Somogyi Club
想茂木倶楽部

 Ervin Somogyi氏の作るギターは、「フィンガーピッカーの夢」と言われるように、とても魅力のあるギターです。
そして、私がソモギギターに「はまっていく」うちに、「でも、夢のギターという言葉は適切でないのでは?」とか「理想の音って本当?」という思いを強くしています。ソモギギターも、「一人の製作家の個性を持った音」として捉えたいという思いがあります。また、「ソモギギターはハカランダとヨーロピアンの組み合わせが一番」「MDのカッタウェイタイプが一番」「ダブルレイヤーでなければ」「ラティスブレイシングでなくては」「’90s前半の音が一番いい」「トップの薄い最近のものはよくない」等の意見についても、「ちょっと待って。綺麗な音のソモギギターはいろいろあるよ。」と言いたい気持ちでいます。それぞれの年代にもそれぞれのよさがあります。(ご本人は、最新のものが一番とおっしゃるかもしれませんが。)
このページでは、その「ソモギギターのよさ」を探る為に、私なりに気がついたことを、また、時折、徒然なるままに(?)書き溜めていけたらと思っています。GibsonMarkSeries Funの「ギター雑感」に書きとめようかとも思ったのですが、このページを作成した時点で、ソモギギターを年代の流れの中で捉えた文献を彼ご自身のページの「履歴」以外では見たことがなかったので、私的にまとめておきたいと考えました。その後、ようやく願いがかなってソモジ氏ご自身の本の出版され、また、シンコー出版アコースティックギターブックにて特集を組んでもらい、いろいろとわかったこともあり、このページの削除も考えたのですが、部分的にそれらにない情報もあることを考慮して暫くは続けていこうと思っています。
アコースティックギターを科学的な立場から製作する視点は、私のメインギターであるマークシリーズと共通する面があります。事実、構造の中にも一部、共通する考え方も見てとることができます。しかし、マークシリーズと異なり、ソモギギターはプレーヤーに積極的に受け入れられ、今や潜在的なものも含めると影響を受けた製作家は数知れません。その大きな違いが何であるかも、少しずつでも探れたらいいと思います。
但し、くれぐれもErvin Somogyi氏にご迷惑をかけないように気をつけて・・・。

