雲陽館與韓紳宿別
	唐・司空曙

故人と　　江海(かうかい)に別れてより，
幾度か　　山川(さんせん)を隔(へだ)つ。
乍(たちま)ち見(まみ)えて　　翻(ひるがへ)って夢かと疑(うたが)ひ，
相(あ)ひ悲しみて　　各々(おのおの) 年(とし)を問(と)ふ。
孤燈( こ とう)　　寒くして 雨を照らし，
溼竹(しつちく)　　暗くして 煙(もや)を浮かす。
更(さら)に　　明朝(みゃうてう)の恨(うらみ) 有れば，
離杯( り はい)　　共に傳(めぐ)るを惜(を)しまんや。

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◎　私感註釈

※司空曙：中唐の詩人。司空が姓。複姓の一。字は文明。広平の人。虞部郎中に至る。大暦の十才子の一。

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北側：雲陽鎮（云阳镇）、南側：��陽縣（泾阳县）

※雲陽館与韓紳宿別：雲陽の館（やかた）で韓紳と宿別する。 *昔の友人と長い別離の後に再会し、酒を酌み交わしたが、また明日別れなければならないということを詠ったもの。　・雲陽：県名。現・陝西省��陽県の西北。咸陽の真北３０キロメートル、長安の北北西４０キロメートルのところ。『中国歴史地図集』第六冊　宋・遼・金時期（中国地図出版社）１８−１９ページ「北宋 永興軍路」にある。　・与：…と。　・韓紳：韓升卿のこと。韓愈の四叔の名が紳卿であり、司空曙と同時に��陽で県令に任ぜられたことがあることから、彼と同一である可能性がある。　・宿別：とどまって別れの宴を張る。

※故人江海別：（以前に）古くからの友人と、広い世間で別れ別れになって。　・故人：古くからの友人。昔の友達。旧友。故知。また、死んだ人。ここは、前者の意。中唐・張謂の『同王徴君湘中有懷』に「八月洞庭秋，瀟湘水北流。還家萬里夢，爲客五更愁。不用開書帙，偏宜上酒樓。故人京洛滿，何日復同遊。」とあり、盛唐・王維の『送元二使安西』に「渭城朝雨浥輕塵，客舍����柳色新。勸君更盡一杯酒，西出陽關無故人。」があり、盛唐・孟浩然の『過故人莊』「故人具鷄黍，邀我至田家。�克�村邊合，青山郭外斜。開筵面場圃，把酒話桑麻。待到重陽日，還來就菊花。」や盛唐・李白の『黄鶴樓送孟浩然之廣陵』に「故人西辭黄鶴樓，煙花三月下揚州。孤帆遠影碧空盡，惟見長江天際流。」とあり、中唐・劉長卿の『贈崔九載華』に「憐君一見一悲歌，歳歳無如老去何。白屋漸看秋草沒，��雲莫道故人多。」とあり、中唐・張謂の『送盧舉使河源』に「故人行役向邊州，匹馬今朝不少留。長路關山何日盡，滿堂絲竹爲君愁。」とある。　・江海：長江と海。大きい川。広いもの、豊かなものの喩え。世間。世の中。＝江湖。

※幾度隔山川：どれほどの路程を、山河が隔（へだ）てていたことだろうか。　・幾度：どれほどの路程。　・隔：へだてる。前漢・蘇子卿（蘇武）の『詩四首』其四に「燭燭晨明月，馥馥秋蘭芳。芳馨良夜發，隨風聞我堂。徴夫懷遠路，遊子戀故�ｸ。寒冬十二月，晨起踐嚴霜。俯觀江漢流，仰視浮雲翔。良友遠別離，各在天一方。山海隔中州，相去悠且長。嘉會難再遇，歡樂殊未央。願君崇令�ｺ，隨時愛景光。」とあり、漢魏・蔡琰（蔡文姫）の『胡笳十八拍』（の十拍）「城頭烽火不曾滅，疆場征戰何時歇。殺氣朝朝衝塞門，胡風夜夜吹邊月。故�ｸ隔兮音塵絶，哭無聲兮氣將咽。一生辛苦兮縁別離，十拍悲深兮涙成血。」とある。

※乍見翻疑夢：（今日）突然に会ったが、かえって、夢かと疑って。　・乍：〔さ、さく；zha4●〕しばらく。突然に。不意に。急に。にわかに。また、たちまち。また、…したり…したり。ここは、前者の意。　・翻：〔はん、ほん；fan1○〕反対に。逆に。かえって。ひっくりかえる。反対になる。　・疑夢：夢かと疑う意。

※相悲各問年：（悲しみながら）お互いに年齢を聞い（て確かめ合っ）た。　・各：おのおの。　・問年：年齢を尋ねる。中唐・李益の『喜見外弟又言別』に「十年離亂後，長大一相逢。問姓驚初見，稱名憶舊容。別來滄海事，語罷暮天鐘。明日巴陵道，秋山又幾重。」とある。

※孤燈寒照雨：一つだけともっている灯火は寒々として、雨を照らして。　・孤燈：一つだけともっている灯火。中唐・白居易の『長恨歌』に「夕殿螢飛思悄然，孤燈挑盡未成眠。遲遲鐘鼓初長夜，耿耿星河欲曙天。鴛鴦瓦冷霜華重，翡翠衾寒誰與共。悠悠生死別經年，魂魄不曾來入夢。」とある。

※溼竹暗浮煙：湿った竹藪は暗く、靄（もや）を生じている。　・溼竹：湿った竹藪。＝濕竹。「深竹」ともする。　・浮煙：軽やかなもや。「照雨」の対句として読めば、「靄（もや）がかかる」。

※更有明朝恨：その上、明日の朝のうらめしいこと（＝明日の朝になったら、お互いが別々の方に云ってしまうという旅立ちのこと）がある（ので）。　・更有：その上。　・明朝恨：明日の朝のうらめしいこと。明日の朝になったら、お互いに別れて、別々の方に行ってしまうことを謂う。

※離杯惜共伝：（今夜、）餞別の杯を、互いに挙げることを（どうして）惜しんでしまおう（か）。　・離杯：別れの酒。餞別の酒。　・惜：惜しむ。大切にする。　・共伝：互いに杯を挙げる意。「伝」は「順繰りに手渡す。表現する。伝わる」意。


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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡＡ」。韻脚は「川年煙傳」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。

●○○●●，
●●●○○。（韻）
●●○○●，
○○●●○。（韻）
○○○●●，
●●●○○。（韻）
●●○○●，
○○●●○。（韻）

２０１３．６．８ 　　　　　６．９

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