送友人 | |
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唐・薛濤 |
水國蒹葭夜有霜,
月寒山色共蒼蒼。
誰言千里自今夕,
離夢杳如關塞長。
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友人を送る
水國の蒹葭 夜 霜 有り,
月 寒く山色 も 共に蒼蒼 たり。
誰 か言ふ:「千里今夕 自 りす」と,
離夢 杳如 として關塞 長し。
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◎ 私感註釈
※薛濤:〔せつたう;Xue1 Tao1〕中唐の女流詩人。大暦五年(770年)〜太和六年(832年)。字は洪度。長安(現・陝西省西安)の人。若くして父親の任地・成都に移り、詩名を知られたが、父親の死後、落魄して歌妓となった。徳宗の貞元五年(789年)に、法に触れて松州の辺境守備軍駐屯地に流されたが、釈放されて成都に帰ってからは、妓籍を脱して西郊の浣花渓に隠棲し、女道士の服を着け、花を栽培し詩を詠み、時の人々と詩の応酬をした。浣花渓には製紙を業とする者が多く、薛濤は深紅の小箋(短冊)を作り、広めた。世に薛濤箋といわれる。
※送友人:(作者(=女性)の許から旅立って行く)友人(=男性)を送る(送別の宴での詩)。
※水国蒹葭夜有霜:水郷の生えたばかりのヨシには、夜になって霜が降りて。 ・水国:湖沼・河川などの多い土地や国。 ・蒹葭:〔けんか;jian1jia1○○〕ヨシのまだ生長しきらないもの。幼弱なオギ、アシ、ヒメヨシ等の総称。
※月寒山色共蒼蒼:月は寒々として、(近景の)ヨシや(遠景の)山の色のどちらもが果てしがない。 ・山色:山の色。山の景色。後世、北宋・蘇軾の『飮湖上初晴後雨』に「水光瀲灧晴方好,山色空濛雨亦奇。欲把西湖比西子,淡粧濃抹總相宜。」とある。 ・蒼蒼:〔さうさうcang1cang1○○両韻〕@:草木があおあおと茂るさま。空のあおあおとしたさま。さらに、A:広々として果てしがないさま。また、B青白いさま。老いたさま。頭髪の白髪交じりのさま。後者Bの意の用例に、白居易の『村夜』に「霜草蒼蒼蟲切切,村南村北行人絶。獨出前門望野田,月明蕎麥花如雪。」や同・白居易の『賣炭翁』に「賣炭翁,伐薪燒炭南山中。滿面塵灰煙火色,兩鬢蒼蒼十指K。賣炭得錢何所營,身上衣裳口中食。可憐身上衣正單,心憂炭賤願天寒。夜來城外一尺雪,曉駕炭車輾氷轍。牛困人飢日已高,市南門外泥中歇。翩翩兩騎來是誰,黄衣使者白衫兒。手把文書口稱敕,迴車叱牛牽向北。一車炭重千餘斤,宮使驅將惜不得。半匹紅綃一丈綾,繋向牛頭充炭直。」とあり、明・釈宗泐の『暑夜』に「此夜炎蒸不可當,開門高樹月蒼蒼。天河只在南樓上,不借人闊齠H涼。」とある。蛇足になるが、前者@Aの用例に、北朝・齊・斛律金の民歌『敕勒歌』に「敕勒川,陰山下。天似穹廬,籠蓋四野。天蒼蒼,野茫茫,風吹草低見牛羊。」 や後世、清・王士モフ『即目三首』其一「蒼蒼遠煙起,槭槭疏林響。落日隱西山,人耕古原上。」などがある。
※誰言千里自今夕:「遥かに別れるのは今宵から」、とは誰が言ったのか。=「今宵限りの会う瀬で、明日は旅立つのだ」とは、どのお方(かた)が言ったのか(、わたしは聞きたくない)。 ・誰言-:…とは誰が言ったのか(誰も言わない)。「千里自今夕」は、男性側の言になる。 ・自:…から。…より。
※離夢杳如関塞長:(わたし=女性側は)離れて過ごす人の夢となって、遥かな万里の長城の彼方(かなた)(まで、追いかけて行くのだ)。 ・離夢:別離の夢。離れている人の夢。 ・杳如:遥かなさま。深く広いさま。 「-如」:形容詞(や副詞)の接尾語(字)として用い、状態を表す。形容語を作る助字。 ・関塞:〔くゎんさい;guan1sai4○●〕国境の砦(とりで)。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「霜蒼長」で、平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
○○○●●○●,
○●●○○●○。(韻)
2015.1.18 1.19 |
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