関 連 年 表

1944 Ervin Somogyi氏、HungaryのBudapestにて誕生。
1959 Ervin Somogyi氏、15歳でフラメンコギターを始める。
     (Austria, England, Cuba, Mexico, Peru and,Spainと移住した後)家族で渡米。
1970 Irving Sloaneのseminal bookを用いて友人がギター製作をしたのに触発されて自分も製作。その後flamenco guitarの製作をしたものの、その製作環境の厳しさを感じ、classic guitarを製作するようになる。
1971 ビジネスライセンスを取得。バークレーでリペアを始める。
1972 Brooks Hall Craft Fair参加。デニスグレイスの工房を引き継ぎクラシックギターのルシアーとして活動開始。ラベルには、まだ、書かれてはいないが、この年からシリアルナンバーを計算している。
1975 Folk Instruments and Folk Music参加。
1976 Will Ackerman、自分の音楽レーベル「ウインダム・ヒル」を設立。友人60人から300ドルを借りて作り、最初は健康食品のお店にレコードを置いてもらっていたと言う。
classic(ローズ)確認。ヘッドはまだ、“Magic Darts”でない。炎を象ったような形に見える。
1977 フルタイムでギター製作開始。Carmel Classic Guitar Festivalに出品。
  若い芸術家として、自信を持ってフェスティバルに参加したものの、他のギターメーカーの作品の素晴らしさに自分のギターが素人の作品に見えたと言う。その為、製作家を続けていくことを迷った年である。Japan Design Net「サンフランシスコ Design for Life」第10回ギターメーカーErvin Somogyi(アービン・ソモギー)工房訪問のインタヴュー記事からも、そのようすがよくわかる。その後、Ervin Somogyi氏は鉄弦ギターの製作中心にシフトしていく。
     for Ellie Lewis D、 classic guitar確認 サイドバックハカランダのD確認 serial無し
     ’77s頃よりクラシックでは“Magic Darts”と呼ばれる尖ったヘッドの原型(現在のものは、クラシックも含め、尖りがもっと長く、ヘッドも大きい。)が見られるが、鉄弦では採用されていない。Ervin Somogyi氏によれば鉄弦製作は’78が最初とのことだが、2本の鉄弦ギターのラベルは’77sのはずで1本は私の手元にある。’77sに作り始めて’78sに完成したものが2本あるのかもしれない。
1978 Dハカランダ確認。ヘッドの意匠変化。ブリッジが薄く広くなる。まだ、バラを象ったものにはなっていない。Guild of American Luthiersに参加始める。参加したギターのブリッジは現在のものに近いとのことである。
1979 serial52classic guitar確認トーレスタイプ。小さなラベル。
1980 KTVU Channel 2、Ervin Somogyi's workについてテレビ放映する。
     Will Ackermanを始めとするウィンダムヒルのプレーヤー達がソモギギターを使い始める。ウィンダムヒルのギタリスト、Alex de Grassi と Daniel Hechtたちは、Will Ackermanから「これまでに無い素晴らしいギターがある」と、ソモギギターを紹介され、次々と使用するようになっていったと言う。Michael Hedgesもファーストアルバムでは、ソモギギターを多くの曲で使っている。
この年作成したDaniel Hechtのソモギギターが1本目のMDとのこと。このギターから細く背の高いブレイシングを採用している。
Michael Hedgesは、1980年にWill Ackermanに見出され、1981年にファーストアルバムを出している。
1981 Alex de Grassi と Daniel Hecht がカーネギーホールにてソモギギターで演奏する。
1982 Frets Magazine にて"Best Luthier" categoryにランクされる。(一回目。トータル四回ベストルシアーとなる。)
1983 serial76 D確認 ラベルが’70sと異なる。ヘッドに短い“Magic Darts”が取り入れられている。
     サイドブレイスの配置や形状、スキャロップナットや太いサドル等、既に’90s後半の仕様に近い。
     ソモギギター(MD)がthe National Fingerpicking Championshipsの賞品となる。
     ギターを獲得したのはPat Donohue。
1985 Frets Magazine にて"Best Luthier" categoryにランクされる。(三回目)
1986 serial95 MD確認。
1987 Ed Gerhardデビュー。彼は現時点で私が確認できた最も初期のInterrupted RosetteのDタイプ(’85serial90)を使っている。
     John Denverに初のジャンボモデル2本製作。OO、OMはヒロコーポレーションの依頼で製作を始める。
     serial100MDメイプル、104Dハカランダカッタウェイ確認。
1988 serial105MDダイヤモンドインレイ確認。アートワーク作成開始。
1990 John Denver がホワイトハウスにてソモギギターを使用する。
1991 火事でシェリダンストリートの工房と自宅が全焼する。
1992 ラミネートサイドを開始。ただし、全てのソモギギターに取り入れられてはいないようだ。
1994 serial153 SJ及びserial154 SJ確認。オークランドに工房を移す。
1995 serial157確認
’90s中ごろよりラティスパターンの研究・製作を開始。しかし、全てのギターに取り入れられてはいないようだ。
1996 serial170 MD及びserial176 MD確認
1996 Healdsburg Guitar Festival参加。カリフォルニアギタートリオのファンフレットのギターを出品。
     初のテーパードボディ・ファンフレットのギターを製作
1997 日本の“楽器フェア”参加。カクタコーポレーションのブースにて、レクチャーする。
     serial187 SJ確認。(カクタコーポレーションブースに出品された5本のうちの1本。また、’98年2月の“Player”誌の内田氏との対談にも掲載されているギター。)
     serial192OM確認
     serial201MD確認
     serial204クラシック確認
     ’97末より、小さな丸い「想茂木」印が押されるようになる。(日本向けのみ?)
     サドルのデザインをこの頃から変更?
1998 MDを5%縮小したSK(小松原俊モデル)作成。
     この頃よりサイドのダブルレイヤー(ラミネイト・合板化)を採用始める?
     serial206 SJ確認
1999 Healdsburg Guitar Festival参加。SJアートギターを出品。
     serial216 MD及び222 MD、225、226確認
2000 全てのギターがラティスブレイシング・ラミネートサイドバックになったようである。。
     serial258 OM確認。トップがシェラック塗装。serial242SJ、243SJ、244MD、
     247SJ、261OM確認
     この年から、「想茂木作」という大きな角印がラベルに押されるようになる。
2001 Healdsburg Guitar Festival参加。亀とうさぎの話を道化師に例えたアートギターを出品。
     serial269確認
2002 serial281OM、297MD確認
2003 Healdsburg/Santa Rosa Guitar Festival参加(参加した資料が見当たらない為確認できず。)
     serial300MD、310OM確認
2004 NEWPORT Guitar Festival、Ebata by Somogyi 参加。Somogyi氏、心臓バイパス手術の療養中。
     serial318MD、324、325SJ確認

