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2013 90 Min. 劇映画
出演者
ネタバレに関係するので一番下に移しました。
見た時期:2013年8月
★ 日本も宇宙に
ちょうど今三度目の正直でイプシロン・ロケットの打ち上げが成功しました。なんで《イプシロン》などという変な名前をつけたのでしょうか。私ならギリシャ語で始めから5番目の名前をつけるぐらいなら五十音の《お》とか、いろはの《ほ》という名前にしますねえ。一緒に飛んだスプリントAもスプリント《あ》とか《い》としてみたくなります。もし《お》《あ》が間が抜けていると言うのなら、《桜》とかとか《屋久杉》でもいいですし、他のきれいな言葉を選べば良かったのにと思います。
《はやぶさ》が戻ってきた時、星の名前が《イトカワ》だったりしたのでとても親しみがわきました。ウォレス&グロミットの第1作の月面にあったレンジにそっくりに見えたのですが、私の見間違いでしょうか。
今年のファンタには1つだけ宇宙旅行をする正統派の SF がありました。木星の《ヨーロッパ》という衛星を目指した探索プロジェクトなので、作品のタイトルはエウロパ・レポートとなっています。
★ 火星から木星へ
映画界ではちょっと前に火星ブームありましたが、木星も映画では注目の星です。火星は有人探索も考慮されていますが、コストの関係でまだ実現していません。探索失敗率が全体で約66パーセント。
木星は70年代から無人探索が行われていて、現在も続いています。《ガリレオ》計画は特に木星だけを視野に置いた計画で、地球よりはるかに高い気圧、気温を観測して送信して来ています。人間が住むには適していませんでした。人間の着陸も無理ではないかと思います。
10年ほど前に木星の衛星《ヨーロッパ》探索が計画されていましたが、コストの関係で中止。なので映画エウロパ・レポートでプロジェクトが民営化されているという映画の中の設定には真実味があります。現実世界では《ヨーロッパ》計画は凍結されたまま。
★ ヨーロッパは大陸だけじゃない
エウロパとか言われる事もあるようですが、この星の呼び名は《ユーロウプ [jʊˈroʊpə]》 。最後の《プ》は /pu/ ではなく、英語などの語尾についているあやふやな e です(読み方:[ə])。ここでは面倒なので《ヨーロッパ》と表記しています。
ヨーロッパというのは今でこそ地名ですが、元々はギリシア神話の姫の名前。エウロパ・レポートは探検隊が木星の衛星《ヨーロッパ》へ向かうミッションを持っていたのでつけられた名前です。木星は66も衛星を持っているので、全部に名前がついているのかは不明。
ところでその姫は稀代の美女だったため全能の神ゼウスに気に入られ誘拐されてしまいます。目的地のギリシャにたどり着くまでに欧州を巡り歩いたため、その場所をヨーロッパと名づけたそうです。ゼウスは女性の出入りが多い神で、ヨーロッパは最初の妻と言われてはいますが、正妻ではないようです。
★ 木星の《ヨーロッパ》
木星本体が目的地になる SF は時々ありますが、エウロパ・レポートは木星の第2衛星の《ヨーロッパ》が目的地です。電気も IT も無いガリレオの時代1610年にすでに観測されています。
この星には生命が存在するかも知れないと科学者の間で思われていて、エウロパ・レポートでもそういう論調で話が進みます。
実際の世界ではまだ人類が到達した事も無く、無人機で外から観測しているだけなのに、上にも少し書いたように詳しく情報が伝わっています。映画の中の話と一致するのですが、星の外は厚い氷に覆われていて、その下は海だそうです。
遠い所から、しかも外からしか見る事ができないのになぜ内側が海で生命体が存在する可能性があると言えるのかは素人の私には分かりません。ただ、本当に水があるとすればその後の生命体が云々という話にはついて行けます。プロメテウスでも人間に姿の似たエイリアンが水の中に DNA をばら撒いていました。
どうやら星の発見者ガリレオにちなんでつけられたらしい《ガリレオ》という名前の探索機が1989年後半に木星探査に向かっており、地球から見るよりはずっと近くで観測を行ったようで、1995年暮れまで情報を送り続けたそうです。2003年に最後の任務を終え、木星の大気圏に突入。
これは《ヨーロッパ》に墜落させないための策だったそうですが、《はやぶさ》のように地球に帰還させるという案は無かったようです。現実の世界では《ヨーロッパ》は非常に科学者から注目されていて、《ヨーロッパ》の生物環境を守るために《ガリレオ》をこういう形で終わらせたようです。
