中級室 シンプル・オーバーコール 6 2004/10/07
  1. 基本事項
2.ダイレクトシートのオーバーコール
3. RHOがビッドした時のレスポンス
  4 B型オーバーコール
5. 参考事項
 


5. 参考事項

 

これまで説明したことの根拠などをまとめたものです.


5.1. 競り合いビッドに必要な情報

 

競り合う時には,彼我の力関係と自分達のトリック・パワー(トリックをとる能力)を把握しておくことが必要です.山勘では大怪我をします.


5.1.1. どちらのハンドか

 

まず,彼我の力関係ですが,これは,各サイドが持っているHCPで判断します.彼我のHCP合計の差が6以上なら,優劣は明白です.5以下なら,優劣はないと判断します.


自分達のHCP 判断 行動指針
17以下 オポーネントが優勢 妨害
18ー22 未確定領域 パートスコア
23以上 自分達が優勢 ゲームトライ

(1) オポーネントが優勢

スモール・マイナスを目指します.

  • オポーネントの獲得するスコアよりマイナスにならない.
(2) 均衡状態

プラススコアを目指します.

  • 2レベルで売らない.
  • 良い分布でないかぎり,4レベルでコントラクトを買わない.
(3) こちらがが優勢

ラージプラスを目指します. 

  • オポーネントの競り合いにはダブルで対処する.
  • ODRが高ければ,コントラクトを買う.

5.1.2. ハンドのトリックパワー

 

自分達のトリック・パワーはHCPと切り札枚数で決まります.

(1) ノートランプの場合

ノートランプでは,HCPが競り合いの目安になります.ソリッドスーツがあれば,加算します.


HCP トリック HCP トリック
18-19 6 26-28 10
20-22 7 29-32 11
23-24 8 33-35 12
25-26 9 36+ 13

(2) トランプの場合

トランプ・コントラクトでは,LTTが競り合いの目安になります.
LTTの詳細は こちらを見ていただくとして,基本は,次のとおりです.


HCPが20で,切札が8枚あれば,8トリックとれる

しかし,実戦的には,TRPが有効です.詳細は こちらをご覧下さい.


5.1.3. どこまでせり合うか

 

これは,各サイドが買えるコントラクトと力関係で判断します.


(1)均衡状態

この場合は,極端な分布でない限り,相互にパートスコアしかありません.

スコアは140(3S:3make)120(2NT:2make)以上のことはありません.

したがって,許容ダウン数は下表のようになります.


  バル ノンバル
ダブルあり 0 1(100)
ダブルなし 1(100) 2(100)

しかし,この領域では,なかなか,ペナルテイダブルをかけるのは難しいので,バルなら1ダウン,ノンバルなら2ダウン覚悟でオーバービッドしてもよいでしょう.

(2)オポーネントが優勢の場合

オポーネントにパートスコアしかない場合は,前項と同じです.

オポーネントにゲームがある場合,獲得するスコアは,

ノンバルで 400 (3NT:3make) - 420 (4S,4make) 程度,

バルで600 (3NT:3make) - 620 (4S:4make) 程度

となります.

したがって,オポーネントにゲームがある場合の許容ダウン数は下表のようになります.


彼ら ノンバル バル
我ら バル ノンバル バル ノンバル
ダブルあり 1(200) 2(300) 2(500) 3(500)
ダブルなし 4(400) 8(400) 5(500) 10(500)

この表と自分達のトリック・パワーから,せり合うレベルは決めます.


(3)こちらが優勢の場合

この場合は前項と逆の立場になります.オポーネントが競り合ってきたら,スコアがプラスになるよう,ダブルをかけるかコントラクトのレベルをあげます.


 

5.1.4. TRP

 

スート・コントラクトの場合,トリック・パワーは切札枚数とHCPで決まります.この関係を示したのが " Trick Ratio Principle" (PTR) です.


HCP 17 20 23 26
7枚 6 7 8 9
8枚 7 8 9 10
9枚 8 9 10 11
10枚 9 10 11 12

左欄が切札枚数で,上欄がHCPです.その交点がとれるトリック数を示しています.ただし,その確率は70%くらいです.

