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USA 2013 124 Min. 劇映画
出演者
Tom Cruise
(Jack Harper, Jack Harper 49, Jack Harper 52 - 元海兵隊兵士、現地球最後の地上在住監視官、パトロール用の小型戦闘機のパイロット)
Andrea Riseborough
(Victoria - 地球最後の在住監視官、ジャックの上司で後方支援、ジャックの愛人)
Melissa Leo
(Sally - ビクトリアの上司、上空の宇宙船から命令を出す人物)
Olga Kurylenko
(Julia Harper - ジャックの妻、宇宙船の乗組員)
Morgan Freeman
(Beech - 元ジャックやジュリアのような軍役についていた人物、現在抵抗勢力のトップ)
Nikolaj Coster-Waldau
(Sykes - ビーチの一の子分)
Zoe Bell (Kara)
Abigail Lowe
(ジュリアの娘、2人1役)
Isabelle Lowe
(ジュリアの娘、2人1役)
見た時期:2013年4月
★ 忘却
カタカナ・タイトルにせず《忘却》としても良かったかと思います。主要な出演者のうち2人は任務のため記憶を消去してあります。そこへ後から出て来る人物がその忘れた部分を思い出すきっかけを作ります。主演クルーズが思い出せるのは、記憶消去後も夢の中に記憶の1部が出て来るため。
★ この違いは何だろう − 期待していなかった監督、期待していた監督
ちょっと前に見たリドリー・スコットのプロメテウスは突っ込み所満載で、私もけちょんけちょんに言いました。オブリビオンも見終わって「あれっ!?」と思える重要な突っ込み所が出て来ます。「もしかして前提が狂っていたのかな」とか、「どこかで話を聞き漏らしたのかな」と思い、他の人と話してみると他の人も「そこが知りたい」と言い出す始末。つまりは脚本が観客に分かり易く説明していなかったか、話の展開が早過ぎて聞き漏らす人が続出したか、最悪の場合プロットに穴があったかです。
ところがそれでも見終わって「馬鹿馬鹿しい」とか、「金返せ」となりませんでした。なぜなのだろうと訝っているところです。
トロン: レガシー1本撮った後オブリビオンに抜擢された監督。トム・クルーズと風貌がそっくりの人物です。トロン: レガシーがぱっとしなかったので期待していませんでした。ところが予告編を見るとトロン: レガシーとかなり違った感じ。トロン: レガシーの偏見をはずして見ました。
元ネタはトロン: レガシーと同じくジョセフ・コシンスキー監督自身の思いついた話。グラフィック・ノベルになったそうで、そちらに近いようです。トロン: レガシーと比べると格段の進歩に思えます。物語が進歩したのか、演出が進歩したのかははっきりしませんが、撮影はとても良くなっています。
★ なぜうまく行ったか − お金の使い方
スコットのプロメテウスも元の予算より節約したと言ってもかなり大金がかかっていました。オブリビオンも近年の経済状況、各国の経済危機を踏まえた上で通貨の価値を考えると実際の金額は受ける印象と違っているのかも知れませんが、かなりなお金をかけた作品には違いありません。
プロメテウスは大掛かりに作ってありましたし、オスカー俳優も呼んでいましたが、結局「ええっ!あのスコットでこの作品?」という負の驚きになってしまいました。その点オブリビオンはお金の使い方が上手かったと思います。
キャストは数を非常に絞った上で有名人を連れて来ています。自分が制作したのでクルーズは無論メイン。その他にボンド・ガールとオスカー俳優。全体の数を非常に絞ってあるので、人材にはこれ以上お金がかかりません。自分はがっぽりギャラを取り、足りなければプロデューサーとして自分の懐から制作費を注ぎ込めば良く、万一作品がヒットしたら、制作者として儲かるわけです。だめなら制作者としては自己責任。この作品はある程度行けそうで、制作費は戻って来るかも知れません。