2005 Healdsburg Guitar Festival参加。エボニー&フライングバードインレイのMD3本、OM1本を出品。
     serial368OM確認。serial371MDフライングバード確認。
     serial344SJアートギター、350MD確認
     一部にバックブレイスにラティスブレイスを採用。アレッシーのペグを採用始める。
2006 NEWPORT Guitar Festival参加。アフリカンブラックウッドのギターとホールにラインの入ったギターを出品。
2007 Healdsburg Guitar Festival参加。アートワークロゼットのOM・緑のストーンデザインのロゼッタ&もみじインレイの2本のギター、ラティスブレイシングバックのSJなど出品。
     ラティスブレイシングバックのギター用に新しいひし形のラベルが貼られるようになる。
     serial406OMアートワークロゼット確認
     serial417MD確認
     serial425MDストーンデザインロゼッタ&メイプルリーフインレイ確認

※「確認」したソモギギターは、私自身が画像・或いは直接確かめたものです。その為「見間違い」等も有り得ると思っています。
※参考文型アコースティックギターブック29。私自身も取材協力させて頂きました。
※年表の内容について、一部
Ervin Somogyi:Guitars & Artworkも参考にさせて頂きました。
Ervin Somogyi氏のお名前については、なるべく英語名で書かせて頂きました。ギターブランドとしては”ソモギギター”と表現させてもらっています。Ervin Somogyi氏ご自身が、少なくとも日本向けのギターについて「想茂木作」の角印を今も使われていることが理由です。(余談ですが、ハンガリーにはショモジ地方という地名があるそうですね。)
※お手数をおかけしますが、間違え等、気がつかれましたらaya−yuまで教えてください。
※コンテンツや内容等、支障のある場合も連絡を頂けたらと思います。宜しくお願いします。

想茂木倶楽部雑感
’07.8.
・モデルについて、MD・OM・OOO・OOについては、弦長やボディサイズによる音の違いはあるものの、一貫して澄んだピアノサウンドを追求した音作りをされてきているように感じています。SJについては、じゃりっとした強い倍音の出るものが多いと思います。(但しSJでもピアノサウンドのギターもあります。)12弦ギターにSJボディが使われるのも分かる気がします。

