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復讐捜査線 /
Edge of Darkness /
Al filo de la oscuridad /
Al li'mite /
Auftrag Rache /
Fora de Controlo /
Fuori controllo /
Hors de contrôle /
O Fim da Escuridão

Martin Campbell

2010 USA 117 Min. 劇映画

出演者

Mel Gibson
(Thomas Craven - ボストンの刑事)

Bojana Novakovic
(Emma Craven - トーマスの娘、Northmoor 社の研修員)

Ray Winstone
(Darius Jedburgh - 英国の諜報員)

Danny Huston
(Jack Bennett - ノースモア社の社長)

Shawn Roberts
(David Burnham - エマの恋人)

David Aaron Baker
(Millroy)

Jay O. Sanders
(Whitehouse - 刑事)

Denis O'Hare
(Moore - ノースモアの危機管理担当者)

Damian Young
(Jim Pine - 上院議員)

Caterina Scorsone
(Melissa - 情報提供者)

Peter Epstein
(諜報員)

Frank Grillo
(諜報員)

Wayne Duvall
(署長)

Gbenga Akinnagbe
(Darcy Jones - 刑事)

Gabrielle Popa
(Emma、子供時代)

Paul Sparks
(ノーサンプトンの刑事)

Christy Scott Cashman
(Vicki Hurd - 刑事)

Tom Kemp
(Paul Honeywell)

Amelia Broome (Tina)

Celeste Oliva (Janet)

Rick Avery
(Robinson Jr.)

見た時期:2011年7月


テレビ・シリーズ

刑事ロニー・クレイブン /
Edge of Darkness /
Am Rande der Finsternis - Edge of Darkness /
Die Plutonium-Affäre /
No Limite das Trevas

Martin Campbell

UK 1985 @ 55 Min. 劇映画

出演者

Bob Peck
(Ronald Craven - 地方警察の刑事)

Joanne Whalley
(Emma Craven - ローランドの娘、環境問題の活動家)

Imogen Staley
(Emma、子供時代)

Tim McInnerny
(Terry Shields - エマの恋人、トロッツキスト)

Joe Don Baker
(Darius Jedburgh - CIAの諜報員)

Charles Kay
(Guy Pendleton - 政界の大物)

Hugh Fraser
(Robert Bennett - IIF のボス)

Ian McNeice
(Harcourt - 政府の役人)

John Woodvine (Ross)

Jack Watson
(James Godbolt - 汚職に関わる組合のボス、Northmoor 社と間接的に関係がある)

Allan Cuthbertson (Chilwell)

Kenneth Nelson
(Jerry Grogan - アメリカの核企業の社長)

David Fleeshman (Jones)

Zoë Wanamaker
(Clemmy - ダリウスの恋人)

Bill Stewart (Dingle)

T.R. Bowen (Childs)

Paul Humpoletz (Elham)

Sarah Martin
(Polly Pelham)

Paul Williamson
(Bewes)

Eric Clapton (音楽担当者の1人)

見ていない

他の人が映画を見るというので便乗することも多いのですが、復讐捜査線もその1つ。ところが内容を見て、あまりにタイムリーなのでびっくり。

★ キャンベル監督

キャンベルは70年代に長編作品でデビュー、ポスターを見るとピンク映画かと思えるような作品。その後80年代はテレビ畑。90年代はテレビを続けながら徐々に劇映画に進出。ボンド・シリーズを始め有名な作品を作っています。私も5本ほど見ています。

復讐捜査線は彼が1985年に BBC の依頼で作った5本(6本説あり)のミニ・シリーズ刑事ロニー・クレイブンを劇映画として自分でリメイクしたもので、テーマは環境犯罪です。監督だけではなく、当時のプロデューサーもリメイクに参加しています。この作品を選んだのはメル・ギブソンで、ギブソンはサイン以来初の主演です。

★ リメイク

ギブソンは BBC の刑事ロニー・クレイブンを前から知っておりファンだったためか、復讐捜査線で気合を入れている様子が分かります。最近数々のスキャンダルがあり、容貌も皺だらけのおっさんになったので、ギブソンは落ちぶれたと思われがちですが、実はこの9年ほど監督業や制作に携わっており、俳優としてカンバックするに当たって多数の脚本を読んだ上で、復讐捜査線を選んだようです。

☆ タイトル

刑事ロニー・クレイブンは1985年 BBC 制作、ドイツでは《プルトニウム事件》というタイトルになっている作品で、英語のタイトルは元ネタもリメイクも Edge of Darkness となっています。劇場版のドイツ語のタイトルを訳すと《復讐依頼》です。ギブソンが自分でオトシマイをつける役で有名な俳優なのでこういうタイトルなのでしょうが、オリジナルのタイトルの方が深みがあっていいです。元ネタのシリーズの《プルトニウム事件》も見る前からネタがばれてしまうので、あまり上手な命名ではありません。