キャストを制限して残ったお金はロケとセット・デザインに投資。 失業中の俳優の働き口を増やすという点では貢献しませんが、作品としてはいい決断です。広々とした景色や空を映し出し、やたら人が溢れていない分、見る人の頭の中で想像が自由に広がります。久しぶりに心地よかったです。撮影はカリフォルニアの他にアメリカ南部、ニューヨーク、ボストン。そして1番効果的に使われているのがアイスランド。
経済破綻後のアイスランドにアメリカから撮影隊が来て、ヘリまでチャーターしてくれ、外貨を落としてくれるのは大歓迎。地元の人材をあまり使わないので雇用は増えませんが、自国が元々持っている火山やその辺の山をそのまま撮影してくれるので、アイスランド側に経費がかかるわけではなく、比較的簡単にお金になります。
スコットのプロメテウスも1部アイスランドで撮影していますが、あちらはアイスランドのシーンは明るかったにも関わらず映画全体は暗かったです。オブリビオンはアイスランドが白夜の季節に撮影されていて、映画全体も明るいです。
話は暗く、廃虚と化したアイスランド製のヤンキー・スタジアムが出て来ます。また山の高みにたたずむクルーズのシーンもアイスランドです。クルーズはこの場所が個人的にも気に入っているようです。話が暗いならせめて画面ぐらいは明るくと考えた上でのことなのですが、私も大賛成。
廃虚と化したニューヨークは摩天楼の上まで火山灰に埋もれているのですが、ここを黄色っぽい粉のような砂の砂漠風にせず、やや濃いグレーの火山灰にしたのは正解。その火山灰が本当らしく見えるのは恐らくアイスランドのおかげです。
★ なぜうまく行ったか − 年齢相応のアクション映画
いずれエクスペンダブルズからお招きが来るのでしょうが、クルーズのアクション映画の秘訣は徐々に自分がアクションをやるシーンを調整し、機械にやらせたり他の俳優にやらせることのようです。クルーズはこの作品でも自身が演じるアクション・シーンを入れていますが、保険会社がうるさいだろうと思われるのでスタントマンも使っているでしょう。
オブリビオンは静と動の両方をきちんと計算された量入れてバランスを取っています。山の上から地上を見渡すシーンのような静のシーンを要所要所に入れてあります。そこは当然クルーズ自身が演じています。
アクション・シーンは二通りあって、1つはクルーズが戦闘機に乗って戦うシーン。これはクルーズ自身に危険もありませんし、体に取ってもそれほどきつくありません。スタジオ内の丸いカプセルの中で操縦桿を握っていればいいわけです。あとは技術スタッフがうまくつなげてくれます。
本当のアクションは図書館の廃虚の中で落下したりするシーン。ミッション:インポッシブルの伝統を引き継ぎ、トム・クルーズのトレード・マークを忘れず、ちゃんと細いザイルでぶら下がるシーンがあります。ジェームズ・ブラウンと言えばマント、ウォレスと言えばチーズ、トム・クルーズと言えば宙吊りシーン。観客の期待を心得ています。
★ トム・クルーズなんだけれど
トム・クルーズという俳優はあまり好きでなく、追いかけている人ではないのですが、この作品は見ようと思っていました。結果、筋に突っ込み所はあるのですが、それでも退屈しませんでした。
クルーズという人物についてはあれこれ言われていて、好感は持っていません。その反面欧米社会では不利な条件の中で(例えば小柄、整形しなかったらさほどぱっとした顔ではなかった、学校に行くのに苦労したなど)トップになり、その後長い間トップに居続ける実力には感心します。本人は自分の入っているなんちゃって宗教のおかげだと宣伝する事を忘れませんが、私は彼が宗教に入ったことを残念に思っています。欧州はこの点には厳しい目を持っていますし、その方針はそれなりに理があると思います。
彼には宗教の助けを借りなくてもここまで来る力があったのだと思えることもあります。稀代の頑張り屋であることは間違いありません。米国では小柄な人が仕事を探すと絶対に不利。同じ実力があると、背の高い人が仕事口を取ってしまう傾向が強いです。だからこそそれを跳ね返してトップに躍り出た人たちがいます。ダニー・デ・ビート(152センチ、出演作が減っても制作の方で活躍)、ダスティン・ホフマン(167センチ)、アル・パシーノ(170センチ)、サルマ・ハヤック(157センチ)等々。皆一時の成功に気を良くせず、その後もずっとレベルを保ち、ヒットが続出しない時でも身持ち崩すということがありません。
