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Trouble / Duplicity

Harry Cleven

2005 F/Belgien 98 Min. 劇映画

出演者

Benoît Magimel
(Matyas/Thomas - 双子)
Benjamin Engelman
(Matyas、子供時代)
David Engelman
(Thomas、子供時代)

Natacha Régnier
(Claire - マティアスの妻)

Nathan Lacroix
(Pierre - 息子)

Christian Crahay
(公証人)

Patrick Descamps
(孤児院の院長)

Hanna Novak
(Elina - トマの妻)

その他にマティアス、トマ、クレア、エリナのダブルが数人

見た時期:2005年8月

2005年ファンタ参加作品

ストーリーの説明あり

楽しくハチャメチャなエイリアンVSヴァネッサ・パラディの直後に来た作品。この順番で見ると両方とも100%楽しめます。気合十分。

とても98分で話全部ををまとめたとは思えないです。物語の展開がしっかりしていて、観客にはどこかを端折ったという印象は浮かびません。密度の濃い作品に仕上がっています。フランスも協力していて、フランス語で上映されますが、監督はベルギー人。ベルギーは映画大国ではないですが、去年のファンタにも佳作が登場しています。国が小さいので、一国で全部の仕事をやらないケースもあるようですが、いつの間にか力作を送って来るようになっています。ベルギー国内では2つの言語が使われていて、1つはオランダ語にそっくり。オランダ系の言語を使う人たちの中にも力作を出す人がいて、去年はベルギー人監督のザ・ヒットマンが出ています。またフランス語系の方では迷宮の女も良かったです。こちらはフランス人の監督でした。

タイトルは2つあって、Trouble が監督の命名、Duplicity というのが外国に出す時の名前なのではないかと思われます。どちらも内容をついていますが、トラブルというのはちょっと一般的過ぎるかと思います。双子の話なので、Duplicity の方が的を射ているように思えます。《写し》、《コピー》という意味ですが、無論双子は元から2人で生まれてくるので、どちらがどちらかの真似をしたと言うことはできません。

双子というのは良く研究の対象になるようで、双子の会もあるようです。話題になりやすいのは1人が凶悪犯罪者になり、もう1人が聖職者になったりするケース。双子と言ってもある意味では1つの家族に属する普通の兄弟と同じで、1人が親に先に《いい子》と認識されると、もう1人は同じ役を取れず反対の《悪い子》の役に収まってしまうケースがあります。それがたまたま一卵性双生児で姿形がそっくりだと人の興味を引いてしまいます。双子が普通の兄弟と違うのはむしろ2人の結びつきが強く、お互いに相手を必要とする度合いが普通の兄弟より強い点ではないかと思います。普通の兄弟だと同じ学校の同じ学年に入ったりすることが無いため、それぞれの自我が別々に育っていきますが、2人が一緒にいる機会がどうしても多くなってしまう双生児は本人が好むと好まざるとに関わらず一緒にいる時間数が長いです。この作品ではしかし親が1人を孤児院に預けるため話がやや違って来ます。

この作品を選ぶ時似たような中級作品が並んだと思い苦労したのですが、Duplicity を選んで良かったです。見てみると去年のフランス、ベルギー、オランダ系の作品のように手堅い出来で、大スペクタクルでない規模、見ていてじっくり内容に集中できる作品でした。そして何よりも良かったのは推理小説ファンを納得させるような筋運び。その上おまけと言っては失礼ですが、カメラがきれいで、俳優の力量に感心しました。

俳優の力量を最後のつけ足しのように思わないで下さい。すばらしい出来で、彼がいなかったらおもしろさは半減したでしょう。非常に清潔ですっきりしたアウトフィットの男性が2人出て来て、顔はうり2つ(そりゃそうでしょう、双子なのですから)。1人は家庭を持った幸せな男性、もう1人はお金持ちの坊ちゃん。マイケル・キートンがクローン化された男性を4人演じ分けていましたが、Trouble では俳優が観客も欺かなければ行けないので、2人の見分けがそう簡単については困るのです。それでいて差が無いと困るのです。何しろ1人は邪悪な事をするのですから。その上その家族には大きな秘密が隠されているのです。

それを演じているのがクリムゾン・リバー2 黙示録の天使たちの主演のレダを演じたベンノー・マジメル。まさかあの青年刑事がこんな複雑な主役を1人で張るとは思いませんでした。実力出しています。

