朝作輕寒暮作陰, 愁中不覺已春深。 落花有涙因風雨, 啼鳥無情自古今。 故國江山徒夢寐, 中華人物又消沈。 龍蛇四海歸無所, 寒食年年愴客心。 |
壬戌 の清明 の作
朝 に 輕寒と作 り暮 に陰と作 る,
愁中 覺 えず已 に春深まるを。
落花 に 涙 有るは風雨 に因 る,
啼鳥 情 無きは 古今自 りす。
故國の江山 徒 らに夢寐 ,
中華の人物 又た消沈 。
龍蛇 四海 に歸 るに所 無く,
寒食 年年客心 を愴 む。
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◎ 私感訳註:
※屈大均:清初の文学者。明の秀才。清軍が広州を占拠した時、抵抗運動に参加し、肇慶に南明の永暦帝を迎えた。後、清当局の追求を避けて僧籍に入ったが、三十二歳の時僧籍を捨てて儒者に復帰し、名を大均と改めた。陳恭尹、 梁佩蘭とともに、「嶺南三大家」と並び称された。もとの名は邵龍、また、邵隆とも名のった。字は翁山、また、介子。号して菜圃。番禺(ばんぐう)(現・広東省内)の人。1630年(明:崇禎三年)〜1696年(清:康煕三十五年)。
※壬戌清明作:1682年(康煕二十一年=「三藩の乱」終熄時)の清明節に(詩を)作る。 ・壬戌:〔じんじゅつ;ren2xu1〕ここでは、1682年(康煕二十一年)のこと。みづのえいぬ。干支の五十九番目。「壬戌」は、干支で表した年。干支とは、十干と十二支の組み合わされた序列の表記法のこと。十干とは、「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」のことをいい、十二支とは「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」のことをいう。十干のはじめの「甲」、十二支のはじめの「子」から順に、次のように組み合わせていく: 甲子、乙丑、丙寅、丁卯、戊辰、己巳、庚午、辛未、壬申、癸酉、(以上、10組で、ここで十干は再び第一位の「甲」に戻り、11組目が始まる)甲戌、乙亥、……(ここで、十二支は「子」に戻り、13組目以降は)丙子、丁丑…となって、合計は(ページの)60組になる。これで、1から60までの順を表し、年月日の表示などに使われる。なお、61番目は、1番目の甲子にもどる。還暦である。それ故、壬戌年は、1682年だけに限らず、±60年(の倍数年)も丙子年となる。(例えば:1742年、1802年、1862年…と。また、1622年、1562年…と)。1682年について:中国の歴史年表で、1682年あたりを見ると、1681年に三藩の乱が鎮圧され、1683年に台湾の鄭氏勢力が降伏して、清が台湾を占領。清の中国征服以来、約四十年にして、ようやく反清勢力が姿を消した、とある。その頃。 ・清明:清明節。二十四節気の第五で、現在の四月五日頃。春の盛り。なお、その前日は、後出の寒食節。晩唐・杜牧に『C明』「C明時節雨紛紛,路上行人欲斷魂。借問酒家何處有,牧童遙指杏花村。」がある。
※朝作軽寒暮作陰:朝は薄ら寒く、夕暮れは曇(くもり)となり。 ・作:なる。なす。 ・軽寒:薄ら寒さ。 ・暮:ここでは、一日の暮れ、夕暮れを指す。 ・陰:曇(くもり)。
※愁中不覺已春深:憂いのなか(なので)、すでに春が深まっているのを感じられない。 ・愁中:憂いのなか。 ・不覺:感じられない。 ・已:とっくに。すでに。 ・春深:春が深まる、意。清・王士モフ『秦淮雜詩』に「年來腸斷秣陵舟,夢繞秦淮水上樓。十日雨絲風片裏,濃春煙景似殘秋。」とある。
※落花有涙因風雨:落ちた花に、涙が有るのは、風雨のためであり。 *盛唐・杜甫に『春望』「國破山河在,城春草木深。感時花濺涙,恨別鳥驚心。烽火連三月,家書抵萬金。白頭掻更短,渾欲不勝簪。」がある。 ・落花:散って落ちた花の意だが、三藩の乱の敗者側を指すか。 ・因:…による。
※啼鳥無情自古今:鳴く鳥に、情が無いのは古今より(のことわりである)。 ・自:…よりする。…から。
※故国江山徒夢寐:祖国の山河は、無駄に寝て夢を見ていて。 ・故国:自分の生まれた国。祖国。母国。ここでは漢民族の故地としての中華の地を指していよう。 ・江山:祖国。祖国の山河。 ・徒:いたずらに。無駄に。 ・夢寐:〔むび;meng4mei4●●〕寝て夢を見る。眠っている間。
※中華人物又消沈:漢民族の英雄は、またしても消え失(う)せた。 ・中華人物:(この詩の制作時期や内容から判断して、)漢民族の英雄。なお、前王朝の明は、漢民族の王朝。それを嗣いだ清朝は満洲民族の王朝。 ・又:またしても(…になる)。またもや(…になる)。ふたたび(…になる)。盛唐・杜甫の『絶句』に「江碧鳥逾白,山花欲然。今春看又過,何日是歸年。」とあり、同・杜甫の『江南逢李龜年』に「岐王宅裏尋常見,崔九堂前幾度聞。正是江南好風景,落花時節又逢君。」とある。 ・消沈:消え失(う)せる。衰える。
※龍蛇四海帰無所:非凡な人物(=漢民族の志士)は、四方の海の内に帰るところがなく(=身の置き所がなく)。 ・龍蛇:〔りょうだ(他);long2she2○○〕非凡な人物の喩え。優れた才能を持ちながら、世を避けて隠れている人。ここでは漢民族の志士をいう。 ・四海:四方の海の内。四方のえびす。四方の海。 ・無所:…ところがない。
※寒食年年愴客心:寒食節は、年年、旅中の思いを悲しいものとさせる。 ・寒食:〔かんしょく/かんじき;han2shi2○●〕寒食節を謂う。清明節の前日。冬至から百五日目にあたる日の前後三日間(陽暦の四月三、四日頃)は、火をたくことが禁じられ、冷たいものを食べる。春秋時代、介之推が山で焼け死んだのを晋の文公が悲しみ、その日に火をたくことを禁じたことによる。盛唐・杜甫の『小寒食舟中作』に「佳辰強飯食猶寒,隱几蕭條帶鶡冠。春水船如天上坐,老年花似霧中看。娟娟戲蝶過陋,片片輕鴎下急湍。雲白山青萬餘里,愁看直北是長安。」とあり、中唐・韓翃の『寒食』に「春城無處不飛花,寒食東風御柳斜。日暮漢宮傳蝋燭,輕煙散入五侯家。」とある。清初・屈大均(本ページの詩の作者でもある)『寒食』詩「煙雨催寒食,江南又暮春。可憐三月草,看盡六朝人。」は、南北朝の南朝梁・丘遲の駢文『與陳伯之書』中の「…暮春三月,江南草長,雜花生樹,羣鶯亂飛。…」(『魏晋南北朝散文』曹明綱編著 上海書店出版社237ページ『與陳伯之書』)の影響があろうかと。 ・愴:〔さう;chuang4●〕いたむ。かなしむ。みだれる。 ・客心:〔かくしん;ke4xin1●○〕旅ごころ。旅中の寂しい思い。
◎ 構成について
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