哭孟寂 | |
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唐・張籍 |
曲江院裏題名處,
十九人中最少年。
今日春光君不見,
杏花零落寺門前。
Photo by (c)Tomo.Yun
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孟寂 を哭 す
曲江 院裏 名を題せし處,
十九 人 中 最も少年。
今日 の春光 君 見えず,
杏花 零落 す 寺門の前。
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◎ 私感註釈
※張籍:中唐の詩人。字は文昌。和州(かしゅう)烏江(安徽省和県)の人。768年(大暦三年)~830年(太和四年)。師友の韓愈に目をかけられ、その推薦によって、国子博士となった。楽府に長じている。
※哭孟寂:孟寂(もうせき)の死を悲しむ。 ・哭:亡くなった人を声をあげて悲しむ礼。…(=人名)の死を悲しんで作った詩。 ・孟寂:作者と同年に科挙に合格した十九名中の最年少者の名。伝不詳。
※曲江院裏題名處:曲江の塀のうちの(進士合格の誉ある)名を記したところ(=大雁塔)(で)。 ・曲江:長安東南約3キロメートルにある曲江池。長安中心部より東南東数キロの風光明媚なところの池の名で、後出・大慈恩寺と地続きになっている。『唐代的長安與洛陽地圖』上海古籍出版社(1991年上海)平岡武夫(原・日本の京都大学平岡武夫氏による出版の中国での復刻唐代研究地図集)の「圖版三~ 第三圖~ 長安城圖」にある。杜甫は『曲江』で「朝囘日日典春衣,毎日江頭盡醉歸。酒債尋常行處有,人生七十古來稀。穿花蛺蝶深深見,點水蜻蜓款款飛。傳語風光共流轉,暫時相賞莫相違。」や、同・杜甫『曲江』「一片花飛減卻春,風飄萬點正愁人。且看欲盡花經眼,莫厭傷多酒入脣。江上小堂巣翡翠,苑邊高冢臥麒麟。細推物理須行樂,何用浮名絆此身。」と詠う。なお、白居易の『三月三十日題慈恩寺』を詠ったところは、この曲江の北にある慈恩寺である。杜甫は『曲江』で「朝囘日日典春衣,毎日江頭盡醉歸。酒債尋常行處有,人生七十古來稀。穿花蛺蝶深深見,點水蜻蜓款款飛。傳語風光共流轉,暫時相賞莫相違。」と詠う。 ・院:垣。囲い。人の住むところ。また、庭。ここは、前者の意。 ・裏:…の中。…の内。 ・題名處:名を記したところ。大雁塔(写真)の壁のこと。唐代中期以降、科挙で新たに進士となった者は、慈恩寺の南の通善坊にある杏園で祝宴を賜った後、大慈恩寺の大雁塔の下を訪れ、その壁に名を記したことに因む。中唐・白居易の『三月三十日題慈恩寺』「慈恩春色今朝盡,盡日裴回倚寺門。惆悵春歸留不得,紫藤花下漸黄昏。」があり、同・白居易の『酬哥舒大見贈』「去歳歡遊何處去,曲江西岸杏園東。花下忘歸因美景,樽前勸酒是春風。各從微宦風塵裏,共度流年離別中。今日相逢愁又喜,八人分散兩人同。」や同・白居易の『杏園花落時招錢員外同醉』「花園欲去去應遲,正是風吹狼藉時。近西數樹猶堪醉,半落春風半在枝。」や、後世、晩唐・韋莊は『長安春』で「長安二月多香塵,六街車馬聲轔轔。家家樓上如花人,千枝萬枝紅艷新。簾間笑語自相問:何人占得長安春?長安春色本無主,古來盡屬紅樓女。如今無奈杏園人,駿馬輕車擁將去。」と詠う。なお、白居易 『遊趙村杏花』は趙村のことで、これとは別。
※十九人中最少年:(進士の合格者数)十九人のうちで、一番年少であった。 ・十九人:19人。科挙の合格者数。 ・少年:若い。若い年齢。
※今日春光君不見:こんにち(あの日と同じ)春景色だが、あなたの姿を見かけなくなった。 ・春光:春の景色。春の日ざし。 ・君:ここでは、詩題の孟寂のことになる。 ・不見:顔を見ない。なくなる。姿を消す。
※杏花零落寺門前:(そういえば、あの日、共に愛(め)でた)杏(アンズ)の花は(大慈恩)寺の門前で枯れしぼんで散っている(ではないか)。 ・杏花:杏(アンズ)の花。新・進士が杏園での祝宴を賜ったことを謂う。 ・零落:〔れいらく;ling2luo4○●〕草木が枯れしぼむ。また、落ちぶれてさびしい。死ぬこと。 ・寺:ここでは、大慈恩寺のことになる。(大)慈恩寺は、長安の南東約3キロメートルにある仏教寺院であり、三蔵法師玄奘ゆかりの寺。前出・曲江と地続きのところ。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「年前」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
○●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2011.11.10 11.11 |
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