悼亡 | |
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唐 趙嘏 |
明月蕭蕭海上風,
君歸泉路我飄蓬。
門前雖有如花貌,
爭奈如花心不同。
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悼亡
明月蕭蕭 として 海上に 風あり,
君は 泉路に歸れば 我は飄蓬 。
門前に 花の如き貌 有りと雖 も,
爭奈 せん 花の如きと 心を同じうせず。
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◎ 私感註釈
※趙嘏:晩唐の詩人。元和元年(806年)頃〜大中六、七年(852年、853年)頃。字は承佑。楚州の山陽(現・江蘇省の淮安市楚州区)の人。若くして全国を遊歴した。大和七年の科挙試験に落第し、多年に亘って長安に留寓する。後、会昌四年(844年)に進士に合格し、渭南尉となる。
※悼亡:亡妻を悼み思うこと。妻に死に別れること。また、亡き妻。
※明月蕭蕭海上風:澄みわたった月がもの寂しげで、海に風が起こり。 ・蕭蕭:〔せうせう;xiao1xiao1〕もの寂しいさま。雨や風の音などの寂しいさま。『古詩十九首』第十三首に「驅車上東門,遙望郭北墓。白楊何蕭蕭,松柏夾廣路。下有陳死人,杳杳即長暮。」とあり、『古詩十九首』の第十四首に「去者日以疎,來者日以親。出郭門直視,但見丘與墳。古墓犁爲田,松柏摧爲薪。白楊多悲風,蕭蕭愁殺人。」とあり、東晉・陶潛の『挽歌詩』其三に「荒草何茫茫,白楊亦蕭蕭。嚴霜九月中,送我出遠郊。四面無人居,高墳正嶢。馬爲仰天鳴,風爲自蕭條。幽室一已閉,千年不復朝。千年不復朝,賢達無奈何。向來相送人,各自還其家。親戚或餘悲,他人亦已歌。死去何所道,託體同山阿。」とあり、燕・荊軻の『易水歌』に「風蕭蕭兮易水寒。」とあり、北宋・蘇舜欽の『秋懷』に「年華冉冉催人老,風物蕭蕭又變秋。家在鳳凰城闕下,江山何事苦相留。」とある。
※君帰泉路我飄蓬:あなた(=亡くなった妻)は黄泉路(よみじ)に帰っていき、わたしは彷徨(さまよ)っている。 ・君:あなた。ここでは、亡くなった妻を指す。 ・歸:本来の居場所(自宅・故郷・故国・墓所)にかえる。 ・泉路:よみじ。冥土。あの世。黄泉。 ・飄蓬:さまよう。さすらう。風に吹かれて飛び流離うヨモギの一種のことで、風に吹かれて流離うさま。この「蓬」は、クリスマスリースのようになって風に吹かれて地上を転がる根無し草。デラシネ。「轉蓬」のこと。なお、映画『黄土地』にその転蓬、飛蓬の様子が描写されている。曹植の『吁嗟篇』に「吁嗟此轉蓬,居世何獨然。長去本根逝,宿夜無休閑。東西經七陌,南北越九阡。卒遇回風起,吹我入雲間。自謂終天路,忽然下沈泉。驚飆接我出,故歸彼中田。當南而更北,謂東而反西。宕宕當何依,忽亡而復存。飄周八澤,連翩歴五山。流轉無恆處,誰知吾苦艱。願爲中林草,秋隨野火燔。糜滅豈不痛,願與根連。」 と詠われている。南唐後主・李Uの『浣溪沙』に「轉燭飄蓬一夢歸,欲尋陳跡悵人非,天ヘ心願與身違。 待月池臺空逝水,蔭花樓閣漫斜暉,登臨不惜更沾衣。」とある。
※門前雖有如花貌:門の前に、たとえ、花のように美しい顔(の女性)がいても。 ・雖有:たとえ、…があっても(たとえ、…がいても)。 ・花貌:花のように美しい顔。
※爭奈如花心不同:どうして、花のような(その女性)と、心を合わせ男女の約束を交わすことがあろうか。 ・爭奈:どうして。いかんともしがたい。いたし方がない。いかんせん。=無奈。俗語。 ・如花:花のような、の意。 ・同心:男女が約束を交わす。心を合わせる。 ・心不同:(その女性と)約束を交わすことはしない、の意。意志の否定。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「風蕭同」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
○○○●○○●,
○●○○○●○。(韻)
2016.8.29 9.25 |
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