昭君怨 | |
南宋・王從叔 |
門外春風幾度?
馬上行人何處?
休更卷珠簾。
草連天。
立盡海棠花月。
飛到荼蘼香雪。
莫恨夢難成。
夢無憑。
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昭君怨
門外の風幾 たびか度 る?
馬上 の行人 何處 ぞ?
休 めよ 更に珠簾 を卷くを。
草 天に連 なる。
海棠 の花月 に 立ち盡 くせば。
荼蘼 の香雪 に 飛び到る。
恨む莫 かれ 夢の成り難 きを。
夢憑 ること無し。
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◎ 私感註釈
※王従叔:南宋末の遺民の詞人。号して山樵。盧陵(現・江西省吉安)の人。
※江城子:詞牌の一。詳しくは「◎構成について」を参照。 *本ページの詞は、女性の立場で詠ったもの。
※門外春風幾度:門の外では、何回、春の(季節の)風が回(めぐ)って来てたことになろうか。=春の季節を何回過ごしたことになろうか。 ・春風:春の風。ここでは、春の季節が回(めぐ)って来て吹く風(≒春季)の意で使う。 ・度:過ごす。わたる。
※馬上行人何処:馬に乗った旅人(=愛しい男性)は、どこ(へ行ってしまったの)だろうか。 ・行人:旅人。ここでは、主人公(=女性)の愛しいている男性のことになる。中唐・張籍の『秋思』に「洛陽城裏見秋風,欲作家書意萬重。復恐匆匆説不盡,行人臨發又開封。」とあり、宋・淮上女の『減字木蘭花』に「淮山隱隱。千里雲峰千里恨。淮水悠悠。萬頃煙波萬頃愁。 山長水遠。遮住行人東望眼。恨舊愁新。有涙無言對晩春。」とある。 ・何処:どこ。
※休更巻珠簾:その上さらに、カーテン(=玉すだれ)を巻き上げて、(遠くまで続く草原を眺めて物思いに耽ってしまうようなことは)やめて(ほしい)。この句「休更巻珠簾」は、「休更巻珠簾,草連天」として理解するところ。 ・休:やめよ。やめる。 ・更:さらに。その上。 ・巻:まきあげる。カーテン(=玉すだれ)を巻き上げて、遠くを眺めて物思いに耽ることを暗示する。 ・珠簾:たますだれ。清・毛先舒の『江城子』に「暮江煙外是高樓。捲簾鉤。望呉州。遠水遙峰,相對兩悠悠。 滄海月明キ換涙,還道是,不曾愁。」とある。
※草連天:遥か彼方まで草が生え揃って、地平線では、大空に接している。 ・草:(春の)くさ。「新たな年を象徴する萋萋たる草」が生い茂る春が巡ってきても、家を離れて旅路に就いている者は帰ってこないことを謂う。盛唐・王維の『送別』に「山中相送罷,日暮掩柴扉。春草明年,王孫歸不歸。」とあり、『楚辞・招隱士』「王孫遊兮不歸,春草生兮萋萋。歳暮兮不自聊,蛄鳴兮啾啾。」とあり、晩唐〜・温庭の『折楊柳』に「館娃宮外城西,遠映征帆近拂堤。繋得王孫歸意切,不關春草堺ト萋。」とある。詩題や詞牌に『王孫歸』『憶王孫』『王孫遊』(南齊・謝)「国趨如絲,雜樹紅英發。無論君不歸,君歸芳已歇。」として使われる。盛唐・王維の『山居秋暝』に「空山新雨後,天氣晩來秋。明月松間照,清泉石上流。竹喧歸浣女,蓮動下漁舟。隨意春芳歇,王孫自可留。」とあり、隋・無名氏の『送別』に「楊柳著地垂,楊花漫漫攪天飛。柳條折盡花飛盡,借問行人歸不歸。」とある。 ・連天:天に連なる。
※立尽海棠花月:カイドウ花を照らす月の下で立ち尽くせば。 *この句「立尽海棠花月」は、「立尽海棠花月,飛到荼蘼香雪」と解するところ。 ・立尽:立ち尽くす。 ・海棠:カイドウ。薔薇科の落葉灌木。淡紅色の花を春先につける。 ・花月:花を照らす月。また、花と月。
※飛到荼蘼香雪:(月光は、)荼蘼(とび=トキンイバラ)の香りある白い花に差している。 ・荼蘼:〔と(た)び;tu2mi2○○〕トキンイバラ。ボタンイバラ。バラ科の落葉喬木で、キイチゴの仲間。中国原産。=荼蘼〔tu2mi2〕、=酴醾〔tu2mi2〕か。 *「蘼」〔び;mi2○〕字のところは、本来:「『艹』の下に『麻』、その下に『糸』」とすべきもの。 ・香雪:かおりある白い花。花吹雪。
※莫恨夢難成:(すばらしい)夢は、なかなか見られないもので。 ・莫:なかれ。禁止・否定の辞。 ・夢難成:(すばらしい)夢は、なし難(がた)い意。宋・万俟詠の『長相思 雨』に「一聲聲。一更更。窗外芭蕉窗裏燈。此時無限情。 夢難成。恨難平。不道愁人不喜聽。空階滴到明。」とある。
※夢無憑:夢とは、何のよりどころもないものなのだ。 ・無憑:何のよりどころもない。たよりない。
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2017.6.18 6.19 |
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