魯郡東石門送杜二甫 | |
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唐・李白 |
醉別復幾日,
登臨偏池臺。
何時石門路,
重有金樽開。
秋波落泗水,
海色明徂徠。
飛蓬各自遠,
且盡手中杯。
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魯郡 の東石門 にて杜 二 甫 を送る
醉別 復 た幾日 ぞ,
登臨 池臺 に偏 る。
何 れの時か石門 の路に,
重 ねて金樽 の開く有らん。
秋波泗水 に落ち,
海色 徂徠 に明らかなり。
飛蓬 各自遠 ざかれば,
且 く盡 くせ 手中の杯を。
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◎ 私感註釈
※李白:盛唐の詩人。字は太白。自ら青蓮居士と号する。世に詩仙と称される。701年(嗣聖十八年)〜762年(寶應元年)。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して、翰林供奉となるが高力士の讒言に遭い、退けられる。安史の乱では苦労をする。後、永王が謀亂を起こしたのに際して幕僚となっていたために、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。
※魯郡東石門送杜二甫:魯郡(現・山東省)の東にある石門山にて、杜家の二番目の男子の杜甫を送別する。 *この詩は天寶四載(745年)の秋に作られたもの。李白と杜甫はこの年の春に魯郡(現・山東省兗州(えんしゅう))で再会し、(現・山東省の地で)共に過ごした。晩秋になって別れることとなり、杜甫は長安へと、李白は再び江東にと、魯郡東の石門で分かれた。その時の送別詩。 *この詩には地名が多い作品だが、全て現・山東省曲阜附近。この作品は、盛唐・杜甫の『絶句漫興』に「二月已破三月來,漸老逢春能幾囘。莫思身外無窮事,且盡生前有限杯。」に呼応しているかのように見えるが、実際には杜甫の作品は遥か後になる。杜甫は『春日憶李白』「白也詩無敵,飄然思不群。清新庾開府,俊逸鮑參軍。渭北春天樹,江東日暮雲。何時一尊酒,重與細論文。」で李白を詠う。 ・魯郡:現・山東省西部の地。 ・魯郡東:現・山東省兗州(えんしうYan3zhou1=兖州)。 ・石門:山の名。現・山東省の曲阜の東北25キロメートルのところにある山峡が相対しており、恰も石の門の様をなしていることから呼ばれる泗水の岸にある山。李白は曽て杜甫とこの地に遊んだ。 ・送:送別する。 ・杜二甫:杜甫のこと。「二」は排行で、杜家の二番目の男子の意=杜家の次男の意。
※酔別復幾日:(杜甫との)送別の宴をしてから、また、何日経(た)ったことだろうか。 *「酔別復幾日」の平仄は「●●●●●」(仄仄仄仄仄)と、仄で揃えている。 ・酔別:酒に酔って別れる。送別の宴をする。 ・復:また。ふたたび。語調を整える働きもする。 ・幾日:何日たつ。動詞。「幾」は比較的小さい数値を指す。
※登臨偏池台:池のほとりの高台やたてものに登って、遠くの方をひとえに望んで(きた)。 *「登臨偏池台」の平仄は「○○○○○」(平平平平平)と、平で揃えている。 ・登臨:高い所に登って、下方を眺める。遠くの方を望みやり、故郷や親しい人々を思い起こすという心の動きを伴った行為。 ・偏:〔へん;pian1○〕ひとえに。ひたすら。また、かたよる。ここは、前者の意。蛇足になるが、「あまねし」は:「遍」〔へん;bian4,pian4●〕(あまねし、あまねく)で異なった字(語)。ここは「偏」。 ・池台:池の中や池のほとりの高台。後世、南唐・李U/馮延巳に『浣溪沙』「轉燭飄蓬一夢歸,欲尋陳跡悵人非,天ヘ心願與身違。 待月池臺空逝水,蔭花樓閣漫斜暉,登臨不惜更沾衣。」とある。
