地上デジタルTV放送受信テスト(静岡市葵区上足洗)
静岡地区と浜松地区で地上デジタルTV放送が6月1日より開始された。送信所は前者は日本平山頂、後者はNHK浜松局舎屋上にある。今回開局にこぎ着けているのはNHK(総合・教育)とSBS静岡放送のみで、他の民放各社は現在(2005年6月)試験放送中で、本放送移行は今秋の模様。なお空中線電力は各局共1KW。
6月初旬に異動があり静岡市に単身赴任した。住まいは静岡市葵区上足洗である。静岡地区の地上デジタル放送の受信状況が気になり、引越し荷物の整理も後回しにして受信テストを試みたら全ての放送波を拾い上げた。受信レベルも室内アンテナにしては高く全局でエラーフリーを得ることが出来た。以下簡単にその模様を紹介する。これから地上デジタル放送の受信を試みる皆さんの参考になれば幸いである。
なお地上デジタルTVは先月末よりLan接続によりインターネットアクセスが可能となっている。すでに大手企業が運営するWebにTVリモコンからアクセスして出前の注文等が出来たりしている。PCやTVの境目が一気に短縮・融合する大変な時代に突入している。と言うよりPCやネットワークの世界がTVを侵食している言った方が表現としては適当かもしれない。たかがTVと思っているPCユーザーやアナログTVで十分とお考えの方も、この状況変化には注目したいところである。TVが家庭の「情報総合端末」になる日も近いかも知れない・・・TVも電話もPCも全部集まった。


(1)セッテイング
静岡市上足洗地区は大家さんによれば、ドコモビル(東静岡)が出来たため日本平のVHF受信状況が悪化し、現在は反対方向にある賤機山のUHFサテライトを受信しているとの事であった。しかしどちらが良好かは大家さんでは判断がつかない様子だった。
そこで早速部屋の共聴出力にアナログTVを接続。大家さんの言われるように確かに甲乙付けがたい状況だが、映りとしては決して悪くは無いと見た。
写真はセッティングしたアナログ液晶TV(上)と地上デジタルチューナー(下)、それにロッドアンテナ方式の水平ダイポールアンテナ。
名古屋の住まいは瀬戸デジタルタワーから約8Kmあるが、出力3KWでもこの様な芸当は出来なかった。日本平は出力1KWであるが、当地までは距離が約6.8Kmで直近の障害物が無いためこの様な結果になっているものと推測している。


(2)自動スキャン結果
アンテナ出力をチューナーにつなぎ、チューナーリモコンにある便利機能で地域情報(郵便番号等)を入れると、地上デジタル放送波であるUHF帯のスキャンが開始される。スキャンは暫く時間がかかるが、終わると写真のような画面を表示してくれる。拾い上げたチャンネルは物理チャンネル(UHF帯のTVチャンネル)ではなく、放送番組チャンネルで放送局名と一緒に表示され、さらにリモコンの何番にセットされたかも表示される。


(3)地上デジタル受信状況
リモコンの便利機能の隠しコマンドで、写真の如く各放送局の受信強度を物理チャンネルでスペアナ状(縦棒グラフ)に表示する事ができる。
便利機能を押し、受信レベルを押すと画面に現在の「受信レベルと最大レベル」表示がされる。この状態から「決定ボタン」を長押し(5秒以上)すると写真の画面に変わり、低いチャンネルから順にレベル表示して行く。またグラフ表示は内部で随時演算している模様で周期的に更新される。
V/UHF帯はCSとは異なり見通しであってもハイトパターンや障害物の影響を受けるため受信強度がフラットにならないが、このような機能があるとその把握が一目瞭然で対応を素早く行うことが出来る。
なお隠しコマンドなので余り強くは言えないが、グラフの左側にレベル表示を入れると有難い。それも表コマンドの受信レベルに連動した値であれば完璧なのだが・・・メーカーさん如何でしょうか?(この場合はマスプロ/松下電器)。


(4)受信レベル表示と受信画像
写真は6月5日、NHK総合TV(陸上日本選手権)受信中に便利機能の受信レベルを表示した様子。NHK総合は物理チャンネル20chで放送され、その受信強度が最大で86を示したが、現在は84を示している。室内のダイポールアンテナでこの値を示せばまずまずの受信状態である。試みに共聴出力(UHFアンテナは日本平の反対方向のサテライト/40chを向いている)をチューナーにつなぐとNHK総合TVは最大で49、現在で49とさすが屋外アンテナで安定はするが、受信レベルは大幅に低下する。また映像では分からないが、次項で紹介するBER値情報[B階層]が悪化する。


(5)FEMinformation表示
これも隠しコマンドである。便利機能を選択し受信レベル表示にする。この状態から「←キー」を長押し(5秒以上)すると写真の様なFEMinformation画面に移る。この画面表示については別ページの地上デジタル放送の受信テスト(名古屋市)でも紹介しているが、受信放送の同期情報・C/N値表示・受信電力指標・BER値情報(A/B/C各階層)・エラーフリー情報(A/B/C各階層)が表示され、受信状態の総合評価の一助となる。
なお、ここでも受信強度が受信電力指標として表示されているが、表コマンドの受信レベルとは異なった数字を示している。


(6)各局受信データ(室内ダイポールアンテナ)
室内ダイポールアンテナによる受信データ。
C/N及びアンテナレベルは次項の共聴アンテナに比べて高いが、逆にマージンが低い結果となっている。これは室内アンテナで見通し外伝搬によるマルチパスが人体などの影響で常に変動している事が起因していると思われる。室内アンテナ最大の弱みで、映像の情報量が一気に増加した場合などは苦しい状況になろう。


