最初は一人だけだったテーブルには、今や5人もの人間が座っていた。
戦士である私に、僧侶であるシャロル。
ビショップのセロカと、魔法使いのアイーク。
そして、私と同じ戦士である、ガライという名の青年。
「じゃあ、ずっと彼女と二人で旅を?」
「あぁ。しかしまぁ、エルはあれでそれまで苦労のない生活をしてきちまったから、すごいわがままで…
根は悪いヤツじゃねぇんだが、気が短くてしかも自分のことしか考えていやしねぇ」
そういうのを悪人って言うんじゃ、と口に出しかかって慌てて飲み込んだ。
「ジェルマの杖を取り戻して身を上げるんだ、とか豪語してやがるけど、ホントに大丈夫なんだか。
行く先々で何かしらのトラブルを巻き起こして、尻拭いは全部俺。
は〜、無事冒険者になれたはいいが、先が思いやられるぜ」
ガライはエールをぐいっと飲み干し、ため息をついた。
「とにかく、そこのお嬢ちゃんには、すまないことをしちまった。エルに代わって俺が謝る。すまなかった」
これで何度目になるだろう。ガライは泣きつかれ眠ってしまったシャロルに頭を下げる。
彼の話どおり、早速彼はエルという相棒の尻拭いをする羽目になってしまったようだった。
「それにしても…」
セロカがオレンジジュースを飲みながら口を開いた。
「戦士二人に、僧侶、魔法使い、ビショップ…
なんか、このままパーティ組んで冒険に繰り出したくなる感じだね」
一人で魔道に挑む冒険者などいやしない。どんなに熟練した者でも、一人の力では限界があるからだ。
よって、冒険者はパーティを組んで魔道へと赴く。
組み合わせはまちまちだが、基本的な形として戦士が二人から三人、僧侶、盗賊が一人ずつ、魔法使いが一人か二人。
ただし、最大でその人数は6人。理由は、仲間に使用する「浮遊」、「魔盾」などの魔法は6人までしかかからないからだ。
もちろん、私が挙げたのはあくまで基本的な形であり、これを頑なに守る必要はどこにもない。
全員戦士や魔法使いなどといったあまりに型破りな組み合わせでなければ、それこそ自由に入れ替えは可能だ。
魔道において手に入れることになるであろう未知のアイテムを識別するため、
アイテム識別能力を持つビショップを魔法使い一人の代わりに入れるというのは、よく見られる応用系だった。
「そうね。後は盗賊がいれば………………」
自分で口に出して、はっとした。
「…あの、ガライさん」
「ガライでいいよ」
「じゃあ、ガライ…あの、もしよろしければ…」
「うん、今俺も考えた」
ガライはエールを注ぎ足し、またぐいっと飲み干した。
「ただ、いいのか? アイツは自分じゃ自覚してやしねぇけど、明らかに行動は悪の神の信者だ。
そこのお嬢ちゃんとはどう見たって相性悪いぜ?」
そう、それが唯一の問題。
善の神の信者と悪の神の信者は、その教え上、行動を共にすることはほとんどない。
共に行動していれば、いずれ必ず、どちらかがその教えを破ることになるからだ。
「自覚してないってことは?」
ガライさんは恥ずかしそうに顔をしかめた。
「アイツさ、盗賊になりたくてなったわけじゃねぇんだけど、はじめ何になりたかったか、教えてやろうか?」
「何なの? 戦士とか魔法使いじゃなくて?」
「…ロードだとさ」
「ぶっ!!!!」
私とセロカは、同時に口に含んでいた飲み物を吹き出してしまった。
ロードと言ったら、善の神を信じ、しかもかなり優れた身体と精神を持っていないとなることが出来ない選ばれた戦士。
善の神の信者ではなることが出来ない盗賊になっている以上、はじめからエルはロードになることは出来なかったのだ。
「アイツさ、口達者でえらそうにしてるクセに、何も知らないんだぜ?
自分が何の神を信じているのかすらな」
そして、またため息をつくガライ。本当に、苦労がにじみ出ている。
「………自分が、悪人だって、知らないのなら」
不意に声がした。暗く、しかしどこか透き通った、まるで冬の夜の闇のような声。
私たちは同時に、今まで全く会話に参加していなかった、ローブ姿の少年に注目していた。
「知らないうちに、善人に転向させれば、いいんじゃないの…?」
…無表情のまま、ぞっとするような意見を出すアイーク。
「……オマエ、エル顔負けの悪人だな」
「……」
悪人、と言われてもアイークは表情を全く変えない。
ただ、そこにあったのは暗い眼差し。善も悪も関係ない、ただただ続く絶望の闇。
「アイークはどっちの神も信じてないから、悪人っていうのは間違いだよ。
まぁ、こんなどんよりしてちゃ、悪人に間違われてもしょうがないけどね」
セロカが苦笑を浮かべながらフォローを入れる。
普通に考えれば、善の神の信者であるセロカと行動を共にしている時点で、悪人ということはありえない。
もっとも、それはガライにも言えることだが。
「そっか、俺と同じだな。俺も善人でも悪人でもない、ぶっちゃけて言えば普通の人間だ。
ま、あんなわがままお嬢様の尻拭いばっかりやってるから、善人に見られがちだけどな」
三度エールを注ぎ、ぐいっと飲み干すガライ。
よくこんなに飲めるものだと思ったが、あまり瓶の中身が減っていないところを見ると、実際にはさほどの量ではないらしい。
「普通の人間じゃなきゃ、あんなヤツのお守りと尻拭い、両方なんかできっこねぇさ」
違いない、とテーブルに明るい笑い声。
ふと外を見るとすっかり日は沈み、ちらほらと小さな星が瞬きはじめていた。
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