彼が入っている教会は欧州では宗教と認められない国があり、その国の当局との間に問題を起こすことがあります。中に入るとへんてこりんなゼミナールに出席し、その人がすでに何かしらの神様を信じていると、「それを捨てなくてもいい」などとわけの分からない事を言います。「じゃ、ここは宗教じゃないの?」と疑問を持ってしまう人の方が健康な凡人に思えます。
というわけで私の目から見ても「君たち、何やってるの???」となってしまうので、彼のこの面の行動には疑問を持ってしまいます。ただ驚くのは、クルーズはこういう所に入ってもがんばってしまい、他の有名人はただの会員らしいのですが、彼は幹部の地位にまで上り詰めてしまったようなのです。なので、「君、そんな所に居なくても本当の実力あるんじゃない?」と思ってしまうのです。
★ 俳優としてのクルーズ
私の目にはジョージ・クルーニーやロバート・レッドフォードなどより実力があるように映ります。自分でスターというステータスを選んだため、所謂スターとしての行動が多く、性格俳優としての力は表に出さないようにしているのではないかとかなり前から思っています。
私は彼がスターとして扱われるアクション映画やスリラーなどを中心に見ているので、もしかしたら違う作品では性格俳優としての力をすでに公にしているのかも知れません。それほど彼を追いかけていないので、私は見た範囲でしか物が言えません。その中で時々チラッと繊細な演技やユーモアのセンスを目にしたことがあり、それが付け焼刃ではなかったので、本当はもっとできるのではないかと前から考えています。
スターとしてのステータスをキープするためにたくさんお金を使っており、また周囲の人を食べさせなければ行けないだろうと思うので、ギャラのたくさん入るスター作品の方が効率がいいでしょう。ここで変にインディペンデント作品に出て名を上げてしまったら、おもしろい作品には出られても懐具合が苦しくなってしまいます。そして骨の髄まで凍りつくような悪役も十分演じられるのではと思いますが、それはスターとしてやって行く間はイメージ・ダウンに繋がりかねないので、やるとしたら晩年でしょう。
★ 整形したか、クルーズ
巷では彼はかなり整形しただろうと言われています。元奥方のキッドマンにも似たような噂が多いです。ま、この職業には必要なツールかも知れず、上手く行っている限りはあれこれ言いません。しかし整形というのはリスクが高く、超有名スターでも失敗例が続出しています。見た目がおかしくなってしまう場合もありますし、顔は一応きれいに整っていても手術中に神経を損傷し、以後痛みに耐えなければならない(痛み止めやお酒に限りなく近づいてしまう危険がある)とか、顔の表情がほとんど動かなくなってしまうなど、シビアな副作用があるそうです。また、皺伸ばしをしたら顔が引きつったようになってしまうという話も聞いたことがあります。いずれにしろ年齢相当の変化が起きず、40歳、50歳と進むにつれて変な顔になる人がいます。止めておけばいいのにと一般人の私は常々思っています。
そんな中クルーズはもし整形しているとすればかなり上手く行っていると思います。今年50歳。ちょっとは皺を残し、ある程度若そうに見えるバランスがいいです。整形したかは分かりませんが、アラン・ドロン風な感じです。私はドロンも上手に年を取ったスターに数えています。クルーズにはウィリアム・マポザーという従弟がいて、彼の以前の写真を見るとクルーズのオリジナルの顔が大体どういう感じか推測できます。確かにトップ・スターになるには整形も1つの手段だったのかなと勝手に推測しています。
クルーズが性格俳優を目指したなら整形は止めておいた方がいいと思います。味のある顔になれたと思います。しかし彼はスターという職業の内容を承知の上でスターを目指したので、その必要な要素として美男顔を取ったのでしょう。ま、色々言われる人ではありますが、決断はできる人のようです。
★ 不自然な顔の共演者
長時間画面に出る共演者は2人の女性。2人とも人形のような顔で、不自然。のっぺりしています。プロットを考えるとそれで正解。この2人に比べるとクルーズは人間らしい顔をしています。それもプロットの1部。
