欧陽修戯答元珍　詩詞世界碇豊長の詩詞：Ouyang Xiu

戯答元珍
	北宋・歐陽脩

春風疑不到天涯，
二月山城未見花。
殘雪壓枝猶有橘，
凍雷驚筍欲抽芽。
夜聞歸雁生鄕思，
病入新年感物華。
曾是洛陽花下客，
野芳雖晩不須嗟。





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　戯(たはむ)れに元珍(げんちん)に答ふ　                   　　　　　　　　　　　　　

春風(しゅんぷう) 疑(うたが)ふらくは　　天涯(てんがい)に到らざるかと，
二月　山城(さんじゃう)　　未(いま)だ花を見ず。
殘雪(ざんせつ)　枝を壓(あっ)して　　猶(な)ほ橘(きつ)有り，
凍雷(とうらい)　筍(じゅん)を驚かして　　芽を抽(ぬきん)でんと欲(ほっ)す。
夜(よる)　歸雁( きがん)を聞きて　　鄕思(きゃうし)を生(しゃう)じ，
病(や)みて　新年に入(い)りて　　物華(ぶっくわ)に感ず。
曾(かつ)て是れ　洛陽(らくやう)　　花下(くゎか)の客，
野芳( やはう)　晩(おそ)しと雖(いへど)も　　嗟(なげ)くを須(もち)ひず。
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◎　私感註釈

※欧陽修（歐陽脩）：北宋時代の政治家。詩人、散文作家。１００７年（景徳四年）～１０７２年（煕寧五年）。姓は欧陽（複姓）。字は永叔。号して醉翁、六一居士。謚は文忠。唐宋八大家の一。

※戯答元珍：元珍に、おどけて答える。　・戯：たわむれる。ふざける。おどける。なぐさめる。　・元珍：丁宝臣のこと。北宋の官員。元珍は字。

※春風疑不到天涯：春風が天の涯（はて）（のここ）までは吹いてこないのだろうか。　・天涯：天のはて。　・疑：多分…であろう。

※二月山城未見花：二月（の春の盛りの時期なのに）山あいの町では、未だ花が現れない。　・二月（にがつ/じげつ）：陰暦二月は仲春で春の盛りの時期。　・山城：山あいの町。　・未見花：未だ花が現れない、意。

※残雪壓枝猶有橘：早春の残った雪に押さえつけられている枝先には、それでもなおミカンの実があり。　・壓枝：枝を押さえつける。　・猶有-：なおも…がある。それでもなお…がある。　・猶：ちょうど…のようだ。なお…ごとし。＊明・徐熥に『寄弟』「春風送客翻客愁，客路逢春不當春。寄語鶯聲休便老，天涯猶有未歸人。」がある。　・天涯：地の果て。天の涯。遠く離れた地を謂う。　・猶有：なお…がある。まだ…がある。中唐・韓愈の『題楚昭王廟』に「丘墳滿目衣冠盡，城闕連雲草樹荒。猶有國人懷舊德，一間茅屋祭昭王。」とあり、北宋・蘇軾の『初冬作贈劉景文』に「荷盡已無擎雨蓋，菊殘猶有傲霜枝。一年好景君須記，正是橙黄橘綠時。」とあり、南宋・陸游の『書事』に「關中父老望王師，想見壺漿滿路時。寂寞西溪衰草裏，斷碑猶有少陵詩。」とあり、明・楊一淸の『山丹題壁』に「關山偪仄人蹤少，風雨蒼茫野色昏。萬里一身方獨往，百年多事共誰論。東風四月初生草，落日孤城早閉門。記取漢兵追寇地，沙上猶有未招魂。」とあり、後世、毛沢東は『卜算子　詠梅』讀陸游詠梅詞，反其意而用之で「風雨送春歸，飛雪迎春到。已是懸崖百丈冰，猶有花枝俏。　　　俏也不爭春，只把春來報。待到山花爛漫時，她在叢中笑」とする。後世、日本の賴支峰の『除夕懷弟』に「雪聲燈影笑談新，濁酒乾魚侍老親。獨恨一年年欲盡，天涯猶有未歸人。」がある。　・天涯：天の果て。遠く離れた地を謂う。中唐・韓愈の『題楚昭王廟』に「丘墳滿目衣冠盡，城闕連雲草樹荒。猶有國人懷舊德，一間茅屋祭昭王。」とあり、北宋・蘇軾の『初冬作贈劉景文』に「荷盡已無擎雨蓋，菊殘猶有傲霜枝。一年好景君須記，正是橙黄橘綠時。」とあり、南宋・陸游の『書事』に「關中父老望王師，想見壺漿滿路時。寂寞西溪衰草裏，斷碑猶有少陵詩。」とあり、明・楊一淸の『山丹題壁』に「關山偪仄人蹤少，風雨蒼茫野色昏。萬里一身方獨往，百年多事共誰論。東風四月初生草，落日孤城早閉門。記取漢兵追寇地，沙上猶有未招魂。」とあり、後世、毛沢東は『卜算子　詠梅』讀陸游詠梅詞，反其意而用之で「風雨送春歸，飛雪迎春到。已是懸崖百丈冰，猶有花枝俏。　　　俏也不爭春，只把春來報。待到山花爛漫時，她在叢中笑」とする。　・橘：ミカン。タチバナ。キツ。