・年代の変化について、大きく分けると’70s〜’80s半ば・’80s半ば〜’90s・’00s〜現在と区分けできると感じます。
’70s〜’80s半ばのソモギギターは、必ずしもフィンガーピッキングに特化したギターではなく現在の所、鉄弦はDタイプしか確認できていません。’70sでは、まだヘッドの形状も異なり、一見してソモギギターと判りません。しかし、その音作りは、紛れもなくErvin Somogyi氏の音であると感じられます。実際、ウィンダムヒルに選ばれた音は、この頃の音であり、フィンガーピッキングに特化し、進化したソモギギターではなかったはずです。しかし、ブレイシングの形状等、’83メイプルDの内部構造は、既に’90sのものに近く、温かみがあり、私の特に好きな年代です。
’80s半ば(’83頃から?)〜’90sは、モデルの分化とともに、倍音の強まりを感じています。エッジのきいたジャリーンとした鳴りのするものが、透明感のあるMDの中にも感じられることがあります。(それが時として私には音の暗さに感じられることもあるのですが、逆にそれが好みの方もいるようです。)多くの’80s半ば〜’90sのギターは、「軽く弾いても、音が大きい」と感じるギターが多いと思います。特に’90s前半のギターの音が好きだというプレーヤーや製作サイドの方の声も聞いています。
’00s〜現在のギターについては、ラティスブレイシングやダブルレイヤーの影響からか、特にMDの音色に変化が感じられました。語弊を恐れずに例えて言えば、それまでのソモギギターのDやMDが「アップライトピアノの音」であるなら、’00s〜現在のギターが「グランドピアノの音」のように感じられます。トップ面全体で、とても深く長く鳴るのが感じられます。
’05以降、バックの硬性の均一化を図る為のバックブレイスも採用され、ギターとしては、より完成度が高くなっており、Ervin Somogyi氏自身もおそらく、より新しいものをソモギギターの到達点として捉えていると思います。しかし、トップの厚みがどんどん薄くなることや、ラティスブレイスのギターの音色に対し、ユーザーからの異論も存在するようです。私はラティスの音も大好きですが・・。

・Artworkの入ったギターは、とても手の込んだ美しさを持ち、工芸品としてのギターの素晴らしい価値を感じています。また、Ervin Somogyi氏のおっしゃる通り、音に対する影響はほとんどないのでしょうね。ですが、私個人は感覚的に、これもオーバービルドではないかと感じます。私はソモギギターを音で感じていたいのです。いつかArtworkをギターと別に手に入れられたらいいと思っています。

・おそらくショップで私の’00sOMは、ヘッドのつき板の塗装不良が原因で買い手がつかなかったであろうことや、程度が多少悪かったり、売れ筋の型でないと、いくらよい音でも買い手がなかなかつかない状況を時々見ながら「音で選んで欲しい」とつい思ってしまっています。でも、価格が価格なだけに買う人から見れば「売れ筋の型で音も程度もいいギターが欲しい」と思うのは仕方のないことかもしれないですが・・・。

・ソモギギターは、今はプレーヤーからコレクターに買い手がシフトしていることをErvin Somogyi氏自身が複雑な思いで感じていらっしゃるそうです。価格から言って普通のプレーヤーにソモギギターを手に入れるのは難しくなってきているのは、ある意味でよくわかります。手元のソモギギターも、いつか時が来たら、よいプレーヤーに譲れたらと考えてもいます。ただ、一方で、叩き系等の演奏技術の進化が、ソモギギターを「過去」に押しやらなければいい、とも思います。未来型のギターはメイトン・・だったりして。(叩き系は主流になり得ないという意見も多くありますが・・・。)

Ervin Somogyi氏は、「ヘッドの意匠は音には関係ない。だから製作家は自分のデザインをヘッドに工夫すべきだ」という趣旨のコメントをムック本等で何度かしています。でも、私には、残響の長いErvin Somogyi氏の作るギターの音作りに、重く大きな彼のヘッドがちょうどマッチしているような気がしてなりません。国内にヘッドのないアコースティックを作られた製作家がいらっしゃいますが、ヘッドのあるものに比べてギラギラと音の暴れるギターとなっていました。でも、それぞれの製作家の方が、それぞれの経験の中から、自分のギターにとって大きな影響を与える部分とそうでもないと感じる部分は、きっとあるのだと思います。また、アプローチの方法も一つではないのでしょうね。
’70sから続く尖りヘッド(’70sからだんだん長くなってきた・・)は、確かにソモギギターの象徴と言えると思います。