途中から顔を出す黒い髪の女優はちょっと前ボンド映画に出ていたソ連人(後ウクライナとして独立)。ボンド映画ではいい感じだったのですが、オブリビオンではのっぺりとして、顔はゴム製のような印象を与えます。彼女はロシア風の毛皮の帽子を被ると凄く美人に見えそうなのですが。
★ 明るい SF
この作品を見ようという気になったのは明るい SF だったから。近年作られる SF は話が暗いだけでなく、画面も真っ暗。映画館に座っていても大した物は見られず、音ばかり。大枚払って損をした気分で帰宅ということが多いです。それに比べるとクルーズの出る SF は画面が明るく、たくさん物が見えるので、何となく得をしたような気分になります。
まだ映画を見ていない人は、この先読まない方がいいです。目次へ。映画のリストへ。
★ 事前に話を知らない方が楽しめる
直前に詳しい解説を読んでしまったため、サプライズ効果が半減してしまいました。もし先の進展を知らなかったら、もっと楽しめたと思います。
出演者の数は限ってあり、前半は登場人物が3人と、モニターに登場する女性が1人の合計4人。前半の前半は男女2人とモニターの女性のみ。
この時間内で地球がどうなったか、2人が何をしているのかを説明します。
☆ ここに至るまで - ジャックとジュリアのバージョン
2017年(あと4年じゃないか!)地球にエイリアンが来て戦争になり、地球はかろうじて勝利。とは言え、失ったものは地球の大半と月。月は破壊され、地球は放射能汚染で地上に住むことはできなくなります。
人類は5年前の2072年から地球監視という軍務についているジャックと、一緒に仕事をする女性上官でジャックの後方支援をするビクトリアを残して皆タイタンという木星の衛星に移っていました。ビクトリアには近くに浮かんでいるテットという最後の宇宙船にいるサリーから指令が来ます。テットは地球の軌道上に浮いていて、2週間後には2人を収容してタイタンに向けて出発することになっています。
映画内ではテットと呼ばれていて、ドイツではベトナムのテト攻勢から取った名前だとも言われています。私はちょっとその説には賛成できません。テトラポッドのテトラ、角4つの三角形、昔牛乳が入っていた紙の入れ物のような形を指しているのではと思います。
地上にはまだエイリアンが残っていて、見つけた場合は駆除。ジャックが乗っているのはオスプレイより使い勝手のよさそうなヘリコプターともジェット機とも言えない戦闘機。大気圏外も飛べます。前部の形は従来型のヘリコプターに似ていますが、恐ろしくスピードが出ますし、積んでいる武器は強力。後方支援のビクトリアが飛行中のジャックを監視していて、戦闘となれば無人の球形のパトロール・マシンを送って来ます。このマシンが戦闘で破損すれば修理をするのはジャックの仕事。サリーと2人の連絡は日中のみで、日没が来るとテットとの通信が途絶えます。
ジャックとビクトリアはドバイかマイアミの大金持ちのプール付き住居かと思える近代的な、やや無機質な別荘のような所に住んでいます。地表は汚染されているので、高さ3000フィート、雲の上にあります。2人以外の人類は姿を消しており、話し相手はお互いと、司令部からモニターで話しかけて来る上官のサリーのみ。
ビクトリアは任務終了まであとわずか、宇宙の皆と合流できる日を楽しみにしています。2週間経てば2人もここを引き払い、テットの皆と一緒にタイタンへ旅立つ、それで全ての人間が地球を去ることになっています。
ビクトリアは命令に生真面目に服従する性格。その上司サリーは事ある毎に「君たちは上手く言っているかね」としつこく聞きますが、ビクトリアはいつも「はい、うまく行っています」と答えます。
ジャックは時々羽目を外したい性格。そしてジャックはいつも同じ夢を見ます。うら若い女性が出て来るので、悩まされているというわけではありませんが、一体何だろうと訝る毎日。ところで2人は任務の機密を守るため、任務につく前に記憶を消されています。
ジャックとビクトリアの記憶は2072年に消去されていて、その頃は地球が破壊されてから55年経っています。ジャックの見る夢は戦争前、2017年以前のニューヨークのエンパイアー・ステート・ビル。望遠鏡で遠くを見られる展望台。そこにうら若い女性がいて、ジャックとルンルンの感じです。まだ地球は現在とほとんど同じ。2人は30歳前後に見えます。最近は50歳ぐらいでも若く見える人がいることを考えても、成人したジャックがまだ破壊されていないニューヨークにいるとすれば、現在のジャックは80歳を越える年齢。作品中寿命を延ばす新薬の話は出ません。
