中級室 シンプル・オーバーコール 1 2004/08/01
  1. 基本事項
2.ダイレクトシートのオーバーコール
3. RHOがビッドした時のレスポンス
  4. B型オーバーコール
5. 参考事項
 

1. 基本事項

 

1.1. まえがき

 

 オポーネントがオープンした場合,最低レベルのスーツをビッドして,オークションに参加するのを,シンプル・オーバーコールといいます.ここでは,オポーネントが1のスーツでオープンした場合を扱います.

オーバーコールをビッドする位置で分類すると,次の3つのパタンになります.

 

A型
N E S W
1 1    
ダイレクト・シートでのオーバーコールです.
B型
N E S W
1 / 2 2
パートナーがパスし,レスポンダーがビッド場合のオーバーコールです.
C型
N E S W
1 / / 1
パスアウト・シートでのオーバーコールです.

ここでは,A型を中心に説明し,B型は補足的に説明します.

C型は,いわゆる「バランシング・ビッド」で,詳細は こちらをご覧下さい.


1.2. オーバーコールの目的


オーバーコールの目的を要約すると次の3つになります.

  • オポーネントのビッドを妨害する.
  • 自分達で,コントラクトを買う.
  • オープニングリードのスーツを知らせる.

例1:オポーネントのビッデングを妨害する 

AJ874
K105
32
1043
N E S W
1 1    
オポーネントが1Cとオープンした時,Eがこのハンドで1Sとオーバーコールすると,S1D,1Hのビッドを使えません.また,1NTもスペードのストッパーがなければ使えません.

AJ8
105
AKJ1032
104
N E S W
1 2    
Eがこのハンドで2Dとオーバーコールすると,S1H,1S,1NTのビッドを使えなくなります.

例2:自分達でコントラクトを買う 

AKJ874
K105
A2
104
N E S W
1 1    
自分たちにスペードのパートスコアまたはゲームがあるかもしれません.
1Sとオーバーコールします.

例3:パートナーのオープニングリードのために 

K8
1095
AQ1053
1034
N E S W
1 1    
この先,コントラクトの行方は不明ですが,1Dのオーバーコールは,Sがコントラクトを買った場合,パートナーのオープニングリードの参考になります.

オポーネントがオープニングした場合,オーバーコールを適切に使うと,上記のような効果があります.

しかし,オーバーコールでオークションに介入した時点で,オポーネントは自分達のハンド情報を知っているので,ペナルテイ・ダブルをかけてくる恐れがあります.また,HCP,スーツの所在をオポーネントに知られる欠点もあります.


1.3. ビッデング・システム


シンプル・オーバーコールは「このスーツでプレイしよう」という提案です.このため,強い切り札とある程度以上のハンドの強さが必要です.

 

パートナー間でフィットがあれば,パートナーの仕事はコントラクトのレベル決定になります.

フィットがなければ,このビッドを手がかりにして,新しいコントラクトの種類を探し,そのレベルを決めることが仕事になります.

 

このため,オーバーコールのビッデング・システムはオープニング・ビッデングと違うしくみが必要です.

オーバーコールのビッデングに関しては,これまでも多くの本が出版されています.そして,エキスパートがそれぞれ自説を説明・解説しています.

これらは,ポイント割付けやビッドのメッセージをオープニング.ビッデングと同じような考えで構成したものと,ビッド割付けとビッド・メッセージを別体系にしたもの,及びその中間的なものに大別されます.

 

このテキストでは,オーバーコールのビッデングを別体系にした,"More Commonly Used Conventions " (Grant)EASYBRIDGE ! 2 (McMullin) を参考にして,SAYCをベースにした,ビッデング・システムを構築し,Klinger Lawrence のチップスで補強しました.

このシステムの特徴は次のとおりです.

  • ビッドするスーツの質をSQTできめる.
  • ハンドの強さはHCPを基準として,LTCを補助的に使う.
  • ジャンプレイズはウイークで,強いハンドはキュービッドを使う.
  • 強さがあり,サポートがない場合は,NT,新スーツ,キュービッドを使う.
  • 新スーツはNF,ジャンプシフトは「誘い」又はF1とする.
  • キュービッドはF1とする.
  • コントラクト決定の指揮はアドバンサーがとる.