☆ 元ネタの評判

1985年にどのぐらいの実力があったのか分かりませんが、キャンベルは刑事ロニー・クレイブンの依頼を受けた時、十分な人材とお金を任されたそうで喜んで作ったようです。結果は現在でも語り草になるほどの評判。私はキャンベルの経歴を特に追っていないので実際のところは分かりませんが、この作品のおかげでその後のキャリアが開けたのではないかと想像しています。

☆ 上手くまとめたリメイク

リメイクは手堅い作りです。脚本を担当した人はオタク風の風貌の人で、こういう練れた脚本を書くのかと感心しました。キャストはまあまあ。主演がメル・ギブソンである必要はありませんが、復讐をテーマにするという意味ではネームバリューがあり、適していると言えないこともありません。周囲を固めている人たちは2種類で、ミスマッチなのですが、上手に混ぜてアラが隠れています。1つは英国の作品に良く出るような、演技がしっかりしていて、名前があまり知られていないタイプ。もう1つのグループは CSI の1つのエピソードで主演になるような人たち。なので、下手をすると全然合わない人たちの混成グループになりますが、上手にシーンや役割を分けてミスマッチが目立たないようになっています。

☆ 音楽担当 クラプトンとショア

音楽はなぜか1度完成した物を却下して、ハワード・ショアに改めて作曲させています。ショアの音楽はシーンの邪魔にならない程度にサスペンスを盛り上げ、親子のシーンは平和なメロディーを流し、見終わっても印象に残りませんが、うまくシーンに溶け込んでいます。ちなみにオリジナル版の音楽担当者の1人はエリック・クラプトンです。テレビ版の制作は英国なのでこういう贅沢ができたのでしょう。

☆ 国策映画

刑事ロニー・クレイブンはある意味国策映画です。英国は国営放送局が必ずしも時の政権と同じ意見でなく、事によったら全面対決も辞さないお国柄なので、国営放送が気合を入れて作った作品が必ずしも首相に気に入られるとは限りません。それでもお金はきっちり払って作るので、国策映画です。女王陛下はもしかすると満足していたのかも知れません。そのあたりは国と言ってもあちらこちらで意見が不一致。

☆ 場所は入れ替え

ストーリーは英国テレビ版と劇場版リメイクでほぼ一致していますが、舞台は英米取り替えてあり、テレビの方はイギリスが舞台で、アメリカから諜報員がやって来ます。劇場版は舞台がボストンで、イギリスから来た諜報員が裏であれこれ。そして5時間か6時間の物語を2時間弱に詰めているので、ばっさり切らなければならなかったらしく、劇場版は焦点を親子関係と各界の大物の利権に絞っています。環境問題や現場の様子にはそれほど深入りしていません。劇場版の警察関係者には人生の表も裏も一応見たという顔つきのベテラン刑事が出て来て、言葉ではなく表情でそれなりに現実味を出しています。

☆ 重点の移動

テレビ版の方は解説を読む限り暗躍する団体の動きにもたっぷり時間をかけてあるようです主人公が問題の核施設に侵入し、そこの事故の様子にも時間をかけています。主人公の放射能汚染はそこから起きるようになっており、それが劇場版には無いのでリメイクでは別な説明がつけられています。

そしてオリジナル版では復讐劇にはあまり比重がかかっていない様子。環境団体については表面的には28日後・・・の冒頭の動物保護団体の活動家の行動と似た印象を受けます。テレビ版は全く見ていないので、的外れな意見かも知れませんが、純粋で立派な目的意識を持つのはいいけれど、活動の影響や結果についてはあまり深く考えず、作戦も無視されたり失敗した場合の危機管理ができておらず、一直線に突き進み、あまり良い結果にならない人たちという路線です。

ところがテレビ版の詳しい解説を読んでみると、その裏にびっくりの話が隠れていて、主人公の娘が単なる純粋な市民活動家ではなく、ただならぬ問題に深く関わっていたってな話になって行きます。それ全部をちょっと前死んだばかりの若い娘っ子が背負い込んでいたという説明なので、この役を演じる女優は相当の筋金入りでなければいけないんだなあと、見る前から思ってしまいます。

私は環境に気を使うことには賛成の立場。ドイツで森の保護に大金をかけたり、大都会でも緑がとても多いのでありがたいです。(同じ EU でも国に入ると「砂漠に来たのか」と勘違いしそうな国もあります。かつてはエジプトまで青々と木々が茂っていたはず。)私も感化されて、雨が降るたびに「これで木々が喜ぶ」などと考えるようになっています。

