地上デジタルTV放送受信テスト(静岡市清水区山切"伊野川原"その2/Jun 10, 2006)
実家(静岡市清水区山切「伊野川原地区」)は日本平の北西約10.6Kmの位置にある。今年1月末、地上デジタル受像機を設置してから順調に受信できていたが、4月頃よりNHK-G以外のチャンネルでブロックノイズが出たり、5月に入ってからは全く受信できないチャンネルが発生するようになった。両親からの情報で本日実家に戻りTVを診ると、設置当初とは全く異なるもので確かに障害である。
実は実家南西方面で第2東名高速連絡路の高架橋工事が行われている。丁度橋桁に橋を掛けるタイミングと上記現象が一致しており、この工事が原因の一端であると判断。
本日アンテナと取り付け場所の変更を行い安定受信を回復、以下にその概要を記した。
参考・・・地上デジタル放送受信の実験データ
@名古屋市守山区元郷地区の受信状況と対策
A静岡市葵区上足洗2丁目の受信状況と対策
B静岡市清水区山切伊野川原の受信状況と対策
C静岡市清水区山切伊野川原の受信状況と対策その2・・・本ページ
Dミッドバンドコンバータの試作
E福井市宝永2丁目の受信状況

(1)現状の受信スペクトラムの確認
まず地上デジタルTVの受信状況を確認した。NHK-G以外は全てブロックノイズか「放送されていません」のメッセージが出ていた。天候は曇りである。
それで受像機のアンテナを外しそのままスペアナにつなぎ様子を見てみた。75Ω-50Ω変換はしていない。
写真はその状態を撮影したものである。左からSBS(15ch)、ひとつ置いてSUT(17ch)・SATV(18ch)・SDT(19ch)・NHK-G(20ch)が並んでいる。NHK-E(13ch)はこの波形では表示していない。
NHK-GのC/Nは凡そ10dB程度だが、それよりC/Nが良好と思われる民放チャンネルが満足に受信できていない。
これは受信レベルの問題ではなくマルチパス波の遅延による干渉と思われる。手持ちのクラシック・スペアナでは、単純な周波数軸でかつ一定時間のアベレージ表示しか出来ないが、遅延波観測が出来ればその実態が分かるだろう。


(2)20ele八木アンテナに変更
前項の様子から見て受信レベルの問題と言うより遅延波による影響が大きい様に思える。送信アンテナは無指向だから、遅延波の数は金属やコンクリートなどが介在すると無数に存在する。
したがって受信側で可能な限りアンテナビームを絞り遅延波を嫌うか、完全見通し位置にアンテナを移動する等してD/U比を稼ぐ対策が見えてくる。
そこで手っ取り早く対応するために、アンテナを5素子から20素子八木に変更してみた。
その結果、同じ場所で全局の受信が行えるようになった。しか受像機(SHARP_LC-45AE5)が表示する最適受信レベル「最低60」を満たさない。最大局で82程度で最小局は40程度と幅がある。
それで思い切ってアンテナ位置を東方向に約8m移動した。地上高は殆ど変わっていない。
この結果、受信レベルは最大で82、最小でも74程度となり良好な受信が全局で可能となった(但し雨天時は60程度に落ちる)。
写真は変更し取り付けた20素子八木アンテナ(MINY UHF ANTENNA MODEL MU-201WF)とスペアナ波形。元々見通し外伝搬であるが、受信レベルが揃ったのは恐らく近隣の民家の影響が回避できたためと思われる。

スペアナ波形を見ると約10dBのC/N改善が確認できる。
SBS(15ch)の波形が左下がりにサグっているのが気になるが、その原因が何か興味がある。
デジタルTVの帯域幅はアナログTVと同じ6MHzであるが、波形からは約3dBのサグを確認できる。
これは伝搬路に波長(周波数)に敏感に反応する反射物等があるものと思われる。


(3)タワートップから日本平を臨む
アマチュア無線用タワーのトップ(22m)から日本平方面を臨む。中央左手に霞んで見える山が日本平。工事はその手前に柱(クレーンや樹木)が何本か見える辺りで行われ、更に右手の橋桁も架橋中である。
当初は山の地肌や樹木だけでUHF波の伝搬は自然だったが、橋がかけられるようになった4月頃から急変した。
当地では約15m程度上らないと日本平は見通せない。したがって2階建ての民家でも見通し受信は難しい。
左手の小高い山には15万4千ボルトの送電鉄塔がある。目視ルートは送電線の下側になるが、送電線が何らかの影響を与えている可能性はある。但しこの状況は送電線が設置された昭和37年頃からずっと同じである。
左手から中央にかけて見えるエレメントは、10MHz3ele八木アンテナのリフレクタ。

(4)まとめ
日本平から輻射された電波は、山間に沿って自然減衰で伝搬しゴーストのない良好な伝搬が行われていた。その伝搬路に金属とコンクリートによる異物が介在するようになり良好な伝搬が崩され、受信障害に至ったと言う結論である。
以上非常に私的な調査・対策であるが、第2東名高速道路や関連連絡工事が進行する清水区庵原地区(山切・杉山・吉原・伊佐布etc)で、地上デジタル放送を受信される方の参考になれば幸いである。

ところで街中では、建築物による電波障害の場合建築主側が補償をするのが常だが、このような場合はどうなるのだろうか。
当地の場合・・・
@昭和30年代より良好な受信が出来ていた。
A平成12年頃、中電さんが高圧送電鉄塔建築に併せVHF共聴設備を設置。
B高圧送電鉄塔建築による電波障害は当住所では皆無だった(その後個別アンテナは撤去)。
CVHF共聴のためUHF帯域は通らず地上デジタル放送の受信は出来ない。
D中電静岡支店にCの対策が可能か私的に尋ねたが「アナログTVの対策しか責任を負わない」との返事。
E止む無くUHFアンテナ(5素子)を設置し地上デジタル放送の個別受信を開始。
F第2東名高速連絡路架橋工事により地上デジタルの受信に障害(NHK-G以外受信不可又はブロックノイズ。
G受信アンテナ位置(東に約8m移動)の変更と多素子化(20素子)により復旧。
・・・ざっとこんな感じだが、個人視聴者は中電さんと道路工事屋さんに振り回されていると言えないだろうか。

参考・・・調査中に分かったのであるが、地上デジタル受信機の感度がメーカーによって大きく違うので注意が必要である。例えばA社のチューナーとB社のTV受像機を比べると、映像がブロックノイズになるまでのアンテナ(UHF)レベルで6dBもの違いがあった。
但しこの値は、受信電界強度や周辺電磁環境により評価視点が変わるので、良し悪しの判定は容易に行えない。しかし当地の様に山間で見通し外伝搬の場合は感度が欲しくなる場合が殆どである。