戻る2077年の現在、ジャックがパトロールしているのは破壊後のニューヨーク。ビルの上まで火山灰らしきもので埋もれています。
☆ ジャックの小さな楽しみ
普段のジャックの仕事はエイリアンの駆除と、戦いで破損したパトロール用のマシンの修理。その他に基地の生活維持のための装置、例えば水を確保する装置などの警備もやっています。
普通はビクトリアは上空のサリーからあれこれ言われ、ジャックはビクトリアがずっと彼の行動を(安全のために)監視しているので、常に連絡を取り合っています。ただ時々ジャックは規則を無視して湖の近くの小屋に行きます。そこに彼は任務中に集めた宝物を隠しています。本、サングラスなど。そしてこっそり地上の植物に水をやり育てたりもしています。
つい最近もエイリアンとやり合い、信号を追跡したりしているうちにニューヨークの公共図書館の建物に入り、そこで見つけた本を1冊失敬して、この小屋に持って来ています。
☆ 妙な出来事
その1番最近のエイリアン駆除の際、ジャックは自分が身の危険を感じなかったことを不思議に思います。殺すために襲われたという気がしなかったのです。
そしてもう1つ、エイリアンはエンパイアー・ステート・ビルから現在地を示す信号を宇宙に向けて発信しているのです。一体何のため?
そんな中基地の水確保、貯蔵の場所が攻撃され爆発してしまいます。そしてエネルギー・ユニットがいくつか盗まれます。何をするつもりなのか分からず、サリー、ビクトリア、ジャックは危惧します。
☆ ビーチのバージョン
帰還命令を無視して信号の出ている場所へ赴くと、そこには空からカプセルが落ちて来ていて、落下傘で軟着陸。中には眠っている地球人が1人ずつ棺桶のような生命保存装置に入っていました。信号はここから出ていた様子。しかし《空から来た異物》と判断したパトロールのマシンは敵と見なし襲い掛かります。ジャックはかろうじて1人だけ救出。
この時保存ボックスに入った人間が降って来るのですが、機械に殺されてしまう中1体が日の丸付きの K. Ishioka という人物。Kevin Ishioka というこの作品の美術監督です。
助かった女性はいつも夢に出て来る人。ジャックは彼女を別荘風の基地に連れ帰り介抱します。目が覚めてみるとこの女性はジャックの名前を知っています。自分はジュリアと名乗ります。
ジュリアは冷凍されていたこともあり、現在の地球の事情を知りません。彼女自身はタイタンへ向かう探索船のクルーだったようで、そのロケットが爆発して落下して来たようです。
かなりな出来事にも関わらずビクトリアは取り敢えずジュリアの事をサリーに報告しません。次の日ジャックとジュリアは墜落現場に行き、宇宙船のフライト・レコーダーを回収します。ところがその時2人ともエイリアンに発見され捕虜になってしまいます。
英語を話すエイリアン、手足が人間と同じように揃っているエイリアン、洋服を着ているエイリアン。
「何じゃこれは!?」と思うのが当たり前。エイリアンは地球人、しかもボスはジャックやジュリアと同じ職業だった人。軍務に就き、ロケットを操縦できるような人でした。
じゃ、何でこんな所にいるの?ここで何やってるの?そしてなぜパトロール・マシンに発見されないの?と疑問続出。
分かるところから答を出しましょう。
英語を話し、五体が人間と同じで、洋服を着ている理由はただ1つ。この人たちはエイリアンではなく、地球で助かった人たちの残り。パトロール・マシンやジャックの監視から隠れて住んでいます。人数はそれほど多くありません。一応ボスがいて、それがビーチという老人。大人から子供、男女、色々な人種の人たちが混ざっていて、全員が軍人ではありませんが、身を守るすべはある程度身に着けている様子。
パトロール・マシンの追跡を逃れているのは被っている兜がステルス性だから。レーダーの追跡をつるっと外してしまえます。声もばれないように変化させてあります。