東京の川からメタンガスが発生していた頃を知っているので、70年以降日本が汚染された水や空気に気合を入れて取り組んだのも賞賛に値します。ただ、その運動のためにテロというのはいただけません。同じ知恵とエネルギーを注いで自分たちが研究をして発表をするなり、賛同する政治家と協力体制を組むなり、色々方法はあると思うのです。

ま、いずれにせよ元ネタもおもしろそうなので、DVD が出ているかチェックしてみようと思っています。

後記: かなり古いので半ば諦めていましたが、今年ドイツ語吹き替え版が作られたという話を耳にしたので、改めて発売するのかも知れません。

★ 1985年、先見の明

刑事ロニー・クレイブンが1985年制作と考えると先見の明があったと感心します。

元ネタの放送枠は1時間で、5本という説と6本という説を見かけました。ドイツでのテレビ放映は制作から4年後です。

ストーリの骨子は、私が全然知らなかったガイア理論に基づいて環境を破壊から守ろうという過激な活動家が、大企業に入り込み秘密を探っていたことから起きる事件です。私がガイア理論を知らなかったのは、日本人に取っては地球と環境と人間がバランスを取るという考え方がごく当たり前のことで、自然の一部が人間だという考え方が定着しているからです。天変地異も含め環境に適応しながら2600年以上生きて来た日本人に取っては、理論などを開発しなくても良かったわけで、分厚い石の壁を隔てて自然と対峙する国々とは出発点から違うようです。

先見の明というのはガイア理論のことではなく、核の再処理工場が重要なテーマになっている点で、ドイツ語のタイトルが《プルトニウム事件》なのはそのためです。そして英国では1986年のチェルノビル事故の前に放映されました。撮影は前の年に始まっており、チェルノビルの事故と汚染はまだ想像もつかなかったと思われます。

劇映画の方も公開が2010年で、制作や撮影は2008年頃から始まっており、映画化の話は2002年、メル・ギブソンが俳優業から半ば引退する前からありました。2011年311東北関東大震災は映画公開の少し後に起きていますが、これまたでき過ぎのタイミング。

★ ギブソン・ギャグ

ここ数年のギブソン・トラブルの1つがアルコール。作品の中に何度もアルコールを勧められたり、目の前で他の人が酒を飲むシーンがあり、ギブソンがジンジャエールを注文するという形でギブソンのお酒の問題を揶揄しています。

彼には別れた夫人が1人、新しい恋人が1人おり、補欠を加えたバレーボールのチームが作れるほど子沢山のギブソンが、夫人はおらず、子供は娘1人という役なのもギャグなのかも知れません。オリジナル版では夫人は病死ということになっていて、リメイクの方では全く触れられていません。

ギブソンと言えばやはり自分でオトシマイをつける役がお得意。そこは手馴れたもの。ちょっと笑えたのは、刑事コロンボとそっくりなよれよれのレインコートを着ている点。まさかこれもギャグだとは思えませんが、よく似合っていて笑えます。

★ リメイクのあらすじ

最近やや疎遠だったボストン警察刑事のクレイブンの所に娘が訪ねて来ています。クレイブンはベテラン刑事で毎日忙しく過ごしています。父子家庭で、母親は既に他界している様子。娘はノースムーアという大きな企業の研修生。久しぶりに娘が訪ねて来てうれしそうなお父ちゃん。しかし娘が道で吐き気をもよおしているので、父親としてはちょっと気がかり。

妊娠ではなく病気だと分かって心配をし始めたクレイブンですが、病院へ行くという話をしている時、彼女が銃撃され死んでしまいます。父親が刑事なので恨みを買うのは職業病のようなもの。しかし調べて行くと狙われたのはクレイブンではなく、娘の方。

娘の持ち物を見ていると目に入ったのはノースムーアという会社の身分証明書と、拳銃と、ガイガー・カウンター。アメリカで拳銃は不思議ではありませんが(英国が舞台だとアメリカよりは変だという感じになります)、クレイブン親子で拳銃を持っているのは刑事の父親の方で、かわいい娘がそんな物を持っているはずはない・・・と思っていたお父ちゃんは自分が使う銃より大型の拳銃を見て変だと思い始めます。そして何よりもガイガー・カウンターは普通の人の持ち物ではありませんでした、当時は。これからは一般的になるかも知れません。

娘の携帯に電話をかけて来る人がいますが、お父ちゃんがちゃんと名乗っても相手は何も言わずに切ってしまいます。拳銃の登録番号を手がかりにまずたどり着いたのは娘の恋人。警察の役得で情報はわりと楽に手に入ります。家に押し込むとまずは格闘。しかし相手が誰か分かり2人は普通に話を始めます。そこで娘が何をしていたのか少しだけつかめますが、恋人は怯え切っていて、「自分は四六時中監視されているので何もしゃべれない」と言います。

