本と映画のページ

ジェフリー・ディーヴァー

主要登場人物

リンカーン・ライム
(元ニューヨーク市警察鑑識の部長、事故の後民間人として捜査に協力)

アメリア・サックス
(元制服警官、役職上昇中、ライムとルンルン関係)

ロン・セリットー
(ニューヨーク市警察刑事)

メル・クーパー
(ニューヨーク市警察鑑識)

ロナルド・プラスキー
(ニューヨーク市警察新米警官)

フレッド・デルレイ (FBI)

トム
(ライムの看護人)

悪党、連続殺人鬼
(各作品により異なる)


ボーン・コレクター /
The Bone Collector

Phillip Noyce

1999 USA 118 Min. 劇映画

出演者

Denzel Washington
(Lincoln Rhyme - 元ニューヨーク市警察鑑識の部長)

Yahsmin Daviault
(Jeanine - ライムの姉)

Keenan Macwilliam
(Kimmie - ライムの姪)

Angelina Jolie
(Amelia Donaghy - 交通課の警官)

Bobby Cannavale
(Steve - アメリアの恋人)

Queen Latifah
(Thelma - ライムの看護人)

Leland Orser
(Richard Thompson - ライムの生命維持装置の技師)

Ed O'Neill
(Paulie Sellitto - 刑事)

Michael Rooker
(Howard Cheney - 刑事、アメリアと対立)

Mike McGlone
(Kenny Solomon - 刑事)

Richard Zeman
(Carl Hanson - 刑事)

Luis Guzmán
(Eddie Ortiz - 鑑識課)

John Benjamin Hickey
(Barry Lehman)

David Warshofsky
(アメリアのパートナー)

Gary Swanson
(Alan Rubin - 不動産業者)

Olivia Birkelund
(Lindsay Rubin - アランの妻)

Christian Veliz
(Chris - 死体を発見した少年)

Frank Fontaine
(犯人に狙われた老人)

Zena Grey
(犯人に狙われた孫)

Phillip Noyce
(本屋の客)

見た時期:公開後間もなく

いつもは映画か音楽の話を書いていますが、今回は井上さんの協力を得て、ジェフリー・ディーヴァー(クリックすると井上さんの記事にジャンプします。)の話をします。

★ 作家

とても計算し易い1950年生まれ、誕生日が5月なので58歳のアメリカ人。1990年頃から作品を世間に発表し始めたらしいです。私が目にするのは主として500ページほどの長編ですが、たまに短編も書くようです。ストーリーに混乱が無く、活劇を見るような感じで500ページ、すらすら読めます。ずっと日本語訳だけを見ていますが、訳も良くて読みやすい文体です。

★ 映画化もされた第1作

ボーン・コレクターはディーヴァーのデビュー作ではありませんが、主人公リンカーン・ライムのデビュー作です。映画化されたのは私の知る限りこれ1本。ライム・シリーズの他には井上さんも触れているテレビ映画化された、静寂の叫びというのがあります。ライム物は元からシリーズ化を狙って書かれたのでしょう。その後ずっとレギュラーになるリンカーン・ライムという男が主人公で、冒頭事故が起き、再起不能と思われる重傷を負います。生きる意思をなくしてしまったニューヨーク市警察の鑑識専門家です。

ライムのデビューなので彼の状況や、何度も登場する他の人物の紹介などが行われます。映画と本にはいくつも差があり、映画の方は今のところ同じ俳優で続けるつもりが無いように見えます。

アンジェリーナ・ジョリーとデンジル・ワシントンという組み合わせで映画化されたのですが、映画化はこれ1作のみ。ディーヴァーはライムをシリーズ化して既に5冊以上書いているので、2人の俳優は主演を演じればがっぽりギャラが入って来たと思います。しかし初版が出た頃映画関係者はライムとサックスが恋人になるとか、看護士のトムとライムが丁々発矢の憎まれ口大会をやるとは予想していなかったのでしょう。ほっそりしたトムの役はふっくらして母親っぽい印象をかもし出す女性が演じていたように記憶しています。

ディーヴァーの作品は静と動が入れ替わり出て来るので、映画にするのに適していると思います。今でこそ CSI が大ヒットですが、ライムの科学捜査は CSI もどきの近代科学捜査を個人の住宅でやっていて、そこへ現役の刑事が入れ替わり立ち替わり出入りしているという鬼警部アイアンサイドCSI をドッキングさせたような設定です。