’05MDフライングバードインレイの「フライングバード」の一部は、彼のファンシースノーフレイクインレイの一部分の転用であるのがわかります。Ervin Somogyi氏は、4本のフライングバードインレイのギターをヒールズバーグに出品したときに、後ろを向いて舌を出していたのではないでしょうか?Ervin Somogyi氏一流のユーモアを感じています。

’07.9
・最近のソモギギターの特徴から、どうやらErvin Somogyi氏もバックにラティスを採用することが、必ずしもねらった音作りにあったこととは思っていないように感じています。私の確認したギターで、採用を始めた’05から現在(’07)まで、どちらかというとノーマルなバックのもののほうが多く見られているからです。特にMDはノーマルバックのギターが多いようです。ラティスブレイシングを採用している国内屈指のルシアーのお話では、バックにラティスを採用すると音にまとまりができるけれど、煌びやかさは少なくなるので一長一短があるとのことでした。もともと(特に6弦の)低音の響きが強いと言われるMDでは、より高域の煌びやかな音が欲しいと考えたのかもしれません。

・これまでMD、OOO、OOの12フレットジョイントのソモギを弾いたことがあります。同時に弾いた訳ではないので、比較は難しいのですが、どれも素直で柔らかなピアノサウンドで、とても気持ちよかったです。

’07.10
・ロゼッタに組み込まれたアートワークは、自然な美しさを感じさせられました。ホール周りは、もともと補強もしっかりされているはずで、無理のない組み入れ方だと感心させられもしました。ロゼッタについては、他にもいろいろ面白い工夫もされているようですね。

Tapered Bodyについて、プレーヤーの抱えやすさを考慮したとても画期的な構造だと思います。ただ、やはり6弦の音色は、(例えるなら他弦の響きはそのままで、6弦だけMDがOMになったように)かなりタイトなものになるようです。もともと大きなボディを抱えやすくする工夫なので、小さなボディのギターには必要ないとも思いつつ、突然Tapered Bodyのギターを弾くと不思議な感覚を覚えます。でも弾きなれればかえって扱いやすいかもしれませんね。

・’90年代始めにErvin Somogyi氏の工房が火災に遭われたそうです。以前、その前と後とでの音の違いを言われる事も多くあり「火災でよい材がなくなってギターの音が悪くなった」という話もありました。ただ、私の見解としては、’90sにはサイドのラミネート化を始め様々な試行をしており、そのギターによりかなり異なる音のものもあり、プレイヤー達が思い違いをしたのではないかと思っています。繰り返しになりますが古いソモギギターも新しいソモギギターも、それぞれとてもいい音だと思っています。

’07.11
・エドガーハートの「ソロギターパフォーマンス」を手に入れて改めて彼のソモギギターを観察しつつ聴きました。とても柔らかで繊細で表現力のあるギターです。私の手持ちでは、やはり’83Dメイプルが最も近い音を出すように感じます。彼が今のソモギギターをどのように感じているか、聞いてみたい気がします。

・’98年2月のプレーヤー誌でのErvin Somogyi氏と製作家内田氏との対談の記事を改めて読み返してみました。Ervin Somogyi氏は、ギターに「芸術性を付加しようと努力している」という趣旨のお話をしています。また、それまでの「スティールストリングギターとクラシックギターとの中間的なものを目指している」とも述べられています。ソモギギターの装飾がヨーロッパ的なのも、透かし彫りが取り入れられたりするのも、そうした考え方がバックボーンにあるのだなと改めて感じました。

・最近のErvin Somogyi氏の文章の中で、例えばXブレイスの場合、その交点部分をうまくスキャロップすることで、サウンドホール周辺も活用して広く効率的な振動をさせることができるという趣旨のものがありました。しかし、だとするとホール低音側に大きく彫られたアートワークは、板を裏打ちすることを含めて、影響がでる理屈になるような気もします。大した影響ではないのだとは思うものの、ちょっと気になりました。

