湘南即事 | |
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唐・戴叔倫 |
盧橘花開楓葉衰,
出門何處望京師。
沅湘日夜東流去,
不爲愁人住少時。
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湘南 即事
盧橘 花開 きて楓葉 衰 へ,
門を出 でて何 れの處にか京師 を望まん。
沅湘 日夜 東に流れ去り,
愁人 の爲 に住 まることを少時 もせず。
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◎ 私感註釈
※戴叔倫:中唐の詩人。字は幼公。(現・江蘇省)潤州金壇の人。道教に帰依した。732年(開元二十年)〜789年(貞元五年)。
※湘南即事:湘南(現・湖南省湘潭県の西)地方の様子を詠じた詩。 ・湘南:漢の県名。現・湖南省湘潭県の西。また、湘水(=湘江)の南。「湘水(湘江)」:広西に源を発し、湖南省を流れて洞庭湖に注ぐ川の名。ここは、前者の意。 ・即事:その場の事を詠じた詩。『……即事』として、詩題にする。また、その場のでき事、様子。
※盧橘花開楓葉衰:金柑(きんかん)花が開いて、カエデの葉が一つまた一つと散っていき。 *句中の対で、「SV+SV」。「盧橘花開+楓葉衰」といった構成。 ・盧橘:〔ろきつ;lu2ju2○●〕金柑(きんかん)の別名。また、枇杷(びわ)の別名。 ・衰:〔すゐ;chui1(支韻)・cui1○?〕(木の葉や髪の毛のように一つまた一つと、落ちて)老いおとろえてゆく。
※出門何処望京師:町の城門を出た郊外では、どちらの方に都を眺め(られ)るのか。 ・出門:城門を出ることで、郊外へ行く意。漢魏・王粲の『七哀詩』三首之一に、「西京亂無象,豺虎方遘患。復棄中國去,委身適荊蠻。親戚對我悲,朋友相追攀。出門無所見,白骨蔽平原。路有飢婦人,抱子棄草間。顧聞號泣聲,揮涕獨不還。未知身死處,何能兩相完。驅馬棄之去,不忍聽此言。南登霸陵岸,迴首望長安。悟彼下泉人,喟然傷心肝。」とあり、盛唐・高適の『田家春望』に「出門何所見,春色滿平蕪。可歎無知己,高陽一酒徒。」とあり、盛唐・王昌齡の『春怨』に「音書杜絶白狼西,桃李無顏黄鳥啼。寒雁春深歸去盡,出門腸斷草萋萋。」とある。 ・何処:どこ。 ・京師:天子のみやこ。帝都。盛唐・王昌齡の『出塞行』に「白草原頭望京師,黄河水流無盡時。秋天曠野行人絶,馬首東來知是誰」とあり、後世、明・袁凱に『京師得家書』「江水三千里,家書十五行。行行無別語,只道早還ク。」がある。
※沅湘日夜東流去:沅(げん)江と湘(しょう)江は、昼となく夜となく東に向かって流れて。 ・沅湘:〔げんしゃう;Yuan2 Xiang1○○〕沅(げん)江と湘(しょう)江。共に湖南省を流れて洞庭湖に注ぐ川の名。沅江は、貴州に発し湖南省に入る川で洞庭湖に注ぎ、湘江は、広西に源を発し湖南省を流れて洞庭湖に注ぐ。 ・日夜:昼となく夜となく。『論語・子罕』に「子在川上曰:「逝者如斯夫!不舍晝夜。」とある。晩唐・杜牧は『汴河阻凍』で「千里長河初凍時,玉珂瑤珮響參差。浮生恰似冰底水,日夜東流人不知。」とする。 ・東流:東に向かって流れる。 *中国の河は、(基本的には西方の山から東海に向かって)どれも東に流れるので、「大自然の摂理」といったニュアンスも持ち合わせる。中唐・李益の『汴河曲』に「汴水東流無限春,隋家宮闕已成塵。行人莫上長堤望,風起楊花愁殺人。」とあり、中唐・薛瑩の『秋日湖上』に「落日五湖遊,烟波處處愁。浮沈千古事,誰與問東流。」とある。
※不為愁人住少時:物の哀れを感ずる詩人(作者)のためには、暫くも止(とど)まってはくれない。 ・不為:…のために…することはない。ために…ず。この句は「為愁人住少時」の否定文。一般的に否定は動詞の前に「不」を置く。ただし、介詞(≒前置詞)(ここでは「為」(…のために))」のある文(介詞+名詞+述語(動詞・形容詞)の場合の否定は、@:動詞の前に置く場合の外に、A:介詞の前に置くことがある。ここでは後者の型。「為愁人住少時」は「為(介詞)愁人住(動詞)少時」で、「不為愁人住少時」、或いは「為愁人不住少時」という形をとる。 ・愁人:悩みのある人。物の哀れを感ずる人。詩人。ここでは作者を謂う。 ・住:とどまる。とどめる。 ・少時:〔せうし;shao3shi2●○〕しばらく。しばらく(して)。まもなく。ややあって。=少頃。また、〔せうし;shao4shi2●○〕わかい時。幼少の時。ここでは、前者の意。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「衰師時」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○○●○,(韻)
●○○●◎○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2015.1.16 1.17 |
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