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おやじバンドを見に行ったおやじ世代
2005 USA 105 Min. ライブ
出演者
Emilio Castillo -
セカンド・テナー
(メーカー不明、セルマーではなさそう)、ヴォーカル
Stephen Kupka -
バリトン・サックス
(メーカー不明、セルマーではなさそう)
Tom Politzer -
テナー・サックス(ソリスト)
Adolfo Acosta -
コルネットか類似の楽器
Mike Bogart (ではないかと思う)-
コルネットか類似の楽器、トロンボーン
Larry Braggs -
リード・ヴォーカル
Jeff Tamelier (ではないかと思う) -
ギター(フェンダー)
Roger Smith -
キーボード(ヤマハ)
Rocco Prestia -
バス・ギター
(フェンダーらしいがよく見えなかった)
David Garibaldi -
ドラム(ヤマハ)
見た時期:2005年10月
11月のブルースなどを調べようと見ていたら突然タワー・オブ・パワーが Ostbahbhof の Postbahnhof に来るってんで慌ててティケット屋さんに飛んで行きました。語路合せの洒落みたいですが、本当に電車の東駅(Ostbahbhof)にある元貨物駅(Postbahnhof)に使われていた場所です。コンサートに行くなんて何年ぶりだろう。去年だったか1度レストランにアラビア・ソウルが出るというので見に行きましたが、あれは失望。店に出るバンドでもいいグループは堪能できますが、それは運。ファンク・バンドなんての見たのは10年ぶりかも知れません。
で、予定のインド映画はまた延期。しかし、この後出します。(などと言ったのはいいのですが、その後他の作品がどんどんなだれ込んで来て、大巾に遅れてしまいました。)
Postbahnhof の中でコンサートが行われた場所は、狭っ苦しいカシモドといい勝負の部屋。ただ Postbahnhof は椅子も何も置いてなくて1番前にステージ、後にミキシングの場所が取ってあるだけなので広々して見えます。ステージの高さは大人が前に手をついて寄りかかれるぐらい。カシモドのように1歩でステージに上がれるほど低くありませんが、かつてのテンポドロムのように1番前で見ていても見上げるために首が痛くなるほどではありません。ドイツの中型、小型コンサートはよくフロアにしてしまって、全員立ち見という形を取ります。
まだ出演者が来ないうちにステージを見渡し、右がキーボード、後ろがギター関係とドラム、前がブラス(左がトランペット、中央がサクソフォン)だろうと見当をつけ、開演時間の15分ほど前から前進開始。1番前に出ました。入場は開場と同時、つまり演奏開始の1時間前。ティケット屋さんには早めに行った方がいいと言われていましたが、タワー・オブ・パワーはローリング・ストーンズやクイーンとは違うので、穏やかでした。
私のように開場の少し前に入り口に立っていたのは20人ほど。近くにいたのはタワー・オブ・パワーと同じぐらいの年代のおっさんが多く、その知り合いかというおばさんもちらほら。その他にその子供ぐらいの年代、20歳前半らしき若者。比較的高年齢の人の多い日でした。中には楽器を抱えていて、仕事帰りか音楽学校の帰りみたいな若者もいました。私はその中では変な客に当たると思います。年齢はおっさんたちと同じぐらいなのですが、東洋人なので相手には顔からは全然見当がつかない。その上およそミュージッシャンとは縁がなさそうな顔をした東洋人なので、この人自分の行くコンサート分かってんだろうかと思われたかも知れません。
開演前、客層は年代以外は見当もつかなかったのですが、いざ始まってみてハードコアのファンばかりが来ていることが判明。人数的には数百人いたかも知れませんが、500人以下ではないかと思います。比較的小さな会場で、私は1番前にいましたが、くちゃくちゃに押されるほどでなく、付近の人はお互いに相手を蹴飛ばさない、熱狂して振りまわした手で殴ってしまわないように気をつける余裕がありました。ビール瓶を手にした人もちらほらいましたが、時たま見るような酔っ払いはおらず、飲む量も控え目。煙草を吸う人もごく僅か。マナーの良い人が多い日でした。
曲が始まるとすぐ熱狂。これはドイツでは信用できません。憂さ晴らしにコンサートに行く人たちの中には何が何でも今日は騒ぐぞという覚悟で出かけて行く人も多く、歓声を上げたからと言って、音楽が分かっているとは限りません。その点日本のファンの方が会場に大挙して押し寄せても、そのバンドの事を分かっている人が多いかも知れません。
ところがタワー・オブ・パワーの場合は本当のファンが多数派でした。何しろかなり古い曲から新しくて私がカバーしていない曲まで一緒に歌い、リード・ヴォーカルがマイクを向けるとプロ顔負けの声、歌をマイクに放り込む人もたくさんいました。私は音楽を知っていただけで、メンバーの名前も何も知らなかったのですが、来ていた人はかなり良く知っていました。料金はこういうコンサートとしては最近のドイツでは平均的な値段。家計が失業して以来生活保護以下に落ちているので、この日は私にとっては近年にない贅沢でしたが、年収200万以下の人が数パーセントという日本から見ると格安。そういう視点で見るとパーフォーマンスは充実していて、お得なコンサートだったと言えます。