※何時石門路:(別れた後、)いつになったら石門山の路で。 *この句は疑問を提示した一部で、「何時石門路,重有金樽開」が自問部分。 ・何時:いつ。杜甫は前出・『春日憶李白』で「白也詩無敵,飄然思不群。清新庾開府,俊逸鮑參軍。渭北春天樹,江東日暮雲。何時一尊酒,重與細論文。」と詠う。
※重有金樽開:再び黄金の酒器を開ける(機会が)あろうか。 ・重:かさねて。再び。 ・金樽:黄金の酒器。素晴らしい杯。盛唐・李白の『把酒問月』故人賈淳令余問之に「天有月來幾時,我今停杯一問之。人攀明月不可得,月行卻與人相隨。皎如飛鏡臨丹闕,拷喧ナ盡C輝發。但見宵從海上來,寧知曉向雲陝刀B白兔搗藥秋復春,姮娥孤棲與誰鄰。今人不見古時月,今月曾經照古人。古人今人若流水,共看明月皆如此。唯願當歌對酒時,月光長照金樽裏。」とある。
※秋波落泗水:秋の澄んだ波の立つ川は、泗水(しすい)に流れ込み。 ・秋波:秋の澄んだ波。蛇足になるが、美人の涼しげな目許の意もあるが、ここは、前者の意。 ・泗水:〔しすゐ;si4shui3●●〕曲阜を流れる河の名。現・山東省南西部を流れる河。蒙山に源を発し、曲阜を流れて、大運河を構成する独山湖(=南陽湖)に注ぐ。泗河。中唐・白居易の『長相思』に「汴水流,泗水流,流到瓜州古渡頭。呉山點點愁。 思悠悠,恨悠悠。恨到歸時方始休。月明人倚樓。」とある。
※海色明徂徠:広く大きい(原野の)趣きは、徂徠山をはっきりとさせている。 ・海色:広く大きいおもむき。蛇足になるが、「うみ…」の意は無い。山東省の徂徠山附近は、海岸線より100キロメートル以上もの内陸の山で、広々とした緑色で覆われているところ。 ・明:あきらかにする。はっきりさせる。動詞。 ・徂徠:〔そらい;cu2lai2○○〕山の名。現・山東省の曲阜の北北東50キロメートルのところ、泰安市の東南30キロメートルのところにある。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)44−45ページ「都畿道 河南道」にある。
※飛蓬各自遠:行方定まらぬ旅人で、風に吹かれて飛んでいく蓬のような(我々=李白と杜甫は)それぞれに遠ざかっていくが。 ・飛蓬:風が吹くと根が抜けて転がり跳ぶ植物。旅人の行方定まらぬさま。「轉蓬」「孤蓬」のこと。=孤蓬:〔こほう;gu1peng2○○〕ヤナギヨモギが(根が大地から離れて)風に吹かれて、ひとつだけで、風に飛ばされてさすらうさま。「蓬」は、日本のヨモギとは大きく異なり、風に吹かれて転がるように風に飛ばされる。(風に飛ばされて)転がってゆく蓬。蓬が枯れて、根元の土も風に飛ばされてしまい、根が大地から離れて、枯れた茎が輪のようになり、乾いた黄土高原を風に吹かれて、恰も紙くずが風に飛ばされるが如く回りながら、黄砂とともに流れ去ってゆく。根から離れて風に吹かれて飛び流離うヨモギの一種で、風に吹かれて流離うさまを謂う。この「蓬」は、クリスマスリースのようになって、風に吹かれて地上を転がる根無し草。映画『黄土地』にもその場面が出てくる。江湖を流離う老人が、転蓬とともに歩み去ってゆく。黄色い砂埃がやがて、老人も転蓬をも隠してゆく…。中華版デラシネ表現の一。流転の人生の象徴。曹植の『吁嗟篇』に「吁嗟此轉蓬,居世何獨然。長去本根逝,宿夜無休閑。東西經七陌,南北越九阡。卒遇回風起,吹我入雲間。自謂終天路,忽然下沈泉。驚飆接我出,故歸彼中田。當南而更北,謂東而反西。宕宕當何依,忽亡而復存。飄周八澤,連翩歴五山。流轉無恆處,誰知吾苦艱。願爲中林草,秋隨野火燔。糜滅豈不痛,願與根連。」とあり、李白の『送友人』に「青山北郭,白水遶東城。此地一爲別,孤蓬萬里征。浮雲遊子意,落日故人情。揮手自茲去,蕭蕭班馬鳴。」とあり、盛唐・王之渙の『九日送別』に「薊庭蕭瑟故人稀,何處登高且送歸。今日暫同芳菊酒,明朝應作斷蓬飛。」とある。後世、南唐・李Uの『浣溪沙』「轉燭飄蓬一夢歸,欲尋陳跡悵人非,天ヘ心願與身違。 待月池臺空逝水,蔭花樓閣漫斜暉,登臨不惜更沾衣。」や南宋・陸游『貧甚戲作絶句』其六に「行遍天涯等斷蓬,作詩博得一生窮。可憐老境蕭蕭夢,常在荒山破驛中。」とある。 ・各自:ここでは、李白、杜甫それぞれのことをも謂う。 ・遠:遠ざかる。
