地上デジタルTV放送受信テスト(静岡市清水区山切"伊野川原"/Jan 28,2006)
静岡地区では2005年6月1日より地上デジタルTV放送(以下デジタル放送)が開始された。送信所はアナログ放送と同じ日本平山頂にある。実家のある静岡市清水区山切「伊野川原地区」は日本平の北西約10.6Kmの位置にある。実家の南方約200mには50m程の小高い山があり見通し外であるため、受信状態がどの程度のものか調べてみた。
この地区は2000年頃に電力会社力が高圧送電鉄塔を設置した際、受信障害の可能性を考慮し同社によりTV共聴設備が設置された。現在多くの家庭が戸別アンテナを廃止し共聴(ケーブル)による受信を行っている。アナログ放送はVHF2/9/11chとUHF31/33/35chで行われているが、共聴はVHF帯で行われているためUHF波はVHFの空きチャンネルに変換されている。
したがってデジタル放送で使われる13(NHK-E)/15(SBS)/17(SUT)/18(SATV)/19(SDT)/20(NHK-G)chは、そのままでは共聴には流す事が出来ない。
それで測定器を持ち込み共聴受けの状況や室内アンテナによる受信状況を確認する事にした。同様の環境にある皆様の参考になれば幸いである。ちなみに実家の住所では、戸別アンテナの時代でもアナログ放送受信は非常に良好だった。恐らく、見通し外でも谷筋の山野が程よき吸収体として機能していたと推測している。


(1)共聴受けスペクトラムの確認
地上デジタルチューナーとスペアナに簡易ダイポールアンテナ、それとUHF-ATTやケーブル類を持ち込みんだ。アナログ受信はUHF3波(31/33/35ch)はVHFの空きチャンネルである3/5/7chに変換され、VHFの放送波である2/9/11chと混合され共聴配信されている。
写真は共聴受けをそのままスペアナに入力し表示させた様子。周波数は中央で324MHzを示しているが、デジタル放送波がある500MHz付近は全くのノイズレベルであり、このままではデジタル放送の受信が不可能である事がわかる。


(2)室内ダイポールアンテナとチューナーの仮設
仮設と言っても大した話ではない。ロッドアンテナで構成したダイポールアンテナとチューナー(マスプロDT200)を写真の如くTV受像機の上に載せた。300Ωのリボンフィーダーで給電されるため300Ω:75Ωの変換トランスを挿入している。アンテナエレメントはジュースのビン差込み高さを確保した。
TV画面に映っている映像は隠しコマンドによる表示である(松下・マスプロ系チューナーの場合)。便利機能を選択し受信レベル表示にする。この状態から「←キー」を長押し(5秒以上)すると写真の様なFEMinformation画面に移る。この画面表示については別ページの「地上デジタル放送の受信テスト」名古屋市守山区及び静岡市葵区上足洗でも紹介している。受信放送の同期情報・C/N値表示・受信電力指標・BER値情報(A/B/C各階層)・エラーフリー情報(A/B/C各階層)が表示され、受信状態の総合評価の一助となる。


(3)室内ダイポールアンテナの受信状況
写真はダイポールアンテナ出力をスペアナで表示させた様子。共聴受信のレベルに比べると25dB以上の大幅低下だが、右側に地上デジタル放送の13chが確認でき、約-75dBm付近を示している。後述するようにこのレベルでも一定のマージンを得て良好な受信が可能であった。これはアナログでは先ず無理な相談であろう。デジタルとOFDM変調ならではの可能性を感じさせてくれる。


(4)チューナーのスペクトラム表示
室内ダイポールアンテナによる受信状況を、チューナーの隠しコマンドにより確認する。便利機能を押し、受信レベルを押すと画面に現在の「受信レベルと最大レベル」表示がされる。この状態から「決定ボタン」を長押し(5秒以上)すると写真の画面に変わり、低いチャンネルから順にレベル表示され各放送波のスペクトラムを見る事が出来る。グラフ表示は内部で随時演算している模様で周期的に更新される。
アンテナの長さは固定で固有の共振周波数を持ち、また伝播上の条件が周波数に関係するため受信レベルに凸凹が出来ている。ただこの表示は相対的なモノでどの様なカーブを持たせているかは分からない。また最終的なエラーレートに連動しているのかどうかも不明である。アンテナ方向調整時、各チャンネルの平準化モニターとしては非常に有効である。


(5)室内ダイポールアンテナによる受信データ
左に室内ダイポールアンテナによる各局の受信データを示す。
マージンはRF-ATT挿入により画像にブロックノイズ歪が発生する手前1dBのATT値。アンテナレベルはチューナーのレベル表示。C/N、Error(A)、BER(B)は隠しコマンドによる表示だが、BER(A階層)は全て「+0.00e+00」だったのでBER(B階層)のデータをここでは標記している。マージンはアンテナレベルに比例し更にBER(BitErrorRate)にもほぼ連動している。