例えば,切札が10枚で,HCPが20なら,トリック数は10となります.即ち,均衡状態でも,4レベルまで競り合いができます.また,26HCPあれば,9枚フィットで5レベルまで競り合うことができます.

競り合いの目安として活用してください.


■参考図書: W.Jago "The Trick Ratio Principle"


5.2. HCPの分布

 

オポーネントがオープンした場合,こちらにどのくらいHCPがあるものか調べてみました.


5.2.1. オーバーコーラーのHCP

 

オプナーが1のスーツでオープンした場合,ダイレクトシートのプレイヤー雅保有するHCPの予想値は下表のようになります.


オプナーのHCP ダイレクトシートのHCP
7以下 8−16 17以上
12 33% 63% 4%
16 46% 40% 4%

これから,17HCP以上のオーバーコールは少ないことが分かります.

また,最頻値は8HCP前後で,出現率は10〜11%です.

次に,8−16HCPの累積値を調べてみると,次表のようになります.


オプナーのHCP 8−16領域の累積値
70% 80% 90%
12 12 13 14
16 11 12 13

これから,オーバーコールのHCP範囲は14以上になることは少ないことがわかります.因みに,エーコールの古いテキストでは,オーバーコールの上限を13HCPとしているのもあります.


5.2.2. アドバンサーのHCP

 

アドバンサーにどのくらいHCPがくるものでしょうか.

オプナーのHCPを12,オーバーコーラーのHCPを9と仮定して,3番目のプレイヤーの HCPの分布をしらべてみると下表のようになります.


HCP % 累積値 HCP % 累積値
0
0.023
0.023
10
12.528
62.529
1
0.179
0.202
11
11.360
73.889
2
0.536
0.738
12
9.447
83.336
3
1.377
2.115
13
7.161
90.497
4
2.813
4.928
14
4.577
95.074
5
4.577
9.505
15
2.813
97.887
6
7.161
16.666
16
1.377
99.264
7
9.447
26.113
17
0.536
99.800
8
11.360
37.473
18
0.179
99.979
9
12.528
50.001
19
0.023
100.000

9〜10HCPがピークで,13HCP以上となる確率は10%です.したがって,アドバンサーのビッド構造では,13HCPを上限とみてよいでしょう.

また,分布の上下を切り捨て,HCPの範囲を5〜13にとれば,その確率は
80%にとなります.


■参考図書:F.H.Frost:"BRIDGE ODDS COMPLETE"


5.3. 競り合いでのダブル

 

第3章でレスポンシブ・ダブルを説明しましたが,他にも有効なダブルの使い方があります.


5.3.1. スナップドラゴン・ダブル


スナップドラゴン・ダブル (Snapdragon Double) はオーバーコール側で使います.


N E S W
1 1 1 X
9875
J9
AKJ54
82

図のように,パートナーのオーバーコールに対し,レスポンダーが新スートをビッドした場合に使います.

4番目のスートがオーバーコールできる5枚スーツで,かつ,パートナーをマイルドレイズできるハンドが必要です.

  • 使用レベルは合意事項です.ローレンスは1S,シーグラムは3Sを勧めています.ネガテブダブルに合わせておくと良いでしょう.ここでは2Sとします.
  • マイルドレイズの条件はHxです.

■レスポンス

パートナーは提供された情報から最適のコントラクトを決定します.


例1
N E S W
1 2 2 X
3 4    
K105
74
AKQ83
J86
 
例2
N E S W
1 2 2 X
4 4    
Q108
4
A65
KQJ862
例3
N E S W
1 2 2 X
/ /    
8
A1094
J65
AKQ86

このダブルは Fourth-suit double ともいいます.英国や豪州ではCompetitive double に包括しています..


5.3.2. サポート・ダブル


サポート・ダブル(Support Double)はオープニン側で使うダブルです.

N E S W
1 / 1 1
X      
987
K94
AKJ54
82

図のように,パートナーの1-O-1メジャースート・レスポンスにRHOがオーバーコールした場合に,3枚サポートならダブルをコールし,4枚ならレイズして,サポート枚数を示します.