★ 良いテーマを選ぶ監督 → プロメテウスといい勝負の手抜き SF
リドリー・スコットのプロメテウスもスコットとしては緩い作品でしたが、 エウロパ・レポートも焦点がぼけていて、せっかっくの SF を作るチャンスを無駄にしています。この監督はタブロイドの時も意欲的なテーマを選んで、使い方によっては輝くことのできる俳優を呼んでおいて、気負い過ぎで倒れています。
エウロパ・レポートもおもしろくなり得る素材を使いこなしていません。宇宙旅行が国のプロジェクトでなくなり、私企業がスポンサーにつくという点に触れていますし、それぞれ特技の違う国際クルー、映画の素材としては旬の木星、地球との交信が途絶えた孤立状態、犠牲者が出るドラマ、これほど材料が揃っていたらおもしろい話に組み立てられる監督が何人もいる中、コルデロ監督はチャンスを逃しています。科学的な知識の面では実際に実現している話を多く取り入れているとの前評判もあり、宇宙オタクが歓喜の声を上げるほど気合が入っていたそうなのですが、もう少し何とかならないものかと思ってしまいます。
例えば月に囚われた男は背景でそれとなく民営化された企業だということを示し、話の方はサム・ロックウェルがクローンだという事実に焦点を絞り、それに気づいていないロックウェルから物語が始まり、少しずつ自分で自分の立場に気づいて行くというミステリーを中心に据えてあります。見終わると、企業の都合でクローンとして生み出されてしまったサム・ロックウェルの悲しさに観客が涙するという結末で、作者が訴えたかった内容は上手く生きています。
クルーズのオブリビオンはクローンの話に加え、エイリアンの計画がすでにかなり進行していたという、「さあ、どうしよう」というテーマで観客を引っ張りました。
大分前のイベント・ホライゾンは次の瞬間何が起きるかさっぱり分からない、起きた時は悲惨な事になるという恐怖で観客を引っ張りました。
エウロパ・レポートは色々な事に気を配り過ぎた結果焦点がぼけたと思います。
★ 映画の中の《ヨーロッパ》 − あらすじ
映画全体は失敗したミッションの後に残されたビデオの再生です。《ヨーロッパ》に向けて送り出した宇宙船《ヨーロッパ 1》にトラブルが生じ、地上ではその事情について民営企業のトップが会見を開き、質問に答えています。会見の模様と《ヨーロッパ 1》から送られて来た映像で進行します。
6人の乗組員は無事に《ヨーロッパ》に到着します。・・・と言いたいところ、すでに1人欠けています。地球との直接交信が道中太陽嵐に巻き込まれてできなくなります。破損した通信パネルの修理に向かった2人の宇宙飛行士のうち1人を失います。作業中に宇宙服が破損したため酸欠。彼を助けようとしたもう1人が毒性のある液体を体に被ってしまいます。2人をどうやって救おうかと船長などと揉めている時に1人が凡ミスでさようなら。
5人で《ヨーロッパ》に到着したものの、その星にエイリアンがいて、乗組員が命を失って行きます。
危険に気づいて退去を試みる4人のクルーですが、離陸に失敗。そこでまた1人死亡。生命維持装置と引き換えに交信用パネルを修理。そして最後には全員死んでしまいます。あらすじはこれでおしまい。
途中までは普通の宇宙旅行物の SF、途中からはブレア・ウィッチ・プロジェクトに変身してしまい、そのままさようなら。
★ 突っ込み所満載
☆ 腹は立つけれどブレア・ウィッチ・プロジェクトは先駆的だったと思います。映画界で1回切りの勝負に出た作品で、見終わった観客からは大ブーイングでしたが、アイディアだけは観客に「くそっ、してやられた!」と思われたわけで、それは取りも直さず制作側の大勝利。二番煎じ以降はだめですよ。誰も褒めない。
後で考えて見るとエウロパ・レポート は「宇宙版ブレア・ウィッチ・プロジェクトだ」と要約できます。6人全員が死に、船内で撮影されたビデオが後で回収できたという話になっています。ま、ここで最後に残ったクルーが悲劇的な決断を下したわけですが。
☆ 散らかった宇宙船では怪我をしかねない
前半のシーンにあったのですが、こんなに散らかった宇宙船を見たことはありません。実際のロケットはこんなものなのでしょうか。例えば太陽嵐でなくともちょっとロケットが体勢を崩したら、クルーが船内で吹っ飛んで、ぶつかりそうな物だらけ。あれでは何かにぶつかって怪我をするのではないかと思うほどです。
また、その辺にスポーツバッグが放り出してあったりします。実際の宇宙旅行でもそういうバッグを使っているのかも知れませんが、何となく宇宙旅行のイメージが崩れます。カプセル・ホテルのような下宿で学生が散らかし放題といったイメージです。
☆ 宇宙で凡ミスはだめ