(6)総合評価
実家の南約200mに小高い山(共聴の受信所はその脇にある)があって見通しではないが、少年時代にリード線をアンテナ代わりにしてTVを見ていた事がある。したがってOFDMのデジタル放送なら何とか写るだろうと思っていたが、TV上に置いた怪しいダイポールアンテナでここまで受信が可能とは想像していなかった。8〜16エレで10dB程度の利得がある八木アンテナを天井か屋根裏に吊れば屋内アンテナでもほぼ完璧な受信が可能と思われる。ただ夏場の豪雨時にどの様な低下が見られるかは分からないので、十分なマージンをとっておく必要があろう。見通し外で豪雨時の実測はしていないので明確なデータは無いが・・・。
前述のスペアナ写真の右寄りに13chが表示されているがレベルは-75dBm前後である。この13chは全6波の内最も低いアンテナレベルであるが3dBのマージンが確認されている。アンテナを多素子にするか屋外に出せば見通し外でも十分な受信レベルが得られる事が推測できる。
写真は前述の受信所越しに見た実家付近の集落。受信アンテナの背後に見えるタワーが実家の位置。やや長玉レンズで撮影しているため近くに見えるが、距離は200m程度ある。受信所から日本平は完全見通し。背景全てが山であり、この地区が谷間にあることが分かる。


(7)諸課題
@完全シャドウの民家
実家は見通し外と言ってもまだ良い方である。数件置くの民家は完全に山のシャドウに入りV/UHFの電波がカスリもしない。この場合は屋外のアンテナ高で稼ぐしかない。軽微な出費ならともかく、山の上にアンテナを設置するとしたら容易なことではない。
A共聴設備の改善
UHF帯をVHF帯のミッドバンド(VHFローチャンネルとハイチャンネルの間の帯域)に変換して現在の共聴に流せば全てが解決する。但し受信所に設備の追加が必要になる。これは一体何処が面倒を見るのか。
B共聴工事時の誤算
共聴工事をしたときに、アンテナ直下でケーブルを切断しそこへ共聴ケーブルを接続したため、過去のアンテナや周辺の環境が使えない。当時は、まさか戸別アンテナ受信に戻るとは誰も思っていなかったに違いない。
Cアナログとデジタル混在
既に全放送局がデジタル放送を始めたのでこの問題は解決と思われそうだが違う。家庭内で複数のTVが混在する場合もあり両方式の共存が当面必要だろう。
D啓蒙不足
田舎に行けば行くほど、お年寄りになればなるほどデジタル放送についての理解が乏しい。実家の母親が「良く映っているのにどうしてダメなの?」と率直な質問。国策と言ってもこうした現状はどうしたものだろうか・・・。


(8)まとめ
・・・という事で様々なケースが考えられる。地上デジタル放送は国策として始められたものであるが、上記事例に対して国の対応を期待できるのだろうか?。あるいは受信障害を危惧して設置した電力会社に同様な期待が出来るのであろうか?。
電話取材によれば「国策によりデジタル放送が始まったのだから、国からの支援が無い限り設備はアナログのまま!」とする考えが電会社では一般的なようだ。しかし一視聴者としては「ちょっとまってくれ!」と言いたくもなる。なぜなら戸別アンテナ受信で問題無かったところに、無理やり共聴を伸ばしてきて、しかも受像機の近くではなくアンテナの根元につないで行ったんだから・・・。
始まったばかりの地上デジタル放送だが、視聴者から見るとまだまだ環境が整備されていない事に気付く。アナログ放送終焉の2011年直前に社会問題にならなければ良いのだが・・・と思っている。また地元では多くの人がデジタル放送受信の仕組みについて理解しておらず、特にお年よりからは「何でそうなるの?」とする声が聞こえる。
アマチュア無線家として何らかのお手伝いが出来ないものかと考えているが、今回の受信テストデータは見通し外で戸別受信を試みる方の参考になると信じている。


(9)参考・・・ローカル条件
写真の左⇔右が北⇔南方向になる。したがって日本平は右方向になる。中央右に送電鉄塔のある小高い山があるがこれがシャドウを作っている。実家はその左端にある集落の中にあり、アンテナタワーが細く見える。
この付近まではアナログ時代から良好な戸別受信が可能であったが、左端より奥(山切古屋敷・杉山方面)では谷が深くなり場所によっては非常に厳しいところがある。
なおより分かりやすく見るために平成12年の地図にリンク出来るようにしたので参考にされたい。地図の中央付近に右上がりに送電線が記入されているが、その中程にあるピークが写真の送電鉄塔がある山になる。
地図で分かるように、前述の如く杉山や奥杉山地区の受信条件はかなり厳しそうだが、デジタルならではの伝搬もあるので一度幹線道路上で確認をしてみたい。