※凍雷驚筍欲抽芽：冬の雷鳴で筍（たけのこ）を驚かして、草木が芽を出すようにしむけている。　・凍雷：冬の雷。　・驚：おどろかす。　・筍：たけのこ。　・欲：ほっす。…そうと思う。　・抽：草木が芽を出す。抜きん出る。

※夜聞帰雁生郷思：夜に、北方に帰る雁（かり）の鳴き声が聞こえてきて、峽州が生じてきて。　・聞：きこえる。自然と耳に入ってくる。　・帰雁：春、北方に帰る雁（かり）。中唐・錢起の『歸雁』に「瀟湘何事等閒回，水碧沙明兩岸苔。二十五弦彈夜月，不勝淸怨卻飛來。」とある。銭起は呉興（現・浙江省）出身だが、長安で任官、以後長安とその近郊の藍田にて世を送るので、北方の地・長安での作と見られる。ただし、錢起の『江行無題』「咫尺愁風雨，匡廬不可登。祗疑雲霧窟，猶有六朝僧。」では、「匡廬（きょうろ）」と廬山を詠い、長江を下っての作『江行無題百首』がある（錢珝の作ともする）のが多少問題。盛唐・王維の『使至塞上』に「單車欲問邊，屬國過居延。征蓬出漢塞，歸雁入胡天。大漠孤煙直，長河落日圓。蕭關逢候騎，都護在燕然。」とある。　・郷思：〔きゃうし；xiang1si1○●〕ホームシック。ノスタルジア。

※病入新年感物華：病気が新（あら）たな年にまで及んで、（春の）優れた景色に感じ入っている。　・病入新年：病気が新年度にまで及ぶ、意。　・物華：〔ぶつくゎ；wu4hua2●○〕優れた景色。ものの立派さ。宝石などの精彩。

※曽是洛陽花下客：かつては洛陽の都で（盛大な花の宴で）花見客となっていたことがある（わたし（欧陽修）/あなた（元珍）にとっては）。　・曽-：かつて…したことがある。　・是：…は…である。これ…なり。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B：AはBである〕。　・洛陽：都。現・河南省西部に位置する。欧陽修もこの地に居を構えたことがある。　・花下客：花見に来た人。自分自身を指すのか、この詩題で名をあげられた元珍を指すのかで、意味が微妙に異なる。

※野芳雖晩不須嗟：野辺の花（の開花の時期）がおそいからといって、歎くには及ぶまい。　＊この句、作者が言いたかったところではなかろうか。　・野芳：野辺に咲き匂う花。野花。　・雖：（…と）いえども。　・晩：（時間的に）おそい。　・不須：…に及ばない。…する必要がない。…まい。　・嗟：〔さ；jie1○〕歎く。歎息する。

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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡＡＡ」。韻脚は「涯花芽華嗟」で、平水韻下平六麻。この作品の平仄は、次の通り。

○○●●●○○，（韻）
●●○○●●○。（韻）
○●●○○●●，
●○○●●○○。（韻）
●○○●○○●，「思」：名詞としてカウント。
●●○○●●○。（韻）
○●●○○●●，
●○○●●○○。（韻）