そしてこの人たちはテットやジャックたちからひどい目に遭う毎日。ジャックが駆除しようとしている「エイリアン」は実は地球の住民。駆除後のいつの日か、数少ない残った人々は先住民と呼ばれるのでしょうか。では、テットの命令通り行動するジャックとビクトリアは何者じゃ? − 実はサリーのいるテットがエイリアンの艦隊の一部だったのです。ジャックは体は地球人、しかしエイリアンの役に立つ行動をしていることになります。
ビーチは長い間ジャックを観察していて、どこかにまだ人間的な物が残っていると感じ、図書館に呼び寄せ本を見せたようなのです。ビーチの話をまだ信じることのできないジャック。しかしビーチは言うだけ言ってジャックとジュリアを釈放します。
その時ビーチは大きな計画をジャックに話します。パトロール・マシンを1つとっ捕まえプログラミング変更を行い、ジュリアたちと一緒に墜落して来た探索機に積んであった核をそのマシンに搭載してテットに送り、爆破しようというもの。エイリアンとエイリアンの母船を一挙に倒そうというわけです。初めてそんな話を聞いて「とんでもない」と思っているジャックは、協力を断わります。ビーチは「地上の危険区域に行くともう少し事情が分かるから」と言いました。
☆ 路線変更
これまで自分がやって来た事の意味を根底から覆す話を聞いたジャックは、すぐには判断がつきません。取り敢えずビーチが言った場所ではなく、エンパイアー・ステート・ビルに行きます。そして元展望台だった場所にジュリアと一緒に立ち、話しているうちに記憶が戻り始めます。ジュリアはかつてここでジャックから結婚を申し込まれ、指輪を渡されました。その指輪は今も首から鎖につけてかけています。ジュリアの話とジャックの記憶の一部が一致します。2人はその後結婚しており、正式な夫婦。しかし年齢の計算が合いません。ジュリアはタイタン探索のために冷凍保存庫で眠った期間があります。と言うことはジャックにもそういう時期があるのかも知れませんが、記憶が消去されているのでこの時は話がうまく繋がりません。
久しぶりに出会って、思い出の場所でルンルンの2人を、自動操縦の戦闘機のカメラから送られる画像でじっと見ているビクトリア。ムカッと嫉妬心が・・・。それで2人が基地に戻って来てもビクトリアは基地内に入れることを拒み、テットにいるサリーに告げ口してしまいます。ジャックは彼女も救おうと思い、1度下へ様子を見に来るように説得しますが、嫉妬に狂ったビクトリアは拒否。
サリーは皆を処分するため家の中にセットしてあったパトロール・マシンを起動しますが、結果はビクトリアが死んでしまい、ジュリアとジャックは生き残ります。しかしサリーとの今までの安定した上下関係は崩れ、ジャックは立場が危ない・・・。
サリーはジャックに取引を持ちかけます。「誰も殺さないからジュリアをテットに連れて来い」と言います。ジャックが断わったので、サリーは新たにパトロール・マシンをよこして2人を追い掛け回します。そのはずみで2人はビーチが言っていた地区に入ってしまいます。
☆ もうひとつの世界
2人はそこで意外な事に気づきます。この地域はジャックとビクトリアに取っては侵入禁止区域だったのですが、そこには別なジャックとビクトリアが住んでいたのです。何事も無かったかのようにそこのジャックは私たちの知っているジャックと同じようにパトロール・マシンの修理をしています。こちらのジャックは事件などに巻き込まれていないので無傷、私たちの知っているジャックは攻撃を受けたり、誘拐されたりしているので顔に傷があります。観客にはジャックの区別がつきます。古いジャックは49番基地に住み、ここで新しく登場するジャックは52番基地に住んでいます。
自分と全く同じ姿、同じ仕事をしている人物を見てジャックは事の次第を少しずつ理解し始めます(CSI:科学捜査班12シリーズの第19話が少し参考になります)。52番は49番を不審人物と見なして向かって来ますが、49番とジュリアは52番を生け捕りにします。しかしジュリアは銃弾を受け大怪我をしたため、49番は52番の戦闘機に乗って何食わぬ顔をして52番基地へ向かいます。そこにはまだ生きている52番のビクトリアが・・・。
ビクトリア52号には何も告げず応急処置の道具だけ基地から持ち出し、ジュリアの手当てをします。そして彼女を休ませるために湖近くの小屋に連れて行きます。
