どたどたどたどた。
不意に、酒場に走りこんでくる足音が一つ。
「?」
「ちょっとぉ! 何でこんなに混んでるのぉ!! 私の座る席がないじゃない!!」
「お、落ち着けよエル! 今メシ時なんだからしょうがねぇじゃねぇか!!」
「何よ! ガライがメシの前に武具を揃えようなんて言うからじゃない!」
「それを言うならエルこそ、あれでもないこれでもないってすっげぇ時間掛けやがって!!」
「何よ!! 淑女の身の回りの品くらいじっくり選んだっていいでしょ!!
私はアンタとは違って無骨な装備なんか身につけられるような身分じゃないんだからね!!!」
「な、何だとぉっ!!!」
酒場にぽっかりと広場のような穴が開いた。
突然酒場にやってきた男女の二人組は、周囲の人垣を無視して口喧嘩を繰り広げ始める。
「お姉、あの人たち」
「えぇ」
訓練場で見かけた二人組だった。女盗賊に男戦士。
よくよく見ると、二人ともまだ若い。まぁ駆け出し冒険者にはまだ20年も生きていない者など珍しくないのだが。
「ちょうど二人だし、一緒に誘ってくるね!」
「!? …えぇぇ! ちょっとシャロルっ!!!!!」
人垣を押し分け、シャロルは堂々と二人組に近づいていく。
…しまった。あの妹の性格をすっかり忘れていた。彼女は本当に争いが嫌いで、喧嘩があれば止めに入らないことがない。
もっとも、彼女の前で喧嘩を一番してきたのは、恐らくこの私なのだろうが。
「あのっ! すいませんっ!!」
「何よ! 邪魔しないで!!」
女盗賊にものすごい剣幕で睨まれ、シャロルは一瞬怯んでしまう。
「…あ、せ、席、あるんですけど…ご一緒、しませんか?」
「何でこの私が見ず知らずの小娘なんかに席を融通されなきゃいけないのよ!!」
「!!」
さすがに今の一言はひどい。散々席がないと文句を言ったのは自分であるだろうに。
しばらくシャロルは彫像のように固まった後、ひくっ、ひくっ、と目を潤ませ始めた。
「…っ…、う、ぅ、うわぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!!!!!」
…いくらしっかりしているとはいえ、シャロルはまだ15歳の少女だ。
自分の心を傷つけられて、我慢できるほど成長しているわけではない。
大勢の人の前で、大声で泣き始めてしまった彼女を、私は無言で席に連れ戻した。
「よしよし…泣かないの、いい子だから」
「うぐっ、ひっく…」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにするシャロル。
「…」
しばらくして、テーブルに一人の青年が近づいてきた。さっきの二人組の、男戦士の方だ。
「あ…その、すまなかった。親切にしてくれたのに、裏切るようなこと言っちまって…」
近くで見ると、なかなか精悍な顔をしている。今までかなり苦労をしてきたようだ。
…その苦労の原因は、容易に想像がついた。
「いいえ、あなたが謝ることじゃないわ。ほらシャロル、いいかげん泣き止みなさい」
「…ぐしゅっ…」
「……まぁ、ずっと立ってても何でしょ。一緒に座らない?」
「…じゃあ、ありがたく」
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