迢迢百尺樓,
分明望四荒。
暮作歸雲宅,
朝爲飛鳥堂。
山河滿目中,
平原獨茫茫。
古時功名士,
慷慨爭此場。
一旦百歳後,
相與還北。
松柏爲人伐,
高墳互低昂。
頽基無遺主,
遊魂在何方。
榮華誠足貴,
亦復可憐傷。
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擬古
迢迢たり 百尺(ひゃくせき)の樓,
分明に 四荒を 望む。
暮に 歸雲の宅と 作(な)り,
朝に 飛鳥の堂と 爲(な)る 。
山河 滿目の中,
平原 獨(ひと)り 茫茫(ばうばう)たり。
古時 功名の士,
慷慨 此の場を 爭ふ。
一旦 百歳の後,
相ひ與(とも)に 北に還る。
松柏 人の 伐るところと 爲り,
高墳 互ひに低昂す。
頽基に 遺主 無く,
遊魂 何方(いづかた)にか 在る。
榮華 誠に 貴とするに 足るも,
亦た復(ま)た 憐み傷(いた)む 可(べ)し。
◎ 私感註釈 *****************
※陶潛:陶淵明。東晉の詩人。。。。
※擬古:先秦、漢魏の古詩に擬らえて作ったというが、上古の詩というよりも、彼自身の一連の作と余り変わらないようだが…。これは、九首のうちの其四になる。
※迢迢百尺樓:高々とした百尺の樓は。 ・迢迢:〔てうてう;tiao2tiao2○○〕高いさま。遥かに遠いさま。 ・百尺樓:とても高い(高)楼。換算すれば22.5メートルの高さのたかどのになるが、ここは実数ではなくて、形容の一。
※分明望四荒:はっきりと、四方の果てを望める。 ・分明:はっきりと明らかなこと。はっきりとしている。 ・望:見る。のぞむ。 ・四荒:四方の国の果て。
※暮作歸雲宅:夕方には夕べの雲のすみかとなり。 ・暮作:夕方には…となる。 ・歸雲:夕べの雲。朝、山より生じて夕方に元の場所に帰って落ち着く雲。 ・宅:家。すまい。
※朝爲飛鳥堂:朝には飛ぶ鳥のおもてざしきとなって(鳥が盛んに活動している)。 ・朝爲:朝には…となる。 ・飛鳥:飛ぶ鳥。 ・堂:おもてざしき。
※山河滿目中: 見渡す限り山と河であり、その中では。 ・滿目:目いっぱいに満ちる。見渡す限り。
※平原獨茫茫:(その中で)平原だけが獨り茫々として広がっている。 ・茫茫:〔ばうばう;mang2mang2○○〕ぼうっとしてはっきりしないさま。広々として果てしないさま。
※古時功名士:(その平原では)その昔、功名手柄を立てようとした人々が。 ・古時:昔。 ・功名士:手柄を立てて名を揚げようとした武人。
※慷慨爭此場:(「古時の功名士は」)心を高ぶらせて、この地を争った。心を高ぶらせて、この地で覇を争った。 ・慷慨:心を高ぶらせる。いきどおり嘆く。ここは、ここは、前者の意。 ・爭此場:この地を取りあう。ここで戦闘をする。
※一旦百歳後:ひとたび、死んでしまえば。 *ここは、『詩經』唐風・「葛生」「葛生蒙楚,蔓于野。予美亡此,誰與獨處。葛生蒙棘,蔓于域。予美亡此,誰與獨息。角枕粲兮,錦衾爛兮。予美亡此,誰與獨旦。夏之日,冬之夜。百歳之後,歸于其居。冬之夜。夏之日,百歳之後,歸于其室。」に基づいていよう。 ・一旦:ひとたび。ある朝。一朝。 ・百歳後:死後。人生が終わった後。