・’95あたりからペグをシャーラーからアレッシーのオープンバックに変更したものが増えてきました。ヘッドの重量を減らしているような気もします。

’07.12
・’05MDフライングバードと’07MDメイプルリーフでは、ギターの重さが違います。フライングバードは2.3kg、メイプルリーフは2.1kgです。おそらくはサイドバックの質量の違いが大きいと思うのですが、それが音色にも現れているように感じます。仕込み角もヘッドの厚さも異なり、全く違う音作りがされているのを改めて感じています。

・余談ですが、実は’07MDメイプルリーフは不思議な異音がしました。ネックを持たずにストローク等強く弾くととネックの内部からギターの振動にあわせて「緩んだペグがカタカタ言うような」異音がしたのです。(ネックをにぎっていると音がしないことが多く、暫く気付きませんでした。TAKE1で一部、押さえそこないのように聴こえているのは、実はこの異音だったりします。)でも、思いつきにトラスロッドを少し締めたらピタッとおさまりました。移動のときに緩んだのか、締め忘れられたのか、「こんなこともあるのか」と、とにかく不思議な初めての経験でした。(笑)

・ソモギギターは現在400本代のシリアルですが、日本にも相当数あるようです。どのような方たちがお持ちなのでしょうね。やはり、ヒロコーポレーションの功績が大きいのでしょう。

・’07MDとともに貰ったErvin Somogyi氏の手紙には、ソモギギターについてのメンテナンスの方法や、効率のよいトップ板等の動きについての説明が書かれていました。新しいギターについての感想を求められていたのでメールをしたら丁寧で暖かい返事を頂きました。とてもうれしかったです。

’08.1
・アコースティックギターブックに’07メイプルリーフが掲載されました。ロゼッタがErvin Somogyi氏のベランダ石から思いついたと言うのが面白かったです。

・アコブックにはヒールズバーグの最終日の晩はErvin Somogyi氏は、いつもガウンを着ているとも書かれていました。言われてみればそうかもしれませんが、その理由は何でしょうね。他の著名なルシアーたちと撮った写真では、おひとりだけ半ズボンだったのも、ちょっと印象に残っています。

・ブルージーさんが、ようやくソモギギターの代理店になったそうですね。これまでソモギギターの扱いに配慮し、苦労されていたのを感じていたのでよかったな、と思います。

・’05MDフライングバードは弾きこんで、最近、ようやく本来のこのギターの音に変化しつつあるのを感じます。トップも手に入れた時に比べると、随分色が焼けてきたと思います。’07MDメイプルリーフの音がどのように変化していくかも、これから楽しみです。

’08.2
・クラシックギターでは、最近、Nomex 社のハニカムコア材を利用したダブルトップを採用する製作家も増えているようですね。鉄弦でも、暫く前に、ブルージーさんで弾かせてもらったサーゲーディヤングギターはダブルトップを採用していましたし、ヒールズバーグ2001でErvin Somogyi氏のお弟子さんの松田さんが作られたギターにも採用されていたと記憶しています。でも、Ervin Somogyi氏ご自身が採用されたという話は聞いたことがないですし、鉄弦での主流には、「今の所」、なりそうもないようです。実際、私自身のダブルトップの印象は悪くないですが、それほど強くありません。Ervin Somogyi氏の'00s以降のラティスブレイシングの印象のほうが「強烈」でしたし、カーシャブレイシングの音色のほうが好みが分かれると思うものの、「個性的」でした。でも、このブレイシングも、鉄弦でも、さらに進化した取り入れ方ができていくといいと思います。

・これまで、マリオボーラガー、松田さん、大屋さん、Ebataさん、レイモンドクラウトといったErvin Somogyi氏のお弟子さん達のギターも、いくつか弾いてきました。それぞれに素晴らしいギターを製作されていますが、やはり、一人として同じ音創りをしている方はいなかったと思います。ただ、個人的には、大屋さんのギターの音(参考;伊藤賢一さんのギター演奏)が最も好みであるのですが(オーダーまでしたくらいだから当然です)、レイモンドクラウトの一本目のギターは、不思議と、私にとって大屋さんのギターに似た印象のあるのを感じていたりします。また、私の弾いた松田さんのギターには、タク・サカシタさんのフラットトップを思い出させられたものもあったりしました。私の弾いたEbataさんのギターもふわっと包んでくれるような優しさのある音色でよかったですし、マリオボーラガーは、Ervin Somogyi氏の後継者と言われるほどのギターを作っているのは知られています。自分勝手な印象を書き連ねましたが、これからも頑張ってほしいな、と素直に思ったりします。