★ アイアンサイドとの共通点

私の視点はパクったという方向ではありません。毎週欠かさず見ていた鬼警部アイアンサイドと設定が似ていたがために、私はリンカーン・ライムがすぐ気に入ったのです。好きな物と似ているとそこでぱっとファンがついてしまいます。

両方ともアメリカ有数の大都市の警察で、宮使いとして悪と戦っていた人物が主人公。アイアンサイドは仕事中に撃たれ、言わば殉職寸前。警部という職を退かざるを得なくなりますが、嘱託として警察の仕事専門に手伝うことになります。

リンカーンも鑑識課所属の現役警察官でしたが、仕事中に事故。それもどうやら偶然の事故ではないような。彼も殉職寸前になり、仕事中だったためそれなりの医療は受けられる身ですが、車椅子に乗ることになったアイアンサイドより症状が重く、元々は首から下がほとんど全部麻痺。ですから最初は寝たきりです。本人の回復への意思と訓練に加え、機器の発展、医学や看護方法の改善などが1作ごとに進み、現在は行動範囲が増えていますが、全体としてはそれでもアイアンサイドより重症です。

健康上の理由による早期年金のような制度があるらしく、寝たきりの立場でもとりあえず食べるに困ることは無いようでした。現役の時に知っていた刑事がリンカーンに相談を持ちかけたのがきっかけになり、後に助手となる女性警官と知り合い、やる気を出したため、その後性質の悪い連続殺人が起きた時には上層部に至るまで、「リンカーンにやらせたらどうだろう」と考えるぐらいの評判を取っています。

★ 悪態をつく石頭

アイアンサイド、ライム共に口が悪く、周囲の人間を落ち込ませるか、かっかと頭に血が上るような口の利き方をします。2人とも警察の仕事に熱心、頭が頗るいい、経験があるという点が似ていて、もたもたしている税金泥棒に対しては言いたい放題罵詈雑言。ですから優秀であるか神経が図太くないと持ちません。

しかし当人が優秀なので、優秀な部下や、やる気のある部下はついて来るようになります。そこで残った者とアイアンサイドやライムは良いチームを作り出します。

作品中看護人との付き合いも重要視されていて、アイアンサイドの方ではマークが元不良少年、次にアイアンサイドの看護人、やがて夜学に行って刑事に成長するという過程があります。リンカーン・ライムの方ではそれは別々な人物に分けて表現されていて、1人はライムに引けを取らない頑固者の看護人トム、成長して行く刑事はアメリア・サックスに割り当てられています。

私が両作品で気に入っているのは、身障者になっても文句たらたら、悪態、皮肉、罵詈雑言という姿勢です。ベルリンの町でも時々車椅子に乗っている人がガンガン文句を言っている場に出会いますが、人生を諦めない手本のような人物設定です。

★ ボーン・コレクター (クリックで井上さんの記事へ)

とは言うものの、事故直後のライムは自分の立場を知って絶望。何とかうまく自殺できないものかと毎日考えをめぐらし、看護人に取っては非常に付き合いにくい患者。ところがある日ニューヨークで起きた殺人事件に首を突っ込むことになります。重症中の重症なのですが、頭の回転はすこぶる良くて、元同僚の力になれる状態。

ああだ、こうだと悪態をつきながらも徐々に事件に深入りして行きます。新米の制服婦人警官サックスの現場処理が良かったこともあり、体の動かないライムはサックスにマイクとレシーバーを持たせて現場検証をやらせてみます。するとサックスはライムの言うことに几帳面に従うので、二人三脚が成立。で、自宅に鑑識に必要な機材を運び込ませます。

★ 悪党対ファミリー

どの作品にも共通するのは非常に凶悪な犯人を用意してあること。作品が増えるにつれ、レギュラー・メンバーというのができ、そちらでは信頼感もあるファミリーのような集まりを作っています。その路線で行くとマンネリ化する危険があるので、犯人の方は思いっ切り残忍な奴を設定してあります。

ボーン・コレクターでは骨を集める男が悪の主人公。骨を集めると言ってもまじめな遺骨収集とか、葬儀の後のしきたりなどではなく、趣味の悪い連続殺人鬼のことです。何が残酷かと言うと、被害者を簡単に殺さないのです。できるだけ恐怖を味わう時間を作り、警察と鬼ごっこをし、「警察の頭が良ければ助かるチャンスがあるよ」というような殺し方をするのです。