※相與還北: ・相與:(「古時功名士」)たちが、ともに。 ・還:かえる。もどっていく。 ・北:墓山。古墳群で、北山のこと。現・嶺。芒山ともいう。洛陽のすぐ北にある。嘗て洛陽の貴人が亡くなった時ここに葬った。現在も多くの古墳が残っている。ここでは、広く墓地の意で使われている。漢の梁鴻の『五噫歌』「陟彼北芒兮,噫!」や唐の沈期の「北山上列墳塋,萬古千秋對洛城。」と、詠み込まれている。
※松柏爲人伐:(墓場に植えてあった)松やコノテガシワのような長く繁茂する樹木も、(墓場が無くなるという状況の変化、時代の変遷によって)伐られて、(マキとなってしまう)。『古詩十九首之十四』の「去者日以疎,來者日以親。出郭門直視,但見丘與墳。古墓犁爲田,松柏摧爲薪。白楊多悲風,蕭蕭愁殺人。思還故里閭,欲歸道無因。」や、陶淵明『諸人共游周家墓柏下』「今日天氣佳,清吹與鳴彈。感彼柏下人」を踏まえている。後世、唐の劉希夷が『白頭吟』「洛陽城東桃李花,飛來飛去落誰家。洛陽女兒惜顏色,行逢落花長歎息。今年花落顏色改,明年花開復誰在。已見松柏摧爲薪,更聞桑田變成海。」 ともした。そこでの「松柏」の意は、墓場の木。墓場に故人を偲んで植えた松柏も、年月の経過とともに墓地が忘れ去られて、墓地も廃棄されて、やがては、そこの松柏も砕かれてマキとなってしまうこと。ここの「柏」は、万代に亘って常緑・常青であり、悠久を表す「松柏」は、当然ながら常緑のものであって、常緑樹「コノテガシワ」のこと。日本の落葉樹の(柏餅に使われる)「カシワ」とは、異なる。 ・松柏:墓場に植えてある樹木。 ・爲人伐:人に伐られてしまう。
※高墳互低昂:(盛りあがった)土饅頭は、高くなったり、低くなったりしてならんでいる。 ・高墳:盛り土をした墳墓。土饅頭。 ・互:たがいに(高低をつけているようになっている)。 ・低昂:高くなったり、低くなったりしていること。ひくめることとあがること。
※頽基無遺主:くずれた墓は、祀ってくれる人もなく。 ・頽基:〔たいき;tui2ji1○○〕くずれた(墓の)土台。 ・遺主:〔ゐしゅ;yi2zhu3○●〕遺族。喪主。残された家族。
※遊魂在何方:死者の魂は、どちらに行ったのか。死者の魂は、どちらにあるのか。 ・遊魂:肉体から離れた魂。「魂」は、生きている人の精神活動の意で使うことが多いが、ここでは、死者の魂。 ・何方:どちら。どの方向。いづかた。
※榮華誠足貴:榮華は、誠に、貴いものとするに足るが(はあるが)。 ・榮華:草木が繁茂して、栄えるように、ときめき栄える。華やかに栄える。 ・誠:まことに。 ・足貴:貴いものとするに充分だ。
※亦復可憐傷:(栄華)もまた憐れみいたむべきと謂えるものだ。 ・亦復:(栄華)もまた。 ・可:べきものだ。 ・憐傷:憐れみいたむ。
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◎ 構成について
仄韻の一韻到底。韻式は「AAAAAAAA」。 韻脚は「荒堂茫場昂方傷」。平水韻部で見れば、下平七陽。この作品の平仄は次の通り。
○○●●○,
○○●●○。(韻)
●●○○●,
○○○●○。(韻)
○○●●○,
○○●○○。(韻)
●○○○●,
○○○●○。(韻)
●●●●●,
○●○●○。(韻)
○●○○●,
○○●○○。(韻)
●○○○●,
○○●○○。(韻)
○○○●●,
●●●○○。(韻)
2003.11.13 11.14 11.15完 11.26補 2005. 4.26 2007. 5. 1 |
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