映画のページ

タイムマシン /
The Time Machine /
Die Zeitmaschine

Simon Wells
(体調不良でピンチヒッター:
Gore Verbinski)

2002 USA 96 Min. 劇映画

出演者

Guy Pearce
(Alexander Hartdegen - 教授)

Mark Addy
(David Filby - アレクサンダーの友人)

Phyllida Law
(Watchett - 下宿のおばさん)

Sienna Guillory
(Emma - アレクサンダーの婚約者)

Max Baker (強盗)

Orlando Jones
(博物館のパネル男 Vox)

Samantha Mumba (Mara)

Omero Mumba (Kalen)

Yancey Arias (Toren)

Jeremy Irons
(Über-Morlock)

見た時期:2005年3月

★ 2度目の映画化

偶然にもタイムトラベルをする映画が2本重なってしまいました。他の作品を見る予定だったのですが、それがかなわずこちらを見ました。意外とおもしろかったです。

ガイ・ピアスは普段ひいきにしているのですが、この役にはちょっと向いていないかと思います。時代にあまり良く溶け込んでいません。それは彼の婚約者も同じ。しかしこの作品の主演はタイムマシン。SF の原点に当たるこの機械は素敵な出来で、主人公が生きた時代の古めかしい家具調度品もすてき。女性が皆足の隠れる長いスカートをはいていた時代から突然全然違う時代に行くといった SF 効果は並の作品よりあっさりとしていて感じがいいです。贅を尽くしてやりたい放題やればもっと凄い作品もできたかも知れません。しかし私にはこれでも雰囲気たっぷりで満足できました。その理由は意外な所に・・・。

アメリカ映画なのですが、町の雰囲気や家の雰囲気が非常にベルリン的だったのです。レトロ SF で始まり、最後は猿の惑星ケイナという終わり方をするのですが、筋の方はまあ知られており、後から生まれた作品がどんどんパクっています。そういう時何で勝負するかと言えばやはり表現でしょう。さらにもう1つボーナスがついています。監督が原作者の直系という点。身内だからといって映画が良いものになるとは限りませんが、私程度の人間だったらこの程度で簡単に満足してしまいます。

★ 小説とは違う筋

物語の発端はビューティフル・マインドのドクター・ナッシュかというような教授。研究に夢 中で黒板に色々な事を書きまくっています。友人が心配して婚約者のことを思い出させます。そろそろ身を固めた方がいい、若い女性が彼の人生を変えるだろうというのが周囲の期待。確かに彼女は彼の人生を変えます。

婚約者とデートをする場所、その付近の町の様子はベルリンのクロイツベルクという区にある通りの雰囲気にそっくりです。そこは戦前は大通りで、長いスカートをはいた女性や古めかしいスーツを着た男性が通りを歩き、時代がさかのぼれば馬車も通ったという場所。それにそっくりのシーンがありました(注: 実際のロケは全て米国)。また、欧米の建物には Wintergarten と呼ばれる部屋がついていることがあるのですが、その様子がベルリン南部にある植物園の温室とそっくり。Wintergarten というのは直訳すれば《冬の庭》、意訳すれば《サンルーム》となりますが、具体的には家屋に直接ドッキングした場所で、上下四方ガラス張りの部屋。休憩をする場所になっている場合もありますが、ドイツではそこを温室にして植物を育てている人が多いです。温度は冬ですと家の中より僅かに低いこともありますが、外が雪で氷点下10度などという時に植物が死んでしまわない程度の温かさは保っています。置いている植物が南国産ということも多いのですが、そうなると無論温度は高め。暖房費用は馬鹿になりませんが、金持ちになったら Wintergarten が欲しいなあと思うのは私1人ではないようで。

アレクサンダーの人生が変わってしまうのは、婚約者が強盗に殺されてしまうからです。オーロラの彼方へと同じく、死んだ人を生き返らせたいと誰もが思 うようです。そう言えばケネス・ブラナーのフランケンシュタインもそういう発想から生まれていました。教授の婚約者エマが死んでしまったのは、あの時刻にあそこにいたから。ちょうどそこにいなければ彼女は死なずに済んだという発想で、数年掛けてタイムマシンの完成にこぎつけます。で処女運転で過去へ。デートの場所をスケート場から町の通りに変更します。強盗には遭わないはずです。しかしそこへやって来るのはファイナル・デスティネーション 第2弾。結局運命の神はどうしても教授から彼女の命を奪う気だったようです。彼女は今度は馬車に轢かれて死んでしまいます。教授は絶望。その後は糸が切れた凧のように未来をさまよいます。

★ 今度の映画化だけの評価

たかがそれだけの話ですが、この作品が後年に与えたインパクトは大きく、その後マジで学者がこのテーマに取り組んでみたり、映画、小説の方でもパク り放題。それだけ偉大な作品だと言うことができます。このテーマだけで学術論文がぞろぞろできてしまうので筋の方は横に置くとして。