※且尽手中杯:(別れるその時まで、)ひとまずは、手の中の杯(さかづき)を飲み乾そう。*前出・杜甫の『絶句漫興』に「二月已破三月來,漸老逢春能幾囘。莫思身外無窮事,且盡生前有限杯。」とある。李白は、この部分に呼応したのだろう。後世、日本の赤松蘭室は『有感』で「古墓爲田松柏摧,百年人壽似飄埃。功名富貴終何事,且盡生前酒一盃。」と使う。 ・且〔しょ;qie3●〕:まあ。まず。ざっと。また、しばし。しばらく。短い時間。「且」にはいくつかの基本的な意味があり、ほとんどが現代漢語と古漢語共通している。1.かつ。2.その上。3.しばらく。4.まさに…んとす。ここは、古白話の「まあ」「まず」の意や、短時間を表す「しばし」「しばらく」の意で使われている。ここは、同時進行や添加を表す「かつ」の意の用法(=〔A且B〕:「Aをするとき、同時にBをする」「AをしたりBをしたりする」)と見て、「且(か)つ盡くせ 手中の杯」と読み下すのは苦しい。(但し、国語(=日本語)の古語辞典には、「かつ」の義の一に「わずかに」「ちょっと」があるにはあるが…)。ここは「『莫・思身外無窮事』,『且・盡生前有限杯』」の意。「生きて、命ある今=しばしの間」の意。現代日本語で多用される「ちょっと(一杯)」「まあ(一献)」「ひとまず」「とりあえず(ビール)」といった「しばし」の意よりも重いおもむきのある「且」である。 ・尽:つくす。動詞。ここでは、飲み乾すの意で使われている。 ・且尽:とりあえず飲み乾せ。東晋・陶潛の『己酉歳九月九日』に「靡靡秋已夕,淒淒風露交。蔓草不復榮,園木空自凋。清氣澄餘滓,杳然天界高。哀蝉無留響,叢雁鳴雲霄。萬化相尋繹,人生豈不勞。從古皆有沒,念之中心焦。何以稱我情,濁酒且自陶。千載非所知,聊以永今朝。」とあり、唐・崔敏童に『宴城東莊』「一年始有一年春,百歳曾無百歳人。能向花前幾回醉,十千沽酒莫辭貧。」とある。曹操の『短歌行』「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。」や『古詩十九首』之十三に「驅車上東門,遙望郭北墓。白楊何蕭蕭,松柏夾廣路。 下有陳死人,杳杳即長暮。潛寐黄泉下,千載永不寤。浩浩陰陽移,年命如朝露。人生忽如寄,壽無金石固。萬歳更相送,賢聖莫能度。服食求~仙,多爲藥所誤。不如飮美酒,被服與紈素。」や陶潛の『己酉歳九月九日』「靡靡秋已夕,淒淒風露交。蔓草不復榮,園木空自凋。清氣澄餘滓,杳然天界高。哀蝉無留響,叢雁鳴雲霄。萬化相尋繹,人生豈不勞。從古皆有沒,念之中心焦。何以稱我情,濁酒且自陶。千載非所知,聊以永今朝。」や唐・崔敏童に『宴城東莊』「一年始有一年春,百歳曾無百歳人。能向花前幾回醉,十千沽酒莫辭貧。」がある。 ・手中杯:手に取り持った杯(さかづき)。 *独酌を謂うか。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAA」。韻脚は「臺開徠杯」で、平水韻上平十灰。この作品の平仄は、次の通り。
●●●●●,
○○○○○。(韻)
○○●○●,
○●○○○。(韻)
○○●●●,
●●○○○。(韻)
○○●●●,
●●●○○。(韻)
2015.1.23 1.24 1.25 |
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