’08.4.
・アコースティックギターマガジン35にErvin Somogyi氏の失敗談が掲載されていました。ニカワと蜂蜜を間違えて、貼り付けたと思っていたブリッジがポロリと落ちたという話です。もしかすると、名工Ervin Somogyi氏は、意外とおっちょこちょいなのかもしれませんね。親近感を覚えました。

・面白いビデオクリップをみつけました。ある製作家の方がご自分の参考になるようにネット上に浮かしたものと思います。ヒアリングが苦手なので半分も意味はわかりません。でも、とても興味深いです。
http://www.connor.net.au/somogyi/index.html

・'70s〜'80s前半のソモギギターはフィンガースタイルに特化していないと書きましたが、それはドレッドノートのギターが多いと言うだけで、どうも、指板やネックやボディの作りを見ると、全てが、かなりクラシックギターに近いものではあると思います。当時、フィンガースタイルという分野がなかったために、特化のしようがなかっただけで、音色もネックのプレイアビリティも、実際はかなりフィンガー向けのもののように感じ始めています。

’08.8.
・ソモギギターの強度について、よくギターをご存知の方の中にも「マーチンやギブソンに比べて弱いのではないか」「長い年月はもたないのではないか」「できたばかりが最もいい音なのではないか」などと言われる方がいるようです。ですが、私の知る範囲で、ソモギは構造的に弱いギターという印象は受けていません。ある意味では、ソモギはとても耐久性のあるギターだと感じています。その理由はおそらくブレイシングにあるのだと思います。細く背の高いブレイシングが合理的に貼りめぐらされ、ギターの張力に対しては、主にブレイシングで支えているギターのように思えます。ネックブロックもがっちりとしており、ネック自体も太めでファイバーが入っていおり、鉄弦の張力対策は、なまじなトップ厚のあるギターよりもしっかりしていると感じます。音自体も作られた直後より数年以上経たもののほうがそのギターらしい音に落ち着くような気がします。ただ、ボディヒッティングは、やっぱり厳しいですね。(笑)
ソモギギターが100年後にどんなギターになっているのかも、興味があります。もちろん私はその頃は弾けないでしょうけれど・・。
・とうとうラティスバックとアートワークの入ったギターを手に入れてしまいました。巡り会わせと感じています。バックのラティスは、確かに音に影響しているだろうと思うものの、もしかすると他の音つくりの影響のほうが大きいかもしれないとも感じています。硬性が高まるであろう事と、均質になるであろうことは想像できるものの、硬いハカランダにスプルースのブレイシングを工夫する影響は、トップ板のブレイシングを工夫するほどの影響ではないのではないかと想像しています。実際はどうなのでしょうね。