ほぼ定刻に前座無しで出て来て(定刻に15分強遅れる、これドイツではよくあること。これを《ほぼ定刻》と言います)、1時間強演奏。1度帰るふりをしてから連続アンコール。合計1時間45分たっぷりの演奏。ドイツとしては礼儀正しく、上げ底でないコンサートでした。
私でも知っている古い曲も混ぜ、手抜きの無いブラスを強調したファンクかバラード。大半がアップテンポの楽しい曲。飽きません。
60年代からのオリジナルメンバーは少数派。それでもテンプテーションズよりは生き残りメンバーが多かったです。サウンドに関してのティームワークは良好。リズムをはずすなどというポカは絶対ありません。音もはずすというほど目立った問題は無く、サックスがもう少し高音に行くはずではないかと思わせる箇所が1つ、シンガーがやや音をはずしたか、いや始めからああいう風に歌う予定にしていたのだ、とぎりぎりの線が1、2度。さすがプロで、明かなミスはゼロ。目をつぶっていても演奏できてしまうぐらい訓練されていて、失敗というのはありません。それは年寄りも若手も同じ。仲間内の溶け込み方はファミリーみたいな雰囲気がややプロの集団という雰囲気を上まります。それが長所に行くほど徹底しておらず、やや方向性があいまい。大分前にカシモドで見た(多分)イギリスのファンク・バンドは約半数が徹底したプロのベテラン、残りの半分が若手でまだ未熟。年長の半分が若手を育てている最中というカラーがはっきりしていました。私はそういうはっきりした方針のバンドの方が好きです。ファミリー的なバンドも私は嫌いではなく、そういう場合は多少音をはずしたりしても、仲間が楽しそうにやっているという点を高く評価します。点が低くなってしまうのはその方針がはっきりしていない場合。
メンバーはリード・シンガーがブルース・ブラザーズのキャブ(ジョー・モートン)のような声を出す比較的若く見える男性。歌はキャブの方が上手いかも知れません。ブラスは5人で、内2人はトランペットのように見えるホーン。正確な楽器の名称は分からないのですが、音はトランペットに似て、時々柔らかい音も出します。ただ下に前後に動かせるレバーがついていて、それで半音ほど音を上下させているようでした。コルネットなのかも知れません。私はホーンやトランペットには詳しくないのでどういう名前がついているのか分かりません。このページでは一応ホーンと呼びます。2人ともバンドの中では若手で、上手です。キーボードの人ははっきり見えず年齢不詳ですが、ホーン奏者よりは年配のようです。
10人のうち、ここまでが若手。あとは日本だとシルバー・ミュージッシャン、ドイツですと50プラス・ミュージッシャンと呼ばれそうな年配。仕方ありません。結成が60年代半ばですから、オリジナル・メンバーはもう40年近く現役をやっているのですよ。腕は若く、アウトフィットはシルバーです。ブラスが目立つように作られたバンドですが、腕は青年、脚はやや年を取り始めていると言うべきでしょうか。
なぜ脚?踊るんですよ、このおじさんたち。CD では分からなかった!それがアウトフィットと絡んで来ます。サックスやホーンを手に5人(+ヴォーカル)揃って、ソウルのライン・ダンス。ホーンが忙しい時は残りの4人。バリトン・サックスが張り切ってしまったら、横のサックスは危ないので一時避難。バリトン・サックスはまあジョン・グッドマンと言えばイメージがお分かりいただけるでしょうか。あの体でグッドマンのように飛びまわり、その上あの大きなサックスを抱えているのですから危ないのなんのって。踊りが上手かったのは1番端っこにいたホーン奏者。ホーンの2人は上手ですが、比較的引っ込んでいて、目立つのはサックスの3人。
アウトフィットは考える必要があります。かつてのテンプテーションズやフォー・トップス、ミラクルズのような制服ファッション、あるいはザ・コミットメンツのような黒のスーツ、ドレス・ファッションで迫る意図は無いようです。このバンドは外見が全く違う人の集団なので、そういう統一は却って妙に見えるかも知れません。で、皆それぞれ普段着で来る人、引越しでも手伝いに来たような服装の人、派手な模様のシャツで来る人、上から下まで黒で決めた人などさまざまです。服装の自由は認めましょう。しかし惜しいのは、上に書いたように大の大人がソウル・ダンスをする時。もう少し何かを揃えて上手に演出すれば視覚的に魅力的なバンドになり、おやじ集団の若さが出せます。