それまでに頭の整理がつき、ジャックには自分がエイリアンの仕事用に作られたクローンだろう想像がつきます。1人のジュリアに複数のジャックがいる、それも52番などという番号がついているのなら100人ぐらいはいるのだろうとと思われます。ジュリアは「ジャックの記憶があるのなら、あなたがジャックだ」と言います。ここで2人は永遠に幸せに暮らせればいいのですが、ジャックにはテットを何とかしなければ行けないという気持ちがわいて来ます。
☆ ビーチとジャックの協力
事の次第を大体理解したジャックとジュリアはビーチや地球人《エイリアン》と合流。ジュリアはビーチにジュリア・ハーパーと名乗ります。
ジャックの協力を得てビーチはパトロール・マシンの1つを改造し、そこに核を積んでテットへ送るつもりでしたが、パトロール・マシンがジャックの DNA をつけて来て、秘密基地を攻撃。ビーチは負傷。使う予定のマシンは破損。計画の変更を余儀なくされます。
その時思い出したのがサリーの出した条件。ジャックがジュリアを連れて来れば傷つけないという話になっていました。それでジャックはジュリアを眠らせ、保存箱に戻し、それを積んだ52番の戦闘機でテットに向かうことにします。
テットに到着し、中を見ると恐ろしい数のジャックとビクトリアのクローンが保存容器に収納されて眠っています。100どころか、何万、何百万・・・数え切れないほどです。いつもビクトリアが話していたサリーはホログラフで実態がありません。エイリアンの意思をサリーの形でジュリアたちに伝えていただけ。そしてジュリアの入っていた保存箱にいたのはビーチ。2人は宇宙版回天作戦を取ったのです。で、めでたくテットは消滅。そのためテットから命を受けていたパトロール・マシンも今後は人間を追いかけて来ません。しかしジャックとビーチは昇天。
ジャックは地上に形見を残していました。ジュリアは確かに保存箱に収められたのですが、ジャックは眠っている彼女を湖の近くの小屋に運んだのです。そこで目覚めたジュリア。死ぬはずだったのが生きている。その上妊娠している。
3年後幼子を湖のほとりで育てているジュリアの所へ他の生存者がやって来ます。これからは少ない人数でやり直し。地上がどの程度汚染されているのかは不明。月の無い地球で気候などがどの程度変化するのかも不明。しかしジュリアとジャックの娘は3歳まで育っていますし、訪ねて来た生存者の一行にも子供が生まれています。
・・・とまあ、1度壊れてしまった地球ですが、未来に希望を残して終わります。図書館に行けばたくさん本があるし、兵士の訓練を受けた男たちもも少し残っているのだから、何とかやり直せるかも知れません。他の SF よりちょっと明るい希望を残して終わります。
★ 良い点 vs 残ってしまった疑問と突っ込み
☆ ヘルメットを被りましょう
すぐ気づいたのはクルーズもクリレンコもヘルメットを被らずにオートバイに乗っていること。危ない!他の車やオートバイがいなくても岩にぶつかったり穴に落ちたりする危険はあります。ヘルメットを被っているといないとではかなり差がつきます。
☆ モダン・ライフスタイル
クリレンコは撮影中に49番の基地のセットにいて、「自分もこんな所に住みたい」と言っていました。元ソ連人で西側に出た人はわりとモダンな生活がお好みのようなのですが、私はあまりいい印象を受けませんでした。それはプロメテウスも月に囚われた男も同じ。あまりにも無機質で冷たい感じがします。私が SF で住みたいなと思えるのはベルリンの植物園の温室のようなスタイル。欧州ではこういう建物が一時期ブームになっていて、他の国にも見られます。タイムマシンにそういう感じの場所が出て来ました。第1次大戦前頃までの国際博覧会で良く見られたスタイル。
☆ 重い仕事 − 大人のおもちゃ
クルーズが乗り回すヘリコプター型の戦闘機(バブル・シップ)はとても性能が良く、宇宙にも飛んで行けます。飛び方も宙返りをしたりかっこいいのですが、あんな事をやるとかなり G がかかり、クルーズは飛行中に気を失うのではないかと思いました。メイキング・オブでばらばらの機体を組み立てるシーンがあるのですが、スタッフもキャストも楽しそう。大人のおもちゃです。
☆ 猿の惑星・・・とは違う