N E S W
1 / 1 X
XX      
987
K94
AKJ54
82

RHOがテイクアウトダブルをコールしたときは,リダブルを使い,3枚サポートを示します.

 

ちなみに,オーバーコールに対するレスポンシブ・ダブルは,英国や豪州では”Competitive double"といっています.


(1)使用条件
  • パートナーのレスポンスしたスートに3枚サポートがある.
  • パートナーのリビッドのレベルは2以上にならない.
  • 強さは関係なく,強さは次回に示す.
  • レイズはサポートが4枚以上で,そのレベルはハンドの強さで決める.
(2)使用例

いくつかの使用例をあげておきます.


例1
N E S W
1 / 1 1
X      
K105
874
AKQ83
86
 
例2
N E S W
1 / 1 X
XX      
Q108
42
AJ53
KQJ8
例3
N E S W
1 / 1 X
2      
Q1082
4
A653
KQJ8
例4
N E S W
1 / 1 1
3 /    
K8
A1094
J653
AKQ

(3)レスポンス

パートナーは提供された情報から最適のコントラクトを決定します.

 

いくつかの使用例をあげておきます.

N E S W
1 / 1 1
X / ?  
左図のオークションで,次のNのハンドを持った時のリビッドは図示のようになります.

例1 98   J954   65   AQJ62 2C
例2 9843   A964   Q65   J2 2D
例3 984   AJ94   65   J982 2H
例4 98   KQ94   J65   AQ62 2S
例5 K1098   QJ94   95   AJ2 2NT
例6 98   AQJ94   KQ5   AJ2 3C
例7 985   K874   AJ65   K2 3D
例8 A104  QJ974   K65   62 3H
例9 8   QJ9874   AK  KQ72 3S
10 98   AQJ94   KQ5   AJ2 3NT
11 985   K874   AJ65   K2 4C
12 AQ105 A764   A762 /
13 KJ98   9764   J65   Q8 1NT

■参考:パートナーがマイナーでレスポンスした場合

サポートダブルはもともとメジャーの1-O-1レスポンスの場合のコンベンションです.しかし,マイナースートのレスポンスの場合に応用する方法もあります.ローレンスの方法を紹介しましょう.


図 1
N E S W
1 / 1 1
X      
K987
K94
Q54
A82

この場合のダブルは3枚ダイヤモンドで4枚スペードを示します.3枚ダイヤモンドがなければ,1とビッドします.


図 2
N E S W
1 / 1 1
X      
987
K943
A4
AK82

スペードでオーバーコールした時は,ダイヤモンドのサポートがなく,4枚ハートの場合にダブルをコールします.

使いますRHOがテイクアウトダブルをコールしたときは,リダブルを使い,3枚サポートと4枚サポートを示します.


5.3.3. レスポンシブ・ダブル


第3章で説明したレスポンシブダブルは最初はテイクアウトダブルに対するレスポンスでした.ちなみに,このオーバーコールに対するダブルは,英国や豪州では "Competitive double" といいます.

N E S W
1 X 2 X
       
98
A94
KJ65
Q862

図のように,パートナーのテイクアウトダブルに対して,レスポンダーがレイズした場合に,アンビッドスーツに特定の等長スーツがあれば,アドバンサーはダブルをコールします.これも「レスポンシブダブル」といいます.「レスポンシブ・ダブル」の名前はここから来ています.


(1)使用条件
  • パートナーのダブルに対し,レスポンダーがレイズしていること
  • マイナースーツのオープンの場合は2つのメジャー・スーツ(4枚)があること.
  • メジャースーツのオープンの場合は2つのマイナー・スーツ(4枚)があること.
  • 両方が揃っていない時は.4枚スートをビッドする.
  • どのレベルまで使うかは同意事項で,ローレンスは4を勧めています.これはハンドの強さで決めます.
(2)使用例

いくつかの使用例をあげておきます.


