元大武,豕曰剛鬣,豚曰腯肥,羊曰柔毛,雞曰翰音,犬曰羹獻,雉曰疏趾,兔曰明視,脯曰尹祭,槁魚曰商祭,鮮魚曰脡祭,水曰清滌,酒曰清酌,黍曰薌合,粱曰薌萁,稷曰明粢,稻曰嘉蔬,韭曰豊本,鹽曰鹹鹺,玉曰嘉玉,幣曰量幣。」とある。 ・啼:(獣や鳥が)声をあげてなく。
※吾豈愁風雨:わたしは、どうして風雨(=艱難辛苦)を愁(うれ)えようか(。そのような気持ちになってくる)。 ・豈:どうして。なんと…か。あに。疑問・反語の助字。 ・風雨:艱難辛苦。
◎ 構成について
2020.9. 2 9. 3完 9.15補 10. 1 |
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