兩兩歸鴻欲破群, 依依還似北歸人。 遙知朔漠多風雪, 更待江南半月春。 |
惠崇 の『春江 曉景 』 其の二
兩兩 の歸鴻 群を破らんと欲 す,
依依 として還 た北歸 の人に似たり。
遙 かに知る朔漠 の風雪 多きを,
更に江南 半月 の春を 待て。
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◎ 私感訳註:
※蘇軾:北宋の詩人。北宋第一の文化人。文学者。政治家。字は子瞻。号は東坡。現・四川省眉山の人。景祐三年(1036年)〜建中靖國元年(1101年)。「三蘇」の一で、父:蘇洵の老蘇、弟:蘇轍の小蘇に対して、大蘇といわれる。王安石の新法に反対し、しばしば左遷された。多才で、散文・韻文ともにすぐれ、共に宋代第一流とされた。
※恵崇春江暁景:恵崇の描いた『春江暁景』画(を詩に詠む)。 *早春の情景を、作者の心情を絡めて詠う。 ・恵崇:北宋初の僧の名。福建省の建陽の人。宋初九僧の一で、詩と画に秀でた。 ・春江暁景:北宋初僧・恵崇の描いた画の作品名。「春江暁景」を「春江晩景」ともする。これは其の二で、其の一は「竹外桃花三兩枝,春江水暖鴨先知。蔞蒿滿地蘆芽短,正是河豚欲上時。」。
※両両帰鴻欲破群:二羽ずつになって、帰っていくカリが、ムレから離れてばらばらになろうとした。家族で纏まっていたのに、離れていこうとしている。弟の蘇轍の行動を暗に指す。 ・両両:二つずつ。二つと二つずつ。(二羽と二羽で、四羽)。後世、明・高攀龍の『夏日閑居』に「長夜此靜坐,終日無一言。問君何所爲,無事心自閑。細雨漁舟歸,兒童喧樹間。北風忽南來,落日在遠山。願此有好懷,酌酒遂陶然。池中鴎飛去,兩兩復來還。」とある。 ・帰鴻:季節になって、渡ってゆくカリ。北帰鴻。北へ帰っていくカリ。渡り鳥の冬鳥。南宋・楊萬里に『初入淮河』「中原父老莫空談,逢着王人訴不堪。卻是歸鴻不能語,一年一度到江南。」がある。 ・鴻:〔こう;hong2○〕おおとり。ひしくい。がんの最大種。 ・破群:ムレから離れてばらばらになる意。
※依依還似北帰人:離れるに忍びないさまは、なおも北方へ帰っていく人(=弟の蘇轍)に似ている。 ・依依:〔いい;yi1yi1○○〕名残惜しく離れにくいさま。離れるに忍びないさま。恋い慕うさま。また、遠くてぼんやりしているさま。細々と絶え間ないさま。ほのかなさま。(枝の)しなやかなさま。ここは、前者の意。中唐・白居易の『楊柳枝』其三に「依依嫋嫋復青青,勾引清風無限情。白雪花繁空撲地,阪N條弱不勝鶯。」 とあり、晩唐〜温庭筠は『渭上題三首之三』に「煙水何曾息世機,暫時相向亦依依。所嗟白首磻谿叟,一下漁舟更不歸。」とある。なお、東晉・陶潛の『歸園田居』五首其四「久去山澤游,浪莽林野娯。試攜子姪輩,披榛歩荒墟。徘徊丘壟間,依依昔人居。井竈有遺處,桑竹殘朽株。借問採薪者,此人皆焉如。薪者向我言,死沒無復餘。一世異朝市,此語眞不虚。人生似幻化,終當歸空無。」での用例は後者の意。中唐・盧貞の『詔取永豐坊柳植禁苑』に「一樹依依在永豐,兩枝飛去杳無蹤。玉皇曾採人間曲,應逐歌聲入九重。」とある。 ・還:なお。また。なかなか。まだ。 ・北帰人:北の方へ戻っていく人。弟の蘇轍を指す。
※遥知朔漠多風雪:北方の沙漠の地(作者は暗に北方の都をも指す)は、風と雪とが厳しい情況であると、遠くから察知している。 ・遥知:遠くから察知する。「遙知」は」までかかっていく。盛唐・王維の『九月九日憶山東兄弟』に「獨在異ク爲異客,毎逢佳節倍思親。遙知兄弟登高處,徧插茱萸少一人。」とあり、盛唐・岑參の『梁行軍九日思長安故園』「強欲登高去,無人送酒來。遙憐故園菊,應傍戰場開。」や後世、盛唐・杜甫の『月夜』「今夜州月,閨中只獨看。遙憐小兒女,未解憶長安。香霧雲鬟,清輝玉臂寒。何時倚虚幌,雙照涙痕乾。」とある。 ・朔漠:〔さくばく;shuo4mo4●●〕北方の沙漠の地。匈奴の地。盛唐・杜甫の『詠懷古跡』に「羣山萬壑赴荊門,生長明妃尚有邨。一去紫臺連朔漠,獨留青冢向黄昏。畫圖省識春風面,環珮空歸月夜魂。千載琵琶作胡語,分明怨恨曲中論。」とある。 ・風雪:風と雪と。風とともに降る雪。吹雪。厳しい情況の譬喩。
※更待江南半月春:さらに、江南で春の半月(はんつき)ほど待っていればいいのに。 ・更:さらに。その上。なお。一層。 ・江南:長江下流域南岸一帯を指す。 ・半月:〔はんげつ;ban4yue4●●〕ゆみはりづき。弦月。また、一ヶ月の半分。はんつき。ここは、後者の意で使われる。
◎ 構成について
2014.8.7 8.8 |