双子の映画は本当の双子を使うか、ダブルを使って撮影するかどちらかしかありません。主演を張れるような大人の俳優で双子というのはまずないので、ダブルを使うしかありません。子供の場合ですとハリウッドでは双子、三つ子の俳優を集めているらしく、時々見かけます。これは何も双子のストーリーを撮るためではなく、労働基準法がうるさいアメリカで、子供が仕事をしていい時間に限りがあり、その問題をクリアするために一卵性双生児が重宝なわけです。そういう子供が将来俳優のまま仕事を続けるのか、普通の仕事に戻るのか、2人で大スターになるチャンスがあるのか、なかなか難しい問題です。

Trouble では子供時代のシーンには双子も使ったようで、他のシーンはダブルです。しかし撮影が巧みで、観客は上映中本当に2人の人間がいるのだという印象しか受けません。2人が同時に出て来るシーンは結構多いです。

ストーリーをどこまで明かし、謎を残すか、難しいところですが、完全ネタばれをしないように努力しながら説明してみます。

実際には双子だった青年が母親の死をきっかけに再会します。両親と双子の家庭だったのですが、小学校かそれより小さい頃に何か家で問題が起き、マティアスだけ養子に出されていたようなのです。両親のいない環境に育ったマティアスは自分の家庭を作ろうと結婚し、すでに息子が1人。今ちょうど2人目の子供が生まれる前です。

幸せな家庭を持っていたマティアスの所へ公証人から連絡があり、遺産相続の手続きが始まります。いないはずだった母親がいて、子供2人にいくらかお金を残しました。突然現われた双子の片割れはマティアスより裕福そうで、高い車を乗り回しています。遺産は3分の1をマティアスに、3分の2を突然現われたトマにということで話がつきます。突然まとまったお金が入るマティアスは不公平な分配には文句は無いようで、すぐサインしますが、自分とうり2つの弟(兄)の登場にはすっかり当惑。

もっと事情を聞きたいようですが、その日は取り敢えずそのまま別れ後日連絡をするということになります。そして本当に後日連絡があります。間もなくマティアス一家とトマ一家の付き合いが始まり、トマはマティアスにも親近感を抱いている様子。マティアスの方はどうなっているのか把握したいという気持ちがある一方、トマがあまりにも早くマティアス一家と親しくなって行くので気持ちが乱れ始めます。

このあたりからはフランス人、フランス語圏の人たちの独壇場。再会を喜ぶトマ、新しい状況に喜ぶマティアスの妻クレアと息子に対して、自分の領域を侵食されて行くような気持ちになるマティアス。描写が的確で、観客に登場人物の心情がぴったり伝わって来ます。

これだけですと、これまで一家の主だったマティアスの所に2人目の主が出て来てしまったための嫉妬みたいな話になるわけですが、そこへ複雑な問題が絡んで来ます。トマには妻のような女性エリナがいるのですが、どうも様子が変。家庭内暴力の匂いがします。

自分の家庭内のことは放っておいてもらいたい、と言いたいマティアスですが、ある日呼ばれて出向いたらトマがおらず、エリナがシャワーを浴びていた、そしてエリナがトマとマティアスを取り違えて抱きついて来たという出来事があり、マティアスとトマ2人の間の壁は徐々に見え難くなり、自分の領域を維持できなくなって来ます。マティアスの意に反してクレアや息子はトマにどんどんなついて行き、多数決になると1対3になってしまいます。

マティアスは養子に出されたこともあり、両親や子供時代の事はほとんど覚えていませんでした。息子の教育はきっちりしていて、幼い子供には武器を持たさないという方針を貫いていましたが、それは自分に付きまとう剃刀の記憶とも重なっています。子供の時に剃刀を手にしたような感覚が残っています。

徐々に子供時代の記憶をたどり始めますが、マティアスには非常に難しい問題で、時々パニックに陥ります。それでも家の事が蘇って来たり、あれこれ聞いたり調べたりしているうちにまだ生存している父親にたどり着きます。この父親というのが問題ありの人らしく、物語りはそれまででもスリル、サスペンス、ミステリーにあふれていますが、ここから予想外の展開を見せます。ここから先をばらしてしまうと楽しみを奪ってしまうことになるので、止めておきます。アッと驚きます。その上まだその先があり、そこからはジワッと驚きます。見終わると、さすがフランス語系の作品と感心します。

どの国にも何かが得意な人が必ずいて、国や言語でこうだ決めつけてしまいたくないのですが、それでも推理小説には傾向があり、アメリカ人はあまりこういうのは書かないなと思える作品や、こういうのはアメリカ人の方が得意だと思える作品があったりします。出版事情や映画産業の事情、そして観客や読者が何を好むか、その結果出て来る売れ行きの問題などがあるために起こる現象なのでしょう。この作品は欧州の香りが高いです。

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