レトロ映画でありながら、現代に実在する物の雰囲気も持っている魅力的なデザインの作品です。未来の方もおろそかにしておらず、途中ちょっと寄る近 未来は短い時間のシーンながらスピールバーグの AI やヴィンマーのリベリオンよりはいい感じでした。

次に着いた未来は破壊されたニューヨーク。ニューヨークがこうなってしまったのは月が落ちて来たからという設定。ここから暫くは伝聞なのですが、このシーンでは政治と揉めたようです。荒廃したニューヨークなんて SF では珍しい話ではありませんが、時期が悪かったそうです。ちょうどニューヨークであの飛行機の大事件があり、この手の話はタブーになってしまったのです。私は今でも劇的な事件を人の目につかないようにしてしまうために、映画のシーンをカット、写真は載せないようにするという方針に反対。倒壊してしまった現場の写真を見ながら「またがんばるぞ、もっといい物を作るぞ」と誓った方がいいのではないかと思うのです。日本も爆撃され焼け野原になりましたが、人はそれだからこそ復興が成功した時喜んだのではないかと思うのです。ベルリンにも広島の原爆ドームと同じように壊れた教会がまだ立っていますが、付近の建物が近代的になり、目抜き通りが整った時、「あの焼け野原からここまで来たのだ」と確認できて、それだけ自信にもなったと思うのです。ですから破壊前、破壊、破壊後、復興作業、復興後と順序を踏んで前に進んで行った方がいい、そして人は映画のシーン程度でめげては行けないと思うのです。しかもあの飛行機の大事件でとばっちりを食ったものの中には、タイムマシン (1895) のように原作ができた時代が事件よりかなり前で、犯人どころか、政治の流れとも全く関係のない作品もあり、気の毒なケースもあります。ピーター・ジャクソンですらサブタイトルが The Two Towers (原点に当たるホビットが1937年、指輪物語の出版は50年代) だったためにとばっちりを受ける寸前でした。

さて、話を戻して、その破壊されたニューヨークからショックを受けて立ち去る教授ですが、気絶してしまい、マシンはさらに先に進んでしまいます。着いたのはず〜っと先の未来(802701年)で、このシーンは映画館で見たかったなあと思うような膨大な竹細工。猿の惑星のパクリと言っては行けません。猿の惑星がパクったような筋で、ニューヨークが荒廃している、人類はまた原始的な、しかも人間より強い猿に追われる生活をしているという設定です。人類がまだ存在すること自体が奇跡ですが、人類は AIミッション・トゥー・マーズのように抽象化してしまわず、電気も無い、それでいて未開社会と言うほどでもない、しかし現代から言うとかなり不便な社会になっています。類人猿のような人種というか猿種がいて、動きが速く力もあり、人類を餌にして生きています。一応その謎が分かり、指輪物語に出て来る、オーランド・ブルームが年を取ったような男が出て来て、教授とつかみ合いになります。ま、この辺りあまりきっちりした説明はありませんが、最後はスターゲイトの考古学者のようにその地にとどまる決心。

私は SF が好きで、見ることも多いのですが、現代から違う時代へ行くという話は映画監督にとっては魅力的なストーリーらしく、かなりたくさん作られています。行った先で運命を変えてしまうという話もマシンという形を取る場合らない場合とありますが、たくさんあります。その元祖がこのタイムマシン。そういう意味では私も1度原点に帰ってみたわけです。突っ込みも忘れておらず、実際にタイムマシンの理論は相対性理論とぶつかってしまうのでアインシュタインに、一発パンチをお見舞いしています。

★ 原作者

監督の曽祖父に当たるヘルベルト・ジョージ・ウェルズはイギリス人。原作タイムマシンの舞台はロンドンだったようです。元々は科学系の人ではな く、商業系。18歳になってロンドン大学に入ります(当時は違う名前だった)。自然科学系の授業を受け卒業しますが、その後ジャーナリストに転向。タイム マシンは第1作の小説で、その後も科学小説中心。SF という形を取りながら社会について色々な考えを発表しています。まだ階級制度がきつい時代の下層階級 から世界をリードする SF 作家に成長。ジュール・ヴェルヌと彼が考えたアイディアは後の学者からもマジに受け取られ研究されています。曽祖父ウェルズがひ孫ウェルズの映画を見 たら何と言ったでしょう。1度タイムマシンに乗って DVD を見せに行ってはどうでしょう。

★ 原作との違い

2度映画化されていますが、2作とも原作とはかなり違った筋になっているようです。原作の小説は社会主義に傾倒した作者が階級闘争を主題に持ち込んだようです。劇映画では消化しにくいテーマだったからか、2作とも冒険物語にしたり、間もなく死ぬ女性を登場させて主人公の嘆きを強調したりと、とっつき易い話題にして変化を加えています。

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