後記: 残念ながらこの方法はその後他の映画に踏襲され、ついには1つのジャンルを作ってしまいました。ファンタの仲間内やドイツのメディアではゲバルト・ポルノと呼ばれる分野に分類されています。例えばアルジェントのデス・サイトソウがこれに当たりますが、ソウに至っては頼みもしないのにシリーズ化され、確か2009年現在で6作ぐらい作られていると思います。

大胆不敵にも警察に挑戦を仕掛けて来るボーン・コレクターとライムと、その上時間との競争。1箇所にとどまり頭だけを動かすライム、一介の制服警官でまだ経験の浅いサックスが絶妙のコンビで犯人を追います。

★ コフィン・ダンサー (クリックで井上さんの記事へ、2番目の記事)

警察側は第1作で読者が知り合ったメンバーが登場。中心はライムとサックスですが、他のメンバーもアイアンサイドに似てほぼレギュラーとして登場します。推理物でなくホラー映画のタイトルみたいですが、きちんとした刑事物です。

前回に習い今度も凶悪犯で、連続殺人です。得意技はさっと殺し、さっと消えること。鑑識課攪乱も得意技。犯人は検察側の重要証人を殺して行きます。

★ エンプティ・チェアー (クリックで井上さんの記事へ)

珍しく趣向を変えてライムは外出。看護士も連れての大所帯。心配そうなサックス。珍しいのはそれだけではなく、今度は捜査でないこと。クリストファー・リーヴスも日進月歩の医学の発達で、当初より回復しましたが、ライムも大切な手術を控えています。リスクもあるので、関係者ははらはら。

ところが出かけて行った先で捜査依頼。見知らぬ土地で、鑑識機材も無く、よそ者を嫌う土地柄もあって、やりにくい。しかも容疑者と目される人物は未成年。サックスは怪し過ぎる少年が冤罪なのではと感じるのですが、証拠が多過ぎる。さて、困った。

★ 石の猿 (クリックで井上さんの記事へ)

何だか東洋的なタイトルだなと思ったら中国が絡んでいました。ちょっとトランスポーターを思わせる設定。欧州にも不法移民を大勢乗せた船が到着し、蓋を開けてみたら大勢死んでいたという事件が実際にあったのですが、そういう事情が絡むストーリーです。

裏の世界では知られた殺人犯は中国人、殺されるのも中国人、事件を追うのも中国人という話で、映画化されたらチャウ・ユンファやジェット・リーの出る幕があるのではと思わせる物語です。有名な国家主席が「わが国では○○人ぐらい死んでも、そんなの関係ねえ」と言い切ったそうで(中国系の人の伝聞)、数の強みと特定の個人を救出という対照的な側面があります。

裏の世界の人に脅されて口が重くなるのは中国だけの話ではなく、欧州でも聞きます。ドイツでも壁が開いて暫くの頃、刀でばっさりとか、ドイツ人はやらないだろうと言うような派手な殺人事件が何度かあったのですが、関係者の口が非常に重く、ドイツ警察がせっかく犯人を捕まえてあげようとしたのに、話が先に進まなかったことがあります。政治が絡んで国外に出る人も、お金を稼ぎたくて新天地を目指す人も、国外に出る時は裏の世界が絡むようです。ライムはニューヨークですが、欧州と共通する問題も扱っており、そこはおもしろかったです。

西洋と東洋、資本主義と共産主義、歴史が3桁の国と4桁の国などアメリカと中国は共通点が少なく、作者がそのどちらかの出身だと話は偏ります。この種の話を例えばインド人やアラビア人の作家が書いたらどうなっただろうと一瞬思ってしまいました。中国本土で成人するまで育った人がアメリカという国に90年代以後出て来ると頭の中はどういう風にアメリカの生活に妥協するのだろうかという点も興味がありましたが、そこまで深く掘り下げると1000ページを越えてしまうでしょう。

★ 魔術師 (クリックで井上さんの記事へ)

この作品はちょうどプレステージの校正をしていた頃に読みました。手品というのは魅力的な分野で、プレステージが作られた時にはそのライバルのようなタイトルの作品も作られました。職業としてイリュージョンをやる人は当然ながら頭が切れ、しかも演技力もたっぷり。「だから犯罪などはお手の物」という考え方は短絡と思いますが、作家や脚本家には魅力的なテーマのようです。