ニューヨークの名所は全て火山灰に埋もれています。このシーンは猿の惑星より効果的で、他の類似の作品より悲しみやノスタルジーが良く出ていました。
自然の残っているシーンと破壊され火山灰に埋まっているシーンは良い対照を描いていました。自然の残っているシーンは日本に似ている所もありましたが、監督が特に日本を意識して作ったわけではないようです。本当の日本の景色をここに挟まれるときっと悲しくなってしまうでしょう。
☆ 発展 → 行き過ぎ → やり直し vs 災害はしょっちゅう来るものだとの達観
この話はバベルの塔の思想を参考にしたのかも知れません。上へ上へと発展し、行き過ぎて破綻。そこからまた立ち直ろう、もう1度最初からやり直そうという話のつもりだったのかも知れません。その点ではスコットの作品より奥が深いかも知れません。キリスト教の影響を受けて育った人にはノアの箱舟だとか、バベルの塔のようにグレート・リセットという考え方が根付いているのかも知れません。
毎年のように台風に襲われ、大雪、大水があり、時々巨大地震にも襲われる日本では《長い間発展を続けてから1度にばっと壊される》という考え方が無く、《災いは一定の時間を置いて何度でもやって来る》という風に考えます。なので暫く落胆した後また気を取り直してやり直すのは日本人の運命。受け止め方が欧米人とずれます。
☆ 日本人に合う静と動の匙加減
他の類似の作品と比べ静と動のバランスは良かったと思います。クルーズが年だからそういつもいつもアクションばっかりやってられないという事情もあったのかも知れませんが、静と動のバランスがいい方が観客としては筋について行き易いです。そして図書館、書籍に重きを置いているところは私個人の趣味にぴったりでした。
☆ エイリアンは何処に、月を壊した犯人は
見終わってもすっきりしなかったのはエイリアンは本当に来たのかと、月を破壊したのは誰かという疑問。エイリアンに使われたジャックとビクトリアは最後のシーンに出て来るので、誰かに悪用されたことは分かるのですが、肝心のエイリアンはどこに?「黒幕は姿を現わさず、仕事はその国の裏切り者にやらせておく」という話はいくつかの国に見られますが、この作品にもエイリアンの姿はありません。
☆ 目的は
エイリアンが何のために地球と月を壊したのかも分かりませんでした。いずれ移り住んで来るつもりだったのでしょうか。だとすると水は要らないの、放射能汚染は大丈夫なのと思ってしまいます。そしてテットにエイリアンがいたのか、いたとすれば全部なのか他の星にまだたくさんいるのかなど、エイリアンをめぐってはたくさん疑問が残りました。
☆ まだ住めるの
地球がどの程度汚染され住めない状態なのかもあやふや。ジャックは現に湖のほとりで暮らせるようですし、水が必要で基地まで作っているのに、湖には水がありました。使える水なんでしょうか。
☆ 消費する物をどうやって調達
上空の基地に住んでいる2人はプラスティックの袋に入った水を飲んだり、毎日食事をしたりして生活しています。水の供給については触れていましたが、2人以外誰もいない(はずの)地球、仮に49号、52号などという形で何人かのクローンが地区を区切って住んでいたとしても数はそう多くない中、一体どうやって水をプラスティックの袋に詰めたり、日常消費する物資を調達していたのでしょう。クローンが5年ごとに入れ替わるとして、今後も延々パトロールをする人間が地上に派遣されて来るとすれば、その人間の日常生活に必要な物はどこかで生産しなければなりません。食料にしても野菜も肉も取れる状態でない地球でどうやって調達するのでしょう。一時的に大量生産しても、30年、50年も経てば食べられないでしょう。
☆ 残った人たちの将来は
テット爆破後もいくつか戦闘機や上空の基地は残っていると思うのですが、生き残った人たちは基地や機械を使えるのでしょうか。そのうちの何人がジャックやビクトリアのクローンなのでしょう。
・・・と突っ込んでは見ましたが、全体の印象はよい方でした。クローンというテーマでは月に囚われた男と比べながら見るといいです。どちらもそれなりにクローンと知らなかった人間が、知ってしまった時の戸惑いに触れています。
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