もう1つのアウトフィットの大問題はスーパーサイズ・ミー。前に出ている人はかなり太っています。1番凄いのはバリトン・サックス。背も高くお腹がかなり突き出していて、首の回りにもかなり肉がついています。ですから踊るのを見て私は呆気に取られてしまいました。しかしジョン・グッドマンもあの巨体で軽い身のこなし。ファンクなんかをやる人は神がかりなのだと認識しました。その隣にいるテナー・サックスもかなり太め。バリトンがいてくれるからすらっとして見えるだけで、かなりの贅肉。そのまた隣にいるのがセカンド・テナーで、バンドの創始者。彼はこの2人に比べるとかなり肉を落としているようですが、痩せた人ではありません。リード・シンガーは全然太っておらず、得な体質なのかも知れません。ホーンもかなり太く、2人のうち1人はあのままじゃ血圧が上がって命を縮めるのではとマジで心配してしまいました。彼も踊ると身のこなしは軽いですが。その隣の青年は1度太って、現在減量中なのかという感じで、これまた隣に比較する人がいるから痩せて見えるだけで、かなり太め。痩せているのは後ろにいて目立たないドラム、ベース、ギターと闇にまぎれているキーボード。
おもしろいのはこのバンド太り過ぎという意味では健康を心配してしまいますが、それを除くとわりに健康的な血色のいい人たちが多数派という点。後ろに控えている人にはもしかしたらタバコの吸い過ぎかという人もいましたが、退廃的な雰囲気の無いバンドでした。そして仕事柄当然なのかも知れませんが、腕の筋肉はかなりついています。
観客はたいていソロを取っている人を目で追うのですが、私はもっぱらサックスやホーンを見ていました。家で彼らの曲を聞いていて、どういう演奏をやっているのだろうと思っていたのです。やはり驚いたのはアルト・サクソフォンを入れていない点でしょう。ライン・アップを読んでいてもブラス・セクションにアルト・サックスが無いというのは妙に思えるのです。自分の目で見て初めて信用。高い音はテノールのおっさんが出していました。この人どうやら創立以来のメンバーではないようですが、ソロは彼が取り、役目は十分果たしています。私はこういうバンドではソロのパートでなく、数人が一団となってぱっと音を決める瞬間が好きで、それは満喫できます。サックスの3人はよそ見していても音(というかリズム)だけは完璧に決まります。ライブに強そう。若手のホーン奏者はどちらかと言えばまじめそうで、隅に追いやられた感がありますが、音、リズムはおっさんたちに絶対に引けを取りません。そういう意味ではブラスはきれいにバランスが取れています。創始者でセカンド・テナーをやっているおっさんは他の4人に比べると手を抜いているように見えますが、実は彼はリード・ヴォーカルをサポートして暇さえあればハーモニーを入れているので、本当は忙しい。サックスを吹くと歌えないし、歌うとサックスは吹けないのです。アンコールでは2曲ほどリード・ヴォーカルも取っていました。
サイトなどを見ると歌は誉めてあるのですが、私は最初からタワー・オブ・パワーの歌は弱いという意見です。大ヒットした曲のヴォーカルも弱いし、この日歌った人も弱いというのが感想。もしかしたら戦術なのかも知れません。私の希望でもありますが、バンドとしてブラスを強調したファンク・バンドだったら、楽器が主役。上手過ぎるシンガーが来て、それでヒットしてしまったら、創立目的が崩れます。実はこのバンドにドイツ人の女性がボーカリストで入っていたこともあるという話を聞いたことがあります。彼女がマッチョ風な編成のグループで頑張ったのは偉いとしても、このバンドで(リード・)ヴォーカルを引き受ける場合、ほどほどで止めておかないと行けなくなるかも知れません。
本人たちはソウル・バンドだと名乗っていたそうです。演奏を聞くとしかしファンク・バンドに思えてしまいます。スクール・オブ・ロックのブラック先生はどういう判断をするでしょうか。この日ミュージッシャンがステージに上がる前、会場には西田、岸部両やくざが青春の全てを捧げてあこがれた(なぜかゴッドファーザー・オブ・ソウルと呼ばれている)ファンクの王者の曲がかかっていました。
このバンドとドイツの接点は、女性ヴォーカリストではなく、以前のプロモーター。私はそれで見に行ったわけではないのですが、大ヒットする前に彼らに気付いて世話をした有名なプロモーターがベルリン出身だそうです。私がこのバンドを知ったのは大分前に知っていたドイツ人の知人がきっかけ。その頃にちょうどブラスの強いバンドを探していて、英国のバンドを1度見に行ったのですが、その前後のいつかタワー・オブ・パワーを教えてもらったのです。ブラスの強さから言うと、そちらのバンドの方がやや上か、そして欧州での評判もやや上かと思いますが、世界的な名声から言うとタワー・オブ・パワーの方が勝っています。どちらが上、下という話は聞いた話が偏っていたり、主観も出るので、ま、適当に割引して聞いておいて下さい。しかし両方とも払った入場料が惜しくない、払っただけの物は聞けるという意味では損の無い取引です。
デジタル時代の現在、アナログを懐かしがる私は完全に時代遅れ。しかし LP と CD の音の差が気になってしまう私としては、アナログに軍配を上げたくなってしまいます。ですからこういうブラスをミュージッシャンから2メートル以内の至近距離で聞け、本当に贅沢な夜でした。
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