「何よ、やけに戻ってくるのが遅いと思ったら」
夕食を求める人で混雑してきた店内から、一人の女性が姿を現した。
ガライの相棒、女盗賊のエルだった。
彼女は私たちの座っているテーブルを軽く見回し、眉間にしわを寄せた。
「まさか、私を差し置いてパーティを組んだ…とかいうワケじゃないでしょうね!?」
「お、勘がいいな。まさしくその通り。ただ、ご覧の通りこのパーティには盗賊が足りないんだ。
…というわけで、エル、オマエの席はここだ。いいだろ?」
お酒が回ってきたのか、ガライは軽い感じでエルに応えている。
彼の横の、丁度ひとつ空いている椅子を前に引き出す。
「いいだろ…じゃないわよ! 人の意見も聞かず勝手に仲間を集めちゃって!!
この人たちはどう見ても、私を守るにふさわしい熟練の冒険者には見えないわよ!!!」
「エル」
不意に、ガライが鋭く諭すような声を出した。
「オマエはもう、一介の冒険者なんだ。いつまでも俺や周囲に守られているだけのお嬢様じゃねぇんだ」
「それくらいわかってるわよ! だから…」
「自分の身くらい自分で守れるようにならねぇと、とても家を再興させることなんかできやしねぇぜ。
強くなるには、自分の手で戦うしかない。それくらい、わかるよな」
「! …」
「それに、機会は逃しちゃだめだ。ここに丁度、盗賊の必要なパーティがある。しかも全員駆け出しだ。
こんな幸運、もう二度とないかもしれないぜ?」
「……ふぅ。もう、怒るのにも疲れたわ」
エルは軽く諦めたように笑うと、ガライの横の席に腰を掛けた。
…これでテーブルには6人。戦士二人に、僧侶、魔法使い、ビショップ、盗賊の6人。
「私も何か飲んでいい? そうね、ワインとかないかしら?」
「おーし、マスター! ワイン一本追加で頼むぜ〜!」
「お待たせ!!」
数分後、テーブルには少し贅沢にも思える料理が並んでいた。
「あの、こんなの頼んでないわよ?」
「店からのお祝いよ」
「?」
料理を運んできた店の女将、ローズは楽しそうに笑みを浮かべた。
「ここにめでたく、ひとつの冒険者パーティが誕生した…っていう、ね!」
ふと周囲を見回すと、他の冒険者たち、食事に来たらしい村人たち、他の従業員、
数々の温かな視線が私たちのテーブルに向けられていた。
「明日からの冒険に備え、英気をしっかりと養ってってちょうだい!!」
「…ここまで言われたら、やることはひとつだね」
セロカが微笑しながらグラスを手に取り、高く掲げた。
「シャロル、ほら、起きなさい」
「ん…? なに、なにがあるの??」
寝ぼけ眼の妹に、私はオレンジジュースの入ったコップを手渡した。
「今宵生まれた友情に感謝し、明日からの冒険に、明日からの戦いに…」
私もグラスを手に取り、高く掲げる。
「ほら、アイークもやるんだよ!」
「…」
セロカに急かされ、アイークは目の前のコップを手に取る。中身はミルクだというのがやや意外か。
「冒険の成功と、魔道の封印を誓って…」
エルとガライが、同時にグラスを掲げる。
「乾杯!!」
グラスとグラスが重なり合う、小さくかすかな、しかし確かな音。
こうして、私たちは冒険者としての第一歩を踏み出した…―――
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