徐々につかんだ情報を総合すると、娘は環境保護活動家になっていて、仲間の1人が恋人。オリジナル版ではガリガリの共産主義。リメイクでは適当にぼかしてあります。問題ありと目をつけた核関係の処理工場に研修生として潜り込み、重要な情報を盗み出そうとしていました。しかし諜報の訓練も受けずに純粋な思想だけで乗り込んだメンバーからは既に3人死者が出ており、クレイブンの娘が4人目。5人目は娘の恋人。そして6人目もクレイブンの目の前で重症を負います。

この団体は議員とも接触を試み、処理工場が公にされている目的以外の事を行っており、それは米国ではなく外国を利することになると考えていました。しかし日本でも最近報道に出るようになりましたが、この分野は利権がらみ。なので、国益の前に金銭的利益を優先する人がいてもおかしくありません。同時に同盟国以外に妙な物が輸出されては困るとばかりに、同盟国が諜報員を送って来ても不思議はありません。国が妙な商売に手を出すかもしれず、国の重要人物が国を売るかもしれず、と言うわけで、とっくに若い純粋な活動家の手に負える話ではなくなっています。

クレイブンの娘の行動は既に会社にはばれていて、討手がかかっていたわけです。先の3人は死体となって川から発見されていましたが、娘には毒が盛られていました。成分はタリウムで、実話ではこれまで1957年(タリウムが使われ被害者は死にかけた)、2006年(当初タリウムが疑われ、実際はタリウムではなかったが被害者は死亡)に事件が起きています。娘はミルクに毒が仕掛けられていて、父親に会いに来た頃には健康状態がかなり危なくなっていました。しかし突然撃たれてしまったので、父親に事情を説明する時間はありませんでした。お父ちゃんはそれでも娘の体が放射性を帯びていることは死の直後につかんでいました。

徐々に娘が首を突っ込んでいた事件の大きさが分かって来ますが、ここでクレイブンはめげたりせず、環境問題などは考えず、ただひたすら娘を殺した奴は誰だというスタンスで突き進んで行きます。そこに登場するのが敵なのか味方なのか分かりにくい英国の諜報員。本当は敵のはずなのですが、年齢を重ねたベテランで、クレイブンを泳がせておくぐらいはお手の物。上院議員と繋がりがあり、ノースムーアの情報はしっかりつかんでいます。

★ 決死の突撃隊3人 - ショーダウン

娘は自分が間もなく死ぬと予想がついていて父親に会いに来ました。ただ、射殺ではなく内臓がやられて病死のようになると思っていたようです。

この事件の裏で暗躍している英国人の諜報員も自分の命があまり長くない事を知っていました。原因は事件とは無関係。

活劇の途中でノースムーア社に1度捕まってしまったクレイブンはそこで浴びた放射能のためにこの先あまり長くない事を悟っていました。(中年男がこの先長くないということは相当放射線が強かったんだ、と311事件後の日本人は素早く悟ります。)

まだ生きている2人は人生の後半でちょっと考え直し、自分なりの決心を固めて、いざ。

というわけでアクションあり、陰謀あり、死人もぞろぞろという作品です。

★ 色々揃っていながら今一つ

タイムリーな話題、有名スター、オリジナル版制作以来実力をつけて来た監督、役をきっちりこなす俳優と良い材料は揃っています。ですがどこか足りない物を感じます。1つはギブソンがこの作品でスターをやるか役者をやるか決心がついていなかったため。皺だらけのおっさんになったギブソンですが、それが役にはぴったり合います。例えばリチャード・ギアが大スターでありながら、クロッシングで見せたような路線で行けばよかったかと思います。ギブソンはギアのスタンスと大スターの間を行き来していて、どちらにするかはっきりしていません。所々スター、英雄っぽいスタンス、所々よれよれのおっさんスタイル。

もう1つは上にも書いたように脇役のタイプが2種類だったこと。これは監督が何とか上手く誤魔化しています。ここにロバート・デニーロも乗り込んで来る予定があり、最初試みたようなのですが、合わないと分かり本人は降板。代役は上手く溶け込んでいます。

娘役の女優はとてもかわいく、子供時代の役をやる子役とズレもなく、ぴったりなのですが、メル・ギブソンが1人しか子供がいない父親と言われるとどことなく納得が行かなかったりします(笑)。

舞台が西海岸でもニューヨークでもなく、ボストンで、そこは良かったと思います。ベン・アフレックの作品や処刑人以上に町や建物が良く描かれています。するとこれにしっくり来ないのがノースムーアの建物。町にそぐわないという面を強調したかったのなら成功。でなければやや違和感が起きます。

そんなこんなで、全体を見るとあと一押し、何かが欲しいです。

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