'09.3.
・昨年、Ervin Somogyi氏は、サイドポートのあるギターを幾つか作られました。彼は始め「しょうゆ指しの穴が2つのほうがスムースに流れるように振動がしやすくなる」とコメントしていたと聞いています。ですが、最近は、カーシャスタイルの製作家たちが以前言っていたように、「プレイヤーのためのもの」と言っているそうです。サイドポートについては、ソモジ氏のバックを振動させることを前提としたシステムでは、おっしゃる通りなのだと思います。
でも、最近の私見ですが、サイドバックの役割を音の反射をメインに作られたシステムの場合は、トップの振動時間が長くなるのかもしれませんね。以前、ソモジ氏がおっしゃっていた「しょうゆさし」の理論が硬性の高いバックなら成り立つような気がしています。
バックを抱え込んで弾いた場合についてのソモジ氏の見方についても、同様にバックを振動させることをねらったシステムでなければ、結果は異なるのかもしれませんし、音の反射を考えれば彼のギターを抱え込んで弾いてもハカランダの音はハカランダの音ですし、メイプルの音はメイプルの音のような気もします。
こんな戯言は素晴らしいギターの前で意味をなさないのを承知しつつ、考え廻らせることも楽しくてしかたないです。
・久しぶりに青爺さんに行けました。’76sクラシック、’78sDハカランダ、’99sSK、’05OOアートワークを確認しました。残念ながら’78sDハカランダは既にHOLDされていましたが、幾つか重要なことがわかりました。
ひとつは’76sクラシックのヘッドはマジックダーツではないこと。クラシックのヘッドをやたらと変更することは考えにくいですから、マジックダーツは’77s頃から取り入れられたと言えると思います。手元の’77sクラシックは、マジックダーツを取り入れた最初期のギターであると言えます。
それと、’78sDには’80s以降のソモギギターと同じラベルが貼ってありました。’77sDはクラシックと同じ小さなラベルでしたから、あのラベルが’78年から鉄弦ギターに貼られるようになったと言えると思います。
シリアルについて、Ervin Somogyi氏の工房が’80sに火事になった際に資料が一旦燃えてしまったものの、鉄弦ギターのラベルにシリアルを書き始めたのはNo.76からだという話です。だとすると手元の’83sDメイプルがそれに当たります。それ以前の鉄弦ギターは、正確なナンバーがわからないことになります。
’05OOアートワークは、今回、最も後ろ髪を引かれるギターでした。ギターの音色も軽やかで綺麗でしたし、アートワークも見事でした。OO自体がとても珍しいです。でも、なんとかこらえました。ソモジさんの本についても店長さんと相談させて頂きました。

’9.8.
・ソモジ氏の製作家としての歴史がアコースティックギターブック29の特集という形で掲載されました。わからないことの多いまま埋もれてしまうことがなくなり、良かったなと思っています。’90sの工房の火事により、それ以前の資料が焼失しており、はっきりとしない部分はありますが、大きな流れの確認ができました。
・ソモジ氏ご自身の本の内容も楽しみです。ただ、わたしにとっては是非、日本語版を出版して欲しい・・・。
・鉄弦の製作開始とシリアル等についてはいくつかの疑問点として残っています。Ervin Somogyi氏は’78が製作開始年といわれていますが、私のfor Ellie Lewis Dのラベルは間違いなく’77となっています。’77sに製作を開始して’78sに完成したギターがあるとすれば、それらの中の一つが鉄弦ソモギギターの1本目になるのでしょうか。
Ervin Somogyi氏はシリアルを’70s後半に75から始めたと言われていますが、これは完全に勘違いと思います。’79のクラシックのシリアル52は私自身が確認しています。そして私の手元の’83Dが76番です。少し前にオークションに出ていた’82Dにもマスキングされていたもののシリアルはありましたから、あれがおそらく75番だと思います。’78にはシリアルは書かれていないギターがありましたから、おそらく50番あたりが最初期のシリアルだと思います。作り始めに貼ってしまうそうなので完成順でないとは思うものの、シリアルは私のこれまでの確認ではけっこう正確にふられていると思います。
・エドガーハートのDが最後のDというのも勘違いだと思います。’9.8現在、’87sDが売りに出されていますし、’94Dメイプルカッタウェイを誌奏したことがあります。エドガーハートのDが’85sであることはエドのホームページにも掲載されており、シリアル含めて彼のDVDにはっきりと映っていた場面があり、間違いはないと思います。
・ブレイシングパターンが1本1本随分異なるのに改めて驚きました。また、私の予想より、サイドラミネートやラティスを早くから取り入れていたのに感心しました。全てのギターに取り入れていたというよりは、試行されていた期間もけっこうあったようですね。’90s後半にギターによって随分音に違いを感じたのですが、あれだけパターンが異なればうなづけます。SJとMDに以前感じていた違いもブレイシングの違いによるところが大きかったのだと思います。改めてソモギギターは奥が深く「恐るべし」とも思います。
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