前半事故で宇宙服に穴が空き、酸欠になっている飛行士と、体に毒性のある物を浴びてしまった飛行士が助け合いをやろうとして、1人が死んでしまいます。宇宙で宇宙服の外側だけ脱いで急いで中に入れと無理難題を吹っかけられた飛行士は目を白黒。2人共体を宇宙船に綱で繋いでおくのを忘れていたので、宇宙船の側から手繰り寄せる事もできず、さようなら。今後は予想外に宇宙服に穴が空くことを想定して、プラスターのようにすぐ使える大型ガムテープのような物を準備しておくべきでしょうね。民営化で経費節約があると難しいんだろうか。
同僚が命がけで助けてくれたもう1人の飛行士はしょげ返ってその後元気が出ません。これは本筋とあまり関係の無いドラマ・・・とも言えないのは彼の精神状態が落ち着いていないため、他のクルーが彼の言う事を信じなくなってしまった点。その後も起こる凡ミスの伏線と言えない事もありません。とは言うもののそういういいおかずになるようなエピソードがご飯をおいしくするべきですが、生きていません。
☆ 手柄を焦ると命が危ない
プロメテウスにも例がありましたが、最近の SF には原則や規則を破ってやるべきでない事をやってしまうクルーがいて、そのために問題が起きたり、ただでさえ問題なところに更に火をつけたりする展開が増えています。エウロパ・レポートでも衛星のサンプル欲しさに、船長が帰還を命令したのに危険を冒して遠くへ行ってしまうクルーがいて、観客は腹を立てます。以前ですと「危険を冒したヒーローなのだ」ってな話になったのだと思いますが、こう次々バカな事をするドクターの称号を持った宇宙飛行士が出て来ると、「西部開拓をした、学校にもろくに行っていない200年、300年前のカウボーイとは違うんだよ、君たちは」と言いたくなってしまいます。
☆ ただ見ているだけ・・・
そのクルーが立っている足元の氷が割れ、水中に落ちていくところを他のクルーは遠隔操作のカメラでただ見ているだけ・・・。軍人などでは物事の序列、優先順位が決められていて、報告も厳しく義務付けられているのですが、科学者というのはその辺の箍が緩んでいるのでしょうかね。
私はかつて宇宙船に乗る人は軍人で、科学も少し勉強している人だと思っていたのですが、最近の SF の宇宙船には科学者がそのまま乗っかっているようですね。民営化する前にちょっと考えてみてはどうかと思ったりしました。
☆ 言い訳のように予定が狂う
ま、元から助けるつもり無く筋を書いていたようですが、このロケット、本来の予定の場所に着陸できず、別な所に降ります。そこは氷がしっかりしていたので90分の劇映画が作れたのですが、予定の場所だと氷が薄くて上映開始から30分ぐらいで水没。エンド・マークが出ます。
それに気づくとなんだか全体がおちょくりのつもりだったのかという気がしないでもありません。《イトカワ》のような探索機の話を聞くと、あのかわいらしい《はやぶさ》でも《イトカワ》の密度や地質などかなり詳しい情報を送って来ています。《ヨーロッパ》の氷の厚さぐらい降りる前にチェックできそうな気がしますが、もし予定通り降りていたら、さあ、大変。それで予定が狂うシナリオになっています。
☆ 犠牲の出し方
この作品も含め今年のファンタには自己犠牲をテーマにしている作品がちらほら見えました。これも今年のトレンドなのかも知れません。
中には「自分はいいからお前行け」といった納得のできる犠牲の出し方もあるのですが、エウロパ・レポートでは見終わって違和感を抱きました。民営企業のトップが会見で「クルーの犠牲のおかげで・・・」といったような話し方をするのにも腹が立ちますが、クルー自身があまりティームワークが良くなく、この人たちが自分を捨てて誰かを助けようとするだろうかいう雰囲気が漂うのです。脚本の書き方で何とかなる問題なのかも知れませんが。
国際クルーなためクルーの間でコンセンサスができていないのも理由の1つかも知れません。今年のファンタには Siberian Education という作品も出ていて、シベリア族というまとまった地域の人たちが自分たちの掟を守りながら生きて行く姿が描かれています。この人たちは伝統的なルールに従い死ぬべき時は死に、復讐が必要な時は復讐するのですが、生きて行く上の優先順位がきっちり決まっています。
311 の地震、津波の場面でも多くの人が犠牲になっていますが、そこでも年齢、役職などで誰を優先的に助けるかが分かっている人が多く、悲劇は国民に静かに受け入れられているように思えます。そういう風に納得の行く死に方なら観客もふむふむと納得して帰宅するのだろうと思いますが、凡ミスで死んだ人や、手柄を焦った人もいるので、何となくこれを尊い犠牲だと称えられても、消化不良のような気分になります。