(7)各局受信データ共聴アンテナ(方向はサテライト向き)
共聴アンテナ(方向はサテライト向き)による受信データ。共聴にはVHF帯とBS-IFが混合されている。
前項の室内ダイポールアンテナに比べC/N及びアンテナレベルは低いが、逆にマージンは遥かに勝っている。共聴アンテナは日本平とは反対側のサテライトを向きアンテナレベルこそ低いが、地上高10m近くにあり日本平からの伝搬が安定に行われているものと考えられる。


(8)総合評価
前、前々項に記したデータを見ると、映像比較だけでは分からない部分が見えてくる。すなわちC/N及びアンテナレベルとマージンの関係は電波伝搬を含んで考えると非常に興味深い。
同軸ケーブルや自由空間(CS伝送など)の伝送とは趣を異にする振る舞いである。室内アンテナでアンテナレベルが高い値を示していても、実はマルチパスの変動がクリチカルで常にフェージング状態と推測される(アナログTV受信の経験から)。アンテナレベルは一定量を示すが、瞬時の伝送状況はOFDMをもってしても効率の悪い状態にあると思われる。
共聴アンテナは日本平の反対側を向きアンテナレベルこそ低いが、屋根に設置されておりマルチパスも少なく、電波伝搬路としては比較的安定していると考えられる。その結果がマージン値の大きな違いに出ていると言えよう。
いずれにせよ静岡市葵区上足洗地区では、室内アンテナや従来の日本平向けUHFアンテナで実用上十分な受信が可能である。ただし、より安定な伝搬を維持するにはやはり室内アンテナでは限界があり、人体の影響を避けるためにベランダや屋根に設置したアンテナを使いたい。
アナログTVでは付き物のゴーストが原理的に無く当初は驚く。アンテナの方向調整にはアナログ的なレベル表示が必須である。アンテナレベルが低下すると予告もなしに映像ブロックノイズ化し最後は無くなる。初めての場合はデジタルTV特有の現象に一喜一憂するに違いない。


(9)参考データ
以下は共聴出力と室内ダイポール出力をスペアナで見た様子である。法規で定められた6MHzの占有周波数帯幅に、きれいに各放送は画並んでいる。左が共聴で右が室内ダイポールであるが、この様子を見る限りでは共聴の方が受信レベルが高くC/Nも良い。と言うことでチューナーの「アンテナレベル」表示や隠しコマンドによる「C/N値情報」とは大小の関係が逆になっている。チューナーのアンテナレベル表示やC/N値情報は一体どのような仕掛けで算出しているのだろうか?疑問がわいてくる。今まで記述してきたこと(アンテナレベルとマージン)とは傾向が逆なので、ちょっとした検討が必要かも知れない。
それにしてもアナログでは考えられなかった同一地区での隣接チャンネル送信は、デジタル変調ならではの特徴であり、チャンネルの有効利用に大きく貢献していると言えよう。スペアナでは1チャンネル当り6MHzの帯域幅に綺麗に収まっている様子が分かる。左から13ch(NHK教育)・15ch(SBS)・17ch(TV静岡)・18ch(静岡朝日)・19ch(静岡第一)・20ch(NHK総合)の順に並んでいる。なおこの表示はRBWを300KHzとしているため分解能が不十分で、17〜20chのつながりが連続して見えている。
写真には写ってないが、周波数を高い方に移すとアナログ放送波があり、デジタル放送波との違いが確認できて面白い。デジタル放送とは異なる残留側波帯(AM映像変調波)とFM音声キャリアが周波数軸上に並んでいる。


                  共聴出力                                   室内ダイポール出力

周波数を高い方に移すとアナログ放送波があり、デジタル放送波との違いが確認できて面白い。左の写真はその様子を示している。
送信所や電力がまちまちなので、デジタルの様に日本平一箇所から同一電力で送信される場合と振幅が異なる。右の強力な局は恐らく賤機山サテライトからのものと思われる。
またデジタル放送とは異なるAM映像変調波(残留側波帯)とFM音声変調波が周波数軸上に並んでいる。写真はスパンは100MHzで中央がUHF20chと21chの境目である。そこを境に上下8ch分の帯域(±6x8=48MHz)に分布した放送波の様子が確認できる。
           スパンを倍に広げアナログ波も表示


(10)その後・・・デルタループにしてみた(Mar 04,2006)
ロッドアンテナによる水平ダイポールアンテナは、ロッドエレメントの角度が可変できる。試みに逆三角形にして先端をワニ口クリップで接続しデルタループ(30cmx30cmx30cm)にしてみた。写真はその様子で、受信機のスペアナ表示も入れ込んで撮影したもの。物理周波数は500MHz前後なのでループは1波長とすると60cm程度が適当と思われるが、ロッドアンテナの長さの関係でこの大きさになった。
結果は上々で、水平ダイポールに比べ明らかな改善が見られた。なおビームが鋭くなった分方向調整を慎重に行う必要がある。左右に回転させて映像がフリーズする角度を覚えておき、その中心に向けるのが良い。送信所の方向に合わせても周辺の建物等の影響で受信できる角度が微妙に変わってくるからである。

(11)参考・・・地上デジタル放送受信の実験データ
@名古屋市守山区元郷地区の受信状況と対策
A静岡市葵区上足洗2丁目の受信状況と対策・・・本ページ
B静岡市清水区山切伊野川原の受信状況と対策
C静岡市清水区山切伊野川原の受信状況と対策その2
Dミッドバンドコンバータの試作
E福井市宝永2丁目の受信状況