寄白司馬 | |
唐・徐凝 |
三條九陌花時節,
萬戸千車看牡丹。
爭遣江州白司馬,
五年風景憶長安。
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白司馬に寄す
三條 九陌 花の時節,
萬戸 千車 牡丹を看る。
爭でか 江州の 白司馬をして,
五年の風景 長安を憶はしめん。
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◎ 私感註釈
※徐凝:中唐・元和(げんな)年間の詩人。生涯無位無冠の人。
※寄白司馬:江州の司馬である白居易に手紙で詩を送る。 ・寄:郵送で詩(や手紙)を送る。 ・白:姓。ここでは、白居易を指す。白居易とは、中唐の詩人。772年(大暦七年)〜846年(會昌六年)。字は楽天。号して香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。左拾遺になるが、江州の司馬に左遷され、後、杭州刺史に任ぜらる。やがて刑部侍郎、太子少傅、刑部尚書を歴任する。その詩風は、平易通俗な語彙表現を好み、新楽府、竹枝詞、楊柳枝等に挑戦し、諷諭詩や感傷詩でも活躍した人物。本サイトでは、「抒情詩の頁」に多く集めている。 ・司馬:官職名。白居易が江州の司馬に左遷された時の官職でもある。中唐・元稹の『聞白樂天左降江州司馬』「殘燈無焔影幢幢,此夕聞君謫九江。垂死病中驚坐起,暗風吹雨入寒窗。」と九江郡の司馬に謫せられた白居易を心配するのにほぼ同じ。この時期、白居易には『舟中讀元九詩』「把君詩卷燈前讀,詩盡燈殘天未明。眼痛滅燈猶闇坐,逆風吹浪打船聲。」や『琵琶行』「潯陽江頭夜送客,楓葉荻花秋瑟瑟。主人下馬客在船,舉酒欲飮無管絃。醉不成歡慘將別,別時茫茫江浸月。忽聞水上琵琶聲,主人忘歸客不發。尋聲闇問彈者誰,琵琶聲停欲語遲。移船相近邀相見,添酒迴燈重開宴。千呼萬喚始出來,猶抱琵琶半遮面。」がある。
※三条九陌花時節:多くの街路は、(春の)いろいろな花の咲く季節となり。 ・三条九陌:多くの街路。「万戸千門」とともに首都の威容や賑わいを表現する語。「三條」は三すじの南北に走る道で、「九陌」は九すじの東西に走る道筋をいう。後世、日本・江戸時代の太宰春臺は『寧樂懷古』で「南土茫茫古帝城,三條九陌自縱。籍田麥秀農人度,馳道蓬生賈客行。細柳低垂常惹恨,閑花歴亂竟無情。千年陳迹唯蘭若,日暮呦呦野鹿鳴。」と使う。 ・條:すじ。 ・陌:〔はく;mo4●〕道。街路。あぜ道。(東西に走る)畦道。 ・花時節:春、いろいろの花の咲く季節。
※万戸千車看牡丹:極めて多くの家や多くの車で、ボタンの花を看ている。 万…千…:…や…が極めて多いさまを形容する互文的表現。=千…万…。 ・万戸:極めて多くの家。 ・看:(手をかざして意識的に)みる。 ・牡丹:ボタン(の花)。中国原産のキンポウゲ科の落葉抵木。『神農本草経』では「花王」とその美しさを称える。
※争遣江州白司馬:どのようにしたら、江州に左遷された白司馬に。 *「争遣江州白司馬,五年風景憶長安」と聯で見ると分かりよい。 ・争:どうして。いかでか。反語。 ・遣:(…に)…させる。(をして…)しむ。≒使。使役表現。 ・江州:〔かうしう;Jiang1zhou1○○〕晋に置かれた州名。現・江西省・湖北省の一部。江州は、『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)57−58ページ「唐 江南西道」にある。長江南岸と鄱陽湖の間(現・江西省九江市南方)にある。 ・白司馬:司馬の官である白居易のこと。
※五年風景憶長安:五年後の長安の(春の)風景を思い描いてもらえることやら。 ・五年:白居易が江州司馬に左遷されたため、作者・徐凝のいた長安を離れてよりの歳月。元和十年(西暦815年:歳次乙未)から五年経った、或いは五年目の牡丹の季節を迎えた時。819年のことであれば憲宗の元和(げんな)十四年。820年ならば穆宗での元和(げんな)十五年(憲宗は820年(元和十五年一月に歿))。白居易の『琵琶行 序』に「元和十年,予左遷九江郡司馬。」とある。 ・憶:〔おく;yi4●〕おもいだす。おもいやる。忘れない。覚える。おもう。 ・長安:唐の首都。白居易が江州の司馬に左遷される前の任地。長安(現・陝西省西安)は『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)40−41ページ「唐 京畿道 関内道」にある。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「丹安」で、平水韻上平十四寒。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●○○●,
●●○○◎●○。(韻)
○●○○●○●,
●○○●●○○。(韻)
2010.12.16 12.17 |
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