魔術師では変幻自在の男が犯人で、元は職業魔術師だったことになっています。実は後半犯人は重症の火傷を負っていて、そのためショー・ビジネスを去り、殺し屋になったことになっていました。読みながらちょっと変だぞと思ったのですが、それは重症の火傷を負った人がどういう生活になるかを知らないと分からないことです。一般的には知られていないことです。案の定、どんでん返しが待っていました。

★ ウォッチメイカー (クリックで井上さんの記事へ)

間に短編、長編が入りますが、それは飛ばして、つい先日読んだのがウォッチメイカー。現在までのところ最新作です。(飛んでしまった1つ、12番目のカードについて井上さんは記事を書いています。よろしければこちらをクリックして下さい。)最近はどんでん返しが人工的に思え、現実味が無いような気もしますが、ディーヴァーは言わば小説界のブロックバスター。ちょっと不自然な展開でもおもしろおかしく語ってあれば良しとします。

《時計職人》とでも訳したらいいのでしょうか。最近は何でもデジタルの世の中ですが、私自身古い時計のメカは好きです。犯人は手先が非常に器用で時計の修理などお手の物。そういう男が殺人鬼で、現場に時計を1個残して行くという設定になっています。

じきに犯人が同じ時計を10個買ったことが分かり、「こりゃ大変だ、10人殺すつもりなんだ」ということで警察は大車輪。500ページの半分ぐらい連続殺人路線で行くのですが、その後意外な展開が連続します。後半は連続殺人ではなく連続どんでん返しとなり、珍しいことに本命は逃げてしまいます。いずれ再登場するのではと期待しているところです。

★ いつもの路線

枠組みはライム、サックス、7人の刑事のようなレギュラー・メンバー、これ以上考えられないような、いささか芝居がかった凶悪殺人犯、たいていは連続殺人、そしてばっちり科学に裏打ちされた鑑識結果。最新作にはさらに行動学に詳しい人物も登場します。

枠が固まってしまうとマンネリを防ぐのが大変ですが、順番にレギュラー・メンバーの私的な事に触れてみたり、ライムとサックスの関係が親密になったりします。これは長くやっていると種が出尽くしてしまう危険があるのですが、そのあたりは計算してあると見え、新しい登場人物が他所からやって来たりします。例えばウォッチメイカーで犯人の心理を観察する女性は多分再登場するでしょう。

毎作品これだけの枚数を書き、きっちり決めた枠があるのにマンネリ化しないのはさすがだと思います。科学捜査の内容がかなり出て来るにも関わらず、読者の関心が人物描写と犯人との鬼ごっこに行くようになっていて、詳しい検査結果に頭が占領されてしまうことがありません。

色々正確らしく見える検査結果を並べてくれますが、読者はいちいちそんな事を覚えておかなくても話について行けます。暇だったらそこをじっくり読むのもいいでしょう。記憶が怪しくなった頃には作者の方からそれまでの経過を書いたリストが提示されます。作者も500ページは長いと分かっているのでしょう。いったいなぜあんなに詳しく説明するんだろうと思ったこともあったのですが、自分なりに答を見つけました。

★ なぜ手の内を明かすか

「ここまで詳しく検査できるからどうせばれるぞ」「殺人などというバカな考えは捨てた方がいいぞ」というメッセージなのではと思います。初期の頃はあんなに手の内をばらしてしまったら、犯人は完全犯罪クラブの下手人のような出で立ちで現場にご出勤になるのではと思ったことがあります。しかしよく考えてみると、それでも犯人は何かしらを現場に残すので、結局ばれるでしょう。「だから犯罪は小説と映画だけにしておきなさい」という路線を狙ってオタク風に詳しく捜査の方法を書くのでしょう。

ではなぜアメリカには逃げおおせる犯人が多いのでしょう。それは数とのバランスの問題でしょう。恐らくは科学捜査を最初に始めたのではと思われるアメリカですが、事件の数に追いまくられて毎回毎回几帳面に検査をしている暇が無いのではと思います。時々シンボル的に非常に詳しく調査し、そのシンボルを見て犯人がやる気を無くすところに期待しているのかも知れません。

★ 新しい古典

古典的な推理小説を好んでいた人間は戦後ずっと別な路線が大流行したため指をくわえて見ているしかありませんでした。時たま映画の方で古典ファンを満足させてくれるような作品が出ましたが、ディーヴァーは科学捜査という新しい武器を加えたことを別にすると古典ファンに向いているように思います。58歳ならまだ当分書けるでしょう。期待しております。

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