それでは,オーバーコールに必要な条件や基準の説明からはじめましょう.その根拠などは「参考事項」で補足します. 


1.4. 十分条件と補助基準


シンプル・オーバーコールは「このスーツでプレイしないか」という提案です.このため,切り札が強いことと,彼我の力関係を知るため,ある程度のHCPを持っていることが必要です.

この他,実質的なハンドの強さをチェックするのに,LTCODRが役に立ちます.

以下,各項目について説明します.


 

(1)スーツ


オーバーコールでは,フィットがなく,自分ひとりで戦うこともありますから,切り札が,

5枚以上の良いスーツであること.

が原則です.「良いスーツ」の基準は,いろいろありますが,ここでは, KLINGER"Suit Quality Test" (SQT) を使います.


SQT

  オーバーコールのレベル=切り札枚数+アナーの枚数-6
     ただし,J10は上位アナーがある時のみ,数える.

(詳細は こちらをご覧下さい)


例題:
N E S W
1 ?    

(A) AJ874
K105
3
K1043
(B) A87
105
K3
AQ9743
(C) 8
32
KQJ10543
A43
(D) KQJ1054
3
1032
A43
  SQT=7
(1S)
  SQT=8
(2C)
  SQT=11
(3D)
  SQT=10
(2S)

(2) HCP


彼我の力関係を判断するため,トータルポイントではなく,生のHCPでハンドの強さを表します.

 

   オーバーコールのHCP8-16です.
   17HCP以上の時は,最初ダブルをコールします.

8-16HCPだと漠然としているので,レベルとバルネラブルで,便宜上,下表のように区分します.

 

  ノンバル バル
1レベル 8-16 10-16
2レベル 10-16 12-16

SQTが7以上で,HCPが8あれば,1レベルで,
SQTが8以上で,HCPが10あれば,2レベルでビッドすると覚えてください.バルなら,HCPの基準を2アップします.


(3) LTC

 

スーツコントラクトでは,獲得できるトリック数は HCP と切り札枚数で決まります.しかし,オークションがある程度進まないと,自分達のHCPと切り札枚数はわかりません.

 

オーバーコールでは,いつも,ペナルテイ・ダブルをかけられる恐れがあります.オポーネントにパートスコアしかないのに,バルでダブられて,1ダウンすれば,スコアは-200となり,致命的です.

 

このため,ハンドの実質的な強さの事前チェックが必要です.このツールとして,「プレイイング・トリック」やLTCがありますが,ここでは,使い方が簡単なLTCを使います.

 

LTCの詳細は こちらを参照していただくとして,バルのときは,次表の基準に適合していることをチェックしておくと安心です.


1レベル・オーバーコールで8ルーザー以下
2レベル・オーバーコールで7ルーザー以下

例題:
N E S W
1 ?    

(A) AJ874
K105
3
K1043
(B) A87
105
K3
AQ9743
(C) 8
32
KQJ10543
A43
(D) KQJ1054
3
1032
A43
  LTC=7
(1S)
  LTC=6
(2C)
  LTC=6
(3D)
  LTC=7
(2S)

(4) ODR


ODR"Offence to Defence Ratio"の略語です.味方がプレイした時とオポーネントがプレイした時のハンドの強さを示す係数です.

バランスした分布で,HCPが各スーツに分散しているハンドを「ODRが低い」,アンバランスな分布で,HCPが特定スーツに集中しているハンドを「ODRが高い」といいます.(下図参照)

オーバーコールに向いているのは,ODRの高いハンドです.例えば,下図の(C)は,ダイヤモンドでプレイすると,このハンドで7トリックとれますが,デフェンスにまわると,2トリック取れるかどうかです.

 

(A) AJ87
K105
Q3
K1043
(B) 7
A1075
A43
K10974
(C) 8
32
KQJ10543
A43
  ODR=   ODR=   ODR=

オーバーコールする時,また,せり合う時に攻守の判断に役立ちます.


 
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