(10)デジタルテレビがやってきた・・・ところが(Feb 5,2006)
マスプロチューナー(DT200)による室内アンテナのテスト結果に気を良くして、デジタルテレビ(シャープLC-45AE5)を搬入した。別機種とはいえ室内ダイポールで十分な受信が出来ていたので軽い気持ちでセッティングを始めた。ところがアナログやBSデジタルは問題なく受信できるが、地上デジタルの様子が可笑しい。まさかとは思ったが受信感度が異なるようで、室内ダイポールでは放送チャンネルを拾い上げる事が出来ない。軒先までアンテナを伸ばしてOKとなった。写真はその受信状況である。メーカー間でどの程度の感度差があるのか興味がわきLC-45AE5とDT200で比較を行った。但しこのデータをもって「受信能力」とするのは誤りである。周辺の電磁環境を考慮しアンテナレベルをどの程度に設定するかはメーカーの考え方の問題であるから。我々の様に電波を出して無線を楽しむ者には、むしろ必要以上に感度がない方が有難い。強電界による感度抑圧や内部変調歪も抑えられ安定受信が期待できるからである。て事はアナログ時相当のアンテナを用意しなさいと言う事か?。何しろ室内アンテナでアナログUHF放送を受信すると、ノイズの中に辛うじて映像を確認できる程であるから。アンテナ入力にUHF-ATTを挿入し、画像にブロック歪が発生する手前1dBのところのATT値を読んで比較した。


(11)屋外アンテナ設置・・・ところが混合器も(Feb 11,2006)
ホームセンターで小型のUHFアンテナを購入して再び実家を訪ねた。本当ならUHF放送が始まった1960年代後半に良く使っていた8素子程度のアンテナが欲しかったのだが無かった。やむなく写真上の如きアンテナを購入したが\2Kちょっとだった。しかし先週テストしたダイポールアンテナと比べてみたが劇的な利得増にはなっていない。
また本日重大な発見。壁の通線穴がクランク状で竹と土の壁を通過しており簡単にはケーブルが通らない事が判明。現在BS用とアナログ用の2本の同軸が通っているので、1本をメッセンジャーにしようと試みたが、壁内部でステップル留してあり全く動かない。太目のバインド線を曲げながら通そうとしたが困難を極め通らない。そんな作業に時間を費やす訳にもいかないので、軒先でアナログ系(共聴)とUHFアンテナを混合することにした。もともと別棟に分配する2分配器が軒先にあり並べて設置した。壁の内側では更に2分配される。またTVのアンテナ受けで2分配されデジタルチューナー部に入るので、アンテナ端子までに相応な減衰がある。写真下は軒先に設置したU/VHF混合器(左)と従来から設置の2分配器(中)。同軸は黒が地上系で白がBS系。化粧パネル(右)穴から室内に引き込まれるが、前述の様にケーブルを追加できる状況ではなかった。


実際に作業を始めると色々な事があるものだ。室内への引き込みはVHF/UHF/BSを室外で混合し、各受像機で分離する方法が壁の貫通ケーブルを流用できるので便利であろう。しかし受像機に必ず1台分波器が必要になる。室内に入ったところで分波したとしても受像機まではV/UHFとCSの2本のケーブルが必要で悩ましい。いずれにしてもVHF共聴にUHFデジタル受信を追加する場合で、壁に新たな通線が出来ない環境では混合器は必須グッズとなりそうだ。作業をやり出すと色々な不具合に遭遇する。また選択肢も複数あるのでコストを抑えた選択を心がけないと、とんでもない出費になる可能性がある。参考までにNHK総合(20CH)でのマージンが一番良好で約10dBであった。また他局のマージンも8dB前後確保できている。なお室内アンテナも視野に入れていたが、雨戸が金属のため豪雨時は全く使い物にならないことが分かった。
分配ロスについては無防備なのでロス分を前置増幅できれば更にマージンは増す筈である。余裕を持たせるためには見通し受信がベストであることには変わりない。見通し外受信でも映像になってしまうOFDMデジタル変調の威力を感じるが、当該チューナーでBER(BitErrorRate)を見る機能が何処にあるか分からないため、本当の余裕度が分からない状況である。
参考までに、UHF ANT:RU-5(MINY) V/UHF MIXer:UVM-277(MINY)。


(12)参考・・・地上デジタル放送受信の実験データ
@名古屋市守山区元郷地区の受信状況と対策
A静岡市葵区上足洗2丁目の受信状況と対策
B静岡市清水区山切伊野川原の受信状況と対策・・・本ページ
C静岡市清水区山切伊野川原の受信状況と対策その2
Dミッドバンドコンバータの試作
E福井市宝永2丁目の受信状況