例1
N E S W
1 X 2 X
       
AJ98
10974
65
Q86
 
例2
N E S W
1 X 2 X
       
AQ98
KJ94
65
862
 
例3
N E S W
1 X 2 X
       
983
J4
KJ65
Q862
 
例4
N E S W
1 X 2 3
       
J98
Q974
AQ104
62
 

5.3.4. キュービッド・ダブル


N E S W
1 1 2 X
       
J98
Q94
65
AKJ82

Wのダブルはレスポンシブダブルと同じポジションですが,ハンドは図のように,クラブに5枚スーツがありません.キュービッド・ダブルといいます.

これは,1968年に,ルーベンスが提案したもので,オーバーコールに対するアンアシャミング・キュービッドと同じ使い方をします.普通のキュービッドなら,この例では,3となり,Eの最低ビッド3とレベルが高くなります.ダブルなら,2ですみます.ルーベンスによると,この位置でのダブルはキュービッドダブルで使うチャンスの方が多いそうです.


(1)使用条件
  • パートナーのオーバーコールに3枚サポートがあること
  • HCPは10以上あること.
(2)使用例

いくつかの使用例をあげておきます.


例1
N E S W
1 1 2 X
       
AJ98
10974
65
Q86
 
例2
N E S W
1 2 2 X
       
AQ98
KJ94
65
862
 
例3
N E S W
1 1 3 3
       
J3
K754
965
K1092
 
例4
N E S W
1 1 3 X
       
K8
KQ9
874
QJ652
 

この節の参考図書:
   
M.Lawrence:"Double ! New Meaning for an Old Bid"


5.4.シンプル・オーバーコールの構造

 

このテキストでは,SAYCをベースにした,ビッデング・システムを構築しました.("More Commonly Used Conventions "EASYBRIDGE ! 2

しかし,その構造やビッド基準は流派によって違いますので,参考まで,各派の方式を紹介しておきます.


5.4.1. 基準


シンプル・オーバーコールについて,諸派の基準を調べてみました.

(1)ブリッジ入門

1レベル 10-17TP,良い5枚スート(AKQの2枚保証)
2レベル 13-17TP,良い6枚スート(AKQの2枚保証)

(2)ACBLブリッジ入門講座(ビッド篇)

1レベル 5枚スートでオープンできるハンド.
ノンバルで1レベルなら,13ptより少し下でもビッドする.
2レベル

(3)5枚メジャー基礎コース

1レベル 8-15HCP,良い5枚スート(5枚アナーを3枚保証)
2レベル 10-17HCP,良い5枚スート(5枚アナーを3枚保証)

(4)The ABCs of Bridge (Root)
1レベル 9-17pt,5枚スート.
2レベル 11-17pt,6枚スート.

(5)The Pocket Guide to Bridge (Seagram)

1レベル 8-17pt.良い5枚スート.
2レベルなら,10HCP保証.
2レベル

(7)Acol

1レベル 8-15HCP,強い5枚スート.
2レベル 10-15HCP,強い5枚スート.

5.4.2. レスポンス


1レベルのオーバーコールに対するレスポンスをみてみましょう.


(1)ブリッジ入門

シングルレイズ 説明なし.
ダブルレイズ 説明なし.
新スート 説明なし.

(2)ACBLブリッジ入門講座(ビッド篇)

シングルレイズ 6-10pt,3枚保証.
ダブルレイズ 11-12pt,3枚保証.
新スート F1.

(3)5枚メジャー基礎コース

シングルレイズ 9-11pt,3枚保証.
ダブルレイズ 12-14pt,3枚保証.
新スート F1.

(4)The ABCs of Bridge (Root)
シングルレイズ 7-11pt,3枚保証.
ダブルレイズ 12-14pt,3枚保証.
新スート NF.

(5)The Pocket Guide to Bridge (Seagram)

シングルレイズ 8-1pt,3枚保証.
ダブルレイズ 12-14pt,3枚保証.
新スート F1.

(7)Acol

シングルレイズ 9HCP以下,3枚保証.
ダブルレイズ 9HCP以下,4枚保証.
新スート NF.

 
<< 表紙 中級室 目次 >>