☆ エイリアンは誰か
《ヨーロッパ》にいる生物をエイリアンと紹介している解説が多いのですが、エイリアンにしてみれば、地球から遠路はるばる来た地球人がエイリアンではないかと思うのですけれど。
☆ エイリアンの正体
観客はしっかと見る機会が無いのですが、どうもこの生物は提灯アンコウと蛸を組み合わせたようなものらしく、青白い熱を持たない光を発するのだそうです。1番最後に残ったクルーが撮影画像を地球に送るためにハッチを開けてエイリアンを中に入れ、代わりに自分は死にます。
★ しっくり来ない
サンシャイン 2057も国際クルーで、バランスの悪いクルーは劇映画としてはおもしろかったです。バランスの悪さがコンセプトの一部なのでそれでいいのですが、観客は個々のクルーの誰かに好感が持てるようになっています。そういう意味でしっくり来ます。
ヨーロッパ 1 のクルーは良いバランスも悪いバランスも無く、しっくり来ません。クルー同士が大喧嘩するようなシナリオでもなく、良いティームワークで協力し合うシナリオでもなく、何となくばらばら。例えば過酷な訓練をやり抜いて選抜されたならそれはそれで、相手に対する尊敬の気持ちが出そうなものですが、そういう感じでもありません。
宇宙旅行が民営化されると人選が政府のミッションと違うのでこういう風になるのかも知れません。エウロパ・レポート は科学的な面が本物に近いということで高い評価を受けているのですが、その辺は宇宙オタクでない私にはさっぱり分かりませんでした。逆にもしかして民営化がクルーの人選にこういう影響を与えるのかなと思わせる、この点が現実に近いのでしたら、そこは評価すべきなのかも知れません。現在の私には判断がつきません。
スペース・カウボーイやアルマゲドンのような SF と 2001年宇宙の旅のような SF があり、前の2つは無論現実離れした話です。エウロパ・レポート はその路線は狙っていませんが、2001年宇宙の旅のような哲学的な路線も狙っていません。
民営化された宇宙開発で6人が旅立った。交信が途絶えた。1人途中で死んだ。5人が着陸したけれどエイリアンに襲われて皆死んだ。それだけの話で、何となく無駄に時間をつぶしたような気がします。
★ 《はやぶさ》の冒険とどうしても重なる
《はやぶさ》は探査機を《イトカワ》に着陸させようとして失敗し、探査機は《イトカワ》をスルーしてそのまま宇宙の彼方に消えてしまいます。何となく宇宙の彼方に消えてしまったジェームズ・コリガンのイメージ。
満身創痍の状態で《イトカワ》に着陸するところ、その後離陸を試みるところも《ヨーロッパ 1》 と被ります。ただ、それまでのビデオを地球に送った直後海の藻屑となってしまう《ヨーロッパ 1》 と違って、《イトカワ》は更にボロボロになりながら地球に直接サンプルを送って来ます。わざと感動的に作ってあるアニメの断片を見ましたが、現実にスタッフが考えられる限りの努力をした結果だったので、素直に感動してしまいます。《ヨーロッパ 1》はその点どこと無く手抜きだったり、思慮が足りないような印象を受けてしまいました。こういうのを身びいきと言うんでしょうね。
出演者
Sharlto Copley
(James Corrigan - 宇宙飛行士、ジュニア・エンジニア、最初の犠牲者、通信設備修理中にトラブルに見舞われたクルーを救出しようとして自分が死ぬ)
Karolina Wydra
(Katya Petrovna - 宇宙飛行士、海洋生物学者、2人目の犠牲者、生物のサンプルを取ろうとしている最中に氷が割れて海中に落下)
Daniel Wu
(William Xu - 宇宙飛行士、キャプテン、3人目の犠牲者、2人目の死亡を見て地球へ引き返そうとした時、エンジン不調で落下し死亡)
Christian Camargo
(Daniel Luxembourg - 宇宙飛行士、科学部長、4人目の犠牲者、地球との交信装置修理中に消える)
Michael Nyqvist
(Andrei Blok - 宇宙飛行士、チーフ・エンジニア、5人目の犠牲者、2人で交信装置修理中死亡)
Anamaria Marinca
(Rosa Dasque - 宇宙飛行士、パイロット、6人目の犠牲者、船内に水を入れて自殺)
Embeth Davidtz
(Samantha Unger - 科学者、プロジェクトを引き受けた企業のCEO)
Dan Fogler (Sokolov)
Isiah Whitlock